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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

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Toraysee for CEの歯科診療室での活用
大阪医科大学 感覚器機能形態医学講座 口腔外科学教室 木村 吉宏/植野 高章

■はじめに

歯科医療現場では医療機器、器具、環境をSpauldingの分類を用いてクリティカル、セミクリティカル、ノンクリティカルの3区分にリスク分類している(表1)1)
クリティカルに分類されているものには抜歯鉗子などの外科用器具、リーマー、スケーラー、ハンドピースが含まれており患者ごとにオートクレーブで滅菌するかディスポーザブルのものを使用する。
セミクリティカルなものはスリーウェイシリンジ、バキュームチップ、口腔内ミラーなどが含まれ高水準消毒が必要である(表2)。
しかし、セミクリティカルに分類されているものでも耐熱性があるものはオートクレーブで滅菌するのが原則である。
ノンクリティカルには歯科ユニットのタッチパネル、ライトのスイッチ、診療テーブルのハンドル、スピットン、エックス線撮影機器等の周囲機器や作業台、床やドアノブなどの診療室環境が含まれる。
ノンクリティカルな接触する表面はカバーするか中または低水準消毒薬での消毒をCDCの医療環境に対するガイドラインでは推奨している2)

■歯科診療室環境の清拭と消毒

診療室のハウスキーピング表面(床、壁、ドアノブ等)は定期的な清掃および消毒が必要とされている。
血液などで床が汚染された場合など目に見える汚染があれば汚染物を除去し0.1%次亜塩素酸で消毒を行う3、4)
歯科ユニットではタッチパネルやライトのスイッチ、診療テーブルのハンドルなどは歯科医や歯科衛生士が患者の口腔内に触れた手で操作することがある。
患者の唾液で汚染するリスクがあり、抜歯や膿瘍の切開など外科処置の際は血液や膿汁で汚染されることもある。
汚染が確認されたときは当然であるが患者ごとにも清拭と消毒が必要である。消毒には中、低水準消毒薬を使用する4、5)
特にスピットンは患者が洗口し吐き出した水により汚染される。スピットンには自動または手動で流水させ洗浄する機能が備わっているが水が流れる範囲は限られておりすべての面を洗浄できない。スピットンの湿潤した環境では細菌が付着し増殖するリスクは高く感染対策は重要である。
不特定多数の人が出入りする医療機関では多種の病原体が持ち込まれ医療機器、環境を介して患者から患者や医療従事者へ、医療従事者から患者へ伝播する6)
一般細菌に加えレジオネラ菌Legionellapneumophila、緑膿菌Pseudomonasaeruginosaなどが院内の医療機器を介して伝播する危険性もある7)
免疫の低下している患者や高齢者を自宅で介護している患者など多様な背景の人が受診する。
診療室の環境を清掃消毒し医療関連感染を防ぐことは極めて重要である。

■大阪医科大学附属病院歯科・口腔外科での取り組み

当科の外来には1日100名前後の患者が受診し、高齢者や全身疾患を持つ人、院内他科から口腔ケアの依頼で受診する人などもいる。
心臓疾患で手術予定の人、抗がん化学療法中で白血球や血小板が低下している人、口腔癌や頭頸部癌で口腔咽頭に広範囲に重篤な粘膜炎を合併している人、骨髄移植を予定している人、終末期の人など多種多様な病態の人が受診する。
周術期口腔機能管理が保険導入されてから口腔ケア患者は増加しており今後も増加すると予想される。
このような人は免疫が低下していることもあり外来診療室の環境、特に歯科ユニット周囲の清掃消毒は重要視している。
診療テーブルのハンドル、タッチパネル、ライトのハンドルなど術者が触れた可能性のあるところや、スピットンおよびその周囲は患者毎に清掃消毒を行っている(図1)

■Toraysee® for CE

Toraysee® for CEは医療機器の清拭用クロスであり直径2μmの細い繊維でできている(図2)。
拭き取り面に密着し、毛細管現象によってミクロポケットと呼ばれる極めて細い繊維の間に汚れを取り込むことにより微生物や汚染物を除去できる。
一般的な線維の直径が約15μmであるのに対し約2μmという極細の線維によって汚れを掻き取るため高い清掃力を持っている。
製造元である東レ社は清掃の対象としてタッチパネル、保育器、調剤台、輸液ポンプ等を挙げている。
Toraysee® は眼鏡拭きなどに利用されておりマウスやキーボード、パソコン画面など電子機器の清掃もできる。

