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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
動揺歯を手軽に素早く固定する ―光硬化ペーストタイプの動揺歯固定用接着材「ライトフィックス®」―
熊本県熊本市 清村歯科医院 清村 正弥

■ はじめに

日常臨床において、何が何でも、動揺歯をその場で動かないようにしなければならない時がある。その日の限られた診療時間内に、動揺歯を隣在歯と簡便に暫間固定できれば、大いに助かる。
そしてそのような場合の暫間固定であっても、できれば次回来院時まで確実に固定が維持されて欲しい。さらに、一転して固定を除去しようという時には、それを楽に行いたいと言うのが歯科医師側の希望である。
一方、極論的に考えてみると、「歯が動いて困る」と訴えられる患者の希望は、「動かないようにして残して欲しい」か「動くので抜いて欲しい」のどちらかになる。それに対して歯科医師側の診断は、「保存」か「抜歯」かになる(図1)。
患者と相談の上で抜歯することになればそれまでだが、保存することを選択した時には、当該歯の動揺をどうやって軽減するのか、知恵を絞ることになる。
動揺の原因やその程度、現状でその歯が果たしている役割とその重要度、口腔内や全身の状態、患者の年齢や固有の社会的背景など、様々なことを考慮し、さらに患者の要望も汲み取った上で、総合的に対応が決まるのである。

■ 暫間固定材料の実情

動揺する歯を隣在歯と固定することは、動揺軽減策の有力な選択肢である。しかし暫間固定が意図せぬ形で脱離しては、患者さんとの信頼関係に響く。
図1のオレンジで塗られた領域は、スタートでは患者さんと歯科医師の意図が一致してないので、暫間固定の予期せぬ脱離は特に要注意であろうし、青の領域でも確実な暫間固定は非常に重要である。
隣在歯との暫間固定時に使用される接着材料として、一般に2種類の材料が使用されてきた。
一つはスーパーボンドに代表される接着性アクリル樹脂系材料で、もう一つはフロアブルタイプのCRである。
筆者はこれまで主に前者を使用してきた。具体的にはスーパーボンドを筆積法もしくは専用のマイクロシリンジで移送(混和法)するというものであった。
これまで筆者がフロアブルタイプCRを暫間固定に使用しなかったのは、硬化後のフロアブルタイプCRは硬く脆いので、咬合圧で3次元的に変位し、固定する隣在歯と異なる動きをする可能性がある動揺歯の固定には不向きである、と考えるからである。
しかしながら光照射で短時間に硬化する、つまり固定が素早く終わるという点においては、フロアブルタイプCRの方が明らかに有利である。
もし歯科医師側に「簡便で迅速な暫間固定法」という治療の選択肢があれば、対応の幅は確実に広がる。
動揺歯固定用接着材「ライトフィックス」は、そのような状況で活躍してくれる新規材料である(図2)。

■ ライトフィックス®の特長

化学重合で硬化待ち時間は長いがあらゆる被着体に安定して接着し、硬化後も柔軟で荷重変形に耐えるスーパーボンド、硬くて脆いが光重合で短時間に硬化し扱いやすいフロアブルタイプCR。それに対して「ライトフィックス」は、光重合フロアブルタイプCRの扱いやすさに硬化体の柔軟性を付与した新規暫間固定材料である(図3)。
ライトフィックスのペーストは、低チクソトロピーでタレが少なく、歯面塗布後の光照射までにペーストが変形することが少ない。硬化後にも適度な粘靱性を示し、暫間固定期間の全期にわたり高い透明性を保つ。
ライトフィックスの製品構成は、エナメル質エッチング用のエッチャントゲルと、接着性を有するクリア色のペーストシリンジの2種のみというシンプルなものである。
この構成で接着しうる被着面は、天然歯のエナメル質表面に限定されるが、サンドブラストや各種接着用プライマーを併用すれば被着対象の広がりが期待できる。

