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Clinical Report

Erwin AdvErL EVO を使用した口腔軟組織の切開、切除の実際

鹿児島市開業 吉嶺歯科 吉嶺 真一郎

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キーワード:Er:YAG レーザー/口腔軟組織/小外科

■目 次

■はじめに

 筆者は2012 年からErwin Adverl EVO(以下EVO)を歯科治療に使用してきた。
今回のテーマである口腔軟組織の切開、切除に筆者がEVOを使用する理由は三つある。
一つ目は「非熱的蒸散を行えること」である。図1に示すように、口腔軟組織の病巣を切除した場合、その周囲組織には熱によるダメージを受けやすい組織が存在する。EVOを使用するとレーザー照射時に発生する熱によるダメージを最小限に抑えられるので安心して手術が行える。
二つ目は「無麻酔下の処置が行えること」である。特に高齢者によくみられる歯頸部歯肉縁下カリエスの治療に辺縁部の歯肉切除が必要な場合が多い(図2)。浸潤麻酔による偶発症発生のリスクを考えると、無麻酔下で切除ができるメリットは大きい。デメリットとして麻酔下で行った場合より出血しやすいことが考えられるが、止血剤を使用すれば止血は難しくない。
三つ目は「術後不快症状の軽減と良好な治癒経過が得られること」である(図3)。EVOを使用した手術後の治癒を観察すると、初期の炎症反応がかなり抑えられ、早く治癒することが多くの症例で認められる。
そこで本稿では「Erwin AdvErL EVOを使用した口腔軟組織の切開、切除の実際」と題し、筆者のEVOの使用法を述べる。術中動画も紹介しているので、参考にしていただければ幸いである。
EVOを使用する環境を図4-14-2に示す。術中はマイクロスコープ(ライカM320-D)に内蔵されているカメラにて静止画、動画を記録している。術前、術後の記録は口腔内撮影用1眼レフデジタルカメラを使用している。

  • EVOによる切除時の写真
    図1 EVOによる切除。周囲歯質表面、歯槽骨に熱的変性はこの8倍拡大視野では認めなかった。
  • 歯肉縁下カリエス、無麻酔で歯肉切除を行っている写真
    図2 歯肉縁下カリエス、無麻酔で歯肉切除を行っている。C400F 20pps 30mJ。
  • インプラント2次OPの写真
    図3 インプラント2次OP。無麻酔で切除、術後不快感なし。治癒経過。
  • マイクロスコープを併用する写真
    図4-1 EVOを使用して治療をする際には可能な限りマイクロスコープを併用している。 

  • 図4-2

■症例1(良性腫瘍摘出)

主訴 下顎前歯舌側の舌感が悪い
下顎右側側切歯舌側歯頸部直下に乳頭状の表面の腫瘍を認めた(図5)。9か月前に受診した際に同部の腫瘍を指摘したが、その際には治療を希望されなかった(図6)。図5図6を比較すると表面形状にやや変化はあるが、腫瘍の大きさにはほとんど変化を認めなかった。そのため、筆者は乳頭種と診断して歯肉・歯槽部腫瘍手術の選択をした。

なぜ腫瘍の切除にEVOを選択したのか

術式を決定する際に、まずEr:YAGレーザーありきではなく、Er:YAGレーザーを使用するメリットを明確にすることが重要である。ここに手用メスとEVOの利点と欠点を列記してみた。
手用メスは短時間で切除できるが、舌側の小さな組織を適切に切除することは難しい。EVOの場合チップの先端より照射されるレーザー光によって切除をしていくので、多少の時間を必要とするが意図した切除が安全にできる。
② 予期せぬ体動により起こりうる周囲の健全組織のダメージのリスクはEVOの方が少ない。
③ EVOは注水下での腫瘍の切除が可能であり、出血による切除面の目視を阻害されることが少ない。
④ EVOは狭い範囲内での不動性の粘膜上皮に対しては、無麻酔で腫瘍切除が可能である。
⑤ 臨床経験上、術後の疼痛はEVOの方がメスを使用した時よりも少ないと思われる。

