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「ニオイ嗅ぎ分け技術」が可能にしたVSC 測定器 Kunkun dental
コニカミノルタ株式会社 ビジネス イノベーション センター ジャパン(BIC Japan)

キーワード:ニオイ嗅ぎ分け技術/VCS臭/歯周病予防への応用

■目 次

■はじめに

私たちコニカミノルタが開発した「ニオイ嗅ぎ分け技術」は、2018年に世界初*の体臭チェッカー「Kunkun body(クンクン ボディ)」を世の中に送り出しました。「Kunkun body」は人間の3大体臭といわれる「汗臭」「ミドル脂臭」「加齢臭」と、不快な口のニオイを検出し、数値としてスマホアプリで可視化することのできる画期的な製品です(図1)。
今回はこの「Kunkun body」で確立した「ニオイ嗅ぎ分け技術」について、また、製品化の第二弾となる「Kunkun dental」で実現した、VSC臭**の分析からその数値化に至るまでの技術についてお話ししたいと思います。

  *2016年12月、コニカミノルタ調べ

**VSCとは、Volatile Sulfur Compounds(揮発性硫黄化合物)の略称。硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイドの3成分 について、呼気中の濃度をppbで表す。

  • 「Kunkun body(クンクン ボディ)」本 と専用アプリの写真
    図1 「Kunkun body(クンクン ボディ)」本 と専用アプリ

■「体臭チェッカー」プロジェクトが発足

オフィスソリューションがメインのコニカミノルタが、新たな市場や事業を創造するために設立したのが、私たちが所属するビジネス イノベーションセンターです。「体臭チェッカー」の開発のきっかけは、その新設部門のメンバーが集まった会議中のふとした会話からでした。一人が「夏になると、自分が臭ってないか気になる」と言い出すと、皆が体臭への不安を口にし始めたのです。調べてみると、体臭を測定する基準も機器も存在していないことが判明しました。そこで、事業としての可能性を探るべく、メンバー間の議論や市場調査を重ねた結果、ビジネスチャンスがあると判断し、開発へと踏み切りました。
手始めに、1個のニオイセンサー(半導体ガスセンサー)を搭載した試作機を製作し、ニオイ検出を試みました。しかし、本来測りたい不快なニオイのみならず、良いニオイにも高い数値で反応し、強弱のみの判定に終始してしまいました。その結果から、ユーザーに満足していただける製品・サービスを実現するためには、ニオイを“嗅ぎ分ける”技術が必要であることに気が付きました。
いろいろと調べていく中で、大阪工業大学の大松 繁客員教授(2015年当時、ロボティクス&デザイン工学部)が、コーヒーやワインの香りを産地ごとに嗅ぎ分ける技術をニューラルネットワークを使って実現していることを知ります。そこで実際にお会いし協力していただきたい旨をお伝えしたところ、快諾していただき、そこから大松教授に加わっていただいての研究がスタートします。

■ニオイ検出のための標準プラットフォームを開発

ニオイを計測し、それを判別していくシステム構築のために、大松教授と共同で、複数のニオイセンサーを搭載したボードを製作しました。ニオイ検出の標準プラットフォームとして活用するべく、そのボードには「HANA (High Accuracy Nose Assist)」と命名します。
ニオイセンサーはニオイを感知すると、電圧で示される出力値が変化し、ニオイを認識できる仕組みになっています。センサーが1つの場合は、ニオイを感知しても判別できるのはその強弱だけでしたが、種類の異なるセンサーを複数搭載した「HANA」の場合は、ニオイ成分の違いによって各々のセンサーの出力値に差異が生じます。その出力波形のパターン(図2)を一つひとつ機械学習させていき、何千回と学習を繰り返すことで徐々にニューラルネットワークが最適化されていき、未知のニオイに対しても最も近似なニオイの種類と強度が精度よく判別できるようになりました。
機械学習に使用するアルゴリズムについても、大松教授と議論の末、多くの候補手法の中から、ニオイ検出において最適と思われるものを選択・採用しました。

  • 「HANA」のセンサーによる出力波形
    図2 「HANA」のセンサーによる出力波形

■定量化に向けて:ニオイ判別のルールを作る

 「Kunkun body」には、「HANA」に搭載した複数のニオイセンサーから、体臭の検出に最適な4個を選択して搭載し、測定対象とする体臭も3種類に絞り込みました。
その後2018年10月に、ファームウェアのアップデートにより「くちのニオイ」を測る機能を追加。しかし、体臭をどのような方法で発生させ、機械学習させるかという課題に直面します。中年男性ユーザーを多数動員してのテスト等は困難なので、実際には体臭の原因成分を溶解した液体を準備し、気化させてセンサーに感知させることを実施しました。「汗臭」の場合はアンモニアとイソ吉草酸、「ミドル脂臭」の場合はジアセチル、「加齢臭」の場合はノネナールが混じった体臭成分の溶液を作り、体臭の強度をその液体の分量でコントロールし、定義付けを行いました。

