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174号 AUTUMN 目次を見る

Clinical Report

インプラント安定指数(ISQ 値)を用いた患者参加型インプラント治療の提案

大阪医科大学医学部 口腔外科学教室 松本 佳輔

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キーワード:ISQ値変化に影響を与える要素/ISQ値変化に関する臨床的観察

目 次

1. はじめに

歯科インプラントの成功率は骨との結合に大きく左右される。しかしながら、実用化されているインプラント体の種類は多岐にわたり、骨との結合はそのインプラント体の種類により、埋入直後から上部構造装着までの期間の骨結合度の変化もまちまちである1)
従来は骨との結合をX線検査や埋入時のトルク値で評価しており、その診断には限界がある2)
近年はRFA(共鳴振動周波数分析)法を用いてインプラント安定指数(ISQ値)を測定する骨結合評価方法が注目され臨床での有効性が散見される3~6)。
本稿では、これまでに当科で行ったISQ値変化に影響を与える要素の検討について紹介する7)とともに、ISQ値を用いた患者参加型インプラント治療を提案する。

2. ISQ値(インプラント安定指数)

共鳴振動周波数分析装置を用いて測定する(図13)。
1~100の数値で表され、この数値が高いほどインプラント体の骨内安定性が高いとされる。簡便な操作で客観的な数値を非侵襲的に得られる点で優れている。
これまでのISQ値に関する過去の報告8~11)からISQ値に応じた治療プロトコルが推奨されている(図4)。
当科では1次手術時、2次手術時、上部構造装着時、メインテナンス時にISQ値の測定を行い、得られた数値を患者と共有している。
1次手術時には初期固定を評価する指標の1つとして、最適な埋入方法の選択に、2次手術時には荷重負荷時期の検討に用いている。
また、経時的なISQ値の変化を患者に示すことで、インプラント治療に対する理解を深めることができる(図5)。

  • [写真] 歯接触分析装置オステルⅠDx
    図1 歯接触分析装置オステルⅠDx(Osstell 、イエテボリ、スウェーデン)
  • [写真] プローブ
    図2 プローブから磁気パルスを発信することで共振周波数を測定しISQ値を得る。
  • [写真] 術中のISQ値測定の様子
    図3 術中のISQ値測定の様子。
  • [図] ISQ値に応じた治療プロトコル
    図4 ISQ値に応じた治療プロトコル9~11)
  • [写真] ISQ値の経時的な変化を患者ごと、インプラント体ごとに記録
    図5 ISQ値の経時的な変化を患者ごと、インプラント体ごとに記録する。

3. ISQ値変化に影響を与える要素の検討方法

 2017年から2018年の間に当科で同一術者が埋入した43本の高温酸エッチング処理を行ったインプラント(SPIインプラント、Thommen、グレンヘン、スイス)直径4.0mmを対象とした(図6)。
すべてを2回法で行い、2次手術の時期は、上顎は埋入後6ヵ月後、下顎は3ヵ月後とした。
検査項目は患者数、性別、年齢、埋入部位、長径、生存率、ISQ値とした。
ISQ値の測定は歯接触分析装置オステルⅠDx(Osstell 、イエテボリ、スウェーデン)を用い、同一者が計測を行った。埋入部位とISQ値、およびそのISQ値変化について統計学的に検討を行った。
患者数は17名(男性9名、女性8名)、平均年齢は60.8±11.6歳であった。
埋入部位は上顎前歯部5本、上顎臼歯部12本、下顎前歯部4本、下顎臼歯部22本であった。
長径は6.5mmが1本、8.0mmが12本、9.5mmが11本、11.0mmが15本、12.5mmが4本であった。観測期間中の脱落症例は認めなかった。

  • [写真] 下顎臼歯部に埋入されたSPIインプラント
    図6 下顎臼歯部に埋入されたSPIインプラント。

4. 結果と考察

埋入された高温酸エッチング処理を行ったインプラント体の骨結合の指標であるISQ値、 ISQ値変化について埋入部位による変化の評価を行った。
2次手術時のISQ値は1次手術時の数値より有意に高く(図7)、今回の43本のインプラントはすべてにおいて良好な骨結合を獲得していることは臨床所見と一致して観察された。
1次手術時のISQ値は上顎より下顎が有意に高い数値を示した(図8)。
ISQ値は皮質骨の骨密度の影響を受けるという報告12、13)があり、下顎は上顎に比べて緻密骨から形成されていることが要因の1つと考えられた。このことから初期固定においては、解剖学的により緻密な骨構造を有する下顎が有利であると考えられた。これは下顎骨の荷重負荷期間が上顎より短いことを支持するNkenkeらの提言と一致する14)
有意差は認めなかったものの、上顎前歯部、上顎臼歯部は下顎前歯部、下顎臼歯部よりISQ値変化が大きい傾向を示した(図910)。
Duらは、上顎骨には他部位骨と比較して骨形成能や血管新生能を持つ多分化間葉系細胞が豊富に存在することを報告している15)
上顎骨に埋入されたインプラント周囲においては、これらの多分化間葉系細胞が骨形成を促進することで、大きなISQ値変化を示したことが推察された。このことから上顎骨は下顎骨と比較して、インプラント周囲の骨形成能が高い可能性が示唆された。
また他の可能性として、Tsaĭらの報告にあるように、上顎骨は海綿骨が豊富で、緻密骨が多い下顎骨に比較して骨形成に必要な血流を有していることが考えられた16)

