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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
MSコートHysブロックジェルの臨床応用 「安全で、簡単で、すぐ効く」象牙質知覚過敏のファーストチョイスにはこれが一番!
歯科医院キャビネ・ダンテール御茶ノ水 院長 安田 登

■はじめに

「象牙質知覚過敏症」、歯科臨床ではよく使われる言葉で、また多くの患者が訴える症状でもある。ところが「頭痛」や「神経痛」などと同じで、症状がそのまま病名として使用されているため定義も極めて曖昧である。
「温度、乾燥、擦過、浸透圧、化学物質などの刺激によって生じる短く鋭い痛みを特徴とし、歯質の実質欠損など他の病変では説明できないもの」と一般には定義され、自発痛はないとされている。ところが、これだとWSDや歯ブラシによる摩耗などに伴う痛みは、歯質の実質欠損があるので象牙質知覚過敏症に入れてよいか分からなくなる。
そこで、筆者は以下のような定義が現在の歯科臨床に相応しいのではと考えている。すなわち、「温度、乾燥、擦過、浸透圧、化学物質などの刺激によって生じる短く鋭い痛みを特徴とし、う蝕、歯髄炎など主に細菌が関与する疾患とは異なるもの」としたらいかがであろうか? こうすれば酸産生菌が関与しない欠損、すなわちTooth Wearと呼ばれる酸蝕、咬耗、摩耗に伴う痛み、これらを象牙質知覚過敏症に含めることが可能となる1)
発症のメカニズムはBrännströmらが提唱した「動水力学説」、すなわち象牙細管内溶液が物理的刺激、および化学的刺激によって移動し歯髄側に存在する神経線維を興奮させるという考えが最も有力である。
そこで発症の原因が象牙細管内溶液の移動であるならば、その移動を制止することが最も有効な治療法といえるだろう。

■新しい知覚過敏抑制材料MSコートHysブロックジェルの概要

今回紹介するMSコートHysブロックジェル(以下Hysブロックジェルと略す)は平成27年11月にサンメディカル(株)より発売された新製品である(図1)。
しかし新製品ではあるが、前身は1998年に同じサンメディカル(株)より発売されたMSコートであり、1996年の海外における先行発売の期間を加味すると、すでに19年もの長い年月が経過している。いかに多くの臨床家から支持され続けているかが伺い知れる。
その後MSコートは改良を加え、2009年には2液性から1液性へと大幅な操作の簡便性を獲得したMSコートONE、2011年にはフッ素を添加することで、知覚過敏抑制のみならず初期のう蝕予防も期待できるMSコートFへと発展していった(図2)。
今回開発されたHysブロックジェルの組成を表1に示すが、主成分は若干の形態を変えつつも開発時のコンセプトを引き継いでいる。すなわち、MSポリマー(メタクリル酸メチル/スチレンスルホン酸共重合体)、シュウ酸、MSコートFから添加されているフッ化物である。
さらに新製品には神経鈍麻作用が期待されるカリウム塩が配合されている。
Hysブロックジェルの知覚過敏抑制機序は、塗布と同時にカリウムイオンとフッ素イオンが細管内に入り込み興奮した神経線維を鈍麻する効果が期待される。
また、MSポリマー、シュウ酸カルシウム、フッ化物は一体となって象牙質の開口部分を閉鎖し、さらには象牙細管内に入り込み外来刺激を遮断する。
前述のように象牙質知覚過敏症の治療法は細管内溶液の移動制止が最も効果的であるが、HysブロックジェルはMSポリマー被膜による細管開口部の閉鎖はもちろん、シュウ酸が象牙質と反応することによって象牙細管内に不溶性のシュウ酸カルシウムを沈着させ、細管を狭窄、ないし閉鎖して内液の移動を抑制する働きも期待できる2)
臨床的には性状をジェル状にしたことによって、シリンジによる操作が容易になり、塗布部分が明確に、また患部への保持が容易となった。
さらには、モノマーや重合開始剤を含んでいないため、安全性が高く、簡便な操作で効果が期待されるので、象牙質知覚過敏症処置のファーストチョイスとして最も適した材料であると考えられる。

  • MSコート Hysブロックジェルの写真
    図1 MSコート Hysブロックジェル
  • MSコート発展の歴史の図
    図2 MSコート発展の歴史
  • MSコートHysブロックジェルの組成の表
    表1 MSコートHysブロックジェルの組成
  • 図3
    図3 明らかな実質欠損がない象牙質知覚過敏症(43)。咬合干渉を起こしている場合に多く見られる。

