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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
日常臨床における唾液検査の有効な活用法 ~応用編~
医療法人社団明翔会いしかわ歯科医院理事副院長 芳賀 浩昭

■はじめに

前回の基礎編では、CAT21FastとBuf<(有)ウィルデント>を紹介しながら、唾液検査の目的、導入時の原則と注意点などについて述べさせていただいた。また、実際の症例を通して、唾液検査結果の具体的な説明方法も紹介した。
今回は唾液検査を予防歯科実践のための重要なアイテムの1つとして日常臨床の中でどのように活用していくかを解説していく。

■キュアからケアへのパラダイムシフト

現在、日本の歯科医療は大きな転換期に差しかかっている。従来のう蝕の多発による疼痛の除去、歯牙の喪失による補綴中心の治療は、『キュア中心型』である。
一方、初期う蝕や二次う蝕の予防や歯周病のメンテナンス、SPTなどは『ケア中心型』である。患者の健康意識の向上に伴い、ニーズが多様化した今日の歯科医療において、従来の『キュア中心型』だけでは対応しきれない場面も増えつつある。キュアからケアへのパラダイムシフトである。
その一方で中高年者は、二次う蝕や不良補綴物、欠損歯が多く、歯周病の罹患率も高いため、『ケア中心型』だけでは対応が難しく、従来の『キュア中心型』も大きなウェートを占めるのも事実である。そのため、筆者は従来の『キュア中心型』とこれからの『ケア中心型』は、相反する概念ではなくむしろ相互に補完する関係だと考えている。
図1に示す通り、これらはよりよい歯科医療を行う上での車の両輪のようなものである。患者に応じてキュアとケアの割合を使い分け、オーダーメイドで進めていくのがよいだろう。

■唾液検査を通じての患者教育

歯周病は国民病と呼ばれ罹患率も軽度のものを含めると81.2%にものぼるとの報告もある。
しかし、多くの先生方や歯科衛生士の皆様も御存知の通り、軽度の歯周炎の患者がそれを主訴として歯科医院を受診することは稀である。患者の意識の中に「症状がない=健康」、「何か症状が出たら、痛くなったら歯科医院を受診する」という考えがあるのも一因かもしれない。
一方で、定期的なメンテナンスは、自覚症状のないもしくは、ほとんどない状態で来院してもらうために患者の従来の考え方とは相反することになる。そのため、患者の意識変革が重要になる。
メンテナンス移行時には、その必要性を十分に説明して、患者に理解し納得してもらう必要がある。この時に有効なのがCAT21FastとBufである。
CAT21FastとBufを有効に活用することで、患者がメンテナンスの必要性を理解しモチベーションを向上させ、定期的な来院を継続していくことが可能となる。

■う蝕や歯周病の正しい知識の必要性

CAT21FastとBufによる唾液検査、および患者への問診によって、カイスの輪で示されているう蝕の発生因子が明らかにできることは、前回の基礎編で説明した。
本稿では、そこから一歩進んでバイオフィルムの説明を通してう蝕と歯周病の正しい知識を患者に教育してモチベーションを上げ、スムーズにメンテナンスに移行していく方法を紹介する。
う蝕と歯周病の正しい知識は、患者が定期的にメンテナンスに通院するためには必要不可欠である。
前にも述べたとおり、メンテナンスは患者の自覚症状がほとんどない状態で通院するため、「なぜ、(症状がないのに)定期的に通院する必要があるのか」「定期的なメンテナンスを受けることで患者が得られるメリット」の2点を患者が十分に理解していないと、メンテナンスの継続が困難なるのはもちろん、スムーズに移行するのも難しくなる可能性が出てくる。
そのためには、患者にう蝕と歯周病の正しい知識を理解してもらうことで、定期的なメンテナンスの必要性とそれを続けることによるメリットを患者が理解することができると筆者は考えている(図2)。

■バイオフィルムの説明法

まずCAT21FastとBufによる唾液検査を行ったのち、患者への問診をする。問診から患者の生活習慣や食生活、口腔衛生習慣などのリスク因子を明らかにした後、これらをカイスの輪に当てはめ、う蝕の発生因子の説明を行う。
次に染め出しを行う。ここでの染め出しの目的は、バイオフィルムの顕在化にある。TBIが目的ではない。染め出しを行うとどうしても医療者側も患者側もTBIと結びつけたくなるが、ここではひとまずTBIを忘れていただく。
口腔内の視診だけでは、どんなベテランの歯科医師・歯科衛生士でもバイオフィルムの付着状態を確認することは困難であり、それが患者の立場になればなおさらである(図3-1)。
こうして染め出しを行うことで、どの部位にバイオフィルムが付着しているかが一目瞭然となり、ハイリスク部位を容易に判別できる(図3-2)。
バイオフィルムが付着している部分=ハイリスク部位である。ここからバイオフィルムの説明を通して、う蝕や歯周病はバイオフィルムによる感染が主な要因である多因子疾患ということを患者に理解してもらう。
バイオフィルムの為害性を理解すれば、症状がないときにメンテナンスを行う必要性が患者も理解できる。
つまり、歯面でバイオフィルムが形成され、成熟していく過程が歯牙や歯周組織にとって最も為害性がある時期である。バイオフィルムが石灰化して歯石になった時に除去するのでは遅いことを一連の過程で患者に理解させることが重要である。理解することで症状がないときにもメンテナンスのために定期的に来院するモチベーションとなる。
厚生労働省は、健康日本21(歯の健康)の中で歯周病のリスク低減の目標値として、定期的な歯石除去・歯面清掃を受ける国民の割合を30%以上という数字を上げている。
もし仮に自院の患者で、定期的にメンテナンスに来院する方が30%増えたとしたら、これは著しい増患である。30%まではいかないにしても、唾液検査を上手く活用し、「必須リコール患者」(前号の基礎編参照)を中心に定期的にメンテナンスに来院する患者が増えれば、医院経営の安定化にもつながる。

