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DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
Er: YAG レーザーを用いた歯髄保存 ~「Erwin Adverl EVO」と「Bio MTA」、「 スーパーMTA ペースト」を使用した臨床~
福岡県北九州市 つは歯科医院 津覇 雄三

キーワード:ステップワイズエキスカベーション/Bio MTAセメント/スーパー MTA ペースト

■目 次

■はじめに

歯を長期保存するためにはできる限り歯髄を保存したいと考える。日常臨床において深部象牙質に達したう蝕を徹底的に除去すると抜髄せざるを得ない症例に直面することがある。
当院ではこのような症例に対し、保存学会ガイドラインに基づきステップワイズエキスカベーションを積極的に行っている。また、レーザーにおける殺菌効果や歯髄の修復象牙質促進効果は、歯髄保存においてとても有効であると考えている。
今回はEr:YAGレーザーを用いて歯髄保存を行った症例を提示して、少しでもEr:YAGレーザーの今後の臨床の幅を広げていただければと考えている。

■急性う蝕と慢性う蝕の考え方に基づいたステップワイズエキスカベーション

東京医科歯科大学の総山らの論文1、2)以来、グローバルスタンダードなカリオロジーの考えは根本的には未だ変わっていない。特に急性う蝕は細菌の感染より脱灰が急速に進むため、う蝕検知液でう蝕を削っていくと境界不明瞭なことから、直接削っていくと露髄の危険性がある3)。急性う蝕か慢性う蝕かの臨床的確定診断は難しいが、歯髄を積極的に残したい若年者には急性う蝕が多く、歯質の削りすぎには注意すべきである(図12)。よって当医院ではステップワイズエキスカベーションを行って歯質の再硬化、再石灰化を行いながら、う蝕除去を行っている。

    • 急性う蝕の写真
      図1 急性う蝕
    • 慢性う蝕の写真
      図2 慢性う蝕
    急性う蝕と慢性う蝕の違い(失敗しやすい歯髄保存療法 須田英明、興地隆史らより改変引用)慢性う蝕の場合、う蝕が緩やかに進んでいくため、多菌層、寡菌層、先駆菌層、混濁層、透明層、生活反応層と割と明瞭に分けることができ、う蝕と健全歯質の境界は明瞭である。これに対し、急性う蝕は急激にう蝕が進行し、細菌感染より脱灰が急激に進む上に、完全な層にはなっておらずう蝕と健全歯質との境界が不明瞭なため、う蝕を削るときには注意しなければいけない。

■象牙細管からの細菌の侵入

近年、リクッチらは深部う蝕において歯髄に象牙細管からの細菌の侵入があることを報告している4)。少し総山らの考えとは異なる部分もあるが、歯髄の炎症の波及はX線や症状では判りにくいと考える。よって、直接覆髄での対応も必要となっていると考える。筆者は一回で感染を取り、直接覆髄するやり方を否定するわけではないが、歯髄が健全な場合には、なるべく断髄は避けたいと考えている。直接覆髄を行った際、この歯髄には炎症があったのだろうか?切削の刺激により炎症が起こったのではないだろうか?など露髄した際にも常に考えながら臨床を行うべきであると考えている。ただ、感染歯質を取り除くことに関しては、同じである。
よって間接覆髄であっても、直接覆髄であってもできる限り歯髄への刺激を少なくするため、レーザーやエキスカベータで慎重にう蝕除去していく必要があると考えている。感染が大きく途中で露髄し、直接覆髄に移行する症例もあるが、当院では自発痛のない症例に限れば、ステップワイズエキスカベーションにて再硬化、再石灰化して治癒する割合が多いと実感している。