■目指したのは、「人間の鼻」の構造・感覚

人間の嗅覚は、鼻の中にある嗅覚細胞にニオイが付着するとタンパク質が生成され、それがニューロン経由で脳に伝わってニオイを感じる構造になっています。
私たちが開発した「HANA」、そして「Kunkun body」はこれを模倣したシステムであり、嗅覚細胞に当たるニオイセンサーから受けたニオイに対し、個々のセンサーの反応の違いをパターン学習して、該当するものを見つけて表示する仕組みは、人間の嗅覚と同じ構造です(図3)。
このシステムの利点を十分に使って、嗅覚の鋭敏性よりも“人間の鼻の感覚に近づける”方法論へベクトルを向けたことが、「Kunkun body」の独自性に繋がったと考えています。機械学習によるニオイ検出結果を定義する際に、実際の人間が体臭を感じる度合いについては、官能評価を行い、人間の嗅覚に合わせてレベル付けをしています。このように、より人間の感覚に近い嗅ぎ分けのノウハウを蓄積できていることは、今後の展開にも大きく役立てられるものだと思っています。

  • 人間の嗅覚と同構造のニオイ検出システムの図
    図3 人間の嗅覚と同構造のニオイ検出システム
  • Kunkun dental本体と専用タブレットの写真
    図4 Kunkun dental本体と専用タブレット

■徹底したサービス設計のもとで

2017年7月に実施したクラウドファンディングでは予想を大きく上回る支援をいただき、2018年1月の一般販売開始以降も、ありがたいことにとても多くの方にご利用いただいております。このように多くのお客様に評価していただけているのは、開発の当初から一貫して生活者を想定して綿密に組み立てられたサービス設計があったからと考えています。
安定した数値を得るために、当初は長時間を要したニオイの測定時間を「20秒」に設定し、波形パターンの読取方法を変更したのもユーザーへのサービスを考えてのことでした。また、温度・湿度への依存度が高いニオイを安定して測定できるよう、「Kunkun body」にはユーザーの使用環境によって補正可能な温湿度センサーも組み込まれています。
ニオイの嗅ぎ分け技術を実生活に役立つ形で応用し、研究機関やユーザーの協力を得ながら製品・サービスとしての在り方を常に追求し続けた結果、少人数の開発チームでありながら、「Kunkun body」は通常では考えられないほどのスピードでビジネスとして確立させることができました。

■ニオイ嗅ぎ分け技術の歯科分野への応用

このようにして製品化にたどり着いたKunkun bodyで培った「ニオイ嗅ぎ分け技術」ですが、プロジェクト立ち上げ時に感じていた「ニオイの定量化、可視化によって生まれる新たな市場の可能性」を追求すべく、すぐさま次の製品・サービスの検討を開始しました。
まず私たちが感じていたのが「くちのニオイ」に対する人々の興味関心の高さです。そこから既存の口臭測定器について調査を開始しました。
既にいくつもの製品が世の中に存在し、実際に歯科医院等の医療現場で使われているものの、同時に「導入コスト」や「使い勝手」については必ずしも利用者が満足をしている状況ではないこともわかってきました。既存の口臭測定器はまだまだ一般的に高額で、ごく一部の医院や研究機関でのみ使われている状況を目の当たりにし、また同時に、「もっと気軽に使えて、もっと多くの患者さんに口腔ケアの大切さを知ってもらうための機器であって欲しい」とのご意見も伺いました。
これらの状況から、次に着手すべきは「くちのニオイ」の検出機能の強化であり、具体的には日本人の9割が有しているとも言われる「歯周病」の予防に活用できるような機能の開発であるべきだとメンバーの総意が固まりました。

■Kunkun dentalの誕生

次に目指すべき方向が固まった私たちは、早速何人かの歯科医の方々にご協力をいただき、「Kunkun body」で確立した「ニオイ嗅ぎ分け技術」を歯周病患者の多くの方が有しているとされるVSC臭(硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルサルファイド)の嗅ぎ分けに応用する研究を開始しました。
「Kunkun dental」の開発にあたっては、その精度は当然ながら、限られた診療スケジュールの中でいかに使いやすさを感じてもらい、多くの患者さんに対して提供してもらえるサービスとするか、に重点を置きました。これは当初の私たちの思い、歯科医師、歯科衛生士の方々からいただいたご意見を重視したためです。
完成した「Kunkun dental」(図4)はスリープモードを搭載しており、立ち上げから測定開始まで約2分、測定完了まで約1分という圧倒的短時間でのVSC臭検出を可能にしたこと、呼気の採取方法は患者さんにシリンジを咥えて30秒待っていただくだけの負担の少ない仕様としたこと、より多くの患者さんに使ってもらうため、近い未来の訪問診療の増加までを想定し、充電式の本体とタブレットで稼動する携行性を実現したこと、さらに「見えないものを見える化する」コニカミノルタのDNAを反映した測定結果・経緯の表示画面のデザインにより、歯科医師・歯科衛生士の方々と患者さんの継続的なコミュニケーションが生まれるようなインターフェイスを実現することが できました(図56)。

    • 「Kunkun dental」の測定ステップ1
    • 「Kunkun dental」の測定ステップ2
    • 「Kunkun dental」の測定ステップ3
    • 「Kunkun dental」の測定ステップ4
    • 「Kunkun dental」の測定ステップ5
    • Kunkun dentalの写真
    図5 「Kunkun dental」の測定ステップ。立ち上げから測定開始まで約2分、測定完了まで約1分という短時間でのVSC臭検出を可能にした。
  • 測定結果の履歴確認画面測定結果の履歴確認画面
    図6 測定結果の履歴確認画面

■おわりに

今後の展望として、体臭・口臭といった人のニオイ以外の空間や物のニオイ検出に関連する製品・サービスの開発にも着手していきたいと思います。
「HANA」で培った「ニオイ検出標準プラットフォーム」の技術をベースに、今後もニオイの課題解決に広く貢献していきたいと考えています。

デンタルマガジン 175号 WINTER