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非ユージノール系仮着材 「カチャックス®」を使用した補綴治療
滋賀県大津市 医療法人八木歯科 八木 正樹

■はじめに

近年の補綴治療では、審美的要求の高まりや歯周組織の形成と維持の観点から臨床において暫間被覆冠(以下、TeC)を用いる用途、頻度が格段に増えてきている。
間接修復におけるTeCの目的は、最終補綴物装着までの期間の歯髄保護や咬合関係の維持、さらには支台歯の汚染防止などがある。また、仮着材の目的には、短期間のみTeCを仮着することだけでなく、インプラントや最終補綴物の装着前に、歯周組織の回復などの目的でプロビジョナルレストレーションを長期間仮着することもある。
特に近年はジルコニアやCAD/CAM冠レジンブロックなど補綴物の種類が増え、それに伴って臨床の幅も広がり仮着材の適用も多くなってきている1、2)
TeCやプロビジョナルレストレーションを適用する上で必ず仮着材が併用されるが、仮着材は合着用セメントと違い、適度な保持力・維持力に加え除去が容易であるという相反する性質が望まれる。
現在市販されている仮着材はユージノール系、非ユージノール系、カルボキシレート系やレジン系など多くの製品が販売され、臨床の用途によって使い分けがなされている3)
一方で、接着・合着用セメントのような永久的な材料ではないために、性能について深く追及されないことも多い。
この度、使い勝手が良く、臭いの少ない非ユージノール系仮着材「カチャックス」が発売された(図1)。
そこで機械的特性などに加えて、臨床上の操作手順と特長を活かした臨床を交えて紹介する。

  • カチャックスセット
    図1 カチャックスセット

■「カチャックス」の特長と性能

1)機械的特性
仮着材についてはこれまで、機械的物性や特長などの報告がなされている4、5)。今回、カチャックスの性能を確認する目的で、機械的物性についての評価を行った。
試験においては、JISで規定されている仮着用セメントの試験方法に準じて評価を行った。その結果を表1に示す。圧縮強さおよび被膜厚さにおいては、JISの規格を満たしていた。

  • 機械的特性
    表1 機械的特性

2)色素浸入試験
ヒト歯抜去第三大臼歯の頰側面をダイヤモンドポイントを用いて窩洞形成を行った。形成した窩洞に仮着材を填入し、硬化後、37℃水中に24時間浸漬し、5%メチレンブルー水溶液に90秒浸漬した。試料片を頰舌面方向に割断しデジタルマイクロスコープにて色素浸入の有無を確認した。
その結果、色素浸入は認められず、歯質と緊密に密着していたことから封鎖性が高いことが考えられる(図2)。

  • 色素浸入試験
    図2 色素浸入試験

3)仮着後のセメント接着について
仮着材を用いた後の接着性能については、臨床で最も重要と考える。TeC撤去後は、清掃材を用いてから接着した方が良いとの報告6〜8)もあり、誤った清掃方法や除去方法で支台歯の処理を施してしまうと、最終補綴物と接着用セメントとの接着阻害因子となってしまう可能性も考えられる。また、非ユージノール系においても、油分が残り最終補綴物の接着に影響を及ぼすとの報告もある。
そこで、カチャックスにおける仮着後の除去方法として水洗のみ、水洗後アルコール綿球にて清掃、水洗後清掃材を用いて清掃(ポリッシング)の3条件で最適な清掃方法の確認を行った。その結果を図3に示す。
カチャックスは、清掃材を用いて歯面清掃することで接着強さが改善された。これらの結果からも、仮着材の性能に応じた除去操作が必要である。

  • 接着試験結果
    図3 接着試験結果

4)操作性
カチャックスはノズルの先端が細く(図4)、押出量がコントロールできるように設計されており(図5)、前歯、臼歯、単冠やブリッジなど様々な症例に応じて必要量が採取可能であり、無駄が少ない。
また、ペースト自体に臭いが無いため、術者や患者にストレスを感じさせない点も利点である。
練和性においては、適度な粘稠度に設計されていることから練和紙に大きく広げることなく僅かなスペースで練和でき、移送も容易である。
余剰セメントは一括で除去できるのが理想的であるが、これまでの製品とは違い、比較的大きな塊で容易に除去が可能となっている点も特長である。
また、器具に付着し固まったカチャックスは、αーリモネンが主成分の洗浄剤などに浸漬すると容易に除去できるのも大きなメリットである。

  • 容器先端
    図4 容器先端
  • カチャックス押出性
    図5 カチャックス押出性

■「カチャックス」を使用した臨床

症例①(図6a〜h)
右側上顎大臼歯部の疼痛を主訴に来院された41歳男性。右側第一大臼歯に打診痛があり、デジタルX線写真より不良な根管充填処置および根尖部にX線透過像を認めた。根尖性歯周炎と診断し、通法に従って根管充填処置まで行った。その後、i-TFCシステム(サンメディカル社製)を用いて支台築造を行い、最終補綴前に歯肉の安定を図るためプロビスタ(サンメディカル社製)で作製したTeCを装着して経過観察することとした。TeCの装着にはカチャックスを用いた。ベースぺースト(白色)とキャタペースト(黄色)を練和紙に等量出し、プラスチック製スパチュラで手早く練和し装着した。先述の通りカチャックスは、容器の先端が細長く必要量を採取でき、適度な粘稠度である。また、ベースペーストとキャタペーストの採取量を変えることで容易にペーストの硬さと操作時間を調節することが可能である。臨床ではTeCの適合が良い場合は少し柔らかめに、適合が悪い場合は少し硬めに練和する。ただし、少し硬めに練和した場合は、なるべく早く口腔内に装着し、TeCの浮き上がりを防ぐためにもしっかり圧接することが重要である。口腔内に装着後、1〜2分程度で余剰セメントの除去を行う。少し柔らかさが残った状態で余剰セメントを除去すると一塊で除去することが可能である。一方、5分以上待って硬化させてしまうと余剰セメントが細かく砕けてしまう。TeCの撤去後は、仮着材のほとんどはTeC内面についてくることが多く、支台歯の清掃を容易に行うことができる。支台歯の清掃には最終補綴物の接着を考慮し、清掃材を用いて清掃する。清掃後、スーパーボンド(サンメディカル社製)にてオールセラミックスクラウンを装着した。

