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165号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

ダイアグノデントペンを活用したう蝕診断と患者説明

静岡県浜松市田代歯科医院 田代浩史

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■目 次

■はじめに

う蝕の診断・患者説明で最も重要なことは、う蝕の有無と治療開始の根拠を患者に理解し易く伝達することである。従来の小規模な初期う蝕治療では術者と患者との信頼関係のもとで、う蝕の存在や治療の途中経過を患者に明確に示すことなく、術者主導で治療完結後の内容説明となる場合が多かったと想像する。
小窩裂溝部のデンタルX線画像をフィルムの状態で患者と共に観察したり、う蝕除去途中の状況を手鏡で患者に説明するなど、極めて患者にとって分かり難く、また術者にとっても説明し難いチェアサイドの診療環境が継続している可能性も高いと考える。
近年はX線画像はデジタル化されて拡大表示が可能となり、また口腔内を撮影して画像による現状把握が容易な環境が整備されつつある。しかし、X線画像を見慣れていない患者にとって、透過像の存在を説明したとしても、歯髄腔に迫る大規模う蝕でなければ視覚的には理解し難い。ましてや、修復治療への介入を術者が迷うような状況の小規模な初期う蝕の説明では、X線画像が効果的な資料となるとは考え難い。
また、鮮明な口腔内カメラの画像も、う蝕の存在が明らかになった後、う窩を開拡した状況の画像を確認した段階で、初めて説得力を持つ(図A)。つまり、切削治療開始前の段階で、視覚的に初期う蝕の存在を映像化することは困難であると考える。
一方で、今から約20年前の保存修復学における学生教育で示されていたのは、小規模な小窩裂溝部う蝕における治療前診断の第一選択は、探針による触診(象牙質への粘着感)であった。しかし、診査時の探針挿入圧によるエナメル質の破壊(医原性のう窩形成)を考慮し、現在は診査方法としては侵襲性が高く慎重な適応が必要である旨、学生に指導されている。
このような背景から、患者に治療開始前に客観的な根拠を示して治療介入への同意を得ることが重要であり、術者の臨床的な経験や勘に頼らない、患者に理解し易い診査結果(データ)の提示が必要であると考える。
この観点から、低出力の半導体レーザーを活用した光学式う蝕検出装置「ダイアグノデントペン」は治療開始の根拠となる客観的な数値データを示すことのできる初期う蝕に対する検出装置であり、患者・術者の両者にとって治療必要性の共通認識を得ることが可能である。
歯質への侵襲性を持たない安全性の高い診断器材で、歯科医師・歯科衛生士がチェアサイドで簡便に使用できる臨床操作性が特徴である。デンタルX線画像と比較して、臼歯部咬合面の小窩裂溝部における初期う蝕診断に高い検出精度を発揮し、若年者の修復治療開始時期の決定に極めて有効な判断基準が提供される1)
当院では特に小児の第一大臼歯における原発性う蝕への切削介入時に、ダイアグノデントペンでの診断をルーティンとし、定期検診時の歯科衛生士による継続的なデータ管理により保護者への治療開始説明の根拠としている。
検査データが「00〜12」の場合には清掃指導のみ行い経過観察、周辺歯牙にう蝕の既往がある場合にはフィッシャーシーラント処置を行う。また、検査データが「13〜24」の場合には、清掃指導と定期的なフッ素塗布を行い、定期健診の受診間隔を短縮するように指導する。さらに、検査データが「25」を超えた場合には、X線画像と合わせて総合的に診断し、患者説明の後にコンポジットレジン修復へと移行する。
田代歯科医院で主に小児を対象とした初期う蝕への継続管理に使用される「ダイアグノデントペン」診査結果記入シートを図Bに示す。
診査日時・部位と診査データを記入し、診査データの数値が示す意味を解説する内容と共に患者に提供される。
一方で、医院保管用の診査結果記入票は診療録と共に管理し、患者への口腔清掃方法の指導材料として、また修復治療介入の説明用資料として活用されている(図C)。

  • 図A 切削治療開始前の段階で、視覚的に初期う蝕の存在を映像化することは困難である。
    図A 切削治療開始前の段階で、視覚的に初期う蝕の存在を映像化することは困難である。
  • 図B 「ダイアグノデントペン」診査結果記入シート
    図B 「ダイアグノデントペン」診査結果記入シート
  • 図C 医院保管用の診査結果記入票
    図C 医院保管用の診査結果記入票