<症例供覧>

まず典型的な急性う蝕の症例を提示する。
<症例1>
患者:22歳男性
主訴:左下の歯が時々しみる
初診時口腔内写真およびX線写真を示す(図34)。
X線写真で歯髄に近接したう蝕による透過像が見られた。冷水痛(+)温水痛、自発痛はなく、歯髄電気診での反応は見られた。急性う蝕と診断し、歯髄保存療法を行うこととした。以下に当院におけるステップワイズエキスカベーションの手順を説明する。
エナメル質をタービンで取り除き、暫間充填の辺縁封鎖を考え、エキスカベータにて周囲側壁のう蝕をできる限り取り除いていく(図5)。歯髄に近接した部分は柔らかい部分だけを可及的に取り除いて、HY剤にて裏装を行う(図6)。HY剤の硬化を確認後、CRにて上部に暫間修復を行い、一回目を終了する。
その後、1~2週間後にX線写真にて経過観察を行い、歯髄の状態、う蝕の状態、CR充填の確認を行う。同時に歯髄電気診での歯髄の生死の確認も行う。
その後、6ヵ月後にリトライし、徐々にう蝕を除去し、同様の処置を行った。2回のステップワイズエキスカベーションを行い、初診から約1年後のX線写真を示す(図7)。
う蝕と歯髄との間に一層の明瞭な透過像が見られる。う蝕検知液で染まらないこと、最終硬化を確認し(図8)、Er:YAGレーザー照射後、BioMTAセメント(BioMTA社)を裏層し、グラスアイオノマーセメントを充填、上部にはクリアフィルマジェスティESフローを充填した(図9)。
術後のX線写真を見ると歯髄も問題なく、安定している(図10)。

  • 初診時口腔内写真
    図3 初診時口腔内写真。
  • 初診時X線写真
    図4 初診時X線写真。歯髄に近接した透過像が見られる。
  • う蝕検知液で染色し、周囲側壁のう蝕は除去し、歯髄側のう蝕は可及的のみ除去した写真
    図5 う蝕検知液で染色し、周囲側壁のう蝕は除去し、歯髄側のう蝕は可及的のみ除去した。
  • HY剤で裏装を行い、硬化後CR充填を行った写真
    図6 HY剤で裏装を行い、硬化後CR充填を行った。
  • 1年後のX線写真
    図7 1年後のX線写真。脱灰象牙質が再硬化しているのがわかる。
  • 再硬化の状態
    図8 再硬化の状態。
  • 最終充填後の口腔内写真
    図9 最終充填後の口腔内写真。
  • 最終充填後のX線写真
    図10 最終充填後のX線写真。歯髄は安定している。

■Er:YAGレーザーの深部う蝕除去における活用の有用性

1. う蝕除去

う蝕除去を行う際、タービンを使用する方が切削効率が良く、日常臨床では頻繁に使用されているが、回転切削器具と比較すると、レーザー照射ではスメアー層が形成されないため、感染歯質切削後の象牙質に残存する細菌も少ないことが証明されている5)。また、回転切削器具により歯髄に対する刺激は歯髄に炎症を引き起こすため、十分配慮しないといけないと考えている。Er:YAGレーザーは、生体組織に対する蒸散能力が高く、表層のみに反応が起こるため刺激が少ない。当院では、特に歯髄近くの深部う蝕を切削する際、歯髄に対する刺激の軽減、殺菌効果、歯質の削りすぎを防止できることを考え、Er:YAGレーザーを使用している。Erwin Adverl EVO(モリタ)はチップのバリエーションも豊富で、う蝕除去の際にはCシリーズのチップを出力、太さを考えながら、象牙細管の走行に対して斜めに使用することにより、刺激も少なく蒸散することができる。また器具の届きにくいエナメル象牙境に広がった周囲側壁のう蝕の徹底的除去がしやすいため、当院ではステップワイズエキスカベーションの精度を上げるために使用している。

2. 歯髄の修復象牙質促進効果

レーザーの持つ光科学作用として創傷の治癒が促進されることは十分証明されている。この考えから、いろいろなレーザーで修復象牙質の形成が促進されることが論文で報告されている6)。また、その作用は象牙質窩洞上での照射でも誘導することが証明されている7)。作用機序については、未だ解明されてはいないが、明確なレーザーの波長や出力が解明されていくと今後さらなる臨床応用が期待できる。

3. 直接覆髄におけるレーザー断髄

歯髄組織の出血は直接覆髄処置の予後に大きく影響する。レーザーによる止血効果は断髄時に有効であると考える。薄い変性層は形成されるがレーザー照射面に水酸化カルシウムを塗布することによってその後硬組織が形成された報告もある8)
Er:YAGレーザーは、他のレーザーと比較して、変性皮膜を薄く形成することができるため、歯髄組織内の細菌を含めた炎症部分を選択的に取り除くことができれば、直接覆髄の成功性を高めるツールとして今後十分期待できる。

■MTAセメント

 MTAセメントは、PH12.5という高いアルカリ性を水酸化カルシウムより長期間持続でき、そのため持続的抗菌作用が強いという利点がある。また、優れた象牙質形成誘導能のため、直接覆髄、間接覆髄には現在欠かせない材料であると言える。当院でも患者さんに自費治療が許されれば頻繁に使用している。
当院におけるMTA セメントとEr:YAGレーザーを用いた症例を提示する(図1115)。