照射条件の設定をどうするか

図7に照射条件に関係する3つのパラメーターを示す。
① チップの選択
日常、軟組織の切除にはC400Fをよく使用するが、本症例においては腫瘍組織が小さいため、切除幅を最小限に抑えるため、一番手用メスに近い切除感があるS600Tを使用した。
② 操作パネルにある項目
無麻酔における歯肉の切除では、照射出力30mJ(パネル値)、繰り返しパルス数20pps、注水量とエアーは5の表示でスタートをする。筆者はこのパラメーターが最も低侵襲に軟組織を切除できる条件と考えている。特にマイクロスコープの視野の下ではこの照射条件でも軟組織が蒸散されていく様子が確認できる。この照射条件でスタートし、被照射組織の性状によって切除効率が思わしくないと判断をしたら、① 照射出力(mJ)を10mJずつ上げていく、② 繰り返しパルス数(pps)を20ppsから25ppsに変更をする、などを行う。
③ チップ先端の位置関係
外科治療においては、チップ先端は軽く被照射組織に対して接触させている。チップの先端が軟組織内に深く入ってしまうと切除効率が悪くなるので注意している。チップは被照射組織に対して先端での組織反応が目視できる角度を保つようにしているが、切除効率はチップの角度や移動速度の違いで変わってくる。②で決定した条件を変えずに効率よく切除したい場合は、チップと組織のなす角度を目視できる範囲で垂直に近くなるよう立て、逆に浅くゆっくり切除したければ0度近くにまで傾ける。移動速度も早ければ浅く切除できるし、遅ければ深く切除できる。特に無麻酔下での切除はデリケートなチップ操作を心がけている。

術中に考慮したポイント

最初腫瘍周囲の上皮の切開をした。その後、腫瘍直下の結合組織を切除していった(図8)。無麻酔下で行うため、丁寧に時間をかけて行う。切除部位が深くなりチップの先端の目視が困難になってきたら、探針やピンセットを使用して切除部分の組織にテンションをかけ、目視し易い状態を作った(図9)。その後、腫瘍を切除した面のトリミングを、照射出力30mJ(パネル値)、繰り返しパルス数20pps、注水下にて短時間で行った。切除後の露出した部分には非注水下にて照射を行い、止血と血餅の保持のために血液を凝固させた(図10)。図11に術後1日目、図12に術後9日目の状態を示す。術後の不快症状は全く無く、治癒経過は良好であった。現在術後1ヵ月経過し腫瘍の再発は認めないが、今後も継続して経過観察を行う予定である。

術中記録の管理と活用

照射条件等は細かくEVO内にデータとして保存されており(図13)、外部記憶媒体に書き出すことができる(図14)。照射ログと術中動画を比較しながら分析すると様々な要素が見えてくる。図13の①で示す照射は口腔外でレーザー器械の異常がないかのテスト照射を示している。この操作においては周囲に障害を及ぼさない環境下でルーチンに行っている。②の部分では腫瘍周囲の上皮部分を切除している。無麻酔で切除を行う場合、事前に決めたパラメーターが適正であったかの再評価を行っているため、38.2秒という比較的長い照射時間となった。③では②で決めた照射条件で腫瘍下の結合組織を切除していくので切除範囲は広いが、②より短い時間で切除できている。④で示す短い時間の照射の繰り返しは切除面に常にテンションをかけるため、ピンセットの把持部を適正な位置に移動させていることによる。⑤では切除断端部分のトリミングを行っている。下顎前歯部舌側部分は直視しにくく、ミラーを見ながらのハンドピース操作になる。特にミラー下での微細なトリミング操作において、アーウィンのハンドピースとチップの形状は非常に使い勝手の良い形状をしている。⑥は露出した結合組織の表面の止血凝固処置を行っている。この処置もミラーを使い、組織の変性状態を確認しながら、オーバー照射にならないよう注意して行った。このように各ステップのレーザー照射時間を数字で確認することで、自分自身の照射テクニックの再評価が可能となり、その結果自分のレーザー治療の手技を向上させることができると考えている。

