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経営の視点から予防歯科を考える~スタッフと患者さんに選ばれる“グッド・サイクル”とは~
医療法人社団剣正会 東上野歯科クリニック 理事長 村岡 正弘/フォーユーメディカル株式会社 代表取締役 廣田 祥司

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  • 医療法人社団剣正会 東上野歯科クリニック 理事長 村岡 正弘 / フォーユーメディカル株式会社 代表取締役 廣田 祥司

■自分自身を率いる能力「セルフリーダーシップ」を身につける

村岡経営面だけでなく、スタッフに気持ちよく働いてもらうための環境づくりや福利厚生など、自分の力だけでは解決できない部分をフォローしてくれるブレーンとして長年廣田さんとタッグを組ませていただいています。
廣田私は歯科医師ではありませんが、今まで多くのクリニック経営を経験する中で、まず院長先生が診療に集中できる環境を作ってあげることが大切だと感じていました。そのため、経営のコンサルティングだけでなく、医院のブランディングや開業支援、人材斡旋、訪問歯科診療支援など、幅広い分野で問題解決のお手伝いをさせていただいています。
村岡元来、院長は孤独ですし、仕事のなかで人に褒めてもらう機会なんてそうはありません。それを廣田さんに「先生、このアイデアはいいですね」と言ってもらえると嬉しいし安心するんです。設備投資や大きく診療形態をシフトする際には、クリニック側の考えだけでなく、患者さんの要望も考慮しなくてはなりません。そんな時に廣田さんは両方の立場を理解しながらバランスをとって、“痒いところに手が届く”提案をしてくださるので、とても助かっています。
廣田アメリカのビジネススクールでは、自分自身をリードし褒めながら乗せていく「セルフリーダーシップ」がとても重要視されています。実はこれは非常に難しいテクニックなのですが、村岡先生はそのセルフリーダーシップを自然にできてしまうタイプの先生なのだと思います。自分自身の機嫌をとりながら常に気分良く診療や経営にあたることがいかに難しいことか、読者の先生方にもお心当たりがあるかもしれません。
村岡自分で自分を褒めないと誰も褒めてくれませんから(笑)。朝、クリニックに行くと待合室はガラガラ、患者さんが誰も来ないみたいな夢もよく見ますし、本当に孤独なんです。それに実はとても怖がりなので、それに打ち勝つために剣道を続けてきたということもあるかもしれません。

■スタッフ自らがすすんで診てもらいたくなるクリニックに

村岡 正弘
村岡 正弘

村岡今から7、8年前に日本デンタルショーのモリタブースで講演させていただいたことがあります。その中で常にお伝えしたのは「まずは一緒に働くスタッフを大事にしてください」ということです。リーダーシップというと、“オレについて来い”みたいなカリスマ性が求められがちですが、私にはそんなカリスマ性はまったくなくて、剣道部でも常に副主将といったサブの役割でした。ですから、現在も肩書きは理事長、院長ですが、どこか一歩引いて、まずスタッフたちが気持ちよく働けるように、いわゆる「ES(Employee Satisfaction:従業員満足度)」を常に優先して考えてきました。やはり「スタッフとチームで働いていく」という気持ちは常に必要です。私たち歯科医師がいくら丁寧に治療しても、それを定期的にケアしてくれるのは歯科衛生士やアシスタントですから、若い先生方がまず目指すところは「スタッフが“自分も診てもらいたい”と思えるようなクリニックにすること」を目標にされるといいと思います。
廣田今のお話はまさに真のリーダーシップですね。トップダウン型のリーダーシップだけがリーダーシップと思われがちですが、実は「サーバント・リーダーシップ」といって、患者さんやスタッフがリーダーシップをとるという形こそ本当のリーダーシップという考え方もあります。村岡先生はそれをすべて本能的に理解しておられるのでしょう。
村岡私はその分野の勉強はほとんどしていないので、いつの間にか我流で身に付けたものなのかもしれません。それは学生時代の剣道で一度も一番にならずに常に二番手でいたのが良かったのかなと思う時もあります。
廣田若い方や開業前の先生で「自分はリーダーシップがなくて」とおっしゃる方が多くいらっしゃいますが、それはおそらく子どもの頃ガキ大将だったり、あるいは生徒会長のようなトップに立つ人だけがリーダーシップだと考えておられるのだと思います。でも本当のリーダーシップはそれだけではなくて、下から支えるボトムアップ型のリーダーシップもありますから、その意味でまさに村岡先生は本当のリーダーだと思います。そういう考えがベースにあれば、スタッフにも患者さんにも選ばれ、結果として診療だけでなく経営も含めたいろんな側面でうまく回っていくのでないかと考えています。