  • 初診時口腔内写真
    図11 初診時口腔内写真。
  • 初診時X線写真
    図12 初診時X線写真。
  • マイクロスコープ下にてEr:YAGレーザーによるう蝕除去(C600F、20pps、30~40mj)の写真
    図13 マイクロスコープ下にてEr:YAGレーザーによるう蝕除去(C600F、20pps、30~40mj)。
  • 最終充填後の口腔内写真
    図14 最終充填後の口腔内写真。
  • 最終充填後のX線写真
    図15 最終充填後のX線写真。歯髄は安定している。
  • 図1115
    MTAセメントとEr:YAGレーザーを用いた歯髄保存
    冷水痛(+)温水痛、自発痛はなく、歯髄電気診での反応は見られたので、Er:YAGレーザーで周囲側壁のう蝕をできる限り取り除いていく。HY剤にてステップワイズエキスカベーションを行い、徐々にう蝕を除去していった。マイクロスコープ下にてEr:YAGレーザーにて慎重にう蝕除去を行い、最終の底部硬化、カリエスの除去を確認し、MTAセメントにて裏装を行い、スーパーボンドにて裏装し、CR充填を行った。

■スーパーMTAペースト

 一般的なMTAセメントは水と反応して硬化するタイプが多いが、水硬性のMTAセメントの欠点は、硬化に時間がかかりすぐに次の処置に移れないことや、水分があるため上部をCRで修復する際にCRとの接着性がないことが挙げられる。
今回使用したスーパーMTAペースト(サンメディカル社)は、スーパーボンドと同じく重合開始剤にTBB(トリ-n-ブチルボラン)を用いているため、高湿度下においても高い重合率を示す。
またResin-modifiedMTAであるためCRとの接着性もあり、初期硬化を待たず速やかに次の修復処置に移れるのも便利である。
スーパーMTAペーストは象牙質との界面にレジンタグを形成するため高い象牙質封鎖性を有する。したがって、歯質が薄く広範囲に象牙質形成を促したい症例の最終裏層材として使用したい。この場合、充填直後はペースト自体が柔らかいため、スーパーボンドを一層塗布し、その上にCRを築盛することで容易に一体化させることができる。スーパーMTAペーストは完全に硬化しても持続的にカルシウムイオンを徐放することが論文で証明されている9)

<症例供覧>

スーパーMTAペーストを用いた症例
<症例2>
患者:21歳女性
主訴:歯が折れた
初診時口腔内写真を図16に示す。冷水痛(+)温水痛、自発痛はなく、歯髄電気診での反応は見られたので、MTAを塗布し、グラスアイオノマーセメントで覆い、仮形成を行い(図17)、テンポラリークラウンを装着した。その後、生物学的幅径、フェルール獲得のための若干の矯正的挺出を行った。
初診から3ヵ月後の状態(図18)。再度ステップワイズエキスカベーションを行う。その際、修復象牙質促進を期待しEr:YAGレーザーを照射してから再度MTAを塗布し、3ヵ月後リトライを行う(図19:動画で確認)。
初診から6ヵ月後の状態を図20に示す。再石灰化が確実に起こっているのが分かる。感染を取り除いたのを確認して、MTAを塗布し、その上にスーパーボンド、バルクベースハードを積層し、CRにてコアを形成した(図2122)。その後、歯髄が安定しているのを確認し、最終補綴物をセットした(図23)。
初診時のX線写真と術後のX線写真を示す(図2425)。
現在は安定している。今後経過観察をしていきながら長期的に見ていきたいと考えている。

Er:YAGレーザーとMTAによる歯牙の状態変化

  • 初診時の状態
    図16 初診時の状態。残根状態ではあるが歯髄反応が見られた。自発痛もなくX線写真でも一層の象牙質の不透過像が見られたため歯髄保存に踏み切った。
  • Er:YAGレーザー照射後(PSM600T、20pps 30mj)、MTAを塗布し、経過観察を行った写真
    図17 Er:YAGレーザー照射後(PSM600T、20pps 30mj)、MTAを塗布し、経過観察を行った。
  • 初診から3ヵ月後の状態
    図18 初診から3ヵ月後の状態。Er:YAGレーザーにて慎重にう蝕を取り除き(PSM600T、20pps30mj)、再度MTAを塗布し、経過観察を行った。
  • 裏装前のEr:YAGレーザー処置の写真
    図19 動画で確認
  • 初診から6ヵ月後の状態
    図20 初診から6ヵ月後の状態。確実に再石灰化しているのが分かる。
  • MTAを塗布し、その上にスーパーボンド、バルクベースハードを積層し、CRにてコアを形成した写真
    図21 MTAを塗布し、その上にスーパーボンド、バルクベースハードを積層し、CRにてコアを形成した。
  • 支台歯の最終充填の模式図
    図22 支台歯の最終充填の模式図
  • 最終補綴物セット時の口腔内写真
    図23 最終補綴物セット時の口腔内写真。現在症状もなく、安定している。
  • 初診時X線写真
    図24 初診時X線写真。
  • 最終のX線写真
    図25 最終のX線写真。