  • [グラフ] ISQ値
    図7 1次手術時のISQ値は66.3±11.0(25.0~80.0)、2次手術時のISQ値は72.2±6.7(55.5~80.0)であった(**p<0.01, Mann–Whitney U test)。
  • [グラフ] ISQ値
    図8 1次手術時のISQ値は、下顎は71.4±7.1(50.0~80.0)、上顎は58.5±11.6(25.0~76.0)であった(**p<0.01, Mann–Whitney U test)。
  • [グラフ] ISQ値
    図9 2 次手術時までのISQ 値変化は、上顎は10.0±12.6(−6.0~40.0)、下顎は3.3±7.9(−11.0~29.0)であった(Mann–Whitney U test)。
  • [グラフ] ISQ値
    図10 2次手術時までのISQ値変化は、上顎前歯部は13.3±9.7( 1.5~26.0)、下顎前歯部は−0.3±2.9( −4.0~2.0)、上顎臼歯部が8.6±13.8( −6.0~40.0)、下顎臼歯部が3.9±8.4(−11.0~29.0)であった(Kruskal–Wallis test)。

5. まとめ

高温酸エッチング処理を行ったインプラント43本の1次手術時、2次手術時に測定したISQ値を比較することで、ISQ値変化について臨床的観察を行った。
一種類のインプラントについて、ISQ値を測定することで、より精度の高い骨結合を観察でき、部位による1次手術時の骨結合や2次手術時の骨結合に影響を与える要素を考察した。
インプラント治療において、ISQ値を測定しインプラント体の骨内安定性を経時的に評価することは、歯科医師、歯科衛生士にインプラント体の状態について多くの情報を与え、治療計画の立案に有用である。
また、ISQ値という共通の指標を、医療従事者と患者の間で共有することは、患者のインプラント治療に対する理解を深め、患者参加型医療を推進し、インプラント治療の質を向上する一助となる。

参考文献
  • 1) Trisi P, Perfetti G, Baldoni E, Berardi D, Colagiovanni M and Scogna G. Implant micromotion is related to peak insertion torque and bone density. Clin Oral Implants Res 20: 467-471, 2009
  • 2) Degidi M, Daprile G and Piattelli A. Primary stability determination by means of insertion torque and RFA in a sample of 4,135 implants. Clin Implant Dent Relat Res 14: 501-507, 2012
  • 3) Balleri P, Cozzolino A, Ghelli L, Momicchioli G and Varriale A. Stability measurements of osseointegrated implants using Osstell in partially edentulous jaws after 1 year of loading: a pilot study. Clin Implant Dent Relat Res 4: 128-132, 2002
  • 4) Ostman PO, Hellman M, Wendelhag I and Sennerby L. Resonance frequency analysis measurements of implants at placement surgery. Int J Prosthodont 19:77-83, 2006
  • 5) Meredith N. Assessment of implant stability as a prognostic determinant. Int J Prosthodont 11: 491-501, 1998
  • 6) Meredith N, Alleyne D and Cawley P. Quantitative determination of the stability of the implant-tissue interface using resonance frequency analysis. Clin Oral Implants Res 7: 261-267, 1996
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  • 9) Baltayan S, Mardirosian M, El-Ghareeb M, Aghaloo T, Pi-Anfruns J, Moy P. The Predictive Value of Resonance Frequency Analysis in the Surgical Placement and Loading of Endosseus Implants. AAID Poster, 2011
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  • 13) Balshi SF, Allen FD, Wolfinger GJ and Balshi TJ. A resonance frequency analysis assessment of maxillary and mandibular immediately loaded implants. Int J Oral Maxillofac Implants 20: 584-594, 2005
  • 14) Nkenke E and Fenner M. Indications for immediate loading of implants and implant success. Clin Oral Implants Res Suppl 2: 19-34, 2006
  • 15) Du Y, Jiang F, Liang Y, Wang Y, Zhou W, Pan Y, Xue M, Peng Y, Yuan H, Chen N and Jiang H. The angiogenic variation of skeletal site-specific human BMSCs from same alveolar cleft patients: a comparative study. J Mol Histol 47: 153-168, 2016
  • 16) Tsaĭ GE, Volkov SI, Lavrent'ev PA and Lavrent'ev AA. Blood supply topographic features in maxilla and mandible. Stomatologiia (Mosk) 94: 7-10, 2015 Chemically Curable Mineral Trioxide Aggregate Material. Jourrnal of Hard Tissue Biology 28(3) 273-280, 2019.

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