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Interview

腎臓内科医から見た医科歯科連携−歯科医師が知っておくべき睡眠時無呼吸症候群(SAS)の見分け方−

東京都文京区 みらいメディカルクリニック茗荷谷 副院長 松本 昌和

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今や「国民病」とも呼ばれる糖尿病。その糖尿病と関係が深く、近年、話題に上る機会が多いのが慢性腎臓病と睡眠時無呼吸症候群です。これらの疾患と歯科との関係について、みらいメディカルクリニック茗荷谷の副院長・松本昌和先生に、腎臓内科医の立場からお話をうかがいました。

■糖尿病と歯周病の関係性

口腔内環境と全身疾患との関係が知られるようになり、医科歯科連携の機会が増えています。当院でも歯科への依頼は増えており、特に多いのが糖尿病患者の歯周病に関するケアや治療の依頼です。
糖尿病はマクロファージの機能低下や創傷治癒の遅延などを引き起こすため、歯周病の発症、進行に負の影響を与えます。
一方、歯周病関連細菌はマクロファージからの腫瘍壊死因子α(TNF-α: tumor necrosis factor-α)の産生を促進し、インスリンの働きを悪くします。その結果、糖尿病のコントロールが効かなくなります。
このように両者は相互に関係し合っているために、医科と歯科の連携がより重要になるとされています。
医科と歯科、両方に通院する糖尿病患者を治療する際、注意が必要なのは薬の処方、特に抗菌薬の処方についてでしょうか。医科と歯科、どちらが処方するのか、あるいは処方したのかの判断がつかず、然るべき抗菌薬が使われなかった。もしくは重複投薬になってしまった。そうしたことは起き易いため、紹介状ベースでもいいので、どんな診断や治療を行ったのか、情報共有ができるといいのではないかと思っています。

■見落とされがちな慢性腎臓病

近年注目されながらも、見落とされがちなのが慢性腎臓病(chronic kidney disease=CKD)です。CKDとは腎臓の働きが落ちた状態の総称を指し、初期の頃には自覚症状がありません。疲労感やむくみなどの症状が現れたり、蛋白尿などで検査に引っかかったりしたときには、大抵の場合はステージが進行しています。原因はさまざまですが、糖尿病の合併症により腎機能が落ちるケースがもっとも多く、その場合は糖尿病性腎症とも呼ばれます。
ところで、薬は体内に入ると肝臓や腎臓で代謝され、腎臓から尿中へと排泄されます。そのため、CKDで腎機能が低下していると、うまく腎臓で代謝されず、血中濃度が上昇し、薬効の増強などの問題が生じる可能性があります。
また、歯科治療後によく使用される抗菌薬や消炎鎮痛剤も腎機能を大きく悪化させることがあるため、CKDの患者さんに処方する場合は注意が必要です。一度悪くなった腎臓は元には戻りません。末期腎不全に至らせないためにも、腎機能に負担をかけないように減量や投与間隔の延長を検討してください。
消炎鎮痛剤として、よくロキソプロフェンを処方される先生は多いと思いますが、腎機能が悪い方の場合、アセトアミノフェンのほうがベターなことがあります。処方に際して少しでも疑問点がある場合は相談していただけたらと思います。

  • 歯周病と糖尿病の双方向の関係性の図
    歯周病と糖尿病の双方向の関係性
  • CKDの重症度分類表
    根管充填時のX線写真

■睡眠時無呼吸症候群(SAS)での医科歯科連携

みらいメディカルクリニック茗荷谷 副院長 松本 昌和歯周病の依頼と同様に歯科と連携す る機会が多いのが睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。SASは就寝中に無呼吸と低呼吸を繰り返す病気で、1時間あたりに発生する無呼吸・低呼吸の回数によって軽度、中等度、重症と重症度分類をします。
重症の場合は就寝中に鼻マスクによって空気を鼻から気道へと送るCPAP(持続陽圧呼吸療法)を行います。軽度、中等度の場合は、下顎を前方に移動し固定させ、狭窄した上気道を広げて通気性を良くするために歯科で口腔内装置(マウスピース)を制作することがあります。
以前、口腔内装置を制作した患者さんの中に「大丈夫。よくなっている」とおっしゃる方がいました。しかし、よくよく検査をすると、症状が改善されていないことが分かりました。医科も歯科も双方でお互いに治療が十分に行われているはずと思い込んでいた節があり、治療途中のフォローアップがうまくできているかなど、医科と歯科で情報共有ができていれば、もっとスムーズに治療が進んでいたかもしれません。

