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169号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

前歯部における隣接面歯冠形態回復へのアプローチ

大阪市阿倍野区 脇歯科医院 脇 宗弘

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大阪市阿倍野区 脇歯科医院 脇 宗弘

キーワード:上顎前歯の審美性決定要素/前歯部隣接面における充填操作/3・4級窩洞

■はじめに

色調再現性の高いコンポジットレジンや象牙質接着力の高いボンディング材、そしてそれらを用いる際の周辺材料の登場により、コンポジットレジン充填は、機能と審美を兼ね備えた術式であると認識され、臨床応用されることが多くなってきた。
ただ、正確な接着操作や充填方法を駆使し、口腔内で直接行う術式であるがゆえに、術者のスキルに治療結果が左右されてしまう点がコンポジットレジン充填の敬遠されがちな大きな理由と言える。
しかしながら、昨今のミニマルインターベンションコンセプトの普及により、術者側の認識だけでなく患者側からも健全残存歯質を極力温存する低侵襲治療を要望される時代となり、臨床の場においてコンポジットレジン充填による修復治療のニーズは高まってきていると考える。
前歯部においては、う蝕による3級窩洞だけでなく、従来であれば間接法によるクラウンやラミネートベニアの適応症と考えられていた大きな4級窩洞や歯冠破折症例においてもコンポジットレジン充填が、第一選択と認識されつつあると考える。
現在のところ、入手できる材料を用いて、使いこなすだけの知識とそれを具現化できるだけのスキルがあれば、低侵襲且つ高レベルな審美性を獲得でき、長期安定性も望める術式であると認識している。
特に前歯部コンポジットレジン充填において求められる審美性を決定する要因について考えたい。

■審美性獲得の要素とは

 Fondriest は、上顎前歯シングルレストレーションにおける審美性決定要素として6つの項目をあげている(図1)。
1−外形
2−表面性状
3−明度
4−透明性
5−彩度
6−色相
上記から、審美性を獲得するためには、まず修復を必要とする歯の歯冠外形を反対側同名歯や隣在歯と同調させることが最も重要であることが分かる。歯冠外形は平滑面の形態再現はもちろん、隣接面の形態回復も技術的に難易度が高いとされてきた。その理由として、次のことが考えられる。
① 平面的なテープ状のマトリックスが使用されることが多いため、直線的(アンダーカントゥアー)な形態にしか再現できない。
② 平面的ゆえにカーブを持つ天然残存歯質との接合部にギャップが生じやすく、形態修正や研磨が困難になる。よって、フロスを用い難い状態に仕上がるため、メインテナンスにも問題が生じる(図2矢印部)。
③ 歯間離開機能が働かずにマトリックスの厚み相当分の空隙ができてしまいコンタクトポイントが消失する(図2)。
上記の問題は、本来の天然歯が持つ三次元的曲線形態を付与できるマトリックスに、歯間離開効果を持ちつつ適切に保持してくれるウェッジを併用することで解決できる(図3)。
本稿では、ギャリソンデンタルから発売されているヴァリストリップとフュージョンウェッジ(図4)の併用により、長年の難題であった前歯部隣接面窩洞に対する容易な充填操作且つ優れた歯冠形態再現性を自らの臨床例を用いて解説したい。

  • 上顎前歯シングルレストレーションにおける審美性決定要素
    図1 上顎前歯シングルレストレーションにおける審美性決定要素。
  • 平面的マトリックスを用いた場合に起こり易い問題点の写真
    図2 平面的マトリックスを用いた場合に起こり易い問題点。
  • ヴァリストリップとフュージョンウェッジを併用することによる隣接面形態再現の優位性の写真
    図3 ヴァリストリップとフュージョンウェッジを併用することによる隣接面形態再現の優位性。
  • ヴァリストリップとフュージョンウェッジの写真
    図4 ヴァリストリップとフュージョンウェッジ(ギャリソンデンタル)

