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曲がりやすく、折れない「EX kodomo F 0-2 才用、3-5 才用 歯ブラシ」の開発と機能について
ライオン株式会社 研究開発本部 オーラルケア研究所 蜂須賀 良祐/金丸 直史

ライオン株式会社 研究開発本部 オーラルケア研究所 蜂須賀 良祐/金丸 直史

キーワード:親子の絆を繋ぐコミュニケーションの場/安全性と清掃性の両立

■はじめに

乳児期(6ヵ月~2才頃)・幼児期(3~6才頃)の歯みがき習慣は、歯垢を落としてう蝕を予防することだけではなく、「子供自身が手や指を使うことで細かい運動を学ぶ」という運動機能の発達の観点からも重要と考えられています。
その中でも、乳児期は「歯ブラシを握って、口に入れる習慣をつける」、「口の中で歯ブラシを動かす練習をする」など、歯ブラシに慣れることが大切な時期であり1)、その後の幼児期は「自分磨きを習得」して自身で清掃できるようになっていく時期と言えます(図1)。
乳児・幼児が歯みがきをする際には保護者が目を離さないよう推奨されていますが2)、歯みがき中に口腔外傷を負う事故が報告されており3)、その主な原因は「転倒」によるものです。
本来、歯みがきは親と子の絆を繋ぐコミュニケーションの場であってほしいと願っていますが、このような事故が起こっていることも事実なのです。
そこで、製品を通じてこのような現状を「本来の親と子のコミュニケーションの場」に変えられないのかと考え、「安全性を追求した歯ブラシの開発」に取り組み始めました。そして、乳児・幼児の歯みがき時の「安全性」だけではなく、「清掃力」も兼ね備えた「曲がる・折れない安全ハンドル」をコンセプトにした「EX kodomo F」歯ブラシを開発しました4)(図2、3)。以下に、①開発の考え方、②製品の設計、③製品の機能について、詳細を示します。

  • 乳児期と幼児期の歯みがき習慣の図
    図1 乳児期と幼児期の歯みがき習慣
    • EX kodomo F 0-2才用の写真
    • EX kodomo F 3-5才用の写真
    図2 左:EX kodomo F 0-2才用 右:EX kodomo F 3-5才用
  • 曲がる安全ハンドルの写真
    図3 曲がる安全ハンドル

■①-a. 開発の考え方 
~転倒による外傷はどのように起こるのか~

転倒によって乳児・幼児が口腔外傷を追う状況として、図4に示すような2つの状況を考えました。
まずは、歯ブラシが折れず(曲がらず)にそのまま傷つける、もう1つは 歯ブラシが折れて傷つけるという状況です。ただし、歯ブラシが折れることはめったにないと考えています。
すなわち、歯ブラシに大きな力が加わった際に、「曲がりにくいこと」と稀に起こる「折れること」に起因して、口腔外傷が起こるのではないかと考えました。

■①-b. 開発の考え方 
~外傷の程度を小さくするには~

歯みがき時の乳児・幼児の転倒防止が最も良い解決策であることは間違いありません。
しかしながら、製品を通じて対策することはできません。
その点については、保護者が見守り、転倒しないよう注意してもらいたいと考えています。
万が一、転倒してしまった場合に、外傷の程度を小さくするには、図4とは逆の状況、すなわち歯ブラシが「曲がりやすいこと」、且つ「折れないこと」が効果的なのではないかと考えました(図5)。

  • 転倒による外傷の発生状況の図
    図4 転倒による外傷の発生状況
  • 外傷の程度を小さくするためのイメージ図
    図5 外傷の程度を小さくするためのイメージ図