  • CAT21Fast
    CAT21Fast
  • CAT21Buf
    CAT21Buf
  • 図1 キュア中心型とケア中心型はよりよい歯科医療を行うための車の両輪である。
    図1 キュア中心型とケア中心型はよりよい歯科医療を行うための車の両輪である。
  • 図2 定期的な歯科医院への通院のメリットを患者に理解してもらう。
    図2 定期的な歯科医院への通院のメリットを患者に理解してもらう。
  • 図3-1 染め出し前の口腔内写真。
    図3-1 染め出し前の口腔内写真。
  • 図3-2 染め出し後の口腔内写真。
    図3-2 染め出し後の口腔内写真。

■症例

患者:38歳(初診時)女性
主訴: 歯がかけた
既往歴:特記事項なし
診断名:成人性歯周炎
治療:「歯がかけた」という主訴で2011年4月に来院した。口腔内を精査すると、歯牙の破折、修復物の脱離などの所見は見当たらず、脱離したのは舌側に付着していた歯石だということが判明した。
全顎的に歯肉の腫脹と発赤がみられ、多くの歯石が付着していた(図4-1〜3)。
X線検査所見において歯槽骨の軽度〜中程度の水平性および垂直性の吸収がみられた。
以上より成人性歯周炎と診断したが、自覚症状がないため、患者は歯周病の診断を認めたがらず、歯周治療ではなくう蝕治療を希望した。そのため、CAT21FastとBufを用いた唾液検査にてう蝕のリスク判定することを提案した。
患者の同意が得られたため、早速検査を行った。結果を図5に示す。う蝕活動性試験の結果は注意域、唾液緩衝能が中緩衝能で注意域、唾液分泌量は問題なかった。
<バイオフィルムの説明法>の項で説明したとおり、次に染め出しを行い染色部位を患者に確認してもらった。続いてバイオフィルムの成り立ちから、その為害性を説明し、う蝕や歯周病はバイオフィルムによる感染が主な要因である多因子疾患ということを患者に理解してもらった。
その後、患者は歯周治療を希望したため、歯周基本検査ののち、TBI、スケーリングと全顎SRPを行った。再評価では歯肉からの出血がほとんどなく、病状が安定していると判断して4カ月ごとのSPTへ移行した。
初診から約4年半が経過した2015年11月現在も定期的にメンテナンスに通院している(図4-4〜6)。
この患者は、主訴が「歯がかけた」ということで、う蝕のことは念頭にあっても歯周病のことは全くなかったため、歯周治療に対するモチベーションも低く、スムーズに歯周治療を開始することが難しかった。
そのため、唾液検査によるう蝕のリスク因子を判定とその結果説明を介してバイオフィルムの理解へとつなげていった。
一見遠回りのようだが、患者はう蝕や歯周病の正しい知識を身につけることでモチベーションが上がり、しかもその維持にも成功している(図6)。
冒頭でも述べたが、症状がない口腔内の状態で定期的に歯科医院へメンテナンスに通院してもらうには患者の意識改革が必要になるが、CAT21FastとBufを上手く活用することでスムーズに行くことが多い。
今までは、患者にバイオフィルムの成り立ちやその為害性(図7)、う蝕や歯周病との深い関連性を説明するのに、各種資料と歯科医師や歯科衛生士の説明力を要していたように思う。CAT21FastとBufはその説明を十分に補うツールになるだろう。
今後、日常臨床の中でCAT21FastとBufを活用することは、患者にう蝕や歯周病の正しい知識を伝えてモチベーションを向上させる手段の1つとして、予防歯科臨床において有効なアイテムであると考えられる。

  • 図4-1〜3 初診時(2011年4月)の口腔内写真。
    図4-1〜3 初診時(2011年4月)の口腔内写真。
  • 図4-4〜6 最近(2015年11月)メンテナンスに来院時の口腔内写真。
    図4-4〜6 最近(2015年11月)メンテナンスに来院時の口腔内写真。
  • 図5 唾液検査結果。
    図5 唾液検査結果。
  • 図6 唾液検査を活かした患者のモチベーション向上法
    図6 唾液検査を活かした患者のモチベーション向上法
  • 図7 バイオフィルムの成り立ちと為害性の理解が重要。
    図7 バイオフィルムの成り立ちと為害性の理解が重要。

■まとめ

基礎編と応用編の2回にわたってCAT21FastとBuf<(有)ウィルデント>を日常臨床に導入し、それを予防歯科の1つのオプションとして活用していく方法を紹介させていただいた。
ただ、私どもの方法が決して万能なものではなく、まだまだ発展途上であるのも事実である。読者の先生方や歯科衛生士の皆様の中には、私どもの医院よりももっと上手に日常臨床の中で唾液検査を行い、活用している方々が多いことと思う。
今後、多くの先生方や歯科衛生士の皆様と情報交換をしながら唾液検査の活用法をより発展させていくのが筆者の希望である。
拙文を通してなるべく多くの先生方や歯科衛生士の皆様が唾液検査の有用性を理解し、日常臨床への導入と活用をしていただければ、多くの患者が今まで以上に恩恵を受けることができるだろう。
一人でも多くの患者が定期的に歯科医院へ通院し、メンテナンスを受けることで口腔内の健康だけでなく全身の健康維持へとつながっていけば、筆者にとって望外の喜びである。

参考文献
  • 1)厚生労働省 健康日本21(歯の健康)http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b6.html
  • 2)ペール・アクセルソン著、西真紀子訳:本当のPMTC その意味と価値、株式会社オーラルケア、東京、2009年.