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Clinical Report

歯科医院におけるToraysee® for CE の活用方法

東京都馬見塚デンタルクリニック 歯科衛生士 一之瀬 くに子

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■はじめに

歯科医療現場において使用後の器具や環境はスポルディングの分類を参考に処理されています。器具類の洗浄、消毒、滅菌等は専用の機器を用いて処理することが可能です。
しかし、使用済みチェアユニットの処理は機器が使用できないため、ディスポーザブルクロスでの清拭が一般的かと思われます。当医院でも数年前までは前述同様にチェアユニットの清拭を行っていましたが、現在では医療機器向け清拭クロスToraysee for CE(図1)を使用しています。今回は清拭材を変えた経緯、Toraysee for CEの導入理由についてご紹介させていただきます。

■チェアユニットの汚染度

多くの場合、歯科診療ではエアータービンやコントラアングルハンドピース等の回転切削器具を用いて診療を行う特徴があります。特にエアータービン使用時には、ほとんどが注水下であることを考えると、チェアユニット周りには患者さんの口腔内から飛散した唾液や血液また、薬剤等が付着し汚染していることが容易に分かります(表1)。
しかし、処置内容によっては注水せずに行う処置もあり、処置内容別にユニットの汚染度に差があるのではないかと考えました。そこで、平成27年度に開催された「第90回日本医療機器学会」で発表した研究データをご紹介します(演題:『歯科用チェアユニットへの残留タンパクを減少させる清拭方法について』)。
処置内容をA:う蝕治療・B:根管治療・C:検診・D:Professional MechanicalTooth Cleaning(機械的歯面清掃:以下PMTC)の4種類とし、処置後に汚染度の測定を行いました。測定方法はチェアユニットのタッチパネルとライトハンドルを清拭前後でルミテスターPD-20およびルシパックPen®(キッコーマンバイオケミファ株式会社製)を用い、アデノシン三リン酸(Adenosine triphosphate:以下ATP)およびアデノシン一リン酸(Adenosinemonophosphate:以下AMP)の計測を行いRelative light unit(以下RLU)で評価しました。
結果はどの処置でも同程度にチェアユニットは汚染されていることが分かりました。術者は飛沫の量や範囲を予測してチェアユニットの汚染度を判断してしまいがちです。そのために歯根管治療などは飛沫が少なくチェアユニットの汚染範囲が狭いと考えてしまいます。
しかし、私たちが行う処置は、ほとんどが口腔内で行われ、施術時の唾液や血液が付着している手指でタッチパネルやライトハンドルを幾度となく操作することから口腔内からの飛散と同様にチェアユニット周りの汚染は拡大されると考察しました。この結果から、どのような処置であっても毎処置後に確実な清拭が求められることを再認識しました。

  • 表1
    表1 処置別汚染度と清拭の有効性
    第90 回 日本医療機器学会 発表データより
  • 図1
    図1 医療機器向け清拭クロス「Toraysee for CE」。

