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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
デントレックスを用いたインプラント周囲の清掃性について
四街道徳洲会病院 歯科口腔外科 松本 浩一

■はじめに

高齢化社会が進み健康で豊かな生活を送るためには口腔機能の維持は重要である。
最近では口腔機能維持のための欠損歯の補綴法としてインプラント治療が認知され、多くの患者がインプラント治療を受けるようになってきた。
その一方でインプラント周囲炎から骨吸収を来たし脱落にいたる患者も散見されるようになってきた1、2)。長期にわたりインプラントを使用するためには、インプラント周囲炎を予防する必要がある。
そのためにはインプラント周囲炎の原因菌とされている偏性嫌気性グラム陰性菌3)をはじめ、歯周病の原因となりうる好気性や嫌気性のグラム陰性桿菌や、スピロヘータなどの菌4)を取り除くための口腔清掃は重要と考える。
またインプラント周囲の清掃を困難としている要因としては構造上の問題のみならず、付着歯肉の喪失、口腔前庭の狭小化、歯頸ラインの不揃い、等が挙げられる5)。さらにインプラント体表面を傷つけることのないように注意する必要がある。
そこで今回我々は、インプラント周囲の清掃性の向上と安全性を兼ね備えた清掃法の一つとしてリコーエレメックス社製ジェット水流型口腔洗浄器「デントレックス」(写真1〜4)を使用し、その有効性について調査した。

  • 写真1 デントレックス本体
    写真1 デントレックス本体
  • 写真2 ジェット水流にて洗浄
    写真2 ジェット水流にて洗浄
  • 写真3 ジェット水流ノズル
    写真3 ジェット水流ノズル
  • 写真4 ブラシタイプ
    写真4 ブラシタイプ

■対象および方法

当院においてインプラントを埋入した25例を対象とした。この25例は口腔清掃に対する関心が高く、定期的に外来受診している患者で口腔内清掃性は比較的良好であった。デントレックスを使用した10例(表1)と未使用の15例において、舌・インプラント周囲の2ヵ所の細菌数を測定し比較検討した。
細菌数の測定は、パナソニック社製細菌カウンタ(以下、細菌カウンタ)(写真5〜10)を用いた。デントレックスの使用法については、特別な規定を設けず自由に被験者に使用してもらい使用法、使用した感想についてアンケート調査を行った。
① 細菌数について
細菌カウンタ本体の電子表示板には細菌数およびレベルが表示され、細菌数1000万個以下でレベル4(表2)と表示され、それ以下であれば良好な清掃が行われていると判断する。測定時期はデントレックス使用患者においては、使用前、使用後1ヵ月ごとに測定。未使用患者においても1ヵ月ごとに測定した。
② アンケート調査について
デントレックス使用患者においては使用3ヵ月後にアンケート調査表(表3)を用いて行った。本製品の使用回数、本製品使用時の洗浄水圧、水量、水温、さらに歯磨き回数、歯磨きにかける時間、併用した補助器具について選択肢から回答してもらった上で、感想と気がついたことを自由に記載していただいた。

  • 表1 デントレックス使用患者一覧
    表1 デントレックス使用患者一覧
  • 写真5 細菌カウンタ本体
    写真5 細菌カウンタ本体
  • 写真6 舌背部からの細菌採取
    写真6 舌背部からの細菌採取
  • 写真7 インプラント部からの細菌採取
    写真7 インプラント部からの細菌採取
  • 写真8 細菌測定1
    写真8 細菌測定1
  • 写真9 細菌測定2
    写真9 細菌測定2
  • 写真10 細菌測定3
    写真10 細菌測定3
  • 表2 レベル評価と細菌数
    表2 レベル評価と細菌数
  • 表3 アンケート調査表
    表3 アンケート調査表

