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156号 SPRING 目次を見る

Technical Report

セシード N の臨床応用

カスプデンタルサプライ/カナレテクニカルセンター 吉田 武尊

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■はじめに

セシードNが発売されてから早くも1年10ヵ月ほどが過ぎた。
特にエプリコードユーザーの方々にとっては『セシードN』への切り替え時に戸惑いはあったと思う。
しかし、ペースト性状および操作性、機械的な物性の向上、ビタシェードに近似した色調を再現しやすい点などを実感していただけているのではないだろうか。
さらに特筆すべきは、異なるペーストを積層し色調再現する「マルチカラーシステム」に加え、「ワンボディシステム」のラインナップである。
商品構成としては、明度の高いシェードとそれ以外のシェードに対応した各々2色のオペークレジン(ユニバーサルオペーク<UO>、ホワイトオペーク<WO>)とボディレジン(ユニバーサルボディ<UB>、ホワイトボディ<WB>)および8色のカラーコートを主軸とし、接着の要としてオペークプライマー、カラーコートプライマーから構成されている。
従来の「マルチカラーシステム」に比べ、少ないマテリアル数でビタシェード16色の色調表現が可能となっており、初期導入のコストが低く抑えられるとともに、マイナーシェードの有効期限切れによる廃棄リスクも軽減できる構成となっている。また、カラーコートの特殊色を併用することで、積層を省略したにもかかわらず質の高い色調表現が可能である。

■1.効果的な使用法

筆者の考える最も効果的な『セシードNワンボディシステム』の使用法はボーンアンカードフルブリッジなどの大型補綴物である。
ボーンアンカードフルブリッジに代表される大型補綴物などの納期は小規模の補綴物に比べて短く設定される。よってクオリティを保ちつつ、スピーディに製作しなくてはならない。
ワンボディシステムの大きな特徴である単層のボディレジンにて最終外形を決定づけることが可能であるという点、そして色調の操作が最終外形を決定した後で行うことができるという点、また、リペアの観点からも利点は多い。
簡単な事例ではレジン系材料特有の艶落ちである。もちろん艶が落ちることで表面の滑沢さが失われるわけではないが、口腔内で研磨剤の付着していない乾いた布バフで軽く中速以下の低速で研磨することにより、すぐに艶のある状態を取り戻すことができる。
また、外力などにより破損する事例があるが、この場合の修理も大変に簡便である。ボディレジンが複雑な築層でなく、単層にて築盛されているため、ボディレジン選択に迷うことがない。破損などにより欠除した部位を回復する様に専用ボディレジンで盛り上げ、カラーコートで回復した周囲と色調がなじむように塗布するだけである。

■2.臨床例

上顎「All-on-6」のTiフレームのボーンアンカードフルブリッジ症例を軸に各ステップの順を追って解説したい。
Tiフレームの前歯部舌側面・臼歯部咬合面舌側面および粘膜面はメタルによる回復とした。
そして歯冠部唇側面・頰側面に『セシードNワンボディシステム』ユニバーサルオペーク(以下UO)・ユニバーサルボディ(以下UB)歯肉部に『セシードNマルチカラーシステム』UO・ピンク色オペーク(以下P)・Tissue 1を使用した。

■3.「ワンボディシステム」の「専用ボディレジン」と『カラーコート』について

1. 専用のボディレジン
天然歯の光学特性は、エナメル質がほとんど光を透過させる性質を持っているのに対し、象牙質は光の完全拡散体といわれている。
併売された「セシードNマルチカラーシステム」のレジンマテリアルは、2種の表面処理有機複合フィラーと表面処理バリウムガラス、および表面処理シリカフィラーを配合したハイブリッドタイプのコンポジットレジンで、光拡散性を有する「セシードN マルチカラーシステム」のボディとエナメルの中間の光拡散性と透明性を付与してある。
さらに、フィラーの分散配合技術に加え、散乱しやすいフィラーを排除したことで、カラーコートによる色調表現への影響が少なくなった。

2. カラーコート
「カラーコート」は多官能アクリレートと表面処理シリカ系マイクロフィラーを配合したコンポジットレジンで、従来の表面滑沢材に比べ、格段に向上した硬度と耐摩耗性を有している『液体硬質レジン』である。

