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Clinical Report

装着時の誤飲・誤嚥を防ぎ、安全性を高めるキッズクラウンwithリング

鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 小児歯科学分野 岩﨑 智憲/山﨑 要一

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■はじめに

我々歯科医は専門的な知識と技術に基づいて、質が高く、安心・安全な歯科医療を提供する責務があります。しかしながら、どんなに細心の注意を払いながら日常臨床に携わっていたとしても、思いがけない偶発症に遭遇するリスクは必ず潜んでいます。
歯科における偶発症で最も多いのは誤飲・誤嚥事故であり、偶発症の約半分を占めるといわれています。
また、この誤飲・誤嚥事故は、高齢者と小児に多いことが報告されています1)
誤嚥・誤飲する異物としてはクラウンとインレーが多く2)、処置内容としても、これらの試適・装着・除去時が半数以上1,2)といわれています(図1)。
また、術者の経験年数が少ない程その頻度が高く(図2)3)、誤飲・誤嚥事故の効果的な防止策3)についても報告されています(表1)。
小児を主たる調査対象とした歯科治療時の誤飲・誤嚥事故の実態報告は見当たりませんが、小児は成人と比べて、口腔が小さく術野が狭いだけでなく、治療への協力が得られず、激しい体動を認める場合(写真1)や開口維持が困難な場合もあり、成人の歯科治療に比較して一層困難な場合が多いといえます。

  • 図1
    図1 誤飲・誤嚥時の処置内容
    試適と除去時が約半数を占める(文献1を一部改変)。
  • 図2
    図2 術者の経験年数
    卒後5年未満が過半数を占める(文献3)。
  • 表1 誤飲・誤嚥の防止策
    誤飲・誤嚥の防止策の表
  • 表2 乳歯冠の適応症
    乳歯冠の適応症の表

また、小児期は口蓋扁桃が肥大して咽頭形態が複雑で狭小化しやすいうえ(写真2)、号泣時には軟口蓋が挙上して激しい吸気が生じるため、いったん異物が口腔内に落下した場合は迅速に口腔外に取り出すことが困難となり、そのまま誤飲・誤嚥事故につながることが危惧されます。
小児の歯科治療の中では、① う蝕により歯冠崩壊した乳臼歯、② 3面以上のう蝕を認める乳臼歯、③ 歯髄処置を行った乳臼歯、④ 著しい歯冠形成不全を認める乳臼歯などが、既製乳歯冠による歯冠修復の適応となります(表2、症例1~4)。
既製乳歯冠は表面が滑沢で滑りやすいため、試適・装着操作は小児歯科臨床の中でも誤飲・誤嚥事故につながるリスクが最も高い処置のひとつと言えます(写真3、4)。
そこで著者らは、安心・安全な小児歯科臨床を目指して、フロスの結紮が可能なキッズクラウンwith リングを開発しました(歯冠の誤飲防止具特願2014-075685, 2014.4.1.)。
今回は、その構造と実際の臨床での使用法について紹介させていただきます。

  • 写真1
    写真1 小児患者は局所麻酔時に恐怖心から急な体動を生じることがあるため、頭部と体幹をしっかり固定する。
  • 写真2
    写真2 小児期には口蓋扁桃肥大を生じることが多いため、咽頭部の形状が複雑で狭小化しやすく呼吸時の通気速度が上昇し、誤飲・誤嚥事故の危険性が増す。
  • 症例1
    症例1 7歳5ヵ月男児の下顎左側第二乳臼歯歯髄に達するう窩は認めないが著しい歯冠崩壊が生じている。
  • 症例2
    症例2 5歳2ヵ月男児の下顎右側第一乳臼歯歯髄に達する深いう窩は認めないが、咬合面と近遠心隣接面の3歯面にう蝕が生じている。
  • 症例3
    症例3 4歳8ヵ月女児の下顎左側第一乳臼歯歯髄に到達するう窩のため、分岐部と遠心根に病巣が生じている。
  • 症例4
    症例4 4歳10ヵ月女児
    多数の乳歯にエナメル質形成不全が生じている。

■キッズクラウンwith リング

従来の既製乳歯冠であるキッズクラウンに、厚径0.5 mm、外径3.5×3.0mm、内径2.3×1.8 mmを基本サイズとするステンレス製の角丸長方形リングが、頰側面の近心寄りの高さが咬頭から3mm程度歯頸部寄りの位置に咬合平面と平行になるように電気鑞着されています(写真5)。

