キーワード:ビルドアップ、I.D.S法、チェアサイド時間短縮、複数歯のインレー修復
チェアサイドCAD/CAMの普及に伴い、院内完結型の修復物の製作やCAD/CAMオールセラミック即日修復の占める割合が増えている。しかし、装着後の早期破折や脱離、咬合痛や冷水痛などの不快症状に悩む事例も多くなっている。高度の治療を行っても不快症状や破折、脱離トラブルに見舞われるとストレスが増えるだけでなく、患者さんからの信頼も失いかねない。本誌面では我々診察サイドのストレスを大幅に軽減させるだけではなく、治療のトラブルを減らすための一つのアイテムとしてギャリソンデンタルのマトリックスシステム(図1)の臨床活用法についてご紹介したい。
症例1
30代女性。
主訴:右下奥歯がしみる。
6には12%Pdインレーが合着されており隣接面に2次カリエスを認めたため、セラミックインレーによる修復処置を行うこととなった(図2)。ラバーダム防湿下にて感染歯質の除去を行った。メタルインレー形成窩洞の隣接面はスライスカットされ、マージンは歯肉縁下に設定されている。スライスカットはセラミックにかかる咬合力をサポート可能な形態ではなく、隣接面破折を引き起こす原因となる。
また、歯肉縁下では完全な接着が困難であり、歯質とセラミックの接着による構造上の一体化を期待できず、破折や脱離の原因となる。よって歯肉縁下マージンの位置をコンポジットレジンでビルドアップ(底上げ)し、同時に形成により露出した象牙細管を保護(閉鎖)するため、イミディエイト・デンチン・シーリング(以下I.D.S法)を行う必要がある。
コンポジタイト3Dフュージョン(図1 左)を用いればこれらの行程を一度に短時間で行うことができる(図3)。
CERECシステムを使用し、光学印象を行った。修復物を製作し完全防湿下で接着、口腔内光学印象即日修復法を完了した。修復物の接着時はプラスチックマトリックスを使用する。
プラスチックマトリックスは、ヴァリストリップ(図1右上)とクリアバンド(図1右下)の2種類が用意されているが、本症例のように『2面形成までのインレー接着時』はクリアバンドの使用が適している(図4)。
ギャリソンデンタルのマトリックスシステムは、接着時にも有用である。シリコン製の突起が付与されたフュージョンウェッジを使用することで、セメントの隣接面や歯肉縁下への流出を最小限に抑制でき、プラスチックマトリックスは、接着後の余剰セメントのスムーズな除去が可能である。結果、チェアサイド時間の大きな節約につながる。接着セメントに筆者は「パナビアV5」(クラレノリタケデンタル)を使用している(図5)。
補足事項:クラウンの再修復などのケースで、あまりに深い縁下マージンのビルドアップは完全防湿が不可能となる。また生物学的幅径をできるだけ変化させない、という観点から歯肉縁下0.5mmまでがビルドアップの限界である。0.5mmを超える深い縁下マージンの場合は、Er:YAGレーザーなどを使用して歯肉切除を行い、マージンラインを歯肉縁上もしくは歯肉縁の位置に整える必要がある。メタルインレーの深いスライスカットに対しても同様である(図6)。
症例2
40代女性。
主訴:詰め物が取れてしみる。
感染歯質除去中の写真を示す。両隣接歯には、レジンインレー修復を認めた。患歯の窩洞はMODでありスライスカットを認めるが、マージンは歯肉縁下0.5mm以内に位置している(図7)。感染歯質を完全に除去した後、スライスカットを修正するため、ビルドアップとI.D.S法を同時に行った。
MOD窩洞の症例では、2セットのマトリックスバンド、ウェッジ、3Dリテーナーを使用する。先に近心側室部にマトリックスをセットし、同様に近心側3Dリテーナーを覆い被せるように遠心側室にリテーナーをセットする(図8)。
その後、「クリアフィルメガボンド2」(クラレノリタケデンタル)で接着処理を行い、「クリアフィルマジェスティESフローHigh」(クラレノリタケデンタル)にてビルドアップとI.D.S法を同時に行った。
MODセラミックインレーの窩洞形成を行いCERECシステムで光学印象を行った。接着時はヴァリストリップを使用した。
本症例のように『MODインレー、2面以上の隣接面形成を含む内側性窩洞』においてはヴァリストリップ1枚で歯面を包み込むように隔壁を作る。ヴァリストリップは、適度な湾曲が全体に付与されており操作性が良好である。
MOD窩洞を包むように配置し両隣接面にフュージョンウェッジを挿入する(図9)。気泡の混入を抑制するため十分な量のセメントを修復物側につけ一気に圧接する(図10)。
図11は口腔内光学印象即日修復法により接着されたセラミックインレー。
日常臨床において単歯修復だけでなく連続した修復物を接着するケースに遭遇することもある。特に3歯以上のケースでは慎重な接着操作が求められる。図12は2~2のポーセレンラミネートベニア修復の接着である。
すべての修復物を一度に接着することも可能ではあるが、後のセメント除去が著しく困難かつ不確実な状態になるので避けるべきである。
まず隣接面コンタクトが得られる2の接着を行う。隣接歯を歯面処理材とレジンセメントのコンタミネーションから守るためヴァリストリップを用いた。隔壁作成後に余剰部分を切断する(図13)。歯面処理材の使用手順にのっとり歯面処理を行った。
