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173号 SUMMER 目次を見る

Clinical Report

GPにおけるCBCTを通した医科歯科連携の診療

茨城県ひたちなか市 こむろ歯科 院長 小室 文相

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キーワード:副鼻腔疾患における連携/CBCTデータを用いた医科歯科連携

目 次

はじめに

現在、医科歯科連携の診療が推進されており、その項目は多岐に亘ると思われる。GPの立場で、患者さんに対し、医科歯科連携を踏まえた診療をどのように享受できるだろうか?
有病者患者さんに関する診療情報共有は基本として、生活習慣病に対する歯周疾患治療からのアプローチ、SASからの睡眠・呼吸の管理、嚥下障害やオーラルフレイルの予防、がん患者さんに対する口腔ケアなど様々な連携が実践されるようになった。
当院では、7年前にベラビューエポックス3Df(モリタ)を導入した。CBCTでの診査・診断を基に様々な症状を呈している患者さんに対して、これまで様々な領域の医科と連携して診療にあたってきた。
副鼻腔疾患において、患者さんに生じている病態・症状が、歯・歯周組織を含めた口腔由来が原因なのか?耳鼻咽喉部由来が原因なのか?あるいは合併しているのか?を考察することは有意義だと考えられる。
歯科領域のみで対応可能なのか? を検討し、医科の先生と連携をとるとすれば、診査・診断・加療・経過観察の情報を共有する上で非常に大切な点だと思われる。加えて、患者さんへのインフォームドコンセントの上でも重要と考える。
今回は、耳鼻咽喉科領域、特に副鼻腔疾患での連携を中心に症例を報告する。