■ヴァリストリップとフュージョンウェッジの有用性

ヴァリストリップは、プラスチックマトリックスで、一般的なテープ状の平面マトリックスに比べて三次元的プレカーブが与えられている。
左右両端の幅が異なることにより、治療当該歯に合わせたフレキシブルな曲率を選べる点が大きな特長である。
近遠心方向から隣接面を巻く使い方もあるが、本稿では歯冠側から歯頸側方向へ縦方向に挿入することにより得られるカーブの方が最適であると判断した。
フュージョンウェッジは、シリコーン素材のフィンが付与されたことにより、歯肉を傷つけ難くマトリックスと窩壁との密着度を高め易い特長を持ちあわせている。
臨床例を用いて上記の2製品を用いた治療順序をステップごとに解説する。
患者さんは60歳、女性、上顎前歯の審美障害を主訴として来院した。
歯列に問題が認められるが、着色の除去と変色した過去のコンポジットレジン充填部位に、二次う蝕も認められたため、再度コンポジットレジン充填にて治療し、健全歯質と色調を同化させることを治療の目標とした(図5)。
旧充填物を除去する前に患者固有の口蓋側面と切縁の形態をシリコーンインデックスにて記録した後、歯垢染色液を用いて接着阻害因子であるプラークを視覚化し、グリシンパウダーが填入されたエアフローハンディ3.0(EMS)を用いて徹底的に歯面清掃を行う(図6~9)。
旧充填物の除去の後、う蝕検知液を用いて感染象牙質を取り除く(図10)。
可及的にエナメル質の温存に務め、右側は3級、左側は4級窩洞に留めた。窩洞形成終了後にラバーダム防湿を行う(図11)。
窩洞辺縁にKエッチャントシリンジ(クラレノリタケデンタル)にてエナメル質にのみ選択的リン酸処理を行う(図12)。
水洗・乾燥の後にクリアフィル ユニバーサルボンド Quick ER(クラレノリタケデンタル)にてボンディングを行う(図13)。
塗布後の待ち時間がなく接着力では定評のある材料であるが、一液性ボンディング材の中に含まれる水や有機溶媒をエアーブローにてしっかりと吹き飛ばす必要がある点には、ご注意いただきたい(図14)。
光重合の後、術前に製作しておいたシリコーンインデックスにクリアフィル マジェスティES フローHigh A-1 (クラレノリタケデンタル)を薄く流し、口腔内に戻すことにより術前の口蓋側と切縁形態を再現できる(図15~17)。
次に近心壁の形態付与に取り掛かる。
ヴァリストリップを隣接面に挿入し下部鼓形空隙部にフュージョンウェッジを唇側より挿入し固定する。残存歯質とヴァリストリップの持つカーブが密着し自然な歯冠形態を付与できる環境が整う(図18)。
上記のフロアブルレジンを用いて近心壁の形態付与ができ上がる。隣接歯側も同様にまず歯冠外形を再現する(図19~21)。
外形ができ上がれば、クリアフィルマジェスティ ESフロー Low A-3.5を用いて象牙質相当部を充填する。最表層エナメル質相当部をクリアフィルマジェスティ ESフロー Super LowA-2を用いて充填する(図22、23)。
カーバイドバーやスーパーファインのダイヤモンドポイントにて形態修正ならびにシリコーンポイントやポリッシングブラシを用いて研磨する(図24)。
前歯部複雑窩洞に対するコンポジットレジン充填は、天然歯質と色調を同調させるだけでなく、隣接面形態・接触点の回復を目的とするために、日々の臨床ではなかなか結果に満足を得られ難いのは事実である。
しかしながら、審美性に関しては色調や透過性の異なるコンポジットレジンを用いて積層充填を行い、機能性に関しては正確な接着操作を行うことを基本にし、何よりも操作性に関しては直接法であるが故のテクニカルエラーを防止すべく手助けしてくれるマトリックスやウェッジ等の周辺器材を併用することで、間違いなく従来の術式よりもシンプル且つ好結果を生み出せると考える。

