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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
審美補綴症例の何故を再考する −HOWを求めるのではなく、WHYを考えることの重要性− Part1
大阪市開業 六人部 慶彦

■はじめに

古くから美人の伝統的系統に用いられる明眸皓歯という言葉に代表されるように、顔面美の2大焦点は目元と口元にある。その2大焦点の1つである口元を担当する我々歯科医師の果たすべき役割は非常に重要である。
患者の顎口腔の審美性に対する要求が高まり、前歯部のみならず臼歯部においても天然歯に近似した形態と色調を持つ審美修復処置が求められるようになってきた。
近年、色調および光透過性をより一層天然歯に近づけた、高強度のオールセラミッククラウンがその修復材料として臨床応用されるようになっている。
最近のオールセラミックスは、CAD/CAM技術を用いてジルコニアブロックやディスクを削り出し、高強度のジルコニアコーピングを作製するシステムが主流となりつつある。世界各国でも100を超えるシステムが登場しており、審美補綴領域発展の一助となっている。
ジルコニアは、高い曲げ強さと破壊靭性値を有しており、強度的な信頼性が高まることにより、適応範囲も格段に広がりをみせている。これは、接着技術に頼る必要のないほどの高い強度を兼ね備えたシステムで、3~4ユニットさらにフルマウスのブリッジにも応用可能な強度を有している。
ただ、たとえ高強度を有するマテリアルもその強度は臨床においては適合性に大きく左右される。
さらにその適合性は、歯科医師の支台歯形成に大きく影響しており、ジルコニアブロックやディスクを削り出してコーピングを作製するCAD/CAMシステム(以下CAD/CAMクラウンと略す)の場合、修復物の適合性を高めるためには、従来のオールセラミッククラウンとは少し異なる形成を施さなければならないことを理解する必要がある。
健康的で美しい口腔、笑顔を回復し、予知性をもって維持させる審美補綴を成功させるためには、一種の職人である我々歯科医師、歯科技工士双方が熟練された技術を駆使して医療に携わり、明確に情報を伝達し合うことが重要である。
ただ優秀な歯科技工士に色調再現、形態再現の全てを委ねているだけでは、審美修復治療における長期的に良好な予後は期待できない。歯科医師も形態・色調を熟知し、ディスカッションできる知識を得ることが不可欠である。
日々の臨床を振り返るにあたって、審美補綴治療の大半は、既存の不良修復物の再治療である。何故、再治療が必要になったのか、その原因を考え、今後長期にわたって再治療せずに機能させるように考慮することが我々歯科医師には求められる。
本稿では、臨床において審美補綴治療を手がける上での機能美の何故を考えたい。

■上顎小臼歯部単冠症例

上顎右側第1小臼歯に、日々の臨床においてたびたび遭遇する咬頭傾斜のないフラットな咬合面形態のクラウンが装着されている(図1)。
色調においても隣在歯と調和のない反射率の高い彩度の低い状態である。何故このような形態、色調のクラウンが作製されたか製作者である歯科技工士を責めるのではなく、補綴治療の出発点である支台歯形態を確認する必要がある。
クラウンを除去したところ、生活歯であるとの理由からなのか、咬合面の形成量が極端に少ないことが分かる(図2)。
さらに、頰側、口蓋側マージン部の形成量も極端に少ない。そのわりに、軸面のテーパーが大きく、最終外形から逆算した形成とは到底思えない支台歯デザインである。
生活歯であっても、インレー形成の場合は、小窩裂溝部に十分なボックス形成が行われるのに対して、クラウンの形成となると躊躇してしまうようである。歯の解剖を理解していれば、生活歯でも必要かつ十分な形成は行える。
あらためて、CAD/CAMクラウン用の形成を施した(図3)。
頰側、口蓋側マージン部には、十分なショルダー幅を付与し、軸面のテーパーも適切に修正し、小窩裂溝部にも十分なクリアランスを与えた。加えて、各隅角部に十分な厚みと丸みを付与した。
図4に完成した理想的な形態のカタナジルコニアクラウンを示す。このクラウンを口腔内にセットされた状態を図5、6に示す。患者が違和感を覚えない高くないクラウンを装着しても決して機能回復にはならない。

  • 図1
    図1 フラットな咬合面形態のクラウンが装着されている術前の状態。
  • 図2
    図2 クラウンを撤去した際の支台歯形態。
  • 図3
    図3 CAD/CAMクラウン用の支台歯形成を施した状態。
  • 図4
    図4 完成したカタナジルコニアクラウン。
  • 図5
    図5 理想的な形態、色調の補綴が終了した術後の状態。
  • 図6
    図6 理想的な形態、色調の補綴が終了した術後の状態(咬合面観)。

