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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Hint
デンタルガムを臨床に活かす 歯科だからできる“ガムの運動療法” 〜ガムは歯科衛生士の最新のツールです〜
スポーツデンタルハイジニスト・健康運動指導士 姫野かつよ

■目 次

■はじめに

近年、ガムを噛む人が少なくなっています。この現象は、若者が車に乗らなくなったことや、スマートフォンの普及、禁煙の風潮などのライフスタイルの変化によるものとされています。
筆者の勤務するクリニックでも、以前は「カリエス防止」を目的としてガムを購入される患者さんがおられましたが、これもムシ歯の減少により徐々に減ってきています。このままガムは歯科受付の窓口からなくなっていくのでしょうか。いえ歯科では、いや歯科だからこそガムを活かす方法があります。それが“ガムの運動療法”1)です。

■1.“ガムの運動療法”とは?

これまでガムの効用としては、その薬理効果というか、含有成分ばかりに注目が集まっていました。ガム販売促進のリーフレットも成分説明が中心です。確かにガムを製造する側としては、そのような紹介の仕方しかできないのは無理のないことですが、実はガムには“噛む”こと自体から生じる大きな効用があるのです(図1)。
その大半が「口腔機能訓練」です。加えて「唾液分泌の促進」、さらに意外な効用として「脳の賦活作用」があげられます。
これらの効果を上手に引き出すのが運動療法です。もう少し詳しく言えば、運動療法とは口腔の運動機能を改善したり、運動機能を治療に利用したりするための技法です。
噛む効用の指導は、歯科でしかできないのです。一方、キシリトールの効用は歯科でなくともできる話です。

  • ガムを噛むことによるいろいろな効用(薬理的効用以外)の図
    図1 ガムを噛むことによるいろいろな効用(薬理的効用以外)

