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『あすなろメソッドアドバンスコース』受講医院の 取り組みを追う Case 1 地域に根ざした予防型歯科医院への転換
福井県福井市 うちやま歯科クリニック 院長 内山 盛嗣

■目 次

前田 憲昭
福井県福井市
うちやま歯科クリニック
院長 内山 盛嗣

『あすなろメソッドアドバンスコース』(講師:佐野正之院長<あすなろ小児歯科医院>)を受講した医院様のその後の取り組みを取材する連載シリーズ。第1回目は、福井県福井市 うちやま歯科クリニック 内山盛嗣院長にお話を伺いました。

■大学で小児歯科を目指された理由について教えてください

大学時代に専門的な分野で技術を磨きたいと思ったのがきっかけです。子どもが特別好きなわけではなく、どちらかといえば苦手だと思っていました。その苦手意識を克服しようということで大学病院小児歯科を選びました。ところが、いざ取り組んでみると意外に楽しくて気づいたら小児歯科専門医になっていました。もう20年以上前になりますが、その当時は、非協力のため一般歯科では治療できない患児の紹介が多く、多数歯重傷う蝕のた

■現在、クリニックでは小児のみを診療されているのですか

いいえ。一般の患者さんも診ています。大学病院を退職した後は、一般歯科を勉強したかったので、高齢者の訪問診療を精力的に取り組んでいるクリニックに勤務しました。その後やはり子どもを中心に診療したかったので、子どもメインですが成人も診療するクリニックに勤務しました。2014年のクリニック開業当初は、近隣の成人の患者さんを診ることが圧倒的に多かったです。その後、だんだん小児歯科専門医と認知されるようになり、他院からの紹介も増えて現在は半数以上が小児の患者さんになっています。

■『あすなろメソッド アドバンスコース』受講の経緯について教えてください

大学病院小児歯科在籍中に、佐野正之先生が非常勤講師で来られていて、富山にあるあすなろ小児歯科医院を見学させていただいたこともありました。佐野先生はその当時から予防中心の診療システムでされていたのですが、私はまだ歯科医師になりたてで治療技術もない状態でしたので、“どうやったらうまく治療できるか”という思いのほうが強く、佐野先生の考え方がまだ理解できなかったのだと思います。その後臨床経験が増えるにつれて、小児からの予防の大事さを痛感することが多くなっていました。そして予防を中心にした歯科医院の開業を考えていたところ、2013年に東京で「あすなろ王国物語 第一章(ベーシックコース)」が開催されると知り、飛んでいきました。それからは開催されるたびに毎年のように足を運んでいます。 その後、2019年に初めてアドバンスコースが開催されることになり、もちろんそちらにも参加しました。以前に見学した頃から、佐野先生のスタイルを完璧に真似ることは難しいと思っていましたが、少しでも自分の臨床に役立つことがあれば吸収したい一心で、現在も都合のつく限りセミナーには参加して佐野先生から教えていただくようにしています。

『 あすなろメソッド アドバンスコース』の様子
  • あすなろ小児歯科医院内で行われた実際の診療実習の様子
    あすなろ小児歯科医院内で行われた実際の診療実習の様子。内山ご夫妻の姿も見ることができる。
  • 佐野正之院長によるレクチャーの様子
    佐野正之院長によるレクチャーの様子。
  • 小児歯科用顎模型を使った形成実習の様子
    小児歯科用顎模型を使った形成実習の様子。

■『あすなろメソッドセミナー』とは実際どのようなものなのでしょうか

毎年開催されているベーシックコースでは、あすなろ小児歯科医院が実際にどのように運営されているのか、そのコンセプトや取り組みを紹介することが主な内容ですが、同じテーマのセミナーでも毎年少しずつブラッシュアップされていて、受講するたびに新たな学びや発見があり、飽きることがありません。何より常に進化を続ける佐野先生のバイタリティに圧倒されながらも、何度も繰り返し聴くことで少しずつ自分の血肉になっていったように思います。
具体的な内容としては、小児歯科の置かれている現状や、小児歯科に特化した新たな予防システム「あすなろメソッド」と一般的な予防法との違いについて、さらに「あすなろメソッド」を構築するうえで必要なポイントや運用方法についてなど、実際にあすなろ小児歯科医院で実施されている手法についてレクチャーしていただけます。
一方、「アドバンスコース」は、計4回(6日間)にわたり、東京都内・モリタ東京本社・モリタ有明オフィス・あすなろ小児歯科医院の4ヵ所で行われました。内容は「あすなろ予防システム」やスタッフ教育に関する講義、CR・シーラント充填実習のほか、ロールプレイングや受講者同士のディスカッションなど、実際の臨床に落としこんだ、より詳細で実践的な内容になっています。