■選ばれるために必要なのは「精神的な豊かさ」

廣田私は医院経営において、「スタッフや患者さんに選ばれる」ためにはブランディングが必要と考えていて、そのためにはまず独自の“強み”“価値”“想い”を明確にする(言語化する)ことが重要になります。言語化するとなると困ってしまわれる方が多いのですが、皆さん“想い(理念)”はそれぞれ必ずあるはずですから、その想いを「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に分けて考えていただくと言葉にしやすくなります(図12)。
村岡私も自分の得手、不得手は常に考えています。具体的に言うと、私はインプラントはできないので、専門医の先生にお願いしていますし、予防に関しても歯周病専門の先生や歯科衛生士に任せているところもあります。ただ、それぞれに関する知識は広く持っておかなければいけないので、最近も海外のインプラントセミナーに行ってきましたし、そういう時間は惜しみません。自分にとってプラスになりますし、最終的にスタッフや患者さんへの還元につながります。
廣田私はこれまでいろんな先生にお会いする中で、経済的には成功して豊かなはずなのに、精神的な部分では豊かになれずに悩んでいる方をたくさん見てきました。ですから、若い先生方には、開業される際にはご自身の“想い”の部分を大事にしていただきたいと思います。想いを後回しにした売上達成や分院展開のその先に本当の幸せがあるのか私は疑問に感じています。私と同年代の先生方でも、分院数院、売上数億になっているのに幸せそうに見えないし、実際に悩んでおられる方がたくさんいらっしゃいます。
村岡最近出会った若い先生のなかでとても前向きでやる気のある先生が何人かいらっしゃって、現在一緒に診療しているのですが、そういう先生方と話しているととても楽しくて、こちらも俄然やる気になってしまう。臨床についてももっと勉強していかないと彼らと同じステージでディスカッションもできないし、講演を依頼されても今までと同じ内容を話すだけでは「この先生すごい」とは思ってもらえないと思うんです。
最近、マインドフルネスという考え方にも関心があって、自分の心の中をエンプティにならないようにして常にフルの状態を維持するか、一般的には呼吸を整えたり瞑想したりするのですが、私の場合はやはり剣道の稽古で動き回って汗をたくさんかいてたくさん打って打たれてってすることで充電できていると感じます。
廣田さんがおっしゃった「精神的な豊かさ」ということで言えば、精神的に不安定でイライラしていると治療もうまくいかないんですよ。仕事も遊びも充実させようと思ったら、心身共に豊かな状態にしておかないと、お金だけあっても意味がないですからね。
廣田それはセルフコントロールの考え方ですね。まず院長先生が心豊かになっていないとスタッフや患者さんはもちろん、クリニックすべてが豊かになれないんです。特に若い先生の場合、自己犠牲の上にクリニックを成り立たせようとする傾向があるんですね。でも自己犠牲じゃダメなんです。村岡先生のお言葉の通り、まず先生ご自身が精神的に満たされた状態にならないと、人に対しても優しくなれませんから。

  • 持続的成長のイメージ
    図1 持続的な成長を可能にするためにはビジョンを明確にし、スタッフや患者さんに選ばれるリーダーシップが必要となる。
  • ブランディングに必要なもの
    図2 ブランディングには、独自の「強み」・「価値」・「想い」を明確にし、それを言語化する必要がある。

