DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Field Report
予知性の高い治療を行うために ~歯科矯正の難症例に必須の診断ツール~
兵庫県明石市 医療法人社団 大矢矯正歯科医院 明石駅前院 院長・理事長 大矢 伸治

兵庫県加古川市で歯科矯正にたずさわり10数年になります。2017年には遠方から通院される患者さんの利便性を考え、明石市に分院を開業しました。歯科矯正の中でも外科的矯正治療の適用が検討される難症例を中心に臨床を行っています。
矯正歯科界では、歯科矯正用アンカースクリュー(以下、アンカースクリュー)の普及により、以前では困難であった歯牙移動が可能になってきました。とりわけ骨格性上顎前突症例においては、マルチブラケット装置にアンカースクリューを併用することにより、従来の方法に比べてよりダイナミックに上顎前歯を後方へ移動できるようになりました。当院でも積極的にアンカースクリューを活用しています。
そうした中、2015年、AJO-DO(アメリカ矯正歯科学会の公式雑誌)に「アンカースクリューを用いて大きく後方移動させた上顎中切歯の歯根が切歯管に接触し、歯根吸収をきたした」という症例報告が掲載されました。それまでは切歯管の存在に注意を払うことはほとんどありませんでしたが、上顎中切歯の後方移動の際に、その歯根が切歯管へ近接・接触する可能性がCT画像によって示され、臨床上の注意点が指摘されました。この論文をもとに、当院でも患者さんの承諾を得て、同様の治療を行った症例を、分院の開業時に導入したばかりのCT「ベラビューエポックス3Dfα」(モリタ)で検証しました。すると、論文の内容に近似する所見がいくつも見つかり、非常に驚き危機感を持つようになりました。症例1に示した上顎前突ケースがそのうちの一つです。本ケースでは、あともう少し上顎歯列全体の遠心移動を予定していましたが、切歯管の位置を確認したところ、両側中切歯歯根はすでに切歯管に近接・接触していました。これ以上の後方移動は危険と判断し、その時点で牽引を終了しました。CT 画像診断によって、なんとか未然に歯根吸収のリスクを回避することができました。
切歯管の幅や大きさ、形態は様々ですが、切歯管周囲の皮質骨に歯根が接触すると、歯根吸収をきたす可能性があります。重度の上顎前突症例の治療では上顎前歯の後退量が大きくなるので、治療前にあらかじめ歯根と切歯管の位置関係を把握しておくことが重要です。
症例2に示した過大なオーバージェットを有する骨格性上顎前突ケースでは、初診相談の際には患者さんは外科的矯正治療を希望されなかったので、アンカースクリューを用いた上顎両側第一小臼歯抜去によるカムフラージュ治療(非外科的治療)を提案しました。しかしCT 画像診断により、上顎前歯部の歯槽突起の前後径(厚み・幅)が極めて薄いことが判明しました。前歯部被蓋関係が確立されるところまで上顎前歯を大きく後退させると、歯根は歯槽骨から逸脱してしまい、上顎前歯の口蓋側の骨の支持がなくなる可能性が考えられました。患者さんに歯や咬合の長期安定性について十分説明したうえで、最終的には下顎骨を前方に移動させる手術を併用した外科的矯正治療を行うことにしました。
アンカースクリューを用いることで上顎前歯の移動可能な範囲は大きく広がりますが、その移動に際しては前歯のalveolar bone housingに十分注意を払わねばなりません。過度な牽引により歯根が歯槽骨から大きく逸脱してしまうこともあり、このような場合、将来歯周病の進行等がきっかけで歯を喪失してしまう可能性も考えられます。長期予後を考慮すると、今後、骨格性上顎前突症例においても外科的矯正治療を適用する割合が増加していくと思われます。
ベラビューエポックスで撮影すれば、最もフォーカスしたい上顎前歯部歯槽突起の形態や切歯管の状態は一目瞭然です。歯根吸収のリスクや治療後の長期安定性を考慮した治療計画が立てやすいと感じています。患者さんに予知性の高い治療を提供し、納得していただける説明を行うためにもCTは必須のツールです。これからもCTを有効に活用し、これまでの経験や蓄積したデータを若い先生方にもフィードバックできればと思います。

  • 症例1  上顎両側中切歯の著しい唇側傾斜を伴う上顎前突症例
    症例1  上顎両側中切歯の著しい唇側傾斜を伴う上顎前突症例
  • 症例1 治療中 パノラマとセファロ画像この画像だけでは切歯管接触のリスクが把握できない。
    症例1 治療中 パノラマとセファロ画像この画像だけでは切歯管接触のリスクが把握できない。

  • 症例1 治療後の口腔内写真
    症例1 治療後の口腔内写真
  • 症例1 術後のCT画像
    症例1 術後のCT画像
    上顎両側中切歯の歯根が切歯管に近接・接触していることが確認できる。画像を用いてこれ以上の後方移動は危険であると説明し、牽引を終了。
  • 症例2 過大なオーバージェットを有する骨格性上顎前突症例
    症例2 過大なオーバージェットを有する骨格性上顎前突症例
  • 症例2 セファロ画像だけでは、上顎前歯部の歯槽突起の前後径、幅を正確に把握できない。
    症例2 セファロ画像だけでは、上顎前歯部の歯槽突起の前後径、幅を正確に把握できない。

  • 症例2 CT画像にて、上顎前歯部の歯槽突起が極めて薄いことが判明。4 4 抜歯での治療では口蓋側の骨支持がなくなることが予想される。画像を用いて外科的矯正治療が妥当と説明。
  • ※:Approximation and contact of the maxillarycentral incisor roots with the incisive canalafter maximum retraction with temporary anchoragedevice :Report of 2 patients」( Chooryung J. Chung ,Yoon Jeong Choi,Kyung-Ho Kim Seoul Korea). American Journalof Orthodontics and Dentofacial Orthopedics.

デンタルマガジン 172号 SPRING