  • 術前状態の写真
    図5 術前状態。
  • 9ヵ月前の状態写真
    図6 9ヵ月前の状態。
  • 照射条件を決める3つのパラメーター
    図7 照射条件を決める3つのパラメーター。
  • チップ先端での組織反応をしっかり目視しながら、ゆっくりハンドピースを動かしていく写真
    図8 チップ先端での組織反応をしっかり目視しながら、ゆっくりハンドピースを動かしていく。
  • チップ先端が目視できるよう組織片を器具にてテンションをかけながら展開する写真
    図9 チップ先端が目視できるよう組織片を器具にてテンションをかけながら展開する。
  • 腫瘍切除後止血目的で上皮下結合組織を非注水にて照射した状態写真
    図10 腫瘍切除後止血目的で上皮下結合組織を非注水にて照射した状態。 
  • 術後1日目の状態写真
    図11 術後1日目の状態、術後不快感は全くなし。
  • 術後9日目の状態写真
    図12 術後9日目の状態、瘢痕形成が徐々に認められる。現在経過観察中。
  • EVOに記録されていた照射ログ
    図13 EVOに記録されていた照射ログをわかりやすく改変した。
  • 照射ログデータの取り出しを行う写真
    図14 照射ログデータの取り出し。

■症例2(口唇部粘液貯留嚢胞摘出)

主訴 口唇部の膨らみが気になる
右側下口唇部に5×5×3mmの黒色をした腫瘤を認めた(図15)。既往歴から複数回、同様の腫瘤の発生を認めており、少しずつ大きくなっていったとのことであった。触診にて腫瘤は可動性で下部組織との癒着は認められなかった。腫瘤自体も弾力性があり、再発を繰り返した粘液貯留嚢胞と診断をし、嚢胞摘出手術を行うこととした。
症例1と同様に、Er:YAGレーザーのメリットが本症例でも適応すると判断し、EVOによる非熱的蒸散による摘出術を計画した。今回は摘出物の大きさが大きいこと、上皮下組織の深部まで切除が及ぶこと、血管組織が多い部位であることから、浸潤麻酔下で切除することとした。

術中に考慮したポイント

使用したチップはC400F、照射条件は照射出力30mJ(パネル値)、繰り返しパルス数20pps、注水下で行った。粘液嚢胞摘出手術の要点を以下に示す。まず摘出する嚢胞周囲の上皮のみをEVOにて切開した(図16)。次に摘出部分をピンセットで掴み、嚢胞との境界付近の疎な結合組織をメイヨ剪刀で剥離切除する要領で繊維組織を1本1本切除していった(図17)。1方向からでなく多方向から中心部に向けて切除していった。嚢胞摘出後大きな上皮下結合組織の露出が生じた(図18)。術後の瘢痕拘縮を避けるために縫合を行った。同部位は血管が豊富な組織であるため、縫合による創閉鎖による術後の腫脹が生じることが多い。その点については術前に患者に十分な説明を行った。本症例では、術後3日目までは腫脹を認めたが、その後は良好な治癒の経過をたどった(図19)。現在、術後2年3ヵ月経過したが、粘液貯留嚢胞の再発は認めない。

  • 術前状態写真
    図15 術前状態、粘液嚢胞と周囲組織との癒着は認めなかった。
  • 嚢胞周囲の上皮のみを切開し結合組織を露出させた写真
    図16 嚢胞との境界部を目視する目的で、嚢胞周囲の上皮のみを切開し結合組織を露出させた。
  • 嚢胞をピンセットで把持し、切断する結合組織にテンションをかけてレーザー照射した写真
    図17 嚢胞をピンセットで把持し、切断する結合組織にテンションをかけてレーザー照射した。
  • ほぼ嚢胞摘出が終わった状態写真
    図18 ほぼ嚢胞摘出が終わった状態。比較的大きな上皮下結合組織の露出を認めた。
  • 術後経過写真
    図19 術後経過。術後3日までは軽度の腫脹を認めたが疼痛はなかった。

■症例3 (舌小帯切除術)

主訴 小5になっても子供のようなしゃべり方をする
患児には自覚はなかったが当院スタッフの指摘により受診。初診時、舌尖が下口唇を超えることができない程度の舌の可動制限が認められた(図20)。これらことから舌小帯強直症による構音障害と診断した。