  • 術前。
    図6-a 術前。
  • 支台歯形成。
    図6-b 支台歯形成。
  • カチャックスを填入。
    図6-c カチャックスを填入。
  • 適度な粘稠度で浮き上りを気にすることなく使用できる。
    図6-d 適度な粘稠度で浮き上りを気にすることなく使用できる。
  • 硬化後の除去。大きな塊で容易に除去が可能である。
    図6-e 硬化後の除去。大きな塊で容易に除去が可能である。
  • TeCセット後。
    図6-f TeCセット後。
  • TeC撤去後。
    図6-g TeC撤去後。
  • 最終補綴物装着後。
    図6-h 最終補綴物装着後。

症例②(図7a〜h)
歯周病の治療と審美障害を主訴に来院された60歳の男性。初診時口腔内にはTeCのブリッジが装着されていたが、とにかく審美的に気に入らないとのことで、プロビスタにてプロビジョナルレストレーションを製作し、歯周基本治療を行うこととした。歯周基本治療を行うのに数ヵ月を要しており、現在も経過観察中である。メインテナンスのため月に一度来院いただいており、その間カチャックスにて仮着していたが、脱離することもなく良好な経過を得ることができている。ロングスパンの場合の注意点としては、等量で練和すると手早くTeCの内面にカチャックスを填入し、口腔内に装着しないと浮き上がりが起こってしまうことである。今回、ペーストを柔らかめに練和して装着するようにした。余剰セメントは歯間部やポンティック部付近の通常除去しにくいところから除去すると一塊で除去することができる。
また、ポンティック基底面など余剰セメントが残ってほしくないところには、あらかじめワセリンなどを薄く塗っておくと余剰セメントの除去はさらに容易になる。TeC内面についてきた仮着材も比較的容易に除去することができるので、再度仮着する場合にもスムーズである。

  • 術前(唇側面)。
    図7-a 術前(唇側面)。
  • 術前(咬合面)。
    図7-b 術前(咬合面)。
  • TeC撤去後(唇側面)。
    図7-c TeC撤去後(唇側面)。
  • TeC撤去後(咬合面)。
    図7-d TeC撤去後(咬合面)。
  • プロビジョナルレストレーション作製。
    図7-e プロビジョナルレストレーション作製。
  • 粘稠度を調整して使用できる。
    図7-f 粘稠度を調整して使用できる。
  • プロビジョナルレストレーションセット後(唇側面)。
    図7-g プロビジョナルレストレーションセット後(唇側面)。
  • プロビジョナルレストレーションセット後(咬合面)。
    図7-h プロビジョナルレストレーションセット後(咬合面)。

■おわりに

近年の歯科治療は、技術の発展に伴い様々な材料が多数販売されている。仮着材においても様々なタイプの製品があり、それぞれ優れた特長を有しており9)、最終の治療を考慮して材料を選択していかなければならない時代になってきている。患者だけでなく、我々歯科医師にとってもより良い治療を行うために、仮着材は最終補綴物を装着するまでの暫間的な材料であると思わず、材料の特性を理解し正しく使用するべきである。今回、新たに発売された非ユージノール系仮着材カチャックスは、術者や患者にストレスをあたえず使用でき、密着性が高いことから短期的な単冠のTeCから比較的長期に用いるプロビジョナルレストレーションに至るまで、幅広い症例に適用できる材料の一つであると考える。

参考文献
  • 1)川本善和:症例に合った仮着材の選択と効果的な使用方法.日本歯科評論,70(7):49-58,2010.
  • 2)廣瀬知二:そうだったんだ!歯科材料(第5回)各種仮着セメントの特長と使い分けを教えてください!.デンタルハイジーン,31:1244-1245,2011.
  • 3)中嶋裕:仮着用セメントの性質と取り扱い.日本歯科医師会雑誌,Vol.63(8):21-29,2010.
  • 4)長沢悠子,日比野靖,原島厚,中島裕ほか:仮着用セメントの機械的強さに及ぼす水の影響.歯材器Vol25(1):33-40,2006
  • 5)緑野智康,大橋桂,山口紘章,二瓶智太郎ほか:10種仮着用セメントの被膜厚さ,圧縮強さ,接着強さについて.日補綴会誌,8:192-199,2016.
  • 6)Hansen,E.K. and Asmussen,E.:Influence of temporary filling materials on effct of dentinbonding agents, Scand J. Dent. Res.,95:516-520,1987.
  • 7)Kanakuri,k.,Kawamoto,Y.,Matsumura,H.:Influence of temporary cement remnant and surface Cleaning method on bond strength to dentin of a composite luting system. J Oral Sic 47, 9-13, 2005.
  • 8)藤井宏:クラウン合着の前処理に関する研究.日補綴会誌,32:668-678,1988.
  • 9)中嶋裕,長澤悠子,日比野靖:仮着材の種類とその特性.日本歯科評論,70(7):42-48,2010.