DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Interview
顎顔面口腔腫瘍外科医から見た医科歯科連携 歯科医師・歯科衛生士だからできる口腔がんの見つけ方と診察方法
医療法人祐歯会 新武雄あおぞら歯科クリニック 院長/医療法人長崎病理 長崎病理診断科 副院長 関根 浄治

■目 次

■口腔外科医を志した理由

[写真]副院長 山道 研介
医療法人祐歯会 新武雄あおぞら歯科クリニック 院長
医療法人長崎病理 長崎病理診断科 副院長
関根 浄治

これからの歯科医療は歯と歯周組織だけでなく口腔粘膜を含めた口腔全体の疾患への対応が求められます。そのなかでも特に見落としてはならない病態のひとつに「口腔がん」があります。近年、日本における口腔がんの年間罹患者は10,000人を超え、毎年約7,000人もの方が亡くなり、今後さらに増加すると考えられています。
今回は、口腔がんをはじめとした口腔粘膜疾患の治療に長年取り組まれ深い造詣をお持ちの関根浄治先生に、顎顔面口腔腫瘍外科医のお立場から口腔がんを見分ける診断のポイントと治療の実際について伺いました。

■歯科医師として初めて「細胞診専門医資格」を取得

中学生の時に第一大臼歯を喪失して、長崎大学で、自身が歯の移植手術を受けたことがきっかけで口腔外科医を志しました。学生時代から解剖学と病理学を徹底的に勉強して、その後長崎大学医学部・歯学部附属病院で、口腔がんや骨切りの治療を学びながら、1990年にはインプラント治療も開始しました。その中で、腫瘍切除と失われた顎骨や軟組織の形態再建とインプラントを用いた機能再建をゴールに研究・臨床に取り組んできました。

■口腔がんに対する認識の甘さ

口腔粘膜疾患の診断を行うなかで、この症状は果たして悪性腫瘍(がん)なのか、それとも口内炎などの炎症性疾患なのか鑑別に難渋するケースに何度も遭遇しました。そこで当時から肺がんや子宮頸がんの検診でよく用いられていた無麻酔でメスを用いずに行える「細胞診」を口腔領域に取り入れようと考えたのです。
そこで私は細胞診断専門医・指導医の資格取得を決意します。その後、婦人科をはじめとする全身の細胞診断を学び続け、10年後の2000年に歯科医師として初めて細胞診指導医試験に合格できました。この細胞診を行うようになってから口腔がんの早期発見が可能となり、以来「口腔粘膜疾患の診断から形態機能回復までの一貫治療」が私のライフワークになっています。
私が普段クリニックで行っている細胞採取の実際は動画でご紹介していますので、ぜひ参考になさってください。

■口腔がんの早期発見・早期治療のために大学病院で「口腔がん検診」をスタート

私は、長崎大学講師を経て島根大学医学部歯科口腔外科の教授を11年半勤めました。その間「口腔がんの早期発見・早期治療」を目指し、「口腔がん検診」を立ち上げました。
私は以前から肺がん検診、胃がん検診が公的事業として行われているのに、なぜ「口腔がん検診」が公的に行われないのか疑問に感じていました。長崎大学時代に、役所に何度も嘆願したのですが、「口腔がん検診で死亡者数が減少したという証がないと厚労省は認めない」ということがわかりました。行政や教育機関などの公的組織に立ち向かうことの困難さを感じながらも、島根県知事さんからは「口腔がん検診」を「島根県の公認事業」として認定いただきました。
日本における口腔がん死亡率増加の大きな要因として、「進展がん」が多いことがあげられます。つまり、発症してから治療を開始するまでの期間が長く、その間に病状が進行してしまうのです。その理由として、早期の口腔がんは痛みなどの自覚症状もなく、特徴的な所見もないため高次医療機関への紹介や、かかりつけの歯科医院で「がん」そのものの発見・診断が遅れることが多いことが原因と考えられます。