  • 図1
    図1 動揺歯への対応では、固定が重要な要素になる。
  • 図2
    図2 2016年1月に発売されたライトフィックス。
  • 図3
    図3 暫間固定用接着材料の特性のイメージ。
  • 図4
    図4 暫間固定の安定には、接着面積を増やし、機械的保持力を増大させることも有効。
    • 図5-1
      図5-1 1 の動揺(術前)。両隣在歯との暫間接着固定で対応。
    • 図5-2
      図5-2 接触点のみが接着面の場合(黄色で示す部分。以下同)。
    • 図5-3
      図5-3 隣接面にのみ接着面を拡大。
    • 図5-4
      図5-4 隣接面から唇側面に、隣接面の隅角を越えない範囲で接着面を拡大。

■ ライトフィックス®使用上の留意点

ライトフィックスの基本的使用方法は、次の通りである。
①歯面清掃
②エッチャントゲル塗布(30秒)
③水洗・乾燥
④ペースト塗布
⑤光照射
⑥形態修正と研磨
⑦(後日の)除去
①の歯面清掃は単に表面のプラークを取る程度のものから、研磨材を使用しての獲得被膜(ペリクル)除去を含むものまであろう。
確実な接着を期待するのなら、ペリクル除去を行うべきだが、必要とする接着強さに応じて歯面清掃をどこまで行うのかを考える。
②の乾燥は脱灰エナメル質表面が唾液で汚染されないようにするのみでなく、確実な接着を期待するのなら、呼気に対する防湿も考慮したい。
③光照射時間の目安は、LEDで10秒、ハロゲンで20秒、プラズマアークで6秒が目安だが、唇側と舌・口蓋側との両方から照射する。
⑥と⑦は、コンポジットレジン充填のそれに準じて行う。
①~③の調整により接着強さを抑えた場合には、手用鎌形スケーラーでも簡単に除去できる。

    • 図5-5
      図5-5 隣接面の隅角を越えて唇側面にも接着面を拡大。
    • 図5-6
      図5-6 唇側面を連続させてさらに接着面を拡大。
    • 図5-7
      図5-7 隣接面から舌側へ接着面を拡大。
    • 図5-8
      図5-8 動揺歯の舌側も連続させ、接着面が動揺歯をとり囲む。
    • 図5-9
      図5-9 両隣在歯の舌側面にも接着面を拡大。

  • 図6 1 の遠心隅角が外傷性打撲による一部歯冠破折。露髄はない。

  • 図7 患歯の拡大像。外傷による歯冠破折で象牙質が露出している。

  • 図8 エナメル質には広範な脱灰がある。プラークはPMTCで除去。

  • 図9 コンポジットレジン充填が終了。暫間固定に入る。

■ 接着面積の拡大と固定の安定

動揺歯と隣在歯の暫間固定時に、接着材料を塗布する範囲を接触点のみや隣接面に限定すると、当然のこととして固定は外れやすい。固定の安定には固定材料を接着させる面積を増加させることも考慮すべきである。
図4のように、接着面を両隣接面から隅角を越え、さらには唇側面・舌側面の全体(咬合関係にもよる)にまで拡大できる可能性がある。接着面積の拡大は、接着強さの総和を増し、また歯冠を抱え込むことで機械的維持力を増大させる。
下顎前歯を暫間固定する場合を考えると、図5-1から図5-9にあるように、接着面積を拡大できる可能性がある。
ライトフィックスのチクソトロピーが低いことは既に述べたが、このことは塗布後のペーストが歯面に沿って勝手に流れて行きにくいことにもなるので、必要な範囲への確実なライトフィックス塗布を意識することが重要である。

  • 図10
    図10 エッチャントゲルによるエッチング。
  • 図11
    図11 ライトフィックス塗布。歯間乳頭部に入り込まないように注意。光照射後、研磨。
  • 図12
    図12 暫間固定後2週間。しっかり固定されていて、不快症状もない。
  • 図13
    図13 4 の外傷性咬合による動揺と歯髄炎による疼痛。
  • 図14
    図14 4 には側方運動の干渉がある
  • 図15
    図15 4 の咬合面。近遠心的に明瞭な歯冠破折線。