■症例:臼歯部咬合面小窩裂溝部における初期う蝕の治療前診断

臼歯部咬合面小窩裂溝部における初期う蝕の治療前診断に、ダイアグノデントペンを活用した症例。この診査方法の導入により、X線診査では判定困難な小規模う蝕を、非破壊的で客観性の高い診査方法によって検出可能となった。小窩裂溝部の初期う蝕では治療介入の時期を判断することが大変重要であり、自覚症状の無い患者に対し象牙質脱灰の進行程度を理解し易い数値で説明可能である点が、若年者での臨床活用のメリットであると考える。
若年者における臼歯部の小窩裂溝う蝕は急性う蝕として短期間に進行し、エナメル-象牙境への到達により細菌感染領域は側方にも拡大する。この進行形態に沿って感染歯質の除去を行った場合には、内開き形態のアンダーカットが大量に存在する窩洞形態となり、昨今の光重合型コンポジットレジン修復での接着材料および充填材料への光照射の観点から不利な条件が形成される可能性も高い。その点からも若年者における初期う蝕治療への介入時期は非常に重要であり、外観からは予測困難な状況でもある程度正確にう蝕進行領域を把握し、大規模な内開き形態の窩洞形成が必要ない段階でのMI修復が基本的なスタンスとなる。
<使用材料>
①エッチング材:K エッチャントシリンジ(クラレノリタケデンタル)
②ボンディング材:クリアフィルメガボンド2(クラレノリタケデンタル)
③ コンポジットレジン:クリアフィルマジェスティES フロー:A2・ES-2:A2(クラレノリタケデンタル)

  • 図1 術前。小窩裂溝に原発した初期う蝕。19歳、男性。
    図1 術前。小窩裂溝に原発した初期う蝕。19歳、男性。
  • 図2 X線画像でのう蝕診査。比較的小規模なう蝕では明確な透過像は確認できない。
    図2 X線画像でのう蝕診査。比較的小規模なう蝕では明確な透過像は確認できない。
  • 図3 ダイアグノデントペンによるう蝕の診査。測定値は「46」で切削治療が必要。
    図3 ダイアグノデントペンによるう蝕の診査。測定値は「46」で切削治療が必要。
  • 図4 診査結果は「00 〜99」までの数値でデジタル表示され、客観性が高い。
    図4 診査結果は「00 〜99」までの数値でデジタル表示され、客観性が高い。
  • 図5 ダイヤモンドバーによるエナメル質切削で窩洞外形を設定。
    図5 ダイヤモンドバーによるエナメル質切削で窩洞外形を設定。
  • 図6 ステンレスラウンドバーを超低速・無注水で使用し感染象牙質を除去。
    図6 ステンレスラウンドバーを超低速・無注水で使用し感染象牙質を除去。
  • 図7 う蝕検知液による染色。
    図7 う蝕検知液による染色。
  • 図8 10秒間放置して水洗・乾燥。
    図8 10秒間放置して水洗・乾燥。
  • 図9 スプーンエキスカベータでの染色部分の削除。
    図9 スプーンエキスカベータでの染色部分の削除。
  • 図10 スーパーファインのダイヤモンドポイントによる窩縁部の仕上げ。
    図10 スーパーファインのダイヤモンドポイントによる窩縁部の仕上げ。
  • 図11 窩洞形成の終了
    図11 窩洞形成の終了。
  • 図12 窩縁部エナメル質へのリン酸エッチング処理。
    図12 窩縁部エナメル質へのリン酸エッチング処理。
  • 図13 水洗・乾燥
    図13 水洗・乾燥。
  • 図14 セルフエッチングプライマー(クリアフィルメガボンド2)の塗布。
    図14 セルフエッチングプライマー(クリアフィルメガボンド2)の塗布。
  • 図15 ボンディング材の塗布
    図15 ボンディング材の塗布。
  • 図16 バキューム吸引を行いながらエアーブロー。
    図16 バキューム吸引を行いながらエアーブロー。
  • 図17 窩洞底部への光到達を意識して光照射器を可能な限り近づける。
    図17 窩洞底部への光到達を意識して光照射器を可能な限り近づける。
  • 図18 積層充填の第1層目。窩洞底部へのフロアブルレジン塗布・充填。
    図18 積層充填の第1層目。窩洞底部へのフロアブルレジン塗布・充填。
  • 図19 積層充填の第2層目。フロアブルレジン充填。
    図19 積層充填の第2層目。フロアブルレジン充填。
  • 図20 積層充填の第3層目。フロアブルレジン充填。
    図20 積層充填の第3層目。フロアブルレジン充填。
  • 図21 頰側咬頭へのエナメルシェードレジン充填。
    図21 頰側咬頭へのエナメルシェードレジン充填。
  • 図22 舌側咬頭へのエナメルシェードレジン充填。
    図22 舌側咬頭へのエナメルシェードレジン充填。
  • 図23 充填操作の完了。
    図23 充填操作の完了。
  • 図24 術後。
    図24 術後。