3. カラーコートプライマー
カラーコートプライマーは混和不要、一液タイプの接着性モノマー(MDP)が配合されたシランカップリング剤である。ただし、使用前にはボトルを振って内容物を撹拌する必要がある。
一度硬化させた硬質レジンやハイブリッドレジンへ『カラーコート』を化学的に接着させ、口腔内における高い耐久性を期待するにはカラーコートプライマーが不可欠である。
また、口腔内において直接、無機質フィラーを含むレジン系補綴物の色調補正にカラーコートを塗布する際にも使用可能である。

■4.色調再現のポイント

・特殊色の使用法
ホワイト:明度の高いエリア、エナメル質の厚いエリア。前歯では隆線、臼歯では咬頭など(白すぎる場合はA+、濃すぎる場合はクリアー1と混ぜるとよい)。
サービカル1:歯頸部領域の彩度を上げる、または着色(A+と混和してA4シェードの発色を容易にする)。
サービカル2:歯頸部領域または咬耗している切縁のオレンジ様。
インサイザルブルー2:透明感のイリュージョン効果。
①まず始めに、ボディレジンの色調確認と表面の細かく深い傷を埋めるため、最初にボディレジン表面全体に(流動性の高い状態の)クリアー1を薄く塗布・仮重合
②歯茎側2/3にA +を目標シェードより淡く塗布・仮重合
③マメロン部・インサイザルヘイローとしてA+:ホワイト=4:1を塗布・仮重合
④切縁の透明感の表現にインサイザルブルー2を塗布・仮重合
⑤隣接部の彩度が高い歯頸部1/2部分にサービカル1を塗布調整し、目標シェードを達成後、仮重合
⑥最後に、決定した色調を持続するためにしっかりとレジン前装面全体に歯肉部も含めクリアー1をしっかりと塗布し本重合・完成とする。
図を見てお分かりの通り、塗った所が明らかに分かるようではなく、薄く、築層するイメージで各所・各層ごとに塗布・仮重合しながら進める。重合作業はカラーコート塗布面全体にしっかりと光照射する。
・ワンポイントテクニックとして、メタルバッキングされたメタルフレームで透明感を強調する場合は切縁側1/4にインサイザルオペークとUOを1:3で混ぜたものを塗布してからボディレジンを築盛するとよい。このようなオペーク処理をすることによってシェードガイドタブ程度の切縁部の透明感は表現可能となる。
(注)本品は口腔内用の光照射器で重合できるが、その場合クリアについては「クリア−1」の替わりに「クリア− 2」を使用する。