■ 臨床例

具体的な使用法を症例で紹介する。
【症例1】
17歳男性。1 の歯冠破折と外傷性打撲。
ハンドボール部活中に他部員の肘があたり、1 の歯冠部遠心隅角が破折(図6)し、軽度の動揺と疼痛がある。①咬合関係を確認。口腔内には広範な白濁が見られ、スポーツドリンクによる酸蝕が進んだいわゆる“部活う蝕”状態である。
咬合には問題がないものの、患歯には象牙質に及ぶ歯質の欠損が生じている(図7)。
②歯面清掃。プラーク付着も目立つので、染色して歯面清掃。
エナメル質の脱灰白濁部分が薄いピンクに染まる(図8)が、エナメル質へのダメージを避けるため、PMTCの回転ラバーカップで仕上げ清掃した。
③暫間固定前に、患歯唇面遠心部のコンポジットレジン修復を通法にて行う(図9)。
④エッチャントゲルによるエッチングと水洗・乾燥(図10)。
⑤ライトフィックスを塗布し、光照射。部活動による再受傷に備え、患歯両隣接面から患歯・隣在歯の唇面まで拡大して塗布。唇面を帯状に暫間固定した(図11)。
⑥術後2週間(図12)。外傷による動揺歯の固定期間は3~4週間程度とする。
【症例2】
67歳男性。4 外傷性咬合による動揺と逆行性歯髄炎。急性炎症による動揺が激しく、歯内療法時のラバーダム・クランプが掛けられない。
3 と固定して、動揺を軽減するとともにラバーダム装着を可能にすることが目的(図13)。

  • ①咬合関係の確認(図14)。
    4 は浮腫により咬合が高くなっており、さらには歯冠破折している(図15)。
    浸潤麻酔下で咬合を落とし、下顎小臼歯とあたらないように歯冠高径を減じた。
  • ②歯面清掃。(図16)
    咬合高径を減じ、4 が対顎と咬合しないことを確認して、接着操作に入る。
  • ③エッチャントゲルによるエッチングと水洗・乾燥(図17)。
  • ④ライトフィックスを塗布し(図18)、光照射。
  • ⑤術後の側方面観(図19)。
    破折線は髄腔内からMIバーで可及的に追求し、コンポジットレジン隔壁築成時に充填してある。暫間固定は根管治療の期間を通して機能を果たしている(図20、21)。
  • 図16
    図16 口蓋側にもライトフィックス固定を延長することを前提の歯面清掃。
  • 図17
    図17 水洗・乾燥後の歯面。口腔内の呼気は常にバキュームで吸引。
  • 図18
    図18 呼気をバキュームで吸引しつつ、ライトフィックスのペーストを塗布。
  • 図19
    図19 ライトフィックスが 4 の歯冠近心半分を囲む形で固定した。
  • 図20
    図20 歯内療法時の患歯咬合面観。
  • 図21
    図21 暫間固定はラバーダムの張力に問題なく耐える。

■ おわりに

暫間固定において天然歯、金属、陶材、レジン等、あらゆる被着体に対し強固で安定した接着力を発揮し、硬化体に粘靱性と耐久性のあるスーパーボンドの優位性は揺るぎない。
しかし光照射で短時間に硬化し、ペーストタイプで扱いやすいライトフィックスは、患者が立て込んで時間のない時、脱臼した乳歯の暫間固定、矯正治療後にリテーナーを歯面に接着するときの保持仮固定など応用の幅は広い。
2つの製品の特性を理解することで使い分け、「歯が動いて困る」という患者の希望に上手く応えてはいかがだろうか。

参考文献
  • 1) 日本歯周病学会:歯周病の検査・診断・治療計画の指針. 27-40、医歯薬出版株式会社、2008.
  • 2) 日本外傷歯学会:歯の外傷治療ガイドライン. 2012.

デンタルマガジン 156号 SPRING