DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Seminar Review
脱 PCR! 日々の歯周病ケアの目標は「ホストケア」
東京都中野区 熊谷歯科医院 歯科衛生士 塩浦 有紀

■目 次

■はじめに

人が歯を失う原因の第一位は歯周病です。今日、75歳以上の 8020達成者率は 50パーセントを超え、高齢者の残存歯数が増えています。その一方で4mm以上の歯周ポケットを有する人の割合が増加していること、歯が残っても「噛めない、歯茎が腫れている」という主訴が多いのが現実です。介入なしには、いずれ歯周病で歯を失ってしまうでしょう。それをいかにくい止めるかが今後の課題です。
具体的には、新しい考え方に基づく歯周病ケアの目標を患者さんと共有することです。プラークコントロール+リスクの改善にも思いを馳せつつ、患者さんとワンチームでの歯周病ケアを実践することが大切です。歯周病の新しい考え方での目標はどこがどう変わるのか。本稿で整理していきます。

■1. 患者さんと共有したい歯周病ケアの目標

歯周病ケアの日々の目標とは何でしょう。これまで PCR値を下げること=「プラーク」という目に見えるものにこだわってきた私達ですが、新しい歯周病の考え方を学んだ今、その目標を従来の「細菌の数を減らすこと」から、生体そのものに働きかけていく「ホストケア」にすべきと筆者は考えます。歯肉の腫脹や出血を見た時、「患者さんの体(ホスト)に細胞レベルで何が起きているのか」を想像できる力をつけ、歯周病を進行させないために、ブラッシングや SRPにどのような意味があるかを患者さんに伝え、目標を共有していくことが重要です。以下にその具体的な目標をあげていきます。

a.上皮バリアを守る・早期に元に戻す
歯周病と生体の戦いの最前線は「上皮バリア」です。図1に示すように、歯周病細菌が存在すると、そこからLPS(毒素)がでて、「上皮」の細胞の結合を壊して歯周組織内に入っていきます。そこにマクロファージやサイトカインが出現して炎症物質をだし、炎症が起きます。また、歯周組織には、P.g 菌を始め多くの歯周病細菌が「上皮」から侵入します。菌は歯周組織の細胞内部にまで侵入します。そしてそこに潜み続けホストが弱った時に発症・再発します。
上皮バリアは「歯周組織を感染から守る防御壁」であり、同時に細菌の栄養となる成分の歯周組織からの流失を防ぎます。出血は上皮バリアが破壊されたことを意味しています。血液は歯周病菌の栄養分であるため、放置するとさらなる出血→歯周組織の破壊という悪循環に陥ります。これらを踏まえると、臨床での目標は「上皮を破壊させない」「破壊されてもいかに早くもとに戻すか」であることがわかります。日々のブラッシングや私たちの行うSRPの目標はここにあります。

b.マイクロバイアルシフトを起こさせない
歯周病は細菌感染による疾患です。バイオフィルムの病原性が低ければ問題はありませんが、高い病原性を持ちバイオフィルム内でマイクロバイアルシフト(Microbial Shift)が起きると(SymbiosisからDysbiosisへ)、歯周病が発症します。だからこそ、それを毎日のブラッシングでいかに低い病原性に抑えておくかが重要です。また、患者さんには歯周病ケアは、歯周組織だけでなく、歯を支える骨を守ることにもつながることを伝え、ブラッシングや SRPの目標を共有することでワンチームとしての連携を強めます。

c.歯周組織を「強化」する 図2は、神奈川歯科大学・山本教授のデータです。ブラッシングで歯周組織のコラーゲン産生能は3週目で、繊維芽細胞の増殖能は1週目で上昇する、すなわち、炎症性の細胞の細胞浸潤が低くなっていくという研究結果です。ブラッシングには歯周組織を強化し、細菌の侵入を防ぐ効果も期待できると解釈できます。
図3は、日々とてもきれいに磨いている方です。左上の最遠心には歯周ポケットが4.5mmありますが出血はしません。普段からブラッシングで組織を強化していれば、多少のことでは出血しなくなります。ブラッシングで歯肉を強化することは、「歯周病菌が歯周組織に入れない歯周組織の獲得」につながることを伝えていきましょう。

②良いことを積み重ねる!

脂溶性ビタミンのひとつである ビタミンEには、歯肉上皮のバリア機能と歯周組織修復機能があります。
現在、ライオン歯科材(株)より「Systema Haguki Plus PRO」や「Systema SP-Tジェル」というビタミンE配合の歯磨剤が発売されています。このような製品を全身疾患などのリスクの影響が疑われ、歯肉に炎症がある場合などに歯周組織の細胞間接着を促し、防御力をあげ、修復のスピードを促進する目的で利用することができます(図4)。「あれはだめ、これはだめ」というネガティブなアプローチよりも、良いと思うことをどんどん積み重ねていきましょうというポジティブな提案を患者さんにしていきましょう。

  • 上皮バリア機能の図
    図1 バイオフィルムにマイクロバイアルシフトが起きると、歯周病菌が歯周ポケット内にでていき、LPS(毒素)を出し、上皮の細胞の結合を壊して歯周組織の上皮に入っていく。そこにホスト側からマクロファージやサイトカインがでて、炎症性物質をだすと炎症が起きる。それにより上皮バリアが破壊される。
  • ブラッシングによる結合組織の変化グラフ
    図2 ブラッシングによる炎症性細胞浸潤の低下。(山本教授データ)
  • 4.5mmのポケットがあるが、出血しない症例
    図3 4.5mmのポケットがあるが、出血しない症例。
  • ブラッシングの目的
    図4「Systema Haguki Plus PRO」、「Systema SP-Tジェル」(ライオン歯科材)。ビタミンEが配合され、細胞間接着を早期に促す。歯肉の防御力を高める歯周病予防のための歯磨剤。

■おわりに

プラークに翻弄されることから脱し、歯周組織からの出血の意味、生体で何が起きているかを考える習慣がつくと、PCRの数値に頼らない、プラーク付着の背景にあるものが見えてきます。それが見えると、患者さんを歯周病から守るために必要なことがつかめるようになります。また、歯周病とホストの関係を学ぶと歯周病ケアが最終的に「健康」につながることが自ずと理解できるはずです。日々の歯周病ケアは「歯周組織の改善や予防を通してより高い健康へと患者さんを導く」という大きな目標に通じているのです。

デンタルマガジン 175号 WINTER