■臨床における操作法と注意点

術式は極めて簡単である。ブラシや綿球で知覚過敏を起こしている象牙質表面に堆積しているプラークを除去する。
そして、シリンジから直接Hysブロックジェルを薄く塗布する。シリンジの先端が細いので知覚過敏を起こしている歯肉溝内にも簡単に注入できる。
そのまま、約30秒間患部に保持した後、患者にうがいをしてもらう。その後、軽くエアーブローして患部の痛みが消失したかどうかを確認する。
この時点で痛みが消失していれば処置の終了とするが、痛みが残存するときは「擦り塗り法」によって対応する。フェルトチップ、綿球、あるいはラバーカップを用いて擦り塗りを行う。その際、切削回転器具を使用する場合には痛みを生じさせないように低回転で行うことが望ましい。
これでも痛みが消失しない場合には、他の要因、すなわち不可逆性歯髄炎などを考慮すべきであるが、筆者はさらに1週間程度様子を見て、1週間後に同じような知覚過敏抑制処置を行い、それでも痛みが消失しない場合にのみ、他の要因を考えることにしている。
明らかなう蝕、歯髄炎と判断されない限りできるだけ歯への侵襲を避けるよう努力をすべきで、Hysブロックジェルはまさにそのスクリーニングに最適と考えている。

  • プラーク等の汚れを、ブラシや綿球等などを用いて除去する写真
    図4 効果を確実にするため、塗布面に付着しているプラーク等の汚れを、ブラシや綿球等などを用いて除去する。
  • ニードルの先端で歯肉溝内への注入する写真
    図5 シリンジから直接、米粒大の量を塗布する。ニードルの先端が細いので歯肉溝内への注入も容易である。
  • 塗布面の写真
    図6 塗布後は30秒間保持する。ジェル状なので塗布面の判別が容易になった。
  • 知覚過敏抑制の効果を確認する写真
    図7 うがい後、軽いエアーブローで知覚過敏抑制の効果を確認する。痛みが消失していればこの時点で処置は終了となる。
  • WSDの写真
    図8 アブフラクションにより生じた5のWSD。同時に冷風、冷水痛による知覚過敏を生じている。
  • MSコートHysブロックジェルをシリンジからダイレクトに塗布する写真
    図9 まずは知覚過敏を改善するためにMSコートHysブロックジェルをシリンジからダイレクトに塗布する。

以下に、3つの症例によって術式を解説する。
① 明らかな実質欠損が認められない知覚過敏症(図3~7)
43 歯頸部に冷水、および冷風に痛みを感じている症例である。明らかな欠損は認められないが、咬合干渉により歯頸部付近のエナメル質が損傷し象牙質知覚過敏が生じたと考えられる(図3)。
指示された使用法に従って、プラークを除去(図4)、Hysブロックジェルの塗布(図5)を行い、歯面上で30秒間保持する(図6)。
その後、うがいを行ってもらい、患部に軽いエアーブローを行って痛みの有無を確認する(図7)。すぐに痛みは消失したので処置を終了した。

  • 30秒間保持後の写真
    図10 30秒間保持後うがいを行い、エアーブローで効果の確認を行う。まだ痛みが残存していた。
  • ラバーカップ等で5秒以上の擦り塗りを行う写真
    図11 痛みが消失していない場合にはラバーカップ等で5秒以上の擦り塗りをするとよい。
  • 接着性充填レジン ボンドフィルSBの写真
    図12 Tooth Wearに適した接着性充填レジン“ボンドフィルSB”。筆者が好んで使用するアイテムの一つ。
  • 表面処理材グリーンの写真
    図13 表面処理材グリーン。主に象牙質に対する処理材として用いられる。
  • 表面処理材グリーンを塗布する写真
    図14 表面処理材グリーンを10秒間擦りながら塗布すると、象牙質の新鮮面が現れ接着が確実となる。
  • ボンドフィルSBを筆積み法にて充填するの写真
    図15 象牙質面を処理した後、ボンドフィルSBを筆積み法にて充填する。

