歯科材料の発展、とりわけ歯質接着システムの発展そしてMID(Minimal Intervention Dentistry)conceptの広がりに伴い、直接法コンポジットレジン修復、すなわちダイレクトボンディングが臨床の現場で用いられる場面が増えている。しかしながら、臼歯咬合面修復(以下、1級修復)と比べて臼歯隣接面修復(以下、2級修復)に対するダイレクトボンディングは技術的難易度が高い。2級修復に対するダイレクトボンディングの成功のカギを握るものとして、信頼性の高い接着システムや機械的性能の高いコンポジットレジンを使用することに加えて、確実な隔壁の設置が可能となるセクショナルマトリックスシステムを使用することが挙げられる。本稿では、新発売されたセクショナルマトリックスシステム「コンポジタイト3Dフュージョン」の特長と臨床上のポイントについて紹介する。
臼歯隣接面の修復治療において、修復物が長年機能するために接着が重要であることは言うまでもない。臼歯隣接面修復において直接法と間接法との間に臨床的に優位な差がないことが現在報告されており1)、健全歯質の温存という観点から2級修復に対してダイレクトボンディングを行うことはMIコンセプトの広がりと相まって積極的に行っていきたい治療である。しかしながら、2級ダイレクトボンディングは難易度が高いと考えられており2)、臨床の現場では敬遠されがちなのも実情である。その原因として、①隣接面から辺縁隆線そして咬合面へと向かう解剖学的形態の回復、②適切なコンタクトの付与、③歯頸側マージンの良好な適合性を得ること、④防湿(特に下顎)、が困難であることがあげられる。
上記の問題点を解決するために、セクショナルマトリックスシステムの適切な使用が不可欠であると考えられる。そのような中、リニューアルされた「コンポジタイト3Dフュージョン」が国内に紹介された。
本稿のタイトルにもあるように隔壁の確実な設置が2級ダイレクトボンディング成功の鍵となるわけだが、その確実性をあげるための従来品からの改良点を筆者の使用感を含め紹介していきたい。
①リテーナーの形態の変更による歯間離開力と脚部の適合性の向上
従来の丸い形状から直線部分を設けたことにより(図1)、リングフォーセップスで広げる時の安定感が増した。また、直線部分を追加したことにより脚部に垂直に力が加わることになり、歯間離開力と脚部の適合性が向上した。これにより、より歯にフィットし、かつ緊密なコンタクトポイントの再現が可能となった。
②3DリテーナーフュージョンL(グリーン)の追加による2級ダイレクトボンディング適応症の拡大
今回の目玉となる変更点は3DリテーナーフュージョンL(グリーン)の追加であろう。図2のような窩洞を充填するケースでは、従来のリテーナーを使用した場合マトリックスが変形してしまい、適切な形態を付与できなかったため、間接法で修復をしていた。しかしながら、3DリテーナーフュージョンLの登場により、従来は直接修復が困難であった大きな窩洞の修復が可能となった(図3)。
③リングフォーセップスの変更
リング把持部とフォーセップスの支点の距離が変更されたことによって、従来より少ない力でリテーナーの設置が可能となった(図4)。軽い力でフォーセップスを把持できることにより、リテーナー設置時の手のブレが少なくなり、設置したマトリックスに接触するリスクが減った。
④残存歯質の歯牙形態を追従するフュージョンバンド(図5)
3Dカーブが強く、面積が広いため適合性が良く、残存歯質の歯牙形態にフィットしやすくなっている。これにより天然歯に近い豊隆の再現を可能とした。内面の樹脂コーティング処理により充填後のバンドの除去もスムーズに行える。
⑤マトリックスの適合性を向上させる
フュージョンウェッジ(図6)従来の三角形のウェッジにやわらかいフィンを付けることで、マトリックスの歯面への適合性を向上させ、それにより窩底部よりコンポジットレジンが溢出するのを防ぎ、歯頸側のバリが抑制できるようになった。
筆者の考える2級ダイレクトボンディングのポイントを実際の症例を見ながら紹介する。患者は22歳の女性。根管治療後の失活歯への修復処置である(図7)。
なお、小臼歯(1咬頭欠損まで)における2級コンポジットレジン修復については生活歯と同等の臨床成績を示すことがわかっている3)。
