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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
CT画像を活用した小児歯科診療最小の侵襲で最大の効果を 〜特に永久歯の萌出異常において〜
広島県福山市 たかはしキッズデンタル院長/日本小児歯科学会専門医指導医 髙橋昌司

■目 次

■はじめに

これをお読みの先生方はもしかしたら、小児歯科診療といえばう蝕治療や予防処置、乳歯の抜歯などのことで、あとはbehavior controlが難しいことやtellshow-do法などの行動調整法、保隙装置くらいしか思い浮かばないかもしれません。しかしお子さんを多く診療しているとしばしば遭遇するのが永久歯萌出に異常をきたす症例です。これらは集団検診ではもちろん歯科を定期的に受診していても見落とされることがあり、発見や診断そのものが困難であるといえます。それに加えて、いざ萌出誘導を行うに至っても口腔外科的治療と矯正的治療両方の技術が必要となることが多いことから、なかなかとっつきにくい印象をお持ちかもしれません。
実際これらの処置を行うことは、小さなお子さんたちにとって身体的侵襲および時間的負担は少なくありません。さらに個人開業医院で行う、意識下での小児口腔外科処置は迅速さと正確さが成人の患者さん以上に求められると考えられます。そこで何より求められるのが、事前の患部の3次元的イメージ把握であり、従来の2次元X線画像だけの限られた情報ではなかなか苦労が多い部分です。
当院ではこれまで近隣の歯科医院にCT撮影を依頼しておりましたが、患者さんの負担や撮影指示の煩雑さからCT機器の購入を検討しました。様々なメーカーから様々なグレードのモデルが発売されており、どれにしようか大変悩むところです。当院では矯正治療を行っているためセファロ撮影やパノラマ撮影が可能なAll-in-oneタイプの「ベラビューX800」(モリタ)を導入いたしました。小児歯科専門医院である当院としては同社が打ち出しているポイントのうち、特に「低被ばく」であることが重要と考えました。また同機種はお子さんにありがちなモーションアーチファクトが低減され高解像度であることや、車椅子や背の低いお子さんの撮影にも対応しています。
今回は、いくつかの症例を提示し、小児歯科におけるCT活用の優位性をお話できればと思います。なお、使用したCT画像は「ベラビューX800」および「3DX」(モリタ)で撮影されたものです。

■症例1~3

症例1:8歳女児 複雑性歯牙腫による上顎左側中切歯萌出不全症例
患児と保護者は反対側の中切歯が萌出を完了したにもかかわらず左側の乳中切歯が残存し、中切歯が萌出しないことを主訴に来院した。単純X線写真(図1-1)を撮影したところ、残存していた乳中切歯根尖および中切歯切縁付近に複雑性歯牙腫と考えられる類円形の石灰化物様不透過像をみとめた。そこでX800を用いて石灰化物および埋伏した中切歯の3次元的位置関係を精査した。3D画像より石灰化物は近遠心的および頰舌的に中切歯の萌出を妨げていることが疑われた(図1-2)。また中切歯萌出のための牽引を行う際、同側側切歯と干渉しないよう、若干唇側方向へ牽引力を作用させる必要があると考えられた。そして晩期残存乳歯の抜歯、歯牙腫の摘出、さらに萌出不全中切歯の開窓および牽引に用いるボタンの接着を行う計画を立案した。なお、今後予想される叢生については、永久歯列完成後の対応となることも説明し、承諾された。
患児本人や保護者への説明にはボリュームレンダリング画像(図1-3)を用いると、現症や治療方法および目標の3次元的イメージの共有に非常に有効であった。石灰化物摘出術および中切歯の開窓術時(図1-4)には、患児本人の希望から笑気吸入鎮静下で行うこととした。術中は笑気吸入を併用したことにより、不安の強かった患児もリラックスしており、スムーズに術式を進めることができた。また、事前にCT画像にてイメージを掴んでいたことにより、歯肉の切開から骨削除、石灰化物摘出まで短時間で低侵襲かつ安全に行うことができた。
リンガルアーチを用いての牽引開始から約7週後には埋伏していた左側中切歯が歯肉縁上に出齦した。その後もセクショナルアーチを装着して牽引を継続し、約10ヵ月後に装置を撤去した(図1-5)。

