スマートフォン版サイト

DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Trends
歯周病予防における ホストケアの重要性とビタミンEの作用について
ライオン株式会社オーラルケア研究所 柚鳥 眞里

■はじめに

厚生労働省の平成28年歯科疾患実態調査によると、歯周病がある人(4mm以上の歯周ポケットを持つ人)の割合は高齢になるにつれ増加しており、これまでの調査と比較してほぼ全ての年代で増加しています1)
近年、歯周病は全身疾患との関連性も報告されており、生活の質(QualityOf Life: QOL)の向上のためにも歯周病の予防は重要と考えられています。
歯周病の予防には、歯科医師・歯科衛生士による適切なプロフェッショナルケアとブラッシングを中心とした適切なセルフケアを両面で実践することが必要です。
こうした背景から、当社では生活者のセルフケアに役立つ、歯周病の発症および進行を予防する新たな製品および技術の開発を進めています。

■歯周病予防におけるホストケアの重要性

歯周病は、局所に付着して増殖した歯周病原性細菌(歯周病菌)が歯周組織内に侵入し、これに対する生体側の防御反応の結果、歯周組織に炎症が生じ、組織を傷害する感染性の疾患です。
しかし、歯周病は歯周病菌の感染が成立した後も長期にわたって症状が現れないことが一般的です。これは、感染成立から暫くの間は、歯周病菌と生体側の防御システムとの均衡が保たれているためであり、この均衡が崩れることで歯周病が発症すると言われています(図1)2)
このことから、歯周病予防においては歯周病菌と生体側の均衡状態を保つために、原因となる細菌側へのアプローチ(菌コントロール)と、防御システムを司る生体側へのアプローチ(ホストケア)が重要です(図2)。

  • 歯周病の発症過程のイメージ
    図1 歯周病の発症過程 (天野敦雄、岡賢二、村上伸也:ビジュアル歯周病を科学する. クインテッセンス出版
    P.22より引用)
  • 歯周病予防の考え方のイメージ
    図2 歯周病予防の考え方

■ビタミンEとは

脂溶性ビタミンの1つであるビタミンE(Vitamin E:VE)は、生体膜中に広く分布し、生体の抗酸化作用や末梢循環機能の向上など生体内で様々な機能を有することが知られています。これまでに当社では、ホストケアのアプローチとして歯肉上皮のバリア機能や歯周組織修復機能に着目して検討し、VEがこれらの機能に有用であることを見出してまいりました。
そこで今回は、我々が見出した新たなVEのホストケア作用についてご紹介したいと思います。

■VEの歯肉上皮バリア機能強化作用 3、4)

1)歯肉上皮のバリア機能
歯肉上皮は歯周病菌の侵入に対して最前線に位置し、外界と生体内とを隔てる物理的なバリアとして存在しています。この物理的バリア機能は、細胞同士を繋ぎ止める役割を持つ細胞連結装置が中心的な役割を担っています(図3)。
細胞連結装置の1種であるアドヘレンスジャンクションはE-カドヘリン(Ecad)と呼ばれる細胞接着分子が主な構成成分ですが、歯周病患者の歯肉上皮では、このE-cadの発現量が減少していることが複数の学術文献で報告されています5〜7)
このことから、我々はE-cad発現量を制御することで歯肉上皮のバリア機能の恒常性を保ち、歯周病の予防に繋がるのではないかと考え、研究に着手いたしました。

下のチャートエリアは横スクロールできます
  • 歯肉上皮の物理的バリア機能のイメージ
    図3 歯肉上皮の物理的バリア機能

2)歯肉上皮のE-cad発現量に対するVEの作用
不死化ヒト歯肉上皮細胞株(HumanGingival Epithelial Cells:HGECs)をコンフルエント(一層)になるまで培養した後、歯周病の病原性因子であるPorphyromonas gingivalis 由来リポポリサッカライド(lipopolysaccharide:LPS)を添加して48時間培養しました。HGECsに発現しているE-cadを蛍光免疫染色した後、蛍光強度を測定することでE-cad発現量を算出しました。
その結果、LPSを処置することでHGECsのE-cad発現量が有意に低下していました(図4)。
一方、VEをLPSと同時に処置することで、E-cad発現量低下が有意に抑制されました(図5)。
このことから、VEはLPSによって誘導されるHGECsのE-cad発現量低下を抑制することが示唆されました。

下のチャートエリアは横スクロールできます
  • LPSによるE-cad発現低下作用のイメージ
    図4 LPSによるE-cad発現低下作用
  • VEのE-cad発現量低下抑制作用のイメージ
    図5 VEのE-cad発現量低下抑制作用