症例供覧

<症例1>69歳女性 上顎洞炎の原因が歯性由来の症例
4日前に歯の違和感を生じ、来院当日右側顔貌の腫脹と右側中心の鼻閉感・38℃の発熱・右上臼歯部の自発的鈍痛と咬合痛にて来院された。中耳炎以外の特記すべき全身疾患の既往歴はなく、現病歴は高脂血症のみで、健康診断で肝腎機能も正常であった。
打診反応は、6が一番強く4~7に及んだ。他所見として根尖歯肉の腫脹(−)発赤および圧痛(+)、同部位歯牙の病的な動揺(−)歯周ポケット2mm、根分岐部病変(−)であった。
ちなみに、軽度の胸苦しさや咳嗽はあるものの喘息様の咳や中耳炎様の症状もきたしていないことを併記する。
歯の反応と鼻の症状が強いことから、口腔由来と鼻由来の影響を鑑別するために、当初から撮影サイズを大きめにしてH100×80モードにて撮影した(図1~4)。
CT画像から耳鼻咽喉科への紹介も視野に入れながら、歯の症状を改善させるため、6の感染根管治療を開始した。上記症状やCT画像も参考にすると、診断基準のJESRECスコアも低く、好酸球性副鼻腔炎の可能性は低いと感じながら、現時点でウィルス性や真菌性の感染があるかは分からない。
様々な処方の仕方を検討できると思われるが、私は、頓服用に解熱鎮痛消炎剤としてカロナール錠1回200mg×2を3回分、腎機能も正常ということで当初よりレスピラトリーキノロンであるグレースビット錠1回50mg×2を1日2回、4日分処方した。
感染根管治療と投薬を開始してから5日後には軽度の咳嗽と顔貌腫脹感以外は改善された。P根のMAFはRTファイル(マニー)で#70になったが、右側上顎洞内内容物は消失した(図5~7)。
結果、医科への紹介はせず当院だけの対応となった。
垂直性の動揺をきたすP罹患歯や確認しにくいクラックおよびセメント質剥離などで予後が悪いケースや真菌などの感染症は別として、重度であっても根管由来の細菌性上顎洞炎は根管治療によって改善すると感じている。
<症例2>23歳女性 非歯原性由来の歯痛
当患者さんは、当院に来院される前に前頭部痛により脳神経外科、目の重みにより眼科、後鼻漏と鼻閉感により耳鼻咽喉科に通院されていた。
脳神経外科では鎮痛剤、眼科では点眼薬、耳鼻咽喉科でマクロライド系抗菌薬と去痰剤がそれぞれ処方されていた。その後、左上の咬合痛および開口障害を発症し歯科である当院に来院された。
左上臼歯部の診査も踏まえ、顎関節部の確認と非歯原性の疼痛も視野に入れパノラマ撮影を行った(図8)。
左側に上顎洞炎様所見は観られないが、左側眼窩下部に微妙な不透過像があり、患者さんの様々な症状から篩骨洞炎の疑いでCT撮影を行った。
水晶体への被ばくの懸念がありながらも診断のために敢えてH100×80モードにて撮影した(図9~11)。
結果、左側前篩骨洞炎および右側蝶形骨洞炎の診断のもと、耳鼻咽喉科の先生へ紹介することとした。
最終的には高次医療機関にて全身麻酔下にて両病変に対して外科手術を受けられた。ここでは、CT画像で篩骨洞だけでなく蝶形骨洞も確認し、確定診断をした上でスムーズな連携を取れたと考えている。
参考症例として左上歯痛の原因が、鼻性由来の上顎洞炎であり、篩骨洞炎も合併しているCT画像をご報告する(図12、13)。
<症例3>37歳 男性 鼻性由来上顎洞炎
当患者さんは6の咬合痛にて来院され、感染根管治療を開始した。
すでに耳鼻咽喉科にかかられておりアレルギー性鼻炎のもと薬物療法(抗ヒスタミン剤と去痰剤)を受けられていた。
根管治療中も同歯牙周囲および鼻汁が臭うとのことで、6 歯根膜や歯槽硬線含め上顎洞底を精査するためH40×40モードにてCT撮影を行った(図14、15)。
同所見から真菌性上顎洞炎を疑い、CT画像を添付し耳鼻咽喉科へ紹介した。
検査によりアスペルギルス優位の真菌が確認され、抗真菌剤の処方により症状は融解された。
ここでは、内視鏡での鼻粘膜の診査だけでは確定診断はできず、CT画像の所見から真菌の存在を予測し、菌の培養検査を通して確定診断および加療に移れたものと考えている。
<症例4>57歳 女性 顎関節疾患と耳症状
当患者さんは、開口障害と開口痛を主訴に来院された。顎関節疾患における一般的問診・触診を通して、右側耳閉感、時に耳痛、咽頭部の違和感もあるとのことだった。
顎関節疾患治療のアプローチにより、耳の症状(耳鳴り・耳閉感・難聴など)や目の症状(目の奥が痛む)が改善することもあると思われる。時に、医科の先生に協力を仰がなければ耳の症状は改善しないこともある。
この症例では、開口に関する症状は歯科である当院で対応ができても、中耳炎への影響もあり、耳鼻咽喉科での加療が必要と診断した(図16~19)。