  • 初診時の写真
    図5 初診時。前歯群隣接部に着色と褐線を伴う色調不良を起こしたCR充填が認められる。
  • パテタイプシリコーンによるインデックスを製作する写真
    図6 パテタイプシリコーンによるインデックスを製作する。
  • 歯垢染色液を用いて治療当該エリアの染め出しを行う写真
    図7 歯垢染色液を用いて治療当該エリアの染め出しを行う。
  • 治療介入部位にプラークが付着した写真
    図8 治療介入部位に接着阻害因子となる顕著なプラークの付着が見受けられる。
  • グリシンパウダーが填入されたエアフロー ハンディ3.0(EMS)を用いて徹底した歯面清掃を行う写真
    図9 グリシンパウダーが填入されたエアフロー ハンディ3.0(EMS)を用いて徹底した歯面清掃を行う。
  • う蝕検知液を用いて感染象牙質の染色を行った写真
    図10 旧充填物を除去した後に、う蝕検知液を用いて感染象牙質の染色を行い除去する。
  • ラバーダムを用いて術野の確保した写真
    図11 ラバーダムを用いて術野の確保、口唇の排除、呼気や唾液に対する防湿を行う。
  • エナメル質にのみKエッチャントシリンジを用いて約15秒間、選択的リン酸処理を行った写真
    図12 エナメル質にのみKエッチャントシリンジを用いて約15秒間、選択的リン酸処理を行う。
  • クリアフィル ユニバーサルボンドQuick ERを用いてボンディングした写真
    図13 クリアフィル ユニバーサルボンドQuick ERを用いてボンディング。
  • エアーブロー後の写真
    図14 一液性ボンディング材を用いるにあたっては、弱圧から強圧へと変化をつけた十分なエアーブローが大切である。
  • 先に製作したシリコーンインデックスの切縁および口蓋側にクリアフィル マジェスティ ESフロー Highを流した写真
    図15 先に製作したシリコーンインデックスの切縁および口蓋側にクリアフィル マジェスティ ESフロー Highを流す。
  • シリコーンインデックスを元の位置に正確に戻した写真
    図16 シリコーンインデックスを元の位置に正確に戻す。ラバーダムに影響されない大きさにトリミングしておくことが必要。
  • シリコーンインデックスにより再現された口蓋側と切縁側の外形態の写真
    図17 シリコーンインデックスにより再現された口蓋側と切縁側の外形態。
  • ヴァリストリップをフュージョンウェッジにて装着した写真
    図18 先に右側中切歯の近心壁を再現するためにヴァリストリップをフュージョンウェッジにて装着する。
  • 自然な曲線により再現された近心壁の写真
    図19 ヴァリストリップに与えられた自然な曲線により再現された近心壁。
  • 近心壁(左)の写真
    図20 右側と同様に左側中切歯近心にも行う。
  • 左側中切歯近心壁が再現された写真
    図21 左側中切歯近心壁が再現された。
  • クリアフィル マジェスティ ESフロー Lowを用いて充填した写真
    図22 外形が決まれば象牙質相当部分にクリアフィル マジェスティ ESフロー Lowを用いて充填する。
  • エナメル相当部分にクリアフィル マジェスティ ESフロー Super Lowを用いて充填した写真
    図23 エナメル相当部分にクリアフィル マジェスティ ESフロー Super Lowを用いて充填する。
  • 術後の写真
    図24 術後。ラバーダムを外し、形態修正および研磨を終えた状況。

■最後に

乱筆ながら本稿をお読みいただいた方々の中に、低侵襲で機能と審美を兼ね備えたコンポジットレジン充填という術式に興味を抱いて臨床応用し、患者の健全残存歯質を少しでも温存していただけるなら幸いである。

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