ダイレクトボンディング修復の成功のカギを握るものは、接着操作とその後のコンポジットレジンの填塞操作の両者である。良好な接着を得るためには被着面をできるだけ広く確保し、汚染を回避することが重要である。そのためラバーダムをぜひ使用したい。それにより防湿、術野の明示だけでなく、歯間乳頭の歯頸側への圧排も可能となりマージンがより明瞭となる(図8)。
ラバーダムを行うと、歯が乾燥するため、経時的に明度が上昇する(図9)。そのため、シェードテイキングは術前に行うことを忘れてはならない。根管治療歯では、根管治療に用いる各種薬剤の接着への影響を避けるため、根管充填後1週間はあけてから修復することが望ましいとされている。ガッタパーチャを根管口で切断してシーラーなどと共に除去し歯冠部の象牙質新鮮面を露出させる。この際、シーラーなども象牙質面の汚染因子となるためスチールバーを用いて徹底的に除去する。
生活歯と失活歯ではう蝕の除去範囲も異なってくるので注意が必要である。1%のアシッドレッドプロピレングリコール溶液で薄く染まる部分をも失活歯では除去する必要がある。続いて隔壁の設置を行っていく。
本症例では歯頸側マージンが歯肉縁に非常に近接していたため、バンドを固定すべく、リテーナーの設置の前にウェッジの挿入を行っている(図10)。
その後、リテーナーを設置する。この時仕上がりの形態をイメージしながらバンドの形態の微調整を行うとともに、適切なコンタクトポイントを付与すべくコンタクトポイントを充填器などでバンドの内側からバーニッシュ(軽く擦るイメージ)し、歯面処理に移る。ボンディング材は生活歯と同様に信頼性の高い材料の選択が重要であり、筆者は2ステップのセルフエッチングシステムを使用している。
セルフエッチングシステムのpHはやや高めで脱灰能が低いため、マージンの経年的な劣化を防ぐことと頰舌側の未切削エナメルマージンの接着性能を向上させる目的でリン酸を用いたセレクティブエナメルエッチングをボンディング操作の前に行っている。また失活歯の場合、照射器先端から窩底部までの距離は5mm以上に達するため、ボンディング材への光照射時間の延長も必要である。
その後、歯頸側マージンの接着を確実なものとするべく少量のフロアブルレジンを充填し(図11)、この時もまた光照射時間を延長し十分に光重合を行う。コンポジットレジンの積層充填は必須であり、深さ2mmごとに光照射を十分に行う。
続いて隣接面を作るべく、コンポジットレジンを積層充填していく。解剖学的には臼歯固有咬合面は近遠心の辺縁隆線が決定する。そのため辺縁隆線を意識しながら、上部鼓形空隙を極細の充填器等で賦形していく(図12)。
隣接面ができると後はやや深めの1級窩洞なので十分光照射を行うことに留意しながら、およそ2mmずつの積層充填を行っていく(図13、14)。
本症例ではマトリックスを設置したまま1級充填を行っているが、2級近心ダイレクトボンディングのケース等、マトリックスを除去した方が、咬合面の充填がしやすい場合は、隣接面の充填まで終えたところで、マトリックスを除去して充填操作を行うこともある。
十分な光照射を行ったのち、ラバーダムを撤去し充填操作を終了する。適切で精度の高い隔壁の設置がなされていれば、過剰充填を防げるので、咬合調整ならびに形態修正・研磨は時間を要さないことが多い。
形態修正のポイントとしては充填器にて賦形した上部鼓形空隙の解剖学的形態を壊さぬよう、ディスクを用いて形態を整え研磨していく(図15)。この際、ウェッジもしくはセパレーターを用いて歯間離開すると形態修正・研磨が容易となる。
26歳女性の小臼歯ならびに大臼歯の2級ダイレクトボンディング症例を供覧する(図16〜23)。
今回、2級ダイレクトボンディングにおける「コンポジタイト3Dフュージョン」について、その臨床的意義と有用性にフォーカスし述べさせていただいた。
マトリックスシステムも何世代目になろうか。接着材料の進歩もさることながら、マトリックスシステムのような関連器材の進歩は、我々臨床家にとって術式がより確実になり、チェアタイムの短縮につながる大変有用性の高いものである。しかしながら、そういった関連器材に依存するだけではなく、う蝕の除去や、ボンディング、そして光照射などの基本的事項をしっかりおさえたうえで、関連器材を使いこなすことで真の患者利益に繋がると考える。
本稿が、少しでも読者の先生方の参考になれば幸いである。