<症例1>
  • [写真] 術前IPデンタル
    図1 術前IPデンタル。臼歯部上顎洞底線は明瞭。
  • [写真] 術中矢状断像
    図2 術中矢状断像。 6口蓋根周囲の骨吸収は、上顎洞と交通しているのが確認できる()。
  • [写真] 術中冠状断像
    図3 術中冠状断像。上顎洞内にび漫性の内容物が確認できる。
  • [写真] 術中横断像
    図4 術中横断像。中鼻甲介の高さでは右側上顎洞内側壁への影響も確認()。左側の蝶形骨洞無形成も確認()。
  • [写真] 術後2ヵ月半後矢状断像
    図5 術後2ヵ月半後矢状断像。 6口蓋根相当部の上顎洞底部の修復が認められる。
  • [写真] 同術後冠状断像
    図6 同術後冠状断像。右側上顎洞内の内容物の消失および各鼻道の含気回復を確認。
  • [写真] 同術後横断像
    図7 同術後横断像。中鼻甲介の高さでの内側隔壁の形成が認められる()。
<症例2>
  • [写真] パノラマ像
    図8 パノラマ像。左側上顎洞炎様所見は認められないが、左側眼窩下部に不透過像あり。
  • [写真] 矢状断像
    図9 矢状断像。前篩骨洞に低吸収像を認める()。
  • [写真] 冠状断像
    図10 冠状断像。左側篩骨洞に低濃度領像を確認()。
  • [写真] 冠状断像
    図11 冠状断像。右側蝶形骨に低吸収像確認()。また、両側翼突管神経突出あり()。
<参考症例>
  • [写真] 32歳女性の矢状断像
    図12 32歳女性の矢状断像。左上臼歯相当部上顎洞底線は明瞭で、歯性由来上顎洞炎ではないことを診断。
  • [写真] 同症例冠状断像
    図13 同症例冠状断像。左側上顎洞と篩骨洞にび漫性の内容物を確認。
<症例3>
  • [写真] 6相当部矢状断像
    図14  6相当部矢状断像。歯根膜腔や骨量の状態から歯性由来の上顎洞炎ではないことを診断。
  • [写真] 同症例冠状断像
    図15 同症例冠状断像。上顎洞内に石灰化物と低濃度像を確認。
<症例4>
  • [写真] 右側顎関節部矢状断像
    図16 右側顎関節部矢状断像。下顎頭・関節結節・下顎窩などの顎関節部と共に耳小骨も確認できる()。
  • [写真] 同症例冠状断面
    図17 同症例冠状断面。外耳道(⬆1)・中耳領域(⬆2)・顔面神経鼓室部(⬆3)・内耳道(⬆4)なども確認。乳突蜂巣(⬆5)やや含気不良。
  • [写真] 同症例中耳矢状断像
    図18 同症例中耳矢状断像。耳小骨(⬆1)・Prussak 腔(⬆2)・前庭(⬆3)・半規管(⬆4)確認。中耳領域()に低濃度像を確認。
  • [写真] 同症例冠状断像
    図19 同症例冠状断像。耳小骨(⬆1)や蝸牛(⬆2)(回転数)を確認できる。

考察

本来、歯性由来のみの上顎洞疾患であれば、被ばく量も考慮して撮影モードを小さくし、歯根膜腔と根尖病変および上顎洞への影響、歯槽硬線の状態、骨のリージョン、大口蓋管への影響などを診査するべきだと思う。
モリタのCBCTは、H40×40でもH40×80モードでもスペック上画質は変わらない。さすがにH100×80モードまで大きくすると画質は粗くなるだろう。
しかしながら、センサーの精度・コンピュータの処理能力に優れたベラビューエポックス3Dfであれば、大きな撮影モードでも、ある程度、診断できると思われる。そのため、鼻性と歯性由来の鑑別するために敢えて大きなモードで撮影し診断することもある。
また、私は顎関節疾患へのアプローチで耳の症状が改善するかどうかを考察するためにCTを撮影している。内視鏡だけでは確認できない耳疾患を確認できることもある。
その際は、全てH40×40モードで撮影する。この一番小さな撮影モードでも顎関節部と外耳・中耳までほぼ確認することができる。
また、H40×80モードで撮影した場合の画像も供覧する(図20~22)。
この2つの画像を比較すると、顎関節部も耳小骨などの中耳の状態も詳細に診査するためには、H40×40モードが最適であることが理解できると思う。

<参考画像>
  • [写真] H40×80モード矢状断像での顎関節部と耳小骨
    図20 H40×80モード矢状断像での顎関節部と耳小骨()。
  • [写真] 同症例同撮影モードでの冠状断像
    図21 同症例同撮影モードでの冠状断像。
  • [写真] 同症例同撮影モードでの横断像
    図22 同症例同撮影モードでの横断像。

まとめ

非歯原性疼痛をきたす副鼻腔疾患、耳症状を呈す顎関節疾患に対しCBCTの画像診断を通して医科の先生と連携をとることで、少しでも患者さんの健康に寄与できるのではないかと考えている。
もちろん、それ以外の疾患に対してもCBCTから得られる情報で医科歯科連携が可能となる。医科歯科連携で、中に潜む疾患を捉えて、症状の悪化を防ぐことも予防歯科になるのではないかと思われる。
どこを診たいのか?それを診るために最適な画質を提供してくれるのはどのサイズか?加えて被ばく量を踏まえて撮影モードを決定する。多彩な撮影モードを持つモリタCBCTだからこそできる診断枠の拡がりに感謝している。
加えてモリタのCTは、診査診断に優れた、読診(よみ)とれる画像を撮影できる機械であるが、今後どのように進化(深化)して医療に貢献してくれるのか、今も期待(機体)に胸を膨らませている。

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