  • 乳中切歯根尖相当部および未萌出の上顎左側中切歯切縁付近のレントゲン写真
    図1-1 乳中切歯根尖相当部および未萌出の上顎左側中切歯切縁付近に円形の歯牙腫様不透過像をみとめる。
    • 前頭断像
    • 矢状断像
    図1-2 前頭断像(左)と矢状断像(右)。中切歯萌出方向に歯牙腫と考えられる石灰化物をみとめ、萌出を妨げている可能性が示唆される。
  • CTのボリュームレンダリング画像
    図1-3 CTのボリュームレンダリング画像。
  • 中切歯開窓術および牽引用リンガルボタン接着時の写真
    図1-4 中切歯開窓術および牽引用リンガルボタン接着時。
  • 牽引開始後10ヵ月の写真
    図1-5 牽引開始後10ヵ月。

症例2:9歳男児 下顎左側第一大臼歯萌出不全症例
患児と保護者は上下顎左側第一大臼歯が萌出しないことを気にして来院した。数回に渡るパノラマX線写真(図2-1)から、上顎については萌出傾向をみとめ自然萌出が期待できた。しかし下顎については歯冠位置に変化をみとめず、また歯胚の拡大傾向をみとめ嚢胞化の恐れがあった。また歯根尖が下顎骨皮質骨に接していることから、今後根尖が彎曲することが考えられた。さらに第二大臼歯の萌出による第一大臼歯萌出阻害の恐れもある。そのため本人および保護者と相談の上で開窓術を行う治療方針を決定した。また術中に可能であれば牽引用のボタンを接着することにした。さらに施術に際しては低被ばくの観点から、患部周囲に限局したCT撮影での精査を行った。CT画像にて被覆歯槽骨の厚みや第一大臼歯の歯冠位置を確認したところ、歯冠中央部は歯槽骨の被覆がないことがわかった(図2-2)。そのため、歯肉切開剥離後に同部を最初に確認し、そこから頰舌方向および近遠心方向に骨の開削を進めた。歯冠全体がほぼ露出したところでボタンの接着を試みたが血液や滲出液が多く、また歯肉縁からの深さもあり断念した(図2-3)。術後は4週間程度、ガーゼによるタンポナーデを行った。その後数回のパノラマX線写真撮影により患歯の萌出傾向が認められたため経過観察を行った。途中に隣接した第二乳臼歯の歯髄処置を伴うスライスカットを行い、開窓術施術時から約1年6ヵ月で完全萌出に至った(図2-4)。

  • 初診時パノラマX線写真
    図2-1 初診時パノラマX線写真。右側に対して左側上下第一大臼歯の萌出遅延をみとめる。
    • CT矢状断像
    • 前頭断像
    図2-2 CT矢状断像(左)および前頭断像(右)。歯冠全域を覆う歯槽骨および皮質骨に接した歯根尖が確認できる。
  • 下顎左側第一大臼歯開窓術中の写真
    図2-3 下顎左側第一大臼歯開窓術中。
  • 開窓術後1年6ヵ月の写真
    図2-4 開窓術後1年6ヵ月。