  • 図1 セシードN(クラレノリタケデンタル株式会社)の商品群「ワンボディシステム」。
    図1 セシードN(クラレノリタケデンタル株式会社)の商品群「ワンボディシステム」。
  • 図2 セシードN(クラレノリタケデンタル株式会社)の商品群「カラーコート」。
    図2 セシードN(クラレノリタケデンタル株式会社)の商品群「カラーコート」。
  • 図3 カラーコート用いたビタA系色A2〜A4の再現例である。目標とするビタシェードガイドを参考にUBにA+を塗り重ねる。(A1との比色はUBにクリアー1のみ塗布した状態)
    図3 カラーコート用いたビタA系色A2〜A4の再現例である。目標とするビタシェードガイドを参考にUBにA+を塗り重ねる。(A1との比色はUBにクリアー1のみ塗布した状態)
  • 図4 特殊色
    図4 特殊色
  • 図5 アロイプライマー・オペークプライマー後、全体にPOを塗布・重合した後、再度オペークプライマー処理、歯肉との境界部のみP(ピンクオペーク)・それ以外はUOを塗布・重合した。
    図5 アロイプライマー・オペークプライマー後、全体にPOを塗布・重合した後、再度オペークプライマー処理、歯肉との境界部のみP(ピンクオペーク)・それ以外はUOを塗布・重合した。
  • 図6 歯冠部にUBを築盛・重合した。
    図6 歯冠部にUBを築盛・重合した。
  • 図7 歯肉部築盛完了。カラーコート塗布前にサンドブラスト処理(50μ3bar)をおこなう。その後、カラーコートプライマーをまんべんなくレジン面全体に塗布・エアーブローし、ボディレジンの色調確認と表面の細かく深い傷を埋めるため流動性の高い状態のクリアー1をごく薄く塗布する。
    図7 歯肉部築盛完了。カラーコート塗布前にサンドブラスト処理(50μ3bar)をおこなう。その後、カラーコートプライマーをまんべんなくレジン面全体に塗布・エアーブローし、ボディレジンの色調確認と表面の細かく深い傷を埋めるため流動性の高い状態のクリアー1をごく薄く塗布する。
  • 図8 歯茎側2/3にA +を目標シェードより淡く塗布・仮重合する。
    図8 歯茎側2/3にA +を目標シェードより淡く塗布・仮重合する。
  • 図9 切縁の透明感の表現にインサイザルブルー2を塗布・仮重合する。
    図9 切縁の透明感の表現にインサイザルブルー2を塗布・仮重合する。
  • 図10 マメロン部・インサイザルヘイローとしてA+:ホワイト=4:1を塗布・仮重合する。
    図10 マメロン部・インサイザルヘイローとしてA+:ホワイト=4:1を塗布・仮重合する。
  • 図11 目標シェードにするために歯茎側1/2にA+、隣接面にサービカル1を塗布・仮重合する。
    図11 目標シェードにするために歯茎側1/2にA+、隣接面にサービカル1を塗布・仮重合する。
  • 図12 決定した色調を持続するためにレジン前装面全体に歯肉部も含めクリアー1をしっかりと塗布する。
    図12 決定した色調を持続するためにレジン前装面全体に歯肉部も含めクリアー1をしっかりと塗布する。
  • 図13 目標シェードA3.5完成。カラーコート塗布の最中も目標シェードに向けて常にシェードガイドと比色しながら作業を行う。
    図13 目標シェードA3.5完成。カラーコート塗布の最中も目標シェードに向けて常にシェードガイドと比色しながら作業を行う。
  • 図14 全体にUOを塗布する
    図14 全体にUOを塗布する
  • 図15 透明感を持たせたい領域にUO+30% IOを塗布し、それ以外にUOを塗布する。
    図15 透明感を持たせたい領域にUO+30% IOを塗布し、それ以外にUOを塗布する。
  • 図16 セシードN UOのみ塗布したメタルフレームにセシードN UBを築盛し、形態修正後にカラーコートクリアー1のみを塗布する。切縁付近に透明感が少なく感じられる。
    図16 セシードN UOのみ塗布したメタルフレームにセシードN UBを築盛し、形態修正後にカラーコートクリアー1のみを塗布する。切縁付近に透明感が少なく感じられる。
  • 図17 セシードN UOとUO+30% IOを組み合わせて塗布したメタルフレームにセシードN UBを築盛し、形態修正後にカラーコートクリアー1のみを塗布する。切縁付近に透明感がある。
    図17 セシードN UOとUO+30% IOを組み合わせて塗布したメタルフレームにセシードN UBを築盛し、形態修正後にカラーコートクリアー1のみを塗布する。切縁付近に透明感がある。
  • 図18 1年6ヵ月経過のメンテナンス時に口腔内清掃後、直接口腔内で研磨剤の付着していない布バフをあてる。
    図18 1年6ヵ月経過のメンテナンス時に口腔内清掃後、直接口腔内で研磨剤の付着していない布バフをあてる。
  • 図19 模型上の完成時を左側に、セット後1年6ヵ月経過時のバフがけしたものを右側に並べた比較写真。
    図19 模型上の完成時を左側に、セット後1年6ヵ月経過時のバフがけしたものを右側に並べた比較写真。

■おわりに

昨今のセラミックワークにおいては単層のボディにて歯冠最終外形を回復したのち、表面ステインにて最終的な色調を決定し、同時にグレージングも行うという、シンプルなマテリアルを使用しシンプルなステップで完成する、という流れになりつつある。
しかし、セラミックスワークにおける表面ステインは、古くからの常套手段であるのに対し、硬質レジンおよびハイブリッドレジンの分野においては歯冠用ボディレジンとステイニングレジンの結合、および表面滑沢材自体の強さには長年、結果的にも不安や不満が残り一般的ではなかった。
「セシードNカラーコートプライマー」の使用で確実なプライミングとなり,歯冠用ボディレジンにしっかりと接着できる。また、カラーコート表面の強度、耐摩耗性が従来品よりも格段に向上したことによってセラミックスワークの様な潮流がレジンワークにも押し寄せてきている。その潮流の代表的なレジンが『セシードNワンボディシステム』である。
最後に、本稿を終えるにあたり臨床例をご提供いただきました栄スワン歯科・山川雅之先生に深く御礼申し上げます。

参考文献
  • 1)猪越重久:歯の光沢と透明感. 歯の色の話,クインテッセンス出版,東京,1999.
  • 2)山田和伸:超微粒子フィラー配合硬質レジンを用いた歯冠修復技工の徹底ノウハウ,歯科技工,第31巻(4),2003.

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