■う蝕検知液染色性とダイアグノデントペン測定値との臨床的相関関係

感染象牙質へのう蝕検知液染色による除去範囲決定に関し、染色濃度と染色回数への術者の主観的判断が、その精度を大きく左右すると考える。
抜去歯牙を使用して、一般的な1%のアシッドレッドプロピレングリコール液(カリエスディテクター:クラレノリタケデンタル)により感染象牙質を染色し(1回目)、ラウンドタイプスチールバーを使用して濃染色部を除去した。
切削した象牙質表層の感染象牙質残存状況をダイアグノデントペンを使用して評価。スコアは「54」を示し、引き続きう蝕検知液による染色を必要とする状況を確認。感染象牙質を染色し(2回目)、スプーンエキスカベータを使用して濃染色部を除去した。
切削した象牙質表層の感染象牙質残存状況を再度ダイアグノデントペンを使用して評価。スコアは「18 」を示し、検知液染色性と測定値との相関関係を確認した。
日本歯科保存学会の「う蝕治療ガイドライン(第2版)」2)に示されるように、1%のアシッドレッドプロピレングリコール液の染色部に対する色調判定は極めて繊細な診査であり、術者の主観的な誤差が含まれる可能性がある。
よって、この判定を補完する客観的診査方法の併用が重要であり、ダイアグノデントペンが示すスコアを参考にして、う蝕検知液での判定を終了することも可能である。しかし、ダイアグノデントペンでの感染象牙質の検知範囲は診査対象の表層2mmに限定され、ダイアグノデントペン単独でのう蝕除去範囲の判定は治療効率の低下を招く恐れがあるため、う蝕検知液との相互補完的な併用が効果的であると考える。

  • 図25 小窩裂溝部にう蝕病巣を認める抜去歯牙
    図25 小窩裂溝部にう蝕病巣を認める抜去歯牙。
  • 図26 う窩を開拡して除去すべき感染象牙質の全体像を把握。
    図26 う窩を開拡して除去すべき感染象牙質の全体像を把握。
  • 図27 ラウンドタイプのスチールバーを使用して感染象牙質を除去、う蝕検知液で染色(1回目)。
    図27 ラウンドタイプのスチールバーを使用して感染象牙質を除去、う蝕検知液で染色(1回目)。
  • 図28 検知液染色部のダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:45
    図28 検知液染色部のダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:45
  • 図29 再度、ラウンドタイプのスチールバーを使用して感染象牙質を除去。
    図29 再度、ラウンドタイプのスチールバーを使用して感染象牙質を除去。
  • 図30 ダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:54
    図30 ダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:54
  • 図31 2回目のう蝕検知液染色部を慎重に除去開始。
    図31 2回目のう蝕検知液染色部を慎重に除去開始。
  • 図32 スプーンエキスカベータを使用してう蝕検知液染色部を除去完了。
    図32 スプーンエキスカベータを使用してう蝕検知液染色部を除去完了。
  • 図33 ダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:18
    図33 ダイアグノデントペンの検査値を確認。スコア:18
参考文献
  • 1)Lussi A, Megert B, Longbottom C, Reich E, Francescut P. Clinical performance of a laser fluorescencedevice for detection of occlusal caries lesions. Eur J Oral Sci. 2001 Feb;109(1):14-19.
  • 2)日本歯科保存学会編. う蝕治療ガイドライン第2版. 京都: 永末書店, 2015.

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