症例3:10歳女児 中切歯および側切歯の歯根吸収を伴う上顎左側犬歯萌出不全症例
患児と保護者は歯並びが悪いことを主訴に来院した。精査を目的にパノラマX線写真を撮影したところ上顎左側犬歯の近心方向への萌出方向異常および萌出遅延をみとめた(図3-1)。また犬歯の歯冠周囲に同心円状の透過像をみとめ歯嚢の拡大を疑った。さらに同側中切歯歯根遠心面に歯根吸収を疑う画像所見をみとめた。中切歯の歯根吸収部分の精査および側切歯歯根と埋伏犬歯歯冠との3次元的位置関係を精査する目的でCT撮影を行った(図3-2)。スライス画像にて中切歯歯根根尖側1/3部分に歯根吸収をみとめ、さらに犬歯歯冠と近接した側切歯歯根唇側表面にも軽度の歯根吸収をみとめた。このまま犬歯の埋伏を放置することは、犬歯の萌出不全のみならず周囲の他歯にさらなる悪影響を与える可能性があることを患児および保護者にボリュームレンダリング画像とスライス画像を用いて説明した。加えて早期の処置の必要性を示唆し、以下の治療計画を説明し同意を得た。治療計画としては乳犬歯の抜去、犬歯の開窓術および牽引用のボタン接着を行い、引き続きリンガルアーチを用いた犬歯の牽引を行うことにした。また叢生については永久歯列完成時以降の対応となることを説明した。
開窓術は局所麻酔下で行い、施術時は側切歯歯根にダメージを与えないよう配慮して可及的に歯嚢を除去した。また牽引時にこれ以上側切歯歯根に犬歯歯冠が接触しないよう牽引方向が唇側方向になるようボタンの接着位置に配慮した(図3-3)。牽引開始から5ヵ月後には歯肉縁上に出齦し、反対側同名歯とほぼ同等の萌出状況となった(図3-4)。

  • 初診時パノラマX線写真像
    図3-1 初診時パノラマX線写真像。上顎左側乳犬歯の晩期残存、後続永久犬歯の萌出方向異常および犬歯歯冠をとりまく円形の嚢胞様透過像をみとめる。さらに同側中切歯歯根に軽度の吸収象をみとめる。
    • CT前頭断像
    • 矢状断像
    図3-2 CT前頭断像(左)と矢状断像(右)、中切歯と側切歯共に歯根吸収を来していた。
  • 犬歯開窓術中および牽引用リンガルボタン接着時の写真
    図3-3 犬歯開窓術中および牽引用リンガルボタン接着時。
  • 牽引開始後5ヵ月時の写真
    図3-4 牽引開始後5ヵ月時。

■症例4、5 特殊な症例への対応

混合歯列期の画像診断は乳歯と永久歯歯胚が混在し、我々歯科医師にとっても比較的複雑であるが、保護者やお子さんにはさらに分かりづらいものである。また過剰歯や埋伏歯などの存在は読影をさらに困難にしてしまう。その点CT画像撮影による3次元イメージの存在は大まかではあるが、現症の把握に大いに助けになるばかりではなく、具体的な治療方法や治療目標の共有にも大きなアドバンテージがあると考えられる。以下に2症例を示す。

症例4:9歳男児 順性過剰歯を伴う上顎左側側切歯歯胚位置異常および上顎右側中切歯萌出不全症例
患児は上顎右側中切歯が萌出しないことを主訴に来院した。診査したところ右側側切歯はすでに萌出していた。左側中切歯は大幅に萌出が遅延していたが、切縁の一部のみ確認できた(図4-1)。口内法X線写真を撮影したところ同歯が唇側方向にほぼ水平埋伏しているのをみとめた。また上顎左側側切歯相当部と同側中切歯口蓋部に側切歯とその過剰歯と思われる2本の未萌出切歯をみとめた(図4-2)。精査を目的にCT撮影を行い、ボリュームレンダリング画像を用いて大まかなイメージの掌握に努めた(図4-3)。このような場合どちらか一方を側切歯、他方を過剰歯と考えるが歯の形態やサイズを考慮し、中切歯口蓋部の歯を側切歯、側切歯相当部の矮小歯を過剰歯と考えた。治療計画を立案し、保護者と患児本人に治療計画および目標を説明し同意を得たので治療を開始した。説明にはボリュームレンダリング画像を用いて目標イメージの共有を試みた。治療計画としては①上顎右側中切歯開窓術②上顎左側側切歯部過剰歯を萌出後抜去し側切歯の正常位置への自然移動を期待する③叢生については歯冠幅径過大のため永久歯列完成まで経過観察し本格的矯正治療を行うとした。治療開始から約1年間で目標の配列状態をほぼ達成した(図4-4)。