■2. 口腔機能訓練

私のセミナーなどで“口腔機能訓練(筋トレ)”についてお話しするとき、「“MFT”とどのように違うのですか」という質問を受けることがあります。
口腔機能訓練は顎関節症などの咬合関連分野で進展してきた療法で、正しい運動器の使い方を指導して口腔機能の改善や痛みを取るなどの治療を目的としています。一方、MFTは矯正関連分野で育まれてきた療法で、正しい運動器の使い方を指導して口腔形態の改善を主目的とするものです(図2)。
ただし、口呼吸などほとんどの口腔運動器の病態は機能と形態の両面で問題を抱えているため、その境界があいまいとなっています。そして運動療法はこれらすべての技法を含んだ総称です。
ここでは、現在私がメインに行っているガムによる機能訓練の中で特に有用なものついて述べていきます。
(1)口腔習癖関連
◎口唇閉鎖改善・・・いわゆる「お口ぽかん」ですが、口呼吸は「口呼吸病」といわれるほど多くの弊害を生じさせます(図3)。
《噛み方指導の要点》
最初は短時間でもよいので口唇閉鎖の筋感覚を覚えさせ、その後患者さんが飽きない程度に徐々に時間を長くしていきます。
ここでは“前歯部噛み”いわゆるチョッピングに注意してください。ガムは口腔環境の改善をうたった機能性ガムをお奨めします。最終的には食事時の習慣として落としこむことが大切です。
◎開咬改善・・・スポーツ選手のう蝕予防のため、プレー後にデンタルガムを噛ませていたところ、噛む位置を前方に持ってこさせただけで、4ヵ月後図4の写真のように開咬に改善が見られました。同様の症例が他にも見られ、運動療法の可能性の大きさを示唆しているものと思います。これについては粥川浩先生や近藤悦子先生の書籍2、3) を参考にしてください。
《噛み方指導の要点》
①やわらかめのガムを使用し、小臼歯部で軽くリズミカルに噛むように指導します。注意点として、必要以上に強く噛みこまないようにしてください。
②噛む時間は1日1回5~10分位。
(2)咀嚼関連
◎咀嚼力向上・・・一見これがガムの訓練の中で最も容易でかつ効果的に思えるのですが、実際に行ってみると負荷の与え方が難しく、また効果の消失も早いため経験が必要となってきます。参考までにこれまで行われたガム咀嚼訓練の概要を表1に示しておきます。
《噛み方指導の要点》
①やや硬めのガムを使用し、臼歯部でゆっくり、しっかり噛ませます。
②噛む時間は1日2回5分間から始め、2週間毎に時間を1分間延長していきます。
③きれば1週間に1日訓練休息日を入れてもよいでしょう。
④訓練期間は3ヵ月が目安です。
◎噛み方改善・・・チョッピングでしか噛めない子供にグラインディングを覚えさせるには、ガムは格好の材料です。臼磨運動を一定期間続けることにより大臼歯の植立状態や歯列幅径も改善することもあるようです。ガムは噛む姿勢も重要です(図5)。詳しくは葛西先生らの報告4)を参考にしてください。
《噛み方指導の要点》
①やや硬めのガムを使用し、正しい姿勢のもとに臼歯部でゆっくり、しっかり噛むように指導します。
②1日2回10分間、訓練期間3ヵ月以上。
(3)咬合関連
◎顔貌の歪み改善・・・偏咀嚼癖からくる顔の歪み(図6)を是正するため、咀嚼側の変更を行います。通常、食事など日常生活で咀嚼する範囲では顔の歪みとして感じるほどの顔貌の変化は生じないものですが、食べものを強く噛む人やガムを長時間噛む人、また筋肉が硬くなりやすい人などでは、顔の非対称性が強くなるケースがあります。このような時は、咀嚼側の変更が必要になってきます。
《噛み方指導の要点》
デンタルガム2粒を用意します。まず、口の中にガムを入れ、今まで利き側でなかった方の顎でゆっくり噛み始めます。咀嚼側の変更は、フィードバック制御のゆっくりした動作(噛み方)から入り、徐々に一定のリズムで動作を繰り返すプログラム制御に移行できるよう何度も練習し、エングラムの確立(刷り込み)を行っていきます。
利き側の変更は「利き手」とは違いそう難しくはありませんが、少し時間は必要です。最初は1日2~3回、1回5分ぐらいから始めてください。
〔評価と注意点〕
変更後の咀嚼側の噛み具合は自己判断できます。顔貌の変化は定期的に顔写真の撮影を行ってください。ただ、咀嚼側の変更は顎の疲労、歯の痛み、修復物の脱落などいろいろなトラブルを伴うことがありますので、注意が必要です。
その他の留意点として筋の肥大が挙げられます。四肢や体幹の骨格筋トレーニングにおいて、成人期には筋の柔軟性が低下する一方で、筋力の向上や筋量の増加の反応は強くなります。歯科臨床においても強いクレンチングにより咀嚼筋の肥大した患者さんを見かけることもあります。何事にもやり過ぎは禁物です。
◎歯の早期接触・・・たまに、若年者で第二大臼歯などに動揺が見られるケースがあります。このような場合、まず筋肉の弛緩を行った後、小臼歯部で噛む訓練を行います。早期接触部位の安易な削合は、注意が必要です。筋肉を緩めないで咬合調整を行うと、際限のない繰り返しに陥ることがあります(図7)。

  • 運動療法の図
    図2 運動療法には筋トレからMFTまですべてのものを含みます。
  • 口呼吸によって起きる病気
    図3 口呼吸は万病のもとです。
  • ガム咀嚼による開咬の改善例の写真
    図4 ガム咀嚼による開咬の改善例1)
  • 表 咬合力向上訓練の研究のいろいろ
    表1 咬合力向上訓練の研究のいろいろ
  • ガムは噛む姿勢の図
    図5 ガムは噛む姿勢も重要です。(ライオン歯科材(株)資料より)
  • 偏咀嚼癖による顔貌の歪みの図
    図6 偏咀嚼癖による顔貌の歪み
  • 不用意な咬合調整の図
    図7 不用意な咬合調整は際限のない繰り返しに陥ります。