■臨床術式

① 準備
通常の既製乳歯冠装着の診療準備に加えて、予め装着予定歯の近遠心径に適したサイズのキッズクラウンwithリング(サイズは#2から#7まで)を選択し、クランプ結紮に使用するデンタルフロスと同程度の長さのものをリング部分に結紮しておく。
続いて、乳歯冠とリング部分の鑞着状態を確認するため、乳歯冠とフロスを左右に引っ張って鑞着強度を検査する(写真6)。
併せて、リングを除去する際に用いるホープライヤーも用意しておく。
② 局所麻酔
表面麻酔後、十分効果が確認できたところで、患児の急な体動に備えて頭部と体幹を優しくしっかりとおさえながら、患児に気付かれないように細心の注意を払って、ゆっくりと局所麻酔を行う(写真1)。
③ ラバーダム装着
支台歯形成時に近心と遠心の隣接面を明示するために、対象歯の近心歯にフロスを結紮し、遠心歯にクランプを装着する(写真7)。
④ 支台歯形成
咬合面は頰舌的に逆屋根状に形成し、機能咬頭である上顎口蓋側ならびに下顎頰側は2面形成し、隣接面などの軸面は歯肉縁下0.5 mmに形成する。最後に咬合面と軸面の移行部、隅角部を丸める(写真7)。
⑤ 試適1
支台歯形成が終了し、ラバーダム装着下でフロスが結紮されたキッズクラウンwith リングを試適して、大まかなマージン部の適合状態と隣接歯との接触状況を確認する(写真8)。その際、フロスは常時口腔外に出しておく。※試適の着脱時にリングの鑞着部分に過度な負担がかからないように注意する。フロスを引っ張ったり、あるいはリング部分を押したり、引っ掛けたりしない。
⑥ 試適2
ラバーダムを外した後、乳歯冠辺縁の削除と内曲げによる調整、隣接面幅の調整、対合歯との咬合関係の調整を通して、乳歯冠の辺縁が支台歯に適合し、歯列内に適正に装着できることを確認する(写真9)。
なお、ラバーダムが除去された状況では、ラバーダムが装着されていた時以上に注意を払いながら試適操作を行う。
⑦ 合着
試適が終了したら、フロスが結紮されているキッズクラウンwithリングの歯冠内面に合着用グラスアイオノマーセメントを十分満たすように填入し、支台歯に合着する。
余剰なセメントはガーゼ、フロスを用いて速やかに除去する。
⑧ リングの除去
セメント硬化後、近心方向からホープライヤーでリング部分全体を水平にしっかり把持し(写真10)、鑞着部分を中心にプライヤーの取手部分をゆっくりと歯冠方向(写真11)に45°程持ち上げるようにして、鑞着部に剪断力を加えながら乳歯冠からリング部分を分離し、フロスとともに口腔外に取り出す(写真12)。
⑨ 研磨
最後に乳歯冠表面のリング除去部をシリコンポイントで研磨し(写真13)、キッズクラウンwith リングの装着操作を終了する(写真14)。

  • 写真3
    写真3 ラバーダムを除去した後は、頭位を患側に傾斜させ、バキュームを近くに準備し、誤飲・誤嚥に備える。
  • 写真4
    写真4 試適・着脱時には、適合が良いと撤去時に勢い余って弾け飛び、緩いと直ぐに脱落し、危険である。
  • 写真5
    写真5 キッズクラウンwith リングE7は下顎右側用の乳歯冠で、Eは第二乳臼歯、7は乳歯冠のサイズを示す。
  • 写真6
    写真6 乳歯冠に結紮したフロスを引っ張り、使用前に必ずリングの鑞着強度を確認する。
  • 写真7
    写真7 ラバーダム装着下で、第一乳臼歯の支台歯形成を行う。
  • 写真8
    写真8 適切な大きさの乳歯冠とマージンやコンタクトの確認のため、ラバーダム装着下でキッズクラウンwithリングを試適する。
  • 写真9
    写真9 クリアランスや咬合関係を確認するため、ラバーダムを外してキッズクラウンwithリングを試適する。
  • 写真10
    写真10 リングの除去1
    ホープライヤーの先端部が鑞着部に接するようにリング全体を把持する。
  • 写真11
    写真11 リングの除去2
    リングを把持した状態で鑞着部を中心に歯冠方向にひねる(矢印)。
  • 写真12
    写真12 リングの除去3
    分離したリングをフロスとともに口腔外に取り出す(矢印)。
  • 写真13
    写真13 シリコンポイントを用いて鑞着部を研磨する。
  • 写真14
    写真14 研磨を終え、キッズクラウンの装着操作を終了する。

■おわりに

以上の術式は、従来の既製乳歯冠の装着操作と大きな違いはなく、特別な器具を必要としないこともあり、術式上、術者への新たな負担はほとんどありません。
キッズクラウンwithリングを使用することにより、子どもたちの歯科治療時における誤飲・誤嚥事故の危険性を大幅に低下させ、安全性の高い小児歯科医療の提供に貢献できることでしょう。

参考文献
  • 1)椙山ら:鹿児島大学病院歯科診療棟における20年間の異物誤嚥誤飲症例の検討日本歯科麻酔学会雑誌. 44, 1-8, 2016.
  • 2)Hisanagara et al.: Accidental Ingestion or Aspiration of Foreign Objects at Tokyo Dental College Chiba Hospital over Last 4Years, The Bulletin of Tokyo Dental College. 55.55-62, 2014.
  • 3)金子ら: 最近8年間に北海道大学病院歯科放射線科が対応した歯科異物の誤嚥および誤飲疑い症例の実態調査. 北海道歯学雑誌. 36. 72-81. 2016.

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