DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Seminar Review
ホストの「リスク」に気づく・手を打つ歯周病ケア
東京都調布市 小林歯科医院 歯科衛生士 小林 明子

■目 次

■はじめに

私たち歯科衛生士が従来行ってきた歯周病ケアは、「徹底的なプラークコントロール」による「原因除去」が目的でした。しかし、歯周病の発症・進行とリスクとの関係を学ぶと、「プラークコントロール」の意義は不変でも、ホストの「リスク」や「その重積」に気づくこと、早め早めの介入で歯を失うロードマップに患者さんを乗せないマネジメントが不可欠であるとわかります。今、私たちはリスクにどう向かい合うのか。その視点をまとめます。

■1. 歯周病ケアに活かす「リスク」の視点

①同じ轍を踏ませない

図1a、bは親子です。図1aは22歳、歯周治療中の男性です。口腔内全体が腫脹し、歯周ポケットも深く出血しています。図1bは母親で51歳です。ほとんど歯がありません。31歳の時には全部歯があった方です。息子と同様、早期にケアができていたら救える歯が何本もあったはずです。息子は1年経過後もスッキリしない状態ですが、母親の二の舞にさせないという思いで、全力で守っています。

②バイオフィルムが完成する前に手を打つ

 図2は10歳の女児です。かつての思春期性歯周炎の症状がすでにあります。いち早くこの状況を家族や本人に伝え、まだ幼いこの子のバイオフィルムが完成する前に歯周病細菌のピラミッドが積み上がらないよう策を講じる、家族と共に目を光らせていく姿勢で臨んでいます。

③全身的な影響に早期に気づく

図34は、52歳の女性、喫煙者で重度歯周炎です。左上の6番がどうしても治りません。フラップを開けると骨がボソボソでした(図5)。4年後も完治せず、その間炎症を繰り返していました。ある日その方のひどく荒れた爪に気づきました(図6)。治りにくい原因は喫煙の他にもあるのではないか?全身的な健康問題や免疫力の関与はないだろうか?と考えましたが、その時点では判明しませんでした。その後、ガンがみつかり、現在治療中です。血液検査なども含めた全身の検査をもっと早くに促すべきでした。

④家族的背景や精神のバランスの崩れを過小評価しない

 図7は16歳の男性です。家族5人のうち3人は出血がなかなか改善しないホストです。しかも、一族にはバセドウ氏病、糖尿病、リウマチ、ぜん息と全身疾患が山積しています。この家族的背景に着眼し、この世代からは絶対に歯周炎にさせないという姿勢で臨んでいました。
結果、大学までは順調でしたが、ブランクが生じ 26歳で再来院。会社をやめ、実家に戻っていました。6番の近心にくさび状欠損、歯周ポケットも深く、骨の破壊に至っています。29歳時にはうつ状態で、引きこもりです。炎症の進行が止まりません(図8)。34歳の現在は生活も精神も安定し、十分に磨けています。家族的背景だけでなく、歯周病に対する精神の影響も過小評価できない例です(図9)。

⑤人生の時々で現れるリスクに手を打つ

図10は 49歳の女性で、重度歯周病です。治療後順調に回復し、本人も強い意志で臨み長年良好でしたが、60代になると根分岐部の炎症の再発と根面カリエスが多発してきました。
翻訳家で仕事中の飴がどうしてもやめられない。しかも極端に痩せており、飴で栄養をとっているような生活背景がうかがえました。本人の自覚と頻繁な来院で歯周炎は何とか維持していますが、唾液量も減り根面カリエスがどうしても止まりません(図11)。高濃度フッ化物や専用歯磨剤の使用臼歯部にはサホライドを塗っています。これしか手立てがないのですが、万が一、この方の臼歯が失われれば食事が不自由になり、益々栄養不足でフレイルの引き金になってしまうことが予想されてきます。根面カリエスから歯を守り抜くことが、この方のその後の健康や人生を守ることにつながるという気持ちで臨んでいます。

  • aは息子 22歳、bは母親 51歳の写真
    図1 aは息子 22歳、bは母親 51歳。息子を母親の二の舞にさせてはならない。早期の介入が必要である。
  • 10歳、女児の写真
    図2 10歳、女児。この子の歯周病細菌のピラミッドを積み上げない策が必要である。
  • 52歳女性、喫煙者で広汎性の重度歯周炎の写真
    図3 52歳女性、喫煙者で広汎性の重度歯周炎。

  • 図4 初診から約4ヵ月経過。モチベーションも十分だが喫煙はやめられない。
  • 歯周基本治療から4年後の写真
    図5 歯周基本治療から4年。左上の6番だけがどうしても改善しない。
  • 爪の状態
    図6 爪の状態から全身的な因子に気づいた。

  • 図7 16歳の男性の初診時。成人してから紆余曲折が始まっていった。
  • 29歳の写真
    図8 29歳。会社をやめ、うつ状態で引きこもっていた。
  • 34歳の写真
    図9 34歳、生活を取り戻し、精神的にも落ち着いた。
  • 49歳 女性の写真
    図10 49歳、女性。初診時は重度の歯周炎に罹患していたが、治療後順調に回復。
  • 歯周基本治療後、2017年、SPTの状態
    図11 歯周基本治療後、2017年、SPTの状態。良好な状態を維持していたが、60代になり根面カリエスが止まらない。

■おわりに

人の人生は途切れなく続いています。私たちが歯周病ケアを通し患者さんにお会いするのは年に数回ですが、その方がその間どう過ごしてきたかを絶え間なく聞き取り、足りなくなっているもの、足すべきもの、どうすれば元に戻れるかを患者さん目線で考えていくことが重要です。
私たちの「知識」「技術」「経験」「知恵」をフルに回転させ、一人ひとりの患者さんの生涯にわたる「歯周病マネジメント」を行うこと、これが「ホストケア」であり、今求められる歯周病ケアの姿なのです。

デンタルマガジン 175号 WINTER