■“False positive”でいいとにかく病気を疑うことが大事

 “False positive”と“False negative”という言葉があります。前者は「がんではなかったのに誤ってがんと診断してしまうこと」(症例1)で、後者は「がんだったのに誤ってがんではないと診断してしまうこと」です。皆さんならどちらを選びますか? 考えるまでもありませんよね。
現在、日本全国でがん撲滅の活動が行われています。その活動は素晴らしいことですが、口腔がんについては、まず身近なかかりつけの歯科の先生がその重大さを十分に理解・認識し、「病変を見つける目」を持っていただきたいと思います。日本の歯科治療の6~7割は再治療と言われていますが、口腔がんには再治療が許されません。必ず一度で見つけてあげる必要があります。そのためにも、以下にお伝えする口腔がんの特徴や診察 方法をぜひ参考にしていただければ幸いです。

■早期口腔がんの見分け方と診察方法

前述したように早期の口腔がんは一般的に患者さんの自覚症状がありませんから、日常的に口腔内を診ている歯科医師、歯科衛生士の皆さんが異変に気付く目を持ち、臨床の際に広く口腔粘膜全体を診察することが早期発見のカギになります。口腔がんは主に以下の3つで見分けることができます。

1)色で見分ける

一般的に口腔粘膜に現れる病変の色は「赤」・「白」・「黒」・「黄」の4色で、とくに初期の口腔がんを見分けるために注意すべき色調の変化は「赤」・「白」・「黒」です。

2)形で見分ける

初期の口腔がんに形態には6つのタイプがあり、発赤が顕著な「びらん型」、白色を呈する「白斑型」、上皮欠損を認める「潰瘍型」、盛り上がった形態の「膨隆型」、カリフラワー状を呈する「乳頭型」、表面が粗造な「肉芽型」です。

3)大きさで見分ける

腫瘍の増殖の特徴として、一般に良性のものはゆっくりで、悪性のものは急速に進展します。週単位の経過観察で明らかな拡大傾向を認める場合は口腔がんを疑う必要があります。
視診の次に行うことは、両手指を用いる丁寧な触診(双手診)です。周囲が硬くなっている場合は口腔がんの可能性があります。歯科衛生士さんは口腔内を診る機会も多いですから、少しでも異常を感じたら歯科医師に相談してください。

診察方法

口腔がんの好発部位である舌(約60%)は、舌尖をガーゼで把持しながら、舌縁~舌下面~口底にいたるまで、しっかりと指で触れて、潰瘍や硬くなっている部分がないかを診ます。舌がんは舌を引っ張り出して診ないとまず見つけることはできません。実際私はこの方法で、これまで多くの舌がんを見出すことができました。
私が行っている口腔外・口腔内の視診と触診の方法については動画でご紹介していますので、こちらもご参考になさってください。

■富樫理事長に招かれ祐歯会に一線を画したクリニックを目指して

[写真] 新武雄あおぞら歯科クリニックのスタッフたち
新武雄あおぞら歯科クリニックのスタッフたち。「スタッフの口腔内を診る目が大きく変わってきたことがとにかく嬉しい」。関根院長の満面の笑顔から現在の充実ぶりが伝わってくる。

医療法人長崎病理の岸川正大院長のお導きで、同法人へ移籍、細胞診断を行いながら、1年半ほどフリーランスで口腔外科診療に携ってきましたが、昨年の春から縁あって祐歯会「新武雄あおぞら歯科クリニック」の院長として勤務しています。祐歯会の富樫理事長とは長崎大学時代に私が講師、富樫理事長は学生という関係でしたが、私が島根大学に移ってからも折に触れ親交を深めてきました。富樫理事長は以前から口腔外科に特化したクリニック開設を切望しておられ、私の退職を聞きつけて熱烈なオファーをいただき今日に至っています。
私の武雄での勤務は、昨年4月に始まりましたが、口腔粘膜疾患を有する患者さんの多さに驚きました。必然的に、細胞診・病理組織検査件数も増加しました。昨年4月から12月末まで、157件の病理組織検査、153件の細胞診の検体が当院から出されるなど、口腔外科領域でそれなりの成果を残せているとひそかに感じています。
もとより富樫理事長は補綴、歯内療法のエキスパートですし、麻酔科出身の先生も勤務しています。そこに口腔外科に特化した私が加わったことで、骨折などの外傷性疾患や粘膜疾患の診断、治療も行えるようになりました。
さらに祐歯会では2名の看護師さんを雇用しています。彼女たちは初めての歯科医院勤務でしたが、昨年の春から血圧・心電図モニター、採血、オゾン療法など、看護師の立場から患者さんの全身をみて、口腔外科手術、有病者の歯科治療時の全身管理を行ってくれています。スタッフも粘膜の異常に気付いたらすぐ歯科医師に報告してくれるだけでなく、全身状態を把握する重要性が理解できるようになり、患者さんを診る目も大きく変わってきました。