  • 初診時上顎咬合面観の写真
    図4-1 初診時上顎咬合面観。右側側切歯のみ萌出しており、他の切歯の萌出遅延をみとめる。
  • 初診時口内法X線写真像
    図4-2 初診時口内法X線写真像。上顎右側中切歯の萌出方向異常をみとめる。左側中切歯部に側切歯様の歯、また側切歯相当部に矮小歯をみとめる。
  • 同部ボリュームレンダリング画像
    図4-3 同部ボリュームレンダリング画像。3次元的に現症を把握しやすい。
  • 萌出誘導完了後の写真
    図4-4 萌出誘導完了後。叢生については永久歯列完成期まで経過観察を行った後に加療予定。

症例5:7歳女児 下顎右側第二小臼歯部に形態が酷似した小臼歯様の2本の過剰歯をみとめた症例
患児と保護者は下顎左側第一大臼歯の萌出遅延を主訴に来院した。パノラマX線撮影を行ったところ、下顎右側第二小臼歯部に3本の小臼歯様の歯胚形成をみとめた(図5-1)。パノラマ画像では歯胚の3次元的位置関係を把握することは困難であるため、保護者と相談の上でX800にてCT撮影を行った。本症例は非常に稀有な症例ではあるが、CTのスライス画像を複数併せることにより、現症の把握および治療方法や達成目標のイメージ作りに大いに有用であると言える(図5-2)。本症例は未治療であるが今後も経過を観察し、より良い結果を提供できるよう、最適な治療時期や治療方法を検討していく予定である。

  • 初診時パノラマX線写真像
    図5-1 初診時パノラマX線写真像。下顎右側第二小臼歯相当部に2本の小臼歯様過剰歯をみとめる。また下顎右側第一大臼歯に萌出遅延をみとめる。さらに上顎右側側切歯の先天性欠如および両側犬歯の萌出方向異常をみとめる。
    • CT前頭断像(左)
    • 矢状断像(中)
    • 軸位断面像(右)
    図5-2 CT前頭断像(左)と矢状断像(中)、軸位断面像(右)。

■まとめ

これまで歯科用CTは一般的にインプラント埋入や智歯の抜歯、根尖病巣の診断や外科的歯内療法など主に成人の歯科治療や口腔外科領域で有用と考えられてきました。しかし今回供覧した症例ではどの症例においても小児歯科領域の、特に永久歯萌出不全症例や歯数の過不足を伴う症例において、診断や治療計画の立案、医療者サイドとお子さんや親御さんとの3次元的イメージの共有などにおいて大変有効と考えられます。同様に永久歯交換時における歯列咬合の変化、例えば叢生量の予測や精査、歯根未完成幼若永久歯の根管治療などにおいて、従来の2次元画像では術者の想像力に委ねられていた診断が可能です。そんなわけで現在ベラビューX800は小児歯科専門医院である当院の診療においては「スペースラインHPOシリーズ」(モリタ)の水平ユニットや「ダイアグノデントペン」(カボデンタルシステムズジャパン)と並んで必要不可欠な器械設備になっています。小児歯科の重要なミッションの一つに「継続的な顎顔面と歯列咬合の成長管理」という大きな命題があります。今後は規格撮影されたCT画像を用いての顎顔面口腔領域における3次元的成長発育変化の評価なども可能になっていくのでしょうか? 期待で夢が広がります。

デンタルマガジン 166号 AUTUMN