■3. 唾液分泌の促進

ガムを噛むことにより唾液の分泌量は大幅に増加します。ガムを噛むことは①咀嚼刺激②口腔粘膜への異物刺激③リラクゼーションにより唾液を増加させるといわれています。
《噛み方指導の要点》
ガムを噛むことにより咀嚼刺激や異物刺激を利用して唾液を出させるのが目的ですから、強く噛ませる必要は全くありません。この時、口を開けて噛んでいるとガムを噛み終わった後も口を開けやすく、口腔内が乾燥して口臭が出やすくなるため、しっかり口を閉じてガムを噛ませてください。

■4. 脳の賦活作用

脳の賦活作用に関しては①脳血流の増加作用②覚醒作用③鎮静作用④満腹中枢刺激作用などが知られています。
まず、脳血流の増加に関しては科学的に証明されていると考えてもよいでしょう。ただし、これが「頭が良くなる」や「認知症を予防できる」に結びつくかというと、それは今後の課題というところです。覚醒作用、鎮静作用については、スポーツでよくみられるフィジカルワークによってメンタルがルーティンワーク状態へ収斂する作用(図8)からガム噛みの効用を説明できます。ただし、プレー中のガム噛みは誤飲の恐れなどもありますので、医療従事者としてはお勧めできません。
満腹中枢刺激作用については「食前ガムダイエット法」や「置き換えガムダイエット法」などが考案されています。

■5. 歯の清掃効果

これは噛むことにより、口腔機能の向上や改善を促すものではないため、運動療法の範疇には入りませんが、噛む効用としては認められます。
歯表面の清掃効果の研究結果5)では、表面は効果があるものの歯間部は効率が良くないようです。しかし歯質の再石灰化を促進する成分を含有したデンタルガムであれば、その欠点もある程度はおぎなえるように思えます。
ここに、江崎グリコ(株)がどのような商品に歯磨きの代わりとしてのニーズがあるかを調査した結果があります(図9)。これを見てみると、今のところはガムの喫食が一番期待されているようです。
《噛み方指導の要点》
清掃目的で使用するガムには口腔環境の改善をうたったデンタルガムをお奨めします(図10)。薬効は5~10分も噛めば十分期待できます。不必要に長時間噛ませる必要はありません。
噛み方も歯や顎に負担のかからないように軽い力でリズミカルに噛むことを指導されるのが良いでしょう。
ガムの清掃力は、現状では歯磨きに勝るものではありません。しかしながら、歯磨きができない時はそれに代替する手段として、上手にデンタルガムを活用してくださいという指導があってもよいと思います。むしろ、このような使い方こそ口腔環境を改善するデンタルガムの本当の使い方かもしれません。

  • メンタルとフィジカルのルーティンワークへの収斂
    図8 メンタルとフィジカルのルーティンワークへの収斂1)
  • 歯磨きの代替が期待される商品(年齢別)
    図9 歯磨きの代替が期待される商品
    (江崎グリコ(株)の調査より)
  • デンタルガム「Pos-Ca F」の写真
    図10 デンタルガム「Pos-Ca F」
    (江崎グリコ(株))
参考文献
  • 1)姫野かつよ、竹内正敏:歯科臨床におけるガム徹底活用法、医学情報社、東京、2015.
  • 2)粥川浩:KAYUKAWAの矯正・筋訓練法、デンタルフォーラム、東京、1993.
  • 3)近藤悦子:Muscle Wins!の矯正歯科臨床、医歯薬出版、東京、2007.
  • 4)葛西一貴:噛むことで口腔の環境を改善するには~叢生予防は可能か~、財団法人8020 推進財団会誌、10:50-55, 2010.
  • 5)苗代明、鴨井久一:チューインガムの咀嚼によるプラーク除去効果について、日歯保存誌、44:324-329, 2001.