■清拭材の選択

多忙な診療時には、チェアユニットを休みなく繰り返し使用します。そのため、診療を円滑に進めるためにも処置後には直ちにチェアユニットを清潔な状態にすることが求められます。
しかし、チェアユニットは操作箇所によりセミクリティカルやノンクリティカル等の異なる清拭処理を行わなければならない箇所が混在しており、このことは作業を複雑にするだけではなく作業時間増加という影響を及ぼします。そのため、短時間で効率良くそして効果のある清拭方法は何かを模索し、清拭材により清拭効果に違いがあるのではないかと考え、後続の研究を行いました。
平成28年度に開催された「第91回日本医療機器学会」で発表した研究結果(演題:『歯科用チェアユニットの清拭材料によるAMP及びATP値の変動について』)より清拭材料よる清拭効果(清拭後のATP及びATP値の変動について)についてのデータを下記に示します。
ATPは、地球上の全ての生物のエネルギー源として存在する化学物質であり、「そこにATPが存在する」ということは、「そこに生物、あるいは生物の痕跡が存在する」証拠であり、菌の餌が存在する環境であるといえます。
AMPは、ATP同様、生物に広く存在する物質です。また、RLU値はATP+AMPふき取り検査の場合、ATP(+AMP)と試薬が反応して生じた光の量をRLU値として表されます。RLU値が大きいと、ATP量が多い(=汚れが多い)、と判断できます。
清拭材は、①ペーパータオルに歯科用3WAYシリンジで水を含ませたもの、②第四級アンモニウム塩を含んだ環境清拭クロス(A)、③第四級アンモニウム塩を含んだ環境清拭クロス(B)、④3WAYシリンジで水を含ませたToraysee for CEです。
以上の4種類を使用し、チェアユニットのタッチパネルとライトハンドルの清拭後の残留ATP・AMPの計測をルミテスターPD-20およびルシパックPen®を用いて行いRLU値で評価しました。
採取したデータから清拭材によって歯科用チェアユニットのタッチパネルおよびライトハンドル清拭後の残留ATPおよびAMPに差があることが分かりました。
タッチパネルでは、RLU値の最大値と最小値の差が最も少なく清拭後の結果が安定しているのはToraysee forCE。一方、ライトハンドルでは環境清拭クロスAという結果になりました(表2)。
データ採りを行った18回の平均RLU値(残留ATP・AMP値)はタッチパネル、ライトハンドル共にToraysee forCEが最も低いという結果になり、Torayseeは比較対象に対して有意差があることがわかりました(表3)。
さらに、各チェアごとに各種清拭クロスで清拭を行い、1週間に1回のタイミングでデータ採取し、計17回分4ヵ月間のデータを継時的変化で示した結果、数値の振れ幅が少なくデータ採取の1回目から数値の緩やかな右肩下がりを示しているのはToraysee for CEでした(表4)。
このことから、Toraysee for CEによる清拭を続けることで、汚れを確実にふき取り、且つ(毎回)清拭後に清潔な状態を維持しやすくなったということが分かりました。
以上の研究結果を踏まえ、当医院ではToraysee for CEを導入し継続活用しています。

  • 図1
    表2 清拭後の残留ATP・AMP最大値と最小値
  • 図1
    表3 清拭後の残留ATP・AMP平均値
  • 図1
    表4 清拭材による残留ATP・AMPの変動について

■使用方法

日常臨床における当医院でのTorayseefor CEを用いての清拭は処置後速やかに、且つ素早く行うことをスタッフ全員が心掛けています。
<馬見塚デンタルクリニックでの清拭手順>
① 四つ折りにしたToraysee for CEに3WAYシリンジの水を霧状にして吹き付け全体を湿らせます(図2)。
② チェアユニット全体をToraysee forCEの一面(1/4)で同一箇所を往復させ、下方向へと移動しながらウェットワイピングを行います(図3)。清拭場所を変えるときや汚染度により四つ折りにした清拭面を変えながら拭き取ります。
③ タッチパネルやライトハンドル、全てのホース類や、ブラケットテーブル等の処置中に術者が触れる可能性のあるところはToraysee for CEで清拭後、再度、低水準消毒薬が含まれているディスポーザブルクロスで清拭します(図4〜6)。
その他の器械洗浄が可能な器材は、ウォッシャーディスインフェクターでの熱水処理を行っています。
Toraysee for CEをウェットワイピングで使用する理由としては、乾式で使用するよりも湿式使用の方が清拭効果が10倍高いというデータがあります1)。
また、スポルディングの分類によるノンクリティカル部分での清拭には水拭きによる処置を行い、セミクリティカルな部分には、Toraysee for CEに適切な消毒薬を含浸させての清拭方法を選択することも可能です。
チェアユニットの清拭を、様々なスタッフが毎処置後、短時間で行うことを考えると、簡便に、確実に単一化することが望まれます。しかし、感染管理を徹底するには優先しなければならない遵守事項があるためにルールを守った上での工夫が必要になります。
当医院では各ユニットや清拭材にオリジナルに作成した処理別分類表を置くことにより新人や実習生でも視覚的に処理方法を判断できるようにする等の工夫をしています。
また、Toraysee for CEは毎使用後に、大型洗濯機と乾燥機を用いて95℃の温水洗濯、乾燥を行いReuseしています。そのため、1チェアユニットで1枚使用したToraysee for CEは、温水洗浄・乾燥を行い、常に50〜60枚のToraysee for CEをチェアサイドに準備しReuseしています。Reuseに関しては単回使用時の除去率と繰り返し使用時の除去率には統計的に差がなく、Reuseしても高い除去性能を発揮することが分かっています2)。
また、廃棄時期は清拭時の抵抗が無くなったとき(ワイピング機能の低下)や表面の汚れが目視で確認できたときに廃棄しています。
このように使用目的を明確にし、用法を選択することでToraysee for CEは多様に活用できます。