■上顎前歯部ブリッジ症例

上顎左側側切歯欠損に伴うメタルセラミック3ユニットブリッジが装着されている初診時の状態を図7に示す。
色調の不調和、ブラックマージンによる審美障害を訴えていることに加えて、不適切なポンティック形態による側切歯歯頸部の食物の停滞による不快感を訴えて来院された。
ブリッジ切縁観からも明らかなように、欠損部側切歯唇側歯槽骨の水平的骨吸収による陥没状態が観察される(図8、9)。
審美的かつ衛生的観点のポンティックデザインを目指す治療計画の立案から、まずは、人工骨を用いたリッジオーグメンテーションを施し(図10)、唇側のボリュームを回復させる(図11)。
その際、切開線は最小限とし、歯間乳頭を温存させることが重要である。メタルのダウエルコアを除去し、ファイバーポスト&コアにて新たに支台築造を施し、支台歯形成を終了する。欠損部顎堤の調整は、この時点では一切行わない。
印象模型(ソリッドモデル)上で、左右のスキャロップフォームの対称性を目指して、ポンティック基底面をモディファイドオベイトポンティック形態(フィンガーチップ形態)となるように側切歯部顎堤の調整を行う(図12)。形成された粘膜面に沿うようにカタナジルコニアコーピングを作製する(図13)。
ウォッシュベイク後、歯頸部は彩度を高めるパウダーを、切縁付近には透明性を高めるパウダーを焼き付け(図14)、カタナジルコニアブリッジを完成させる(図15)。
粘膜と接触するポンティック基底面は機械的研磨で滑沢に仕上げる。
何故、欠損部顎堤の調整を事前に行わないかという理由は、術後の疑似歯肉溝、疑似歯間乳頭をより自然に仕上げるためである。
ポンティック基底面をグレーシーペンシルにてマーキングし(図16)、圧接し(図17)、顎堤接触面を印記する(図18)。
浸麻下にてダイヤモンドバーを用いて疑似歯肉溝の調整を行う(図19)。
この操作を繰り返し(図20)、凸面である基底面に沿うように調整し(図21)、顎堤粘膜に若干の圧が加わるようにブリッジを適合させる(図22)。
約2ヵ月仮着後、ブリッジを撤去し(図23)、ポンティック基底面顎堤粘膜をチェックする(図24)。自然出血もなく、錯角化の上皮が観察される。
ブリッジ装着7ヵ月後の状態を図25~27に示す。
左右のスキャロップフォームの対称性、欠損部の疑似歯肉溝、疑似歯間乳頭、Gull Wing様のカントゥアが安定している。

  • 図7
    図7 初診時正面観。
  • 図8
    図8 上顎左側側切歯唇側歯槽骨の水平的骨吸収が認められる。
  • 図9
    図9 上顎左側側切歯唇側歯槽骨の水平的骨吸収が認められる(補綴物除去後)。
  • 図10
    図10 人工骨によるリッジオーグメンテーション。
  • 図11
    図11 唇側のボリュームを回復させる。
  • 図12
    図12 左右のスキャロップフォームの対称性を目指して、ソリッドモデル上のポンティック基底面の調整を行う。
  • 図13
    図13 モディファイドオベイトポンティック基底面形態を含めたカタナジルコニアフレームを作製する。
  • 図14
    図14 ウォッシュベイク後、歯頸部は彩度を高めるファウンデーションを施す。
  • 図15
    図15 完成した3ユニットカタナジルコニアブリッジ。
  • 図16
    図16 欠損部顎堤調整のために、ポンティック基底面をマーキングする。
  • 図17
    図17 ポンティックを欠損部顎堤に圧接する。
  • 図18
    図18 ポンティック基底面が顎堤に接触している部分を印記する。
  • 図19
    図19 浸麻下で、ダイヤモンドポイントを用いて顎堤の調整を行う。
  • 図20
    図20 ポンティック基底面の接触を繰り返し確認する。
  • 図21
    図21 歯槽頂の調整を行う。
  • 図22
    図22 顎堤に生理的な圧迫を与えながらブリッジが支台歯に装着されることを基準に調整を終了する。
  • 図23
    図23 ブリッジ仮着2ヵ月後に撤去し、顎堤面膜を確認する。
  • 図24
    図24 ポンティック基底面相当部の顎堤が錯角化状態で安定していることが観察される。
  • 図25
    図25 ブリッジ装着7ヵ月後の正面観。
  • 図26
    図26 ブリッジ装着7ヵ月後のブリッジ正面観。
  • 図27
    図27 ポンティック部ガルウィングの調和。

■おわりに

審美補綴治療において、患者は、最終的に装着されるセラミック修復物により評価されるため、テクニシャンは研鑽を積み技術向上に日々努力を重ねているが、補綴のスタートである支台歯形成面は最終的には隠れるため、努力しようとしない歯科医師が少なくないのも現状である。
全く機能性を欠く形態の修復物や、歯肉退縮によりマージンが露出しているケースもしばしば見受けられる。
何故、そのような形態の修復物が装着されているか、何故、歯肉退縮が起こるのか、原因を考える必要性が求められる。
また、過去に発表された文献に記載されている様々な臨床術式にも疑問を呈し、鵜呑みにしないことも重要ではないだろうか。
職人であるべき歯科医師は技術向上のために努力し続けることも重要であるが、方法を追い求めるのではなく、何故、そのようにしなければならないのかを考えることも身につけたい。

デンタルマガジン 159号 WINTER