■「グッド・サイクル」実現には予防歯科への注力がカギ

村岡予防歯科に関しては、例えばこれまでう蝕治療の介入時期や方法も歯科医師の経験や勘に委ねられている部分がありましたが、これからは様々な検査ツールを使ってデータをしっかり管理、数値化し患者さんにお見せして、そのデータをもとに治療方法やメインテナンスの時期を決めていく必要があると感じています。正直当院ではそうしたシステムはまだ整っていませんが、モリタが提案する予防プログラム「Cresmile(クレスマイル)」は、予防にシフトしたこれからの歯科医療のあり方を考えるうえでとても参考になりますし、これから予防に注力したいという若い先生方にも取り組みやすいのではないでしょうか。
廣田「歯科医院のグッド・サイクル」という図(図3)をご覧いただきたいのですが、潜在的な患者さんが見込みに変わって、その後既存患者さんとして来院する。その患者さんが定期的に来院する固定患者さんへと変わり、最終的にはそのクリニックのファンとなって、口コミや評判を拡散してくださるという理想的なサイクルを示しています。
この図が示すように、これからはファンを作っていくサイクルにシフトしていかないと医院経営は間違いなく難しくなると思います。その理由として、新規の集患に注力すると通常の約5倍のコストがかかると言われています。新たな患者さんに来院いただくためには、ホームページの整備や案内用のパンフレットなど、認知していただくためのツール整備が必要となり大きなコストが発生します。それに対して、既存患者さんのフォローに注力する場合、新規集患の5分の1のコストで済むわけです(「1:5の法則」図3参照)。
予防歯科はまさにこの部分に該当しますから、定期的なメインテナンスに来院してくださる患者さんに、もし治療の必要が出てきたとしてもそのまま来院していただくことになり、コストはかからないことになります。さらに、患者さん離れを5%改善することで25%以上の利益率が改善されるのです(「5:25の法則」図3参照)。ですから、歯科医院経営を考えたとき、予防歯科は注力すべきテーマだと私は考えています。

■今後ますます予防歯科の需要が高まる

廣田2016年の日本歯科医師会の調査によると、治療で通院する患者さんは国民の9.6%で、メインテナンスにいたっては4.5%しかいません。皆さんもご存知の通り、先進国に比べて日本の歯科受診率は低い状態です。今後、受診率の高まりとともに、メインテナンス(予防)の患者さんが増えれば、85.9%のブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)があるわけです。つまり、昨今競争が激化しているといわれている市場は、実は全体のわずか9.6%の治療の患者さんを奪い合っているだけということになります(図4)。将来的にメインテナンス(予防)の重要性が認識されて受診率が高まれば、現在の歯科医師数ではいずれ足らなくなると思うのですが、いかがでしょうか。
村岡おっしゃるように、自覚症状がないだけで歯周病に罹患している潜在的な患者さんはたくさんいらっしゃいますから、その方々が定期的に来院してくださるようになれば、現在の歯科医師だけでは対応しきれなくなると思います。
私は企業健診にも精力的に取り組んでいますが、20、30代の社員さんと50、60代の社員さんでは予防に関する考え方が大きく違うと感じます。例えばブラッシング時間を見ても、20、30代の方は1回のブラッシングに5~10分かけますが、50、60代の方は1~3分と短いんですよ。しかも夜か朝の1回しか磨かなかったり、もういろんな方がいらっしゃいます。もし時間がなくて磨けないという方には、私の場合電動歯ブラシを使っていただくように指導しています。その際、選択肢を増やして複雑にしてしまうと患者さんも迷って選びにくくなるので、私は20年来「ソニッケアー」だけをシンプルにお薦めするようにしています。

  • 歯科医院における「グッド・サイクル」のイメージ
    図3 歯科医院における「グッド・サイクル」 選ばれる理由「ブランド」を身につけることで、良い循環が生まれる。
  • メインテナンス(予防)対応状況のグラフ
    図4 メインテナンス(予防)需要の高まりの先にはブルーオーシャン(競争のない未開拓市場)が拓けている。