② ブラキシズムにより生じたと考えられるWSD(アブフラクション)(図8~16)
咬耗の一種と考えられるアブフラクションによって生じたWSDは実質欠損を伴う知覚過敏症を起こすことが多い(図8)。
こういった症例にいきなりコンポジットレジン修復を行うことを多く見かけるが、少なくとも知覚過敏症状を起こしている段階においては修復を見合わせるのが妥当と思われる。何故ならば、痛みが本当に知覚過敏症なのか、あるいは不可逆性の歯髄炎かの判断がなされていないし、さらにはここで示されるWSDの欠損が、本当に修復処置が必要かどうかもまだ検討されていないからである。
術式は2回に分けて行うとよい。すなわち初回は知覚過敏処置、そして数日後に疼痛の状況を判断して修復処置を検討する。
5 の知覚過敏に対しHysブロックジェルを塗布する(図9)。30秒保持した後、うがいをしてもらった(図10)。
エアーブローで痛みの有無を確認したところ、まだ痛みを感じていたので、ラバーカップを用いて「擦り塗り」を試みた(図11)。この処置で痛みがかなり軽減したので、4~5日ほど様子を見ることにした。
次回来院時には痛みがほとんど消失していたので、患者と相談のうえ欠損を修復することにした。今回は生体に優しく、接着力に優れ、かつ操作も簡便なTooth Wear用に開発されたボンドフィルSB(図12)を選択した。
修復処置を行う際には注意しなければいけない大切な点がある。それはHysブロックジェルを塗布した面にはMSポリマーの被膜が形成されているため、これを表面処理材グリーン(図13、14)を用いて溶解・除去し、新たな象牙質面を露出させることである。Hysブロックジェルの象牙細管封鎖性が高ければ高いほど新たな接着性材料のための表面処理が必要となってくる。その後は通法どおりである(図15、16)。
③ 咬耗と酸蝕によると考えられる咬合面の陥凹(図17~21)
咬耗と酸蝕が重なると臼歯部の咬合面にはクレーター状の陥凹ができ、象牙質が露出するために知覚過敏症状を呈することが多い。この場合も、すぐに修復物を充填することなく、まずは痛みを取り除くことに専念したい。
「疾病」である象牙質知覚過敏症と、「障害」として考える歯質欠損への修復処置とはまったく次元の異なることとして理解して頂きたい。
術式はWSDの場合と同じだが、Hysブロックジェルで完全に痛みが消失すれば、当日に修復に移ることも可能であるが、その際も表面処理材グリーンで新鮮な象牙質面を露出させる必要がある。

  • 充填後の写真
    図16 充填後。適度な軟らかさが咬合応力を吸収するので、ブラキシズムを持つ患者には適している。
  • 咬耗と酸蝕の合併症と考えられる咬合面の陥凹の写真
    図17 咬耗と酸蝕の合併症と考えられる咬合面の陥凹。象牙質知覚過敏を伴うことが多い。
  • Hysブロックジェルで痛みの鎮静化を試みる写真
    図18 知覚過敏を伴う場合には、まずはHysブロックジェルで痛みの鎮静化を試みることが望ましい(模型)。
  • 表面処理材グリーンの10秒間擦り塗りによる象牙質表面処理の写真
    図19 痛みが緩和したら、表面処理材グリーンの10秒間擦り塗りによる象牙質表面処理を行う(模型)。
  • 陥凹部をボンドフィルSBの筆積み法によって修復する写真
    図20 陥凹部をボンドフィルSBの筆積み法によって修復する。
  • 修復の終了時の写真
    図21 修復の終了。

■おわりに

Hysブロックジェルは知覚過敏を抑制する知覚過敏抑制材であることはもちろん、原因の分からない疼痛に対して歯を傷つけることなく処置できる、言うならばスクリーニング材料、あるいはファーストチョイス材料としても極めて優れた製品である。
Hysブロックジェルを試してみて効果が認められれば象牙質知覚過敏症と診断できるし、そうでない場合にはその他の病因を考えることができる。
本製品は新製品として登場しているが、象牙質知覚過敏抑制材MSコートとしてはすでに20年に近い長い歴史があることから、多くの臨床経験から得られたノウハウが本製品にすべて網羅されていることと期待している。

参考文献
  • 1)深川優子、安田登:チームで取り組む象牙質知覚過敏症~しみる!痛い!にどう対応?~、クインテッセンス出版、20-26、2006.2)石幡浩志、松本宏之、砂川光宏他:象牙質知覚過敏症に対する知覚過敏材“MSコート”の臨床評

デンタルマガジン 155号 WINTER