■まとめ

 昨今ではマイクロスコープや高倍率のルーペを用いた拡大診療が当たり前になってきており、筆者自身も日常臨床で常用している。肉眼では見えなかったものが見え、肉眼ではできなかった繊細な処置が可能になることで、治療の幅や質が向上していると考える。
クラックの存在を疑い発見できるようになってから、ずいぶんと自身の臨床が楽になった。
Er:YAGレーザーの使用法も、う蝕除去だけでなく、メラニン色素除去、歯周治療、根管洗浄、インプラント周囲炎など使用用途が多いため、一般開業医にとっても大変有益な道具であると言える。レーザーの歯髄に対する影響や歯髄の炎症評価、具体的な使用方法などまだまだ解明されていないことは多いが、患者さんに対する低侵襲な治療とレーザーによる細胞の活性化、殺菌作用などの効能を考えると、今後レーザーを用いた臨床は、う蝕治療だけでなく様々な臨床分野でより活用されていくと考える。
また、MTAセメントの普及により、歯髄保存の臨床がより確実に行えるようになったと言える。接着性がないことや硬化に時間のかかることなど欠点もあるため、いろいろな特性を持った製品が今後開発されると考えられるが、的確な診断と丁寧な処置を行い、材料の特徴を十分把握しながら使用することで、十分良い結果を得られると考える。これからさらなる材料の進歩とメソッドの確立を期待する。
現在、研究段階ではあるがMMP-3、歯髄幹細胞を用いた歯髄の再生治療も行われており、何年か後には、我々の臨床でも使用されるようになるであろう。歯髄保存は今後より発展していく臨床分野であると考えられる。
今回、Er:YAGレーザーを用いたステップワイズエキスカベーションを行った症例を紹介したが、成功の鍵は患者さんとの信頼関係を築き、長期的に観察する医院作りが最も重要であると考えている。患者さんに安全で低侵襲な治療を提供するツールとしてもEr:YAGレーザーはとても有用であると考えている。

参考文献
  • 1) Fusayama,T., Okuse, K. and Hosoda, H.:Relationship between hardness, discoloration and microbial invasion in carious dentin. J.Dent.Res., 45:1033-1046,1966.
  • 2) 奥瀬孝一:ウ蝕象牙質の硬さと着色および細菌侵入との関係
  • 3) 失敗しない歯髄保存療法 須田英明、興地隆史
  • 4) リクッチのエンドドントロジー Domenico Ricucci Jose F.Siqueira Jr 監訳 月星光博 泉 英之 吉田憲明 クインテッセンス出版
  • 5) 高橋雄介、吉岡靖介、朝日陽子、他 う蝕象牙質除去後の残存細菌にEr:YAGレーザーが与える影響 日歯保存誌、56:1-8、2013.
  • 6) 長澤明範:レーザー照射に伴う歯髄組織の反応性の変化とその基礎的検討について、日本レーザー医学会誌、5:413−416、1985.
  • 7) Promklay A, Fuangtharthip P, Surarit R, et al: Response of dental pulp cells to Er:YAG irradiation. Photomed Lazer Surg, 28 : 793-799,2010.
  • 8) Towe TT, Kato J: The comparative histopathological studies of plupotomized pulp tissue of the developing rat molars with He-Ne laser and Nd:YAG laser irradiation. Ped Dent J,6 : 69-76, 1996.
  • 9) Chidzuru Inami, Yoshihiro Nishitani, Naoki Haraguchi and Shinichi Itsuno: Evaluation of the Solubility, Calcium-Release Ability, and Apatite-Forming Ability of a Novel Chemically Curable Mineral Trioxide Aggregate Material. Jourrnal of Hard Tissue Biology 28(3) 273-280, 2019.

デンタルマガジン 173号 SUMMER