■結果

デントレックス使用群の平均年齢は60.2歳で、全例女性。未使用群の平均年齢は63.5歳で、男性3例、女性12例であった。
口腔衛生指導後のインプラント周囲の細菌数が1000万個以下(レベル4以下)であったのは、デントレックス使用例9例(90%)に対し未使用例では8例(53.3%)であった(図1、2)。舌背部の細菌数はデントレックス使用群、未使用群において有意差は認めなかった(図3)。舌とインプラント周囲の細菌数に相関は認めなかった。
アンケート結果については、歯ブラシ以外では歯間ブラシを併用している症例が最も多く7例。洗口剤の併用患者が5例であった。使用回数は1日1回が3例、2回3例、3回3例、6回1例であった。水圧は中程度でノズルタイプを使用している患者が多かった。感想については使用後の爽快感が得られたと回答した患者が多数を占めた。

■症例A

患者:39歳女性。
初診日:平成23年4月12日。
主訴:右上顎の疼痛、咬合不全。
既往歴:特記事項なし。
現病歴:歯科治療時の嘔吐反射著明で歯科恐怖症を認めたため、近隣の歯科医院で治療困難につき当科での精査、治療目的に当科を紹介された。
臨床診断:右歯性上顎洞炎、7 歯根嚢胞、66 7 欠損。
処置および経過:初診時、CTにて上記診断。抗菌薬点滴静注にて消炎。嘔吐反射強く歯科治療困難であったため、日帰り全身麻酔下に7 抜歯、嚢胞摘出術施行。
その後も極度の嘔吐反射を認め外来での治療が困難であったため、全身麻酔あるいは静脈内鎮静療法下に歯科治療を進めた。
咬合回復目的に、全身麻酔下に65 6 欠損に対しインプラント埋入。静脈内鎮静療法下に印象採得、咬合採得、上部構造試適、等施行した。
インプラント上部構造装着後(写真11、12)はインプラントのメンテナンスも含め、予防の重要性を説明した上で、歯間ブラシの使用が困難な部位に対してデントレックスを用いた口腔ケアを施行し、経時的に細菌数を測定した(図4)。
デントレックス使用後はインプラント周囲の細菌数は著明に減少、常にレベル4以下となり使用3ヵ月、6ヵ月、7ヵ月においてはレベル1〜2となっていた。だが舌背部の細菌数の減少は認めずレベル5以上であった。

■考察

デントレックスは、非侵襲的に優れた清掃が可能と思われるため、これまで我々は、放射線性口内炎が著明で口腔清掃が困難な口腔癌患者(写真13)、顎間固定中の顎骨骨折患者(写真14)、口腔内全体に広がった口腔扁平苔癬患者(写真15)等の口腔内清掃の際に使用し有効な結果を得ていた。
そのため安全性と清掃性で有効な本製品は、インプラント周囲の清掃性の向上にも寄与すると考え調査を開始した。特に安全性においては他の清掃法より優れており、デンタルフロスや歯間ブラシは不適切な使用で歯肉、インプラント体を傷つけることがあるが、デントレックスではその危険性が少ないと考える。さらに今回の結果から清掃性の点でも有効であることが示唆された。
インプラント埋入患者は歯周疾患の既往があり再発の可能性が高いため、メンテナンスが必要不可欠である6)
文献的にメンテナンスプログラムを行っていない患者は、インプラント粘膜炎への罹患率が64%で、その内約43%は5年後にインプラント周囲炎に移行すると報告されている7、8)。また、植田ら9)によればメンテナンス来院患者のインプラント脱落率8.6%に対し、未来院患者の脱落率は17.8%と有意に高かった。そこで、定期的なメンテナンスとして個々の患者で適切な清掃器具と清掃法を指導することが重要で、歯科衛生士による専門的口腔ケアの必要性を示している10)
細菌カウンタを利用したメンテナンスは、視覚的に患者の口腔清掃状態を評価することができるためモチベーションの維持に有効で患者説明用ツールの一つとなり得ると考える。
また細菌数の経時的評価については下に掲載した症例Aのみならず他の症例でも同様の結果が得られたことから、口腔内の清掃性の評価においては、歯ないしはインプラントの周囲の細菌数の方が有効と考える。一方で舌表面の細菌数は、宿主側の要因すなわち自浄作用、汚れやすさ、等を評価するのに有用と思われた。
今回の調査結果から、インプラント周囲の補助清掃器具としてデントレックスを使用することは有用と考えた。