  • 図2
    図2 3WAYシリンジの水を霧状にして吹き付け全体を湿らせる。
  • 図3
    図3 チェアユニット全体をToraysee for CEの一面を使ってウェットワイピングを行う。
  • 図4
    図4 ライトハンドルの清拭。
  • 図5
    図5 タッチパネルの清拭。
  • 図6
    図6 ホース類の清拭。

■活用方法

Toraysee for CEは材質に高い清拭効果があるために用途を限定せずに使用できる特徴があります。
その特性を活かし、用途や用法(ウェットワイプ、ドライワイプ、消毒薬含浸等)が多岐にわたるために当医院ではチェアユニット以外でも活用しています。
<当医院での活用方法>
① ミラーの拭き取り(図7)
口腔内写真撮影時に使用するミラーは曇り防止として事前にお湯に浸しておきますが、使用直前の水滴除去に使用する。TBIで使用する手鏡。
② 歯科機器、精密機器等(図8〜10)
毎朝、院内の医療機器保守点検時に根管長測定器や超音波スケーラー、それらの設置ワゴン、モニターや笑気吸入鎮静器等。
③ チェアユニット周り(図11、12)
セメント練和やカルテを置く作業棚やユニットのガラスパーテーション、口腔外バキューム。
④ 院内パソコン(図13、14)
アポイントをとる際やレセプト入力に使用するパソコンの画面やキーボード、マウス等。
⑤ 訪問診療(図15)
患者さん宅で器具、器材を置いた場所やポータブルユニット。

  • 図7
    図7 ミラーの拭き取り。
  • 図8
    図8 根管長測定器の清拭。
  • 図9
    図9 超音波スケーラーの清拭。
  • 図10
    図10 チェアユニットのトレーを清拭。
  • 図11
    図11 作業棚の清拭。
  • 図12
    図12 口腔外バキュームの清拭。
  • 図13
    図13 パソコン画面の清拭。
  • 図14
    図14 タブレット端末の清拭。
  • 図15
    図15 ポータブルユニットの清拭。

■活用方法

チェアユニットの清拭方法は確立されていないのが現状です。多忙な診療中での清拭はルーティンな作業となってしまい患者さんや自分自身の身を守るための重要な行為であることを忘れがちです。自分が行う行為を作業と捉えるか仕事と捉えるかは自分次第であり、清拭の目的を忘れずに行うことが大切です。
また、清拭材の選択は効率よく効果のある清拭を行うための重要事項です。Toraysee for CEはこれまでのデータからも分かるように一般的に使用されているクロスよりも優位的な清拭効果があり、Reuseが可能であることからも費用対効果が高くゴミを出さない面でも優れていると思います。

参考文献
  • 1)北里大学病院 MEセンター部:東條圭一、その他
  • 2)秋田赤十字病院 医療技術部 臨床工学課:亀山拓也、その他 東レ・メディカル株式会社:佐下橋伸寧「Toraysee® for CEの有用性についての検討」

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