■歯科診療で見つかる可能性があるSAS

SASは推定患者を含めると200万人とも300万人とも言われています。その中でCPAP療法を行っている患者数はわずかに40数万人程度という報告があります。
SASを放置していると、睡眠時の酸素が不足することから、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まるため、早期の診断と治療が欠かせません。
特徴としては、糖尿病や高血圧、脂質異常症、痛風といった生活習慣病が原因となっている場合があり、SASの治療を行うことで、それらの症状が改善されるケースがよくあります。また、CKD患者はSASを合併しているケースが非常に多いと言われています。その他、SASによって睡眠が浅くなると、夜中に何度も起き、トイレに行きたくなるというふうに、SASが夜間頻尿の原因となっていることもあります。
もう一つ、歯科の先生方にお伝えしたいのは、SASは扁桃腺肥大を伴っていることが多いということ。口腔内を診る際に扁桃腺が大きいようであれば、例えば、「イビキが気になったことはありませんか?」「昼間、眠くなることはありませんか?」など尋ねていただくと、そこからSASの発見に繋がることがあるかもしれません。
今は自宅での就寝時に簡単なモニターを装着して行える簡易検査もあります。SASが疑われるときは、SASを扱っている内科、耳鼻咽頭科などへの受診を促していただけたらと思います。

  • SAS患者の気道閉塞の図
    SAS患者の気道閉塞。鼻や喉に何らかの異常があると気道が狭くなり、睡眠時には気道が塞がり、呼吸ができなくなる。
  • CPAP装置の本体の写真
    CPAP装置の本体。
  • 小児用のネーザルマスクの写真
    CPAPで使用される鼻だけを覆い呼吸を補助する小児用のネーザルマスク。
  • 携帯型睡眠評価装置の写真
    携帯型睡眠評価装置。自宅で指先にセンサー(パルスオキシメーター)をつけ、血液中の酸素を測定、無呼吸による酸素低下状態を評価する。
    • SASセルフチェック表
      SASセルフチェック表
    • 正常な扁桃腺と扁桃腺肥大の図
      SASは扁桃腺肥大を伴っているケースが多く見られるので、歯科医師も口腔内を見る際、注意が必要だ。

松本 昌和先生からのメッセージ

敷居を低くした医科歯科連携を

近年、注目されている医療系のIT技術に健康情報を患者さん自らが管理する「パーソナル・ヘルス・レコード(生涯型電子カルテ)」というものがあります。将来、こうした技術が実用化され、携帯電話などのデバイスに健康情報や処方薬の情報を入れ、患者さん自身が持ち運びできるようになると、医科と歯科、医科と医科の連携が非常に取り組み易くなるのではないかと思っています。
今はまだ紹介状や手紙といった紙ベースの連携ではありますが、それでもどんな薬を処方したか、どんな治療をしたかなど、ちょっとした情報が共有できるだけで防げる事故や改善される問題が多くあります。
本格的な高齢社会を迎え、慢性的な病気を複合的に抱えた高齢者が増えている中、1人の高齢患者に対して複数の医師が関わりを持つことは珍しくありません。今後は今以上に敷居を低くしながら、医科歯科連携に取り組んでいければと思っています。

■プロフィール
内科医(腎臓内科)・医学博士
順天堂医院腎臓内科勤務をへて御徒町腎クリニック院長、みらいメディカルクリニック副院長を兼務。
地域医療の保全、予防医療の啓蒙のため、社団法人みらい地域医療振興会、みらい予防医学振興会を設立し、活動している。

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