術式の決定

大きな舌小帯の進展を得るには舌尖部にZ-plastyが行われるが、小帯切除術でも機能回復は可能と判断した。術式を決定する際には、以下の2点を考慮した。
① 不意の体動による舌下の血管豊富な組織を傷つけるリスクがある。
② 舌小帯の進展具合を確認しながら、最小限の切除範囲を決定する必要がある。
これらを踏まえて、手用メスよりもEr:YAGレーザーを使用した切除の方が安全であると判断をした。

術中に考慮したポイント

手術に先立ち、術中の舌に対する運動制限を加えるためと、舌小帯に常にテンションをかけるために(図21)、ピンセットで把持する舌尖の小帯付着部に浸潤麻酔を行った。使用したチップはS600T、照射条件は照射出力30mJ(パネル値)、繰り返しパルス数20pps、注水下行った。小帯繊維を1本ずつ切除し、小帯の進展具合を確認しながら切除範囲を決定していった。特に上皮下に見える血管豊富な組織まで切除が及ばないよう気を付けた(図22)。手用メスだと術者の予想を超えて深い部位まで切れてしまうリスクがあるが、EVOでは照射条件やチップの操作を最適化することにより、舌小帯を切除する速さをコントロールでき、安全に切除ができた。十分な進展が得られたら、可能なかぎり露出した結合組織の面積を減らすために、上皮のみを拾って3ヵ所6-0ナイロンで縫合を行った。術後の不快症状はなかった。舌の可動域を維持するために施術直後から舌の進展運動を頻繁に行うように指示を出し術後1週間ではやや瘢痕組織が認められるが(図23)、3ヵ月後には瘢痕組織も認められなかった(図24)。また、舌の進展状態も十分認められ、構音障害も改善をしていた(図25)。

  • 術前の舌小帯の状態写真
    図20術前の舌小帯の状態。
  • 舌尖部をピンセットで把持し、舌の動きを制限し、同時に舌小帯にテンションをかける写真
    図21 舌尖部をピンセットで把持し、舌の動きを制限し、同時に舌小帯にテンションをかける。
  • 舌小帯の繊維性結合組織を、小帯の進展具合を見ながら1本1本切断していく写真
    図22 舌小帯の繊維性結合組織を、小帯の進展具合を見ながら1本1本切断していく。
  • 術後1週間の写真
    図23 術後1週間、小帯切除部位の創は閉鎖しているが、後戻り防止のため、舌の進展運動を指示した。
  • 術後3ヵ月の写真
    図24 術後3ヵ月、初診時に比べて舌尖の小帯付着位置も低く、十分な舌小帯の進展を認める。
  • 術後3ヵ月の写真
    図25 下口唇を超える舌の進展が認められ、構音障害も改善した。

■まとめ

今回は軟組織の切除にEVOを使用した臨床例を提示した。Er:YAGレーザー導入前は、切開、切除処置においても手用メスを選択し、歯科用レーザーの必要性を感じていなかった。
しかし、EVOを使用して外科処置を行うようになって、ほとんどの症例で術後の治癒経過が良好であることを目のあたりにして、その考えは変わった。そのことにより、患者さんとスタッフの笑顔が増えた。
現在ではEVOを使用したレーザー治療は、患者・術者・スタッフの3者にとって魅力的な治療であることを確信している。
最後に参考文献として日本レーザー歯学会雑誌Vol.27, No1, 2016 の「口腔内の創傷治癒を考える」という特集号をあげさせていただく。レーザーを使用した外科治療のエビデンスが記載されているので、ぜひご一読いただきたい。

謝辞
日頃よりご指導をいただいております、篠木毅先生、加藤純二先生、守矢佳世子先生、津久井明先生、長瀬隆之先生、平井千香子先生、大橋英夫先生、中根晶先生、塩谷公貴先生、本稿執筆にあたり多大な協力をいただいた当院歯科衛生士、増田麻美、東望美、野角美穂、木下千聡 に誌面を借りまして感謝の意を表します。

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