■『あすなろメソッド アドバンスコース』を受講することで得た“気づき”があればお聞かせください

予防歯科を取り入れていくうえで定期的な来院を促すためにはどうすればいいのか、やはり小さいお子さんや保護者の方が自宅で必要十分な口腔ケアを毎日続けるのはかなりの負担ですし、実際に実践するのは難しいと思います。そこを定期的に来院いただくことで私たちプロがキチッと管理できれば、お子さんも保護者の方も楽になりますし、結果として口の健康も維持できる。その考え方にはとても共感を覚えました。
歯科医院に行って「自宅でしっかり管理してあげないとダメですよ」と言われて悩んでしまう保護者の方も多くて、それを「うちの医院でしっかりケアしてあげるから、お母さんは無理しなくていいですよ」と言ってあげると、次の来院が「できれば行きたくない」から「できるだけ早く行きたい」に変わるわけです。佐野先生に教えを受けるまでは、私もどちらかと言えばお子さんや保護者の方にセルフケアを強要することが多かったように思います。そこをどんどん変えていくことで患者さんの再来院の割合は目に見えて増えてきたと感じています。

■患者さんに定期的に来院してもらう秘訣とは何でしょう

秘訣と言えるほどのものは特にありませんが、当院では初診の患者さんには治療に入る前に必ず面接の時間を設けて、歯科医療の現状や口腔内の状況、考えられる治療の選択肢やリスク、コストなどを丁寧に説明するようにしています。さらに、診査の際にはもちろん視診や触診、口腔内写真撮影などに加え、ダイアグノデント ペンなどの検査装置を使って客観的なデータを蓄積しながら経過を診るようにしています。そうした取り組みは次のスムーズなアポイントに繋がるモチベーションになっていると感じています。ダイアグノデント ペンの測定方法についても、マニュアルに従って正確に測定するのと、いい加減にするのとでは値が全然変わってきますし、プラークの有無にも非常に影響されます。できるだけクリーニングして唾液を排除した状態で毎回測定していかないと、測るたびに条件が違うようでは信頼できるデータにはなりません。その辺りは常に気をつけています。検査の結果、疑わしい部分があって、その時は経過観察で済んだとしても、次回どうなっているかは必ずチェックします。前回の結果より悪くなっているようなら、その理由を探りながら今後の注意点など時間をかけてお話しするようにしています。そうした地道な取り組みが、結果として定期的な来院に繋がっているのかもしれません。

  • うちやま歯科クリニックの外観
    JR福井駅からクルマで10分ほど。福井市円山町に「うちやま歯科クリニック」はある。
  • 保護者の方への治療面接の様子
    保護者の方への治療面接の様子。地域の歯科医療の現状やお子さんの口腔内の状況や治療の選択肢などを丁寧に説明する。
  • 3人のお子さんを連れて来院したお母さん
    3人のお子さんを連れて来院したお母さん。「ここではむし歯がなくてもブラッシング指導やフッ素塗布などの予防処置をしてくれるので安心です」。
  • 他院からの紹介で遠方から車で40分ほどかけて通院しているという患児の保護者
    他院からの紹介で遠方から車で40分ほどかけて通院しているという患児の保護者。「怖がって全く治療できなかったのが、ここでは泣かずに治療を受けてくれます」。
  • 検査データの状況を確認する様子
    定期健診の間隔は患者さんの都合や検査データの状況に応じて相談しながらお互いに無理のないように決めている。
  • 治療の様子
    取材中、親子連れで来院する来院者の姿が夜まで途切れることなく続いた。

■小児の予防歯科を成功に導くヒントがあれば教えてください

お子さんの口に関して(特に乳幼児)疑問があってもどこに相談したらいいのかわからない保護者の方って意外に多いです。「歯医者はむし歯ができて初めて行くところ」というイメージがまだ若いお母さん世代にも色濃く残っているのかもしれません。さらに、共働き率が高いという状況もあります。佐野先生のクリニックがある富山(57.1%:全国3位)もそうですが、福井は全国1位(60%:2017年現在)なんです。ですから、小学校や中学校のお子さんを予防のために定期的に歯科医院に連れて行くという意識自体がこれまでほとんど定着していない、または難しいという可能性もあります。初診面接の際に、そうした現状や福井の12歳児のう蝕を持つ者の割合の高さ(平成28年度で全国ワースト3位)や一人あたり歯科医療費の低さなどの実際のデータをお見せして、定期的なメインテナンスの重要性をご理解いただくようにしています。その甲斐もあってか、少しずつ来院する患者さんの意識も変わって来ている手応えは感じられるようになりました。
ただ、保護者の方が何年にもわたってお子さんを歯科医院に連れて来てもらうためには、医療技術だけではもの足りない。「歯科医院=怖いところ・痛いことをするところ」というイメージから「楽しいところ・夢がいっぱいあるところ」という、佐野先生がおっしゃる「魔法」が必要になってきます。私もセミナーを受講するなかで、あすなろ小児歯科医院を参考に感動体験を提供するアトラクションのようなものを考えたこともありましたが、現状ではスタッフ不足の現状もあり、まだ計画を練っているところです。