2ラミネートベニアにレジンセメントを十分な量を使用して形成歯面に圧接した。修復物の位置ずれを防止するためにピンスポット照射チップを使用しラミネートベニアを形成歯面に固定した(図14)。セメントが半硬化の段階で大まかなセメント除去を施した後に完全硬化を行う(図15)。
2のセメントアウトが完了した後、次いで1の接着行程へ移行する。1に関しても同様に接着操作を行う。この時点で中1歯開けての接着操作となる(図16)。1接着操作、セメント除去が完了した時点で、2、1の接着操作において隣接歯を利用し、ウェッジを用いたヴァリストリップの設置が近遠心両側ともに可能になる。2、1のラミネートベニアの接着操作を順次行う(図17)。
すべてのラミネートベニアの接着、セメントアウトが終了した写真を示す(図18)。前歯部連続歯接着においてもギャリソンデンタルのマトリックスは有用である。
チェアサイドCAD/CAM臨床で最も頻度が高いとされるオールセラミックインレー修復。インレー修復においても、複数歯の同日修復にギャリソンデンタルのマトリックスシステムを使用し、効率的に修復・接着行程を行うことができる。
症例は4、5の連続歯修復のビル
ドアップ、I.D.S法施術時の状態を掲載する。完全な防湿状態下で、マトリックスバンドがフュージョンウェッジにより歯質に圧接され、マージンとの隙間からラバーダムの色や歯肉、浸出液の漏出が確認されないことがあげられる(図19)。
また連続歯修復ケースでは1歯単位で確実にビルドアップ、I.D.S法を行っていく(図20)。図21はビルドアップとI.D.S法終了時の口腔内写真。
別のケースとして大きな隣接面カリエスのため開放角が60°を超えて大きく開大する状態や、アンレーケースなど3Dリテーナーで残存した健康歯質部位を把持することが難しく、綺麗な形態を付与することが困難であった(図22左)。
今回開発された3DリテーナーフュージョンL(緑)は、歯を把持する面積が広く開放角の大きなインレー症例や4/5冠に相当する形成量であってもマトリックスバンドを歯質に綺麗に圧接することが可能になった(図22右)。
具体的なケースとして図23のような機能咬頭部の健全な天然歯質の残存が極めて少ない大きなインレーのセラミック再修復を行う。遠心隣接面から頰側機能咬頭にかけて2次カリエスの歯質内での進行が疑われる。また、機能咬頭残存歯質が咬合部位(特にCO)に一致していた(図23左)。
そのままのメタルインレーマージンをセラミックインレーマージンに一致あるいは近似させることは、マージンラインを咬合部位に一致させてしまいセラミックを破折に導く危険性がある。また、接着修復とは言えど菲薄な天然残存歯質をチッピングに導く危険性も考えられる。
よってこのようなケースでは窩洞形態の単純化とセラミックで咬合力を受けるためにセラミック修復物の形態として頰側咬頭を被覆する窩洞形態とすることが多い。このような窩洞形態に隔壁を作る際には、メタルリングを使用しなければならないケースが多かったが、従来の3Dリテーナーでは残存歯質を把持しきれずマトリックスバンドの変形を招いていた。新しく開発された3DリテーナーフュージョンL(緑)を2個用いることによりマトリックスバンドで隔壁を作ることが容易になり、ビルドアップ後の形態付与やI.D.S法を簡便に行うことが可能になった(図23中、右)。
図24に口腔内での隔壁を設置した全体像を掲載する。図25は歯面処理を行い、I.D.S法によるデンチンシーリングと近遠心隣接面ビルドアップを同時に行った状態。歯質とレジンの境界が移行的であることがポイント。
その後、CERECシステムを使用して光学印象を行い即日修復を完了した。図26はセラミック修復物を口腔内にセットした状態である。
補足事項:開口量の制限や歯列不正などで3Dリテーナーの使用が困難な場合にトッフルマイヤーを用いることもある。このような他の隔壁器具を使用した場合でも、ギャリソンデンタルのフュージョンウェッジは相性が良い。適度なウェッジの硬度が高い操作性とマトリックスの歯質への圧接に適している。
修復物接着時はラミネートベニア修復と同様に1歯ずつ、1歯とばしで確実に接着を行っていくことが重要である。結果としてセメントの残留防止、隣接面マージン部の確実な仕上げ研摩が可能となる。
図27は4、5、6の3歯同時修復の接着時の写真である。
まず5の接着を行い、隣接面の確実なセメントアウトとマージン部位の仕上げ研摩を先に完了させる。
次いで4、6の接着を行った。MOD窩洞にはヴァリストリップ、インレーにはクリアバンドを用いた。
CAD/CAMを用いた口腔内光学印象法や技工用光学印象装置を用いたオールセラミック歯冠修復は我々歯科医師や歯科技工士、歯科衛生士に診療スタイルの変化をもたらした。患者さんにとっても即日修復、あるいは歯冠修復期間の大幅な短縮という大きなメリットをもたらした。
しかし、窩洞形成や支台歯形成においては今現在歯科医師がCAD/CAM機器に形成を合わせる必要があるなど周知徹底が必要な項目が多いのも事実である。
形成終了時の印象採得前における歯面処理の重要性も同じである。このような基本的な事項が守られた時に歯科医院側と患者側の両者が得られる利益は非常に大きい。
今回は特に内側性窩洞修復における形成修了後の窩洞歯面処理法について記述した。先生方の診療の一助となれば幸いである。