根管治療の質と補綴物の質とどちらが根尖病変の治癒に影響するか、という報告がある1)。
この報告では根管治療の質があまり良くなく補綴物の質が良い群の方が、根管治療の質が良く補綴物の質があまり良くない群より根尖部の治癒は良好であると報告されている。
歯内療法の分野ではこの論文が物議を醸し出し、その後同様の論文が次々と発表された2〜9)。その9本の論文を集めたメタアナリシス10)によれば、根管治療の質も補綴物の質もどちらも重要である、という結果に落ちついている(図1)。
しかし、なぜ根尖病変の治癒に根管治療の質が大きく影響しないのであろうか。その理由のひとつとして考えられるのがコロナルリーケージである。
根管充填した抜去歯の歯冠部に細菌懸濁液を置き、根管充填材の上部を細菌に感染させた状態にしておくと、約1ヵ月で根尖から細菌が検出されるようになる11)。これは、根管充填材の封鎖性が完璧ではないことを意味している。
従来の根管充填はガッタパーチャを酸化亜鉛ユージノール系シーラーで封鎖しているので、封鎖性が良いとは言えない状況であった。そのため補綴物の質が悪くマージンから漏洩がおき、根管充填材に細菌が到達するような状態であれば、根管系はあっという間に再感染してしまうと考えられる。
歯冠補綴物は歯質と接着している時代であることを考えると、根管充填にも接着が要求されるのは当たり前であり、いままでも接着性根管充填シーラーに関する多くの研究が行われてきた。
今回紹介するメタシールSoftはレジン系の接着性根管充填シーラー12)であり、根管を緊密に封鎖することが可能となっている(図2)。
このようなシーラーを使うようになれば、補綴物の質に左右されることなく根尖病変の治癒を得られる時代がもう目の前にきているように著者は感じている。
根管充填材に要求される条件として、生体親和性、封鎖性、安定性、操作性など多くの項目が挙げられる13)(表1)が、残念ながら全ての要件を満たす理想的な根管充填材は存在しない。
封鎖性という観点でみるなら、歯質と接着している方が良いと思われるが、咬合力が直接かかるわけではないので、咬合力のかかる歯冠部充填材のような強い強度や接着力は必要ないのかもしれない。
充填材の歯質への接着という点では2ステップセルフエッチングシステムがよいかもしれないが、根管内という細くて長いスペースを限られた時間内で処理しなければならないことを考えれば、水洗や乾燥などのステップが省略できる1ステップセルフエッチングシステムのシーラーが適切ではないかと筆者は考えている。
メタシールSoftはセルフエッチングであるため、煩わしい歯面処理をすることなく、従来使用していた根管充填シーラーと同じ術式で根管充填することが可能である。これは臨床において非常に重要なことである。
根管内の封鎖性ということを考えれば、MetaSEAL(米国で発売されているHardタイプ)のセルフエッチングは理にかなっているが、直前にEDTAを使用しスメア層を除去しないと、封鎖性が低下する可能性も示唆されており14)、根管洗浄には次亜塩素酸ナトリウムとEDTAを併用することが望ましい。MetaSEALの封鎖性は、他のAH PlusやRealSealと同等であることから15)臨床的に問題はなく、従来のシーラーより良くなっていると考えられる。
メタシールSoftは米国で発売されているHardタイプのMetaSEALにくらべて柔らかく、硬化後もファイルで除去が可能な硬さになっている。根管治療の成功率は決して100%にならないことを考えると、再根管治療を行う際に除去できない硬さでは使用しづらくなってしまう。その点、メタシールSoftは除去のことも考えた製品となっている。
根管充填用シーラーとして接着性レジン系の材料を使う場合、問題となるのが根管洗浄剤である次亜塩素酸ナトリウムの影響である。
効率よく根管内の細菌感染を取り除くために根管治療に次亜塩素酸ナトリウムは必須であるが、従来の接着性レジン系材料では次亜塩素酸ナトリウムによる酸化を還元中和するためにアクセル(サンメディカル)等の還元剤を使用する必要があった。
メタシールSoftは還元作用を有するアミノ酸系重合開始剤を採用することにより、次亜塩素酸ナトリウムを使用した根管象牙質に対しても還元中和を必要とせず、良好な接着を可能としている(図3)。
筆者が行っているメタシールSoftを用いた根管充填について解説する。
根管形成終了後、排膿などの炎症所見がないことを確認する(図4)。顕微鏡下で処置をする場合、顕微鏡の光で硬化が促進されないようにオレンジフィルターを使用する。
根管内を十分に乾燥させ、エンドノズル(図5)を用いて根管内にメタシールSoftを注入し(図6)、作業長にあわせて試適しておいたガッタパーチャポイントを挿入し、ポンピング操作を行うことによって、根管壁をメタシールSoftで十分に濡らすようにする。このとき根尖に気泡が残らないように気をつける(図7)。
筆者はニッケルチタンファイルを用いて06テーパー以上の根管形成を行っているが、ガッタパーチャポイントは04テーパーを使用している。これには理由がある。
歯内療法専門医への依頼は抜髄がほとんどなく、再根管治療が大半を占めている。以前行われた治療により根尖付近では本来の根管から逸脱していることも多く、根尖付近には理想的なテーパーを付与した根管形成を行うことが難しい。ときには根尖が不規則に広がっているような場合もある。そのような根管に太いテーパーのガッタパーチャポイントを挿入すると、根尖付近ではなく、根尖から数mm手前でタグバックを感じてしまい、根尖の封鎖性が悪くなったり、オーバー根充の原因になったりする。そのため、形成したテーパーより細いガッタパーチャを試適し、ガッタパーチャポイントのタグバックを確実に根尖で感じるようにする(図8)。
タグバックを感じるようなガッタパーチャポイントを試適したとしても、テーバーが異なるためダイアペンによるダウンパックを行う際に、ガッタパーチャが抜けてくる可能性がある。このようなことが起きないように、スプレッダーを使って各根管内に1、2本の細いアクセサリーポイントを挿入する(図9)。
側方加圧ではないので、根管内を全てアクセサリーポイントで充填するわけではなく、あくまでもダウンパックの際にポイントが抜けてこないように根尖部の適合を良くしておく、という理由である(図10)。
各根管に1、2本のアクセサリーポイントを挿入したのち、ダイアペンを用いて根尖約3mmの部分を加熱加圧根管充填する(図11)。
ダイアペンを抜いた後、ニッケルチタン製のS-コンデンサーを用いてしっかり加圧を行う(ダウンパック)(図12)。
ガッタパーチャのなくなった根管上部の根管壁に再びメタシールSoftを追加塗布し(図13)、ダイアガンを用いて根管上部のバックパックを行い、根管充填を終了する(図14、15)。
この根管充填法の良いところは、理想的な根管のテーパーができないような根管でもダイアガンとダイアペン16)、を用いたcontinuous wave of condensationtechnique17)を行えることである。
メタシールSoftは単一ポイント根充法にも向いている。今回紹介したcontinuouswave of condensation techniqueが使いづらいような症例では、単一ポイント根管充填を行うことも可能である。
根管治療の成功率はけっして低くないが、接着性根管充填シーラーを使うことにより成功率はさらに上昇する可能性があり、前述のフォレストプロットは変わるかもしれない(図1)。歯の長期保存という観点から期待のできる接着性根管充填シーラーがメタシールSoftである。