  • 図1 インプラント周囲の細菌数
    図1 インプラント周囲の細菌数
  • 図2 インプラント周囲の細菌数
    図2 インプラント周囲の細菌数
  • 図3 舌背部の細菌数
    図3 舌背部の細菌数
  • 写真11 症例A:口腔内所見
    写真11 症例A:口腔内所見
  • 写真12 症例A:オルソパントモX線所見
    写真12 症例A:オルソパントモX線所見
  • 図4 症例A:細菌数の経時的変化
    図4 症例A:細菌数の経時的変化
  • 写真13 舌口底癌:放射線治療後
    写真13 舌口底癌:放射線治療後
  • 写真14 下顎骨骨折:顎間固定中
    写真14 下顎骨骨折:顎間固定中
  • 写真15 口腔扁平苔鮮(萎縮型)
    写真15 口腔扁平苔鮮(萎縮型)

■まとめ

① デントレックスはインプラント周囲の清掃性を向上するのみならず、歯肉のマッサージ効果もあり、インプラント周囲炎の予防に寄与すると考えられる。
② インプラントを傷つけることなく良好な清掃性が得られることより、インプラントの清掃補助に適していると考えられた。
③ 清掃性の評価として細菌数という定量的でかつ視覚的な評価法は有用で、経時的に細菌数を測定することで患者のモチベーションを維持し、細菌数の減少に役立った。
④ 口腔清掃状態の評価において、舌背部の細菌数に加え歯牙(インプラント)周囲の細菌数を調べることは有用であった。

参考文献
  • 1)村上 洋,末石哲之,他:インプラント治療患者の予後に関する調査 術後10年以上経過症例のインプラント周囲骨吸収の発症率.日大口腔科学 40(3-4):150-155,2014.
  • 2)田中謙光,平山聞一,他:当科におけるインプラント脱落、除去症例の臨床的検討.東北大学歯学雑誌 33(1):16-21,2014.
  • 3)田村 直:インプラント周囲炎インプラントと健康なインプラント周囲における細菌叢の比較と検討.北海道医療大学歯学雑誌30(1):73-75,2011.
  • 4)竹内康雄:天然歯周囲とインプラント周囲の細菌叢.歯界展望 123(3):481-486,2014.
  • 5)阿部二郎,三谷 芽:インプラント部の清掃を難しくさせる6つの要因 清掃環境から探るインプラント部のケア インプラント周囲組織の環境が引き起こす清掃レベルの低下.歯科衛生士 33(8):52-57,2009.
  • 6)滝口 尚:歯の予防的要因:メンテナンス歯周治療・インプラント治療におけるメンテナンスの位置づけ.歯科医療 26(2):63-70,2012.
  • 7)Fernando Oliveira Costa, Satoshi Takenaka-Martinez, Luis Otavio Miranda Cota,Sergio Diniz Ferreira, Geraldo Lucio MagalhaesSilva, Jose Eustaquio Costa:Peri-implantdisease in subjects with and withoutpreventive maintenance:a 5-year followup.J Clin Periodontol 39:173-181,2012.
  • 8)S.D.Ferreira, G.L.M Silva, J.R.Cortelli,J.E. Costa, F.O. Costa:Prevalence and riskvariables for peri-implant disease in Braziliansubjects J Clin Periodontol 33:929-935,2006.
  • 9)植田郁子,渡辺悦子,他:FDP率によるインプラントメンテナンスの評価.日本歯科先端技術研究所学術会誌 10(2):65-70,2004.
  • 10)松永興昌,常岡由美子:歯科衛生士のためのインプラントロジー 最終上部構造の装着と歯科衛生士による清掃法.DHstyle 2(12):36-39,2008.

デンタルマガジン 155号 WINTER