■②. 製品の設計 
~2つの技術アプローチから生まれた安全ハンドル~

歯ブラシを設計する際には、大きく分けて①素材の物性と②製品の形状の2つの技術アプローチがあります。今回の開発における重要なポイント(曲がりやすいこと、折れないこと)を実現するために、まず①素材の物性から検討を行いました。具体的には、「ゴムのようにやわらかい素材」の物性を最大限に活用しました。従来、やわらかい素材はフィット感を高めるためにハンドル(持ち手)の表面に少量だけ用いることが多いですが、このやわらかい素材を歯ブラシのメイン素材としました。すなわち、従来とは逆転の発想です。しかし、やわらかい素材だけで歯ブラシを設計すると、ブラッシング時に大きくたわむため、使用性が大きく低下します。そこで、一般的な歯ブラシのメイン素材である「かたい素材」を必要最小量だけやわらかい素材の内部に用いました(図6)。
使用性を向上させるため、さらに工夫を施しています。それは、②製品の形状(断面形状)です。図7に示すように、ネック部のかたい素材の断面形状を厚み方向が長く、幅方向が短い楕円形状にしています。このように設計することで、万が一の転倒時には幅方向に曲がりやすく、一方で、歯みがき時には厚み方向にたわみにくくなり、困難と思われた安全性と使用性の両立を実現できました(図8)。
なお、図1に示す各時期におけるブラッシングの目的や外傷の発生状況から、EX kodomo F 0-2才用歯ブラシは徹底した安全性を第一に考え、よりやわらかい素材を用いました。

  • 安全ハンドルの写真
    図6 安全ハンドル
  • ネック部の断面形状のイメージ図
    図7 ネック部の断面形状のイメージ図
  • 転倒時の曲がりやすさ/歯みがき時のたわみやすさの写真
    図8 左:転倒時の曲がりやすさ  右:歯みがき時のたわみにくさ

■③-a. 製品の機能 
~安全ハンドル(0-2才用、3-5才用)が曲がりやすく、折れないことの検証~

乳歯が生え始めたら歯みがきをすることが推奨されており2)、上述したように、乳児・幼児自身で行う歯みがきは運動機能の発達のためにも重要です。すなわち、安全性は乳児、幼児向け歯ブラシの両方に必要となります。
そこで、安全ハンドルのEX kodomo F 0-2才用およびEX kodomo F 3-5才用歯ブラシの「曲がりやすいこと」と「折れないこと」を検証するために、モデル乳児5~7)を用いた転倒試験を行いました。負荷した荷重を測定することが可能な測定器(ロードセル)の上にEX kodomo F 0-2 才用歯ブラシ、EX kodomo F 3-5才用歯ブラシ、かたい素材だけで設計されたEX kodomo 13M 歯ブラシを固定し、各サンプルに向かってモデル乳児を転倒させ、「曲がりやすさ」と「折れるか折れないか」を評価しました。
図9に、ネック部が曲がるために必要な荷重(最大値)を示します。この値が小さいほど、曲がりやすいことを意味します。EX kodomo F 0-2才用歯ブラシおよびEX kodomo F 3-5才用歯ブラシのネック部は、意図した通りに「幅方向」にのみ曲がり、その際の最大荷重は約20N、約55NとEX kodomo 13M 歯ブラシ(約415N)と比較して約90~95%も低いことが確認できました。これは、やわらかい素材をメインに用いているため、転倒による外力が負荷した際に曲がりやすくなったと考えられます。
図10に、転倒試験後のEX kodomo F 0-2才用歯ブラシの外観を示します。3-5才用も含めて全ての安全ハンドルのサンプルは、モデル乳児を転倒させた本試験において、ネック部が折れないことを確認しました。これは、やわらかい素材をメインに用いていること、ネック部のかたい素材部分の厚みを応力が集中しにくい形状8)に設計したことの2つが影響していると推察しています。
以上の結果から、安全ハンドルのEX kodomo F 0-2 才用歯ブラシとEX kodomo F 3-5才用歯ブラシは、2つの重要なポイント(曲がりやすいこと、折れないこと)を満たしていることを実証しました。

  • 曲がる際の最大荷重グラフ
    図9 曲がる際の最大荷重
  • 転倒試験後のEX kodomo F 0-2才用歯ブラシの外観写真
    図10 転倒試験後のEX kodomo F 0-2才用歯ブラシの外観