■医院経営におけるブランディングの重要性

廣田 祥司
廣田 祥司

廣田自費診療と保険診療の違いについて考えると、保険診療は“最寄り品(日用品)”なんです。「なるべく近くで安いところ」というのが最寄り品です。それが自費診療になると、いわゆる“買回り品”になります。例えば高価な時計を近所の○○商店で買いませんよね。せっかく高価なものを買うのなら、銀座まで足を伸ばしてとか街のデパートでとか、そういう気持ちが働くと思うんですけど、その違いこそがブランドなんです。例えば、保険治療でいつも通っている歯科医院を受診していて、急に「インプラント治療が必要です」と言われたら、「どんな治療で費用はいくらかかるのか」ということを患者さんなりに調べられると思います。そこで普段から良好なコミュニケーションがとれていてブランディングされていれば、自費診療の話をされても大抵の患者さんはそのクリニックでの受診をまず考えると思います。ですから「自費率が上がらない」と嘆いている先生がいらっしゃれば「最寄り品を買うだけのコンビニ的な経営をされてませんか」とお伝えして、ブランディングから見直していただくようにアドバイスしています。
村岡そうしたブランドとして患者さんに認知していただくためには、院長だけでなく歯科衛生士やアシスタント、歯科技工士を含めて信頼できる技術を持ったチームとして機能させることも重要です。
さらに、スタッフ全体のコストに対する意識を変えていく。例えば、コストのかからない保険診療が“正義”で、高価な自費診療が“悪”というイメージを持つスタッフも中にはいると思うんです。その足並みを揃える意味で、スタッフには治療内容をできるだけ共有するようにしています。例えば、保険のメタルクラウンを外した時には、それをすぐに捨てずに取っておいて、診療後、クラウンの内面がどれだけひどい状態になっているかをスタッフたちに見せながら「考えてみて、自分の口の中にこれと同じメタルクラウンを入れたいと思う?」と投げかけます。そうすることで自費と保険のメリット・デメリットを肌で理解してくれるようになりますので、患者さんへの説明も変わってきますし、スタッフ全員が院長と同じ方向を見てくれるようなると思います。 

■充実した歯科医師人生をおくるために

村岡 正弘 / 廣田 祥司

村岡皆さんも仕事の中で嫌な思いをしたり、コンプレックスを感じることもあるでしょう。私もそれは同じです。でもそれをはねのけて、これまでやって来られたことと思います。企業はもちろんですが、私たちが歯科医師になるとき、そして開業するときには皆さんそれぞれのストーリー(物語)があったはずです。今は成功していても、実は最初は大失敗から始まったとか。私は昔から多くの異業種の方とのお付き合いがあるのですが、そういうお話を聞くことも自分にとってとてもプラスになると思うんです。これから歯科医院経営にもいろんな展開が考えられると思いますが、若い先生方には、自分一人で悩んでしまうのではなくて、相談相手として別にコンサルタントでなくても、メーカーさんやディーラーさんといった身近な方、私はこれまでそうした方々に常に助けてもらっていましたから、皆さんも周りを見渡してみてそういう方をぜひ見つけて欲しいと思います。歯科医院を経営していくうえで情報はとても重要です。それも正確で鮮度と質の高い情報でなければなりません。懇意のメーカーさんやディーラーさんがいればいち早く正確な情報を教えてくれるようになります。「これが売れ筋ですよ」などアドバイスもしてくれますし、「この先生はどんな材料を使っているの?」「この製品が販売中止になったら次からどうすればいいの?」と聞けば「この製品をお使いです」「このメーカーに類似製品がありますよ」など、言える範囲でいろんなことを教えてくれます。こういう方々を味方につけて、これからの歯科医師人生をハッピーに乗り越えていただきたいですね。
廣田多くの先生にお会いしてきて、魅力的な先生に共通して言えることは、皆さん年齢に関係なくとてもモテるし“愛されキャラ”なんです。それは異性にということではなくて、スタッフ、患者さん、業者さんを含めたすべての方々に、という意味です。これからの歯科医院経営を考えたとき、スタッフや患者さんから選ばれないことには生き残っていけませんから、ぜひそうした魅力的な先生になることを一つの目標にしていただきたいと思います。

■村岡 正弘先生プロフィール
山形県出身
昭和大学歯学部卒業
医療法人社団剣正会 東上野歯科クリニック 理事長
昭和大学歯学部高齢者歯科学教室 兼任講師
国際歯科学士会 理事
日本デジタル歯科学会 代議員
日本アンチエイジング歯科学会 理事
剣道七段

■廣田 祥司先生プロフィール
北海道出身
青山学院大学卒業
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士課程前期課程修了(MBA)
フォーユーメディカル株式会社 代表取締役
ドクターライフパートナーとして、
株式会社ブリッジ・シー・エステート 顧問など 9社の経営に関与
歯科医師のための「ブランドアカデミー」主宰
https://hirotashoji.com/balp/

デンタルマガジン 173号 SUMMER