3)歯肉上皮のバリア機能および上皮下の炎症反応に対するVEの作用
E-cadの発現量変化が歯肉上皮のバリア機能と上皮下の炎症反応に与える影響を検証するため、E-cadの発現量が異なるHGECsを用いて物質透過実験を実施しました。
物質透過実験は、上下の2層構造から成り、上層容器の底面は透過物質が下層へ透過できるメッシュ状の底面となっている専用の培養容器を用いました。
はじめに、上層容器にHGECsを播種、① LPS 0μg/mL、② LPS 10μg/mL、③ LPS 10μg/mL+VEの条件で処置をしてHGECsのE-cad発現量を変化させました。①〜③の処置培地を除きPBSで洗浄した上層容器を、炎症担当細胞であるマクロファージを播種した下層容器にセットし、上層にLPS 10μg/mLを添加した培地、下層にLPS無添加の培地を入れることで、LPSを透過物質とした透過実験を実施しました(図6)。
実験開始4時間後、下層の培地を回収してLPS濃度(エンドトキシン活性)と炎症性サイトカイン(TNF-α)濃度を測定しました。
その結果、E-cad発現量が正常のHGECs(①)と比較して、E-cad発現量が低下したHGECs(②)では、下層のLPS濃度とTNF-α濃度が増加していたのに対し、VEでE-cad発現量低下を抑えたHGECs(③)では、下層のLPS濃度とTNF-α濃度に変化は認められませんでした(図7)。
このことから、歯肉上皮は病原性因子によってE-cad発現量が低下し、歯肉上皮バリア機能が低下すること、そしてこのバリア機能の低下により病原性因子の歯周組織内への侵入が促進し、炎症が惹起されることが示唆されました。また、VEは歯肉上皮のE-cadの発現量を制御し、歯肉上皮バリア機能を強化することで歯周組織内の炎症を抑制していることが示唆されました。

下のチャートエリアは横スクロールできます
  • 物質透過実験の模式図
    図6 物質透過実験の模式図
  • 透過実験の解析結果
    図7 透過実験の解析結果

■VEの歯周組織修復作用 8)

1)歯周組織の修復機能
先に述べました通り、歯周病では歯周病菌によって引き起こされる生体側の炎症反応や過剰な免疫応答の結果、組織が破壊されていきます。
一般的に破壊された組織は、止血期→炎症期→増殖期(肉芽形成)→リモデリング期の過程を経て、時間経過とともに治癒していきます。中でも増殖期は、線維芽細胞が増殖、コラーゲン線維を合成し、傷を小さくすることで組織の治癒において重要な過程となっています。
そこで我々は歯肉線維芽細胞においても、細胞増殖機能を促進させることで早期の歯周組織修復に繋がるのではないかと考え、研究に着手いたしました。

2)歯肉線維芽細胞の増殖に対するVEの作用
ヒト歯肉線維芽細胞(HGFs)にVEを添加して48時間培養した後、細胞増殖率を測定しました。
この結果、VE処置によって歯肉線維芽細胞の増殖が有意に促進することが明らかとなりました。このことから、VEは歯肉線維芽細胞の増殖を促進することで、歯周組織の修復を促進する作用を有することが示唆されました(図8)

  • VEの歯肉線維芽細胞増殖促進作用
    図8 VEの歯肉線維芽細胞増殖促進作用

■さいごに

今回、歯周病予防におけるホストケアとして、歯肉上皮のバリア機能と歯周組織修復機能に着目して検討した研究成果をご紹介しました。その結果、VEの新たな作用としてE-cad発現量制御による歯肉上皮バリア機能強化作用、およびHGFs増殖促進による歯周組織修復作用の2つのホストケア作用を見出しました。
この結果より、菌コントロールとホストケアの両面から歯周病をケアするために、殺菌剤に加えてVEを配合したオーラルケア製品を使用することが歯周病の予防に有用であると考えます。
今後、多くの方のお口の健康に役立つように、さらに研究を重ね、製品開発に活かしていきたいと思います。

参考文献
  • 1)平成28年歯科疾患実態調査
  • 2)天野敦雄, 岡賢二, 村上伸也(監修). ビジュアル歯周病を科学する. 東京:クインテッセンス出版,2012;17-24.
  • 3)Abe-Yutori M, Chikazawa T, Shibasaki K,Murakami S. Decreased expression of Ecadherin by Porphyromonas gingivalislipopolysaccharide attenuates epithelial barrier function. J Periodont Res 2017;52:42-50.
  • 4)M.Abe, T.Chikazawa, S.Murakami. EuroPerio 8.
  • 5)Ye P, Chapple CC, Kumar RK, Hunter N.Expression patterns of E-cadherin, involucrin, and connexin gap junction proteins in the lining epithelia of inflamed gingiva. J Pathol 2000;192:58-66.
  • 6)Nagarakanti S, Ramya S, Babu P, Arun KV, Sudarsan S. Differential expression of E-cadherin and cytokeratin 19 and net proliferative rate of gingival keratinocytes in oral epithelium in periodontal health and disease. J Periodontol 2007;78:2197-2202.
  • 7)Arun R, Hemalatha R, Arun KV, Kumar TSS. E-cadherin and CD1a expression in gingival epithelium in periodontal health, disease and post-treatment. Indian J Dent Res 2010;21:396–401.
  • 8)柚鳥眞里, 鈴木苗穂, 木村光夫他. 第61回秋季日本歯周病学会学術大会.