■診療の様子を拝見して、お子さんへの対応がとても丁寧に感じました

私は最初から小児歯科をメインでやってきましたから、これが当たり前で他の先生方とどこが違うかは分かりません。成人の治療でも同じかもしれませんが、“いかに子どもに信用してもらえるか”ということは考えています。子どもは敏感ですから、上辺だけの言葉で「痛くないから」と言ってもまず信じません。一人の人間として誠心誠意本気で接する。例えば、「僕の言うことを聞いてくれたら、君の言うことも必ず聞くから」と治療前に約束して、それをお互いが必ず守ることで信頼関係が生まれる。痛みで手を挙げなくても目を動かしたり少しでもいつもと違うところがあれば「いやな感じがした?」と聞いてあげる。「この先生に任せたら絶対安心だ」ということが分かれば、みんなお利口に口を開けてくれます。3歳を過ぎた子どもを抑制しながら治療することはまずありませんし、もし協力状態が悪くて抑制したとしても、話しながら治療して途中で抑制を外していきます。
子どもはみんな痛かった経験や、体験したことのない恐怖で泣いています。だから今後何のために何をするのかを理解できるように教えてあげます。初回には歯科衛生士が慣れるためにトレーニングを行います。最初は泣いていた患児でも2回目からは治療しても大丈夫です。でもできるからと言って本当はう蝕の治療はしたくないんです。治療をしなくていいように予防をしたい。どうしても治療が必要な時は嫌な思いをさせずに、最善を尽くしてあげたいと思っています。

  • 光学式う蝕検出装置「ダイアグノデント ペン」を活用したう蝕診査の様子
    光学式う蝕検出装置「ダイアグノデント ペン」を活用したう蝕診査の様子。常に信頼性の高い検査値を検出するためには、口腔内の環境を整えてから行うなどの細かな配慮が欠かせない。
  • 治療の様子
    治療の際はほとんどのケースでラバーダムを活用する。防湿・誤嚥防止・口腔内の安全確保には欠かせないアイテムの一つ。
  • 笑気吸入鎮静法を使った治療の様子
    笑気吸入鎮静法を使った治療の様子。不安や恐怖心の強い患児に安全性の高い笑気ガスを使用することで痛みに対して鈍感になり、リラックスした状態で受診できる。
    • 話して見て触って慣れさせるTSD(Tell Show Do)法の様子
    • 話して見て触って慣れさせるTSD(Tell Show Do)法の様子
    話して見て触って慣れさせるTSD(Tell Show Do)法は小児歯科では一般的なテクニックとされ、治療や器具の意味を理解することで恐怖心を和らげる効果がある。
  • トレーニング後の施術の様子
    治療前のトレーニングで院内の雰囲気やスタッフにも慣れると、お利口に口を開けてくれる。

■現状の課題、今後の抱負についてお聞かせください

課題としては慢性的なスタッフ不足。これは開業以来ずっと抱えている問題です。去年よりも患者さんは増えているのにスタッフが足りず、予約が入らなくなっていてかなり深刻です。スタッフが頑張ってくれているので何とかなっている感じですね。将来的に小児の予防をもっと強化していきたいですし、地域への取り組みなどやりたいことはたくさんあります。
佐野先生ほどのパワーはありませんが、とにかくあすなろメソッドを理解して実践していくことによって子どもたちからう蝕を減らし、メインテナンスだけで来院してもらえるような予防歯科の流れを浸透させていきたいですね。

■数々の貴重なお話をありがとうございました。

  • 内山院長と歯科衛生士として診療をアシストする奥様
    歯科衛生士として診療をアシストする奥様には、欠くことのできないパートナーとして大きな信頼を寄せていることが、取材を通して常に伝わってきました。

佐野正之先生からのメッセージ

厚労省は令和2年度診療報酬改定で「予防」という言葉の代わりに「継続的管理」という表現で日本の歯科医療を治療型から予防型へと大きく変換しようと働きかけています。行政も一般社会の人たちも皆、歯科界に「予防」を望んでいますが、それを担うべき我々歯科医たちは「削ってナンボ」と心の底では思っています。そのため予防といえば定期健診→疫病発見→治療の早期発見・早期治療型が一般的となっており“疫病発見のための予防?”が日本の予防歯科の現実といえるのではないでしょうか。
私は悪戦苦闘しながら、20年間予防に取り組んできた結果、ようやく予防の本質がみえるところまでたどり着きました。そして、本当の予防を日本全体に広めたいという思いから、モリタの方々と一緒に毎年全国でセミナーを開催してきました。受講者の中から「ぜひ自分も予防型歯科医院へ転換したい」という声が多くあがり、昨年からそうした先生方向けのアドバンスコースを開催しはじめました。
アドバンスコース受講の8割の先生方が実際に予防型歯科医院への転換に踏み切られました。その1人の内山先生も、日本の子どもたちの口の中からう蝕をなくしたいという熱い想いをお持ちの先生です。読者の皆様には、ぜひ内山 先生のあゆみを一読してください。

デンタルマガジン 173号 SUMMER