■③-b. 製品の機能 
~安全ハンドル(3-5才用)が十分な清掃力を有することの検証~

幼児期は「自分磨きを習得」して自身で清掃できるようになっていく時期であることから、幼児向け歯ブラシには安全性だけではなく、清掃力も必要です。しかしながら、安全ハンドルの「EX kodomo F 3-5才用歯ブラシ」は一般的な歯ブラシに比べてネック部がたわみやすいため、清掃力が下がってしまうのではないかと不安が残ります。
そこで、EX kodomo F 3-5才用歯ブラシと同一仕様の歯ブラシ(安全ハンドル3-5才用)とかたい素材だけで設計された一般的な歯ブラシを用いて(表1)、ヒト試験で清掃力を検証しました9)。最終的な協力者は、31名(男児11名,女児20名、平均年齢4才11ヵ月± 4ヵ月)です。試験は、協力者を前半と後半に2分し、それぞれに対してシングルブラインド・クロスオーバー試験で行いました。
歯垢の付着状態は、歯垢染色液にて染め出しを行い、歯みがき前後のO’Leary のPlaque Control Record (以下PCR)10)で評価し、式①を用いて歯垢除去率を算出しました。

①歯垢除去率(%)= (歯みがき前のPCR−歯みがき後のPCR)/歯みがき前のPCR×100

歯みがきは、歯磨剤を使用せずに各歯ブラシで自由刷掃(20秒)した後、歯みがき指導用の動画を見ながら9部位(図11)を順番に各10秒ずつ磨く方法とし、協力者自身に磨いてもらいました。2本目の歯ブラシの試験は1週間以上あけて実施し、統計解析は分散分析で行いました。
なお、本研究は鶴見大学歯学部倫理 審査委員会にて承認を得て実施しています(受付番号1412)。
全歯の歯垢除去率の結果を図12に示します。安全ハンドル3-5才用の歯垢除去率(27.7%)は一般的な歯ブラシ(28.7%)と同等でした。安全ハンドル3-5才用は、ネック部の「幅方向」には曲がりやすいものの、ブラッシングしている際に荷重がかかる「厚み方向」にはたわみにくい形状になっているため、手からハンドルに加えた力が刷毛に十分に伝わり、一般的な歯ブラシと同等の歯垢除去率になったと推察しています。
すなわち、安全ハンドル3-5才用は「安全性」だけではなく、「清掃力」も兼ね備えた歯ブラシであると言えます。

  • 試験歯ブラシの表
    表1 試験歯ブラシ
  • ブラッシング部位の図
    図11 ブラッシング部位
  • 全歯の歯垢除去率のグラフ
    図12 全歯の歯垢除去率

■まとめ

「曲がる・折れない安全ハンドル」の「EX kodomo F」歯ブラシの①開発の考え方、②製品の設計、③製品の機能について、詳細を述べました。
私たちが願うのは歯みがきの時間が親と子の絆を繋ぐ素敵なコミュニケーションの時間になることです。乳児・幼児が歯みがきをする際に保護者の方々が見守っていただければ、一般的な歯ブラシであっても素敵なコミュニケーションの時間を過ごしていただけます。しかし、この時期の子どもは好奇心旺盛で元気・活発に動きまわります。そんなお子様たちに「やわらかい素材」をメインに用いて、ネック部の断面を「楕円形状」にすることで「安全性」と「清掃力」を兼ね備えた本品を是非使っていただきたいと考えています。

参考文献
  • 1) ハブラシの科学 Lion Science Journal Vol.12, p4, 2017
  • 2) こどもたちの口と歯の質問箱 公益社団法人 日本小児歯科学会 ホームページ
  • 3) 乳幼児の歯ブラシによる事故に注意 消費者庁 独立行政法人国民生活センター News Release p1-15, 2013
  • 4) 事故事例から歯ブラシ開発へ 大久保正一:小児歯科臨床, 22(6) p23-27, 2017
  • 5) 平成20年度 機械製品の安全性向上のための子どもの身体特性データベースの構築及び人体損傷状況の可視化シミュレーション技術の調査研究報告書:社団法人 日本機械工業連合会 社団法人 人間生活工学研究センター
  • 6) 「子ども計測ハンドブック」:朝倉書店
  • 7) 「子どものからだ図鑑」:Kids Design Tool
  • 8) 蜂須賀良祐, 小林利彰:プラスチック成形加工学会年次大会予稿集 p397-398, 2017
  • 9) 金丸直史, 蜂須賀良祐, 小林利彰, 青山友紀,荻原佑介, 湯沢真弓, 岡部早苗, 熊谷千明, 山口桃枝, 船山ひろみ,朝田芳信:小児歯科学会誌55(2), p216, 2017
  • 10) O’Leary, T. J., Drake,R. B., Naylor,J. E.:J. Periodontol. 43 :38,1972.