■Toraysee® for CEの効果

Toraysee® for CEは清拭した場所の目に見える汚れを除去するとともに細菌数を減少させる。
スピットンは歯科ユニットの中でも特に汚染されていると思われる。診療後のスピットンをToraysee® for CEで清拭し表面の細菌数をパナソニック社製の細菌数測定装置である細菌カウンタで計測した。細菌カウンタは綿棒で採取した検体中の細菌数を誘電泳動で電極に捕集しインピーダンスを計測することで細菌数を計測する。
測定範囲は1×105〜108cfu/mLである。
清拭前のスピットン表面の細菌数は2.04×106±4.3×105 cfu/mLであった。Toraysee® for CEを水道水で濡らし絞って水拭きした後では細菌カウンタで細菌は検出できなかった(表3)。
また、スピットン表面の清拭前後の細菌を寒天培地で48時間培養し比較した結果、明らかに細菌数は減じており高い清掃効果が確認された(図3)。

■Toraysee® for CEの有用性

歯科診療では、歯の切削や義歯の削合による粉塵、患者が洗口し吐き出した水しぶき、唾液や血液で汚染した術者の手指の接触などでデンタルチェアおよびその周囲は容易に汚染される。
エアータービンヘッド、バキュームチップなど患者毎に交換できるものやスリーウェイシリンジのチップなどディスポーザブルの物は多い。
しかし、ライトのスイッチ、診療テーブルのハンドル、タッチパネルなどは交換できないため患者毎に清拭消毒するか清潔なビニールのカバーで覆うことが必要である。ビニールカバーで覆うことはコスト面や時間的制約がありすべての患者で行うことは難しい場合もある。
いろいろな制約を受ける診療環境では素早くしかも確実に消毒清拭を行う必要がある。
Toraysee® for CEは消毒薬を併用しなくても清拭することで細菌数を減少させることができる。水拭きでも使用可能で、乾いたまま拭くよりも効果は約8.6〜10倍高いとされる8)。次亜塩素酸ナトリウム、アルコール、塩化ベンザルコニウム、ポビドンヨードなどに浸漬しても変化しないため、これらで湿らせて水拭きすることも可能である。
デンタルチェアおよび周辺のノンクリティカルな医療機器、環境の清拭消毒に適していると考えられる。
近年電子カルテやエックス線のフィルムレス化が進みノンクリティカルな医療機器にはパソコンやマウス、キーボード、高精度画面など水拭きや消毒薬での清拭を避けたいものがある。
Toraysee® for CEを用いて、清拭する対象に合わせて乾式、水拭き、消毒薬併用と使い分けすることで医療機器、環境にダメージを与えることなく清拭できる。

  • 表1 Spaulding分類
    表1 Spaulding分類
  • 表2 消毒薬の分類
    表2 消毒薬の分類
  • 図1 スピットンの清拭
    図1 スピットンの清拭
  • 図2 Toraysee® for CEの電子顕微鏡像(東レ社提供)
    図2 Toraysee® for CEの電子顕微鏡像(東レ社提供)
  • 表2 消毒薬の分類
    表2 消毒薬の分類
  • 図3 スピットン表面の細菌培養(寒天培地;48時間培養) 左:清拭前 右:清拭後 
    図3 スピットン表面の細菌培養(寒天培地;48時間培養) 左:清拭前 右:清拭後 

■謝辞

本稿を終えるにあたり、細菌培養等に関し御指導、御協力をいただいた大阪医科大学微生物学教室 中野隆史専門教授、大阪医科大学附属病院中央検査部 池本敏行様、東山智宣様に深く感謝します。

参考文献
  • 1)EH, Spaulding. Chemical disinfect ofmedical and surgical materials. In:Lawrence CA. Block eds. Disinfection,sterilization and prevention. Philadelphia:Lea & Febiger: 517-31, . 1968.
  • 2)満田年宏. 医療施設における消毒と滅菌のためのCDCガイドライン2008(第一版). 東京: ヴァンメディカル, 2009.
  • 3)矢野邦夫, 堀井俊伸. 感染制御学. 東京: 文光堂, 2015.
  • 4)荒木孝二他. エビデンスに基づく一般歯科診療における院内感染対策実践マニュアル改訂版. 京都: 永末書店, 2015.
  • 5)佐藤田鶴子他. 最新歯科医療における院内感染対策CDCガイドライン. 京都: 永末書店,2004.
  • 6)Beggs CBSJ, Kerr KG.Shepherd. Howdoes healthcare workerhand hygiene behaviourimpact upon the transmission ofMRSA between patients?: an analysisusing a Monte Carlo model. BMC InfectDis9: 64. 2009.
  • 7)林 俊治. 医療施設内の設備や機器を感染源とする院内感染:北里医学45:87-94:2015.
  • 8)東條圭一、他. マイクロファイバー素材クリーニングクロスによる医療機器清拭効果について:Therapeutic Research 34:399-407:2013.

デンタルマガジン 159号 WINTER