■他科とのリレーションなんでも相談できる内科医を身近に

これからの歯科医院では、口腔がんが疑われる患者さんに遭遇したら、まずがんか否かの鑑別が最優先事項です。自院で細胞診が可能であれば検査を実施、細胞診が準備段階であれば速やかに専門機関に紹介してください。私は静脈内麻酔や採血も自分で行いますし、院内には独立した手術室、心電図をはじめとするあらゆる全身モニター類をはじめ、静脈内麻酔や鎮静に必要な機器、救急時に必要な薬剤などが配備されており、スタッフのマンパワーも充実しています。さらに同一敷地内には、総合病院や内科、調剤薬局もあり、全身CTやMRI、エコー、内視鏡検査など大学病院レベルの術前全身検査等、患者さんは当院から徒歩で検査に行けるという非常に恵まれた環境にあります。
しかし、多くの開業医の先生方はそうした環境にないケースがほとんどでしょう。ただ、日常の臨床において、例えばクラウンセットの際にもし誤飲させてしまったら、X線検査やファイバー検査などをお願いできる内科医は必ず必要になります。内科医の先生との関係を築くために、私だったら「歯科で開業していますが採血や全身疾患を有する方を対診診療でご紹介させてください」とお願いすることから始めるでしょう。こちらが紹介すると、内科の先生からも「顎が開きにくい方がいて少し診てもらえませんか」といった紹介があったり、意外とスムーズに関係が築けるものです。現在は全身疾患との関わりが注目されるなど、歯科医師単独で完結するケースは今後少なくなっていくでしょう。ぜひ、いろんな疾患に対応できる内科医の先生と迅速に連携できる環境確立をお勧めします。
現場で患者さんを診て自ら細胞を採取・診断し、適切な手術を行い、病理の結果を診て、きちんと切除できていることを確認して自分の口でそれを伝えて差し上げられる。私は、これこそが「一貫治療」だと自負しています。今後も歯科医療がこの武雄の地で完結できるような「地域完結型医療」を目指します。

「 細胞診」について、さらに詳しくお知りになりたい方はこちらから。
・関根先生が直接回答させていただきます。
・ご回答までお時間を頂戴することもございます。 ご了承くださいませ。

症例1:臨床診断/右側舌腫瘍

  • [写真] 初診時の細胞診
    症例1-1 34歳、男性。初診時の細胞診で疑陽性と判定されたため、安全域を付与した全切除生検を予定した。
  • [写真] 黒マーキングは安全域(切除範囲)を示す
    症例1-2 手術は祐歯会本院手術室にて、静脈内鎮静・局所麻酔下に行われた。黒マーキングは安全域(切除範囲)を示す。
  • [写真] 切除後の所見(右上は切除標本を示す)
    症例1-3 切除後の所見。右上は切除標本を示す。本症例では、初診からわずか3週間で手術を行えた。
  • [写真] 一次縫縮
    症例1-4 創は、水平マットレス縫合を併用して一次縫縮。患者さんには、術後3時間程度回復室で観察後に帰宅いただいた。
  • [写真] 術後6週目の所見
    症例1-5 術後6週目の所見。術後1週間で抜糸、常食摂取可能となった。その後も発音や咀嚼などの機能障害は見られず、良好に経過している。
  • [写真] 最終病理結果
    症例1-6 最終病理結果は、黄色腫であった。本症例は、悪性に準じて切除した“False positive”の1例である。

症例2:臨床診断/下口唇血管腫

  • [写真] 病変は2.5cm、黒色デザインは、切除範囲を示す
    症例2-1 81歳、男性。手術は、静脈内鎮静・局所麻酔下に行った。病変は2.5cm、黒色デザインは、切除範囲を示す。
  • [写真] 数本の小動静脈の流入が見られた(右上は、切除された病変を示す)
    症例2-2 病変には、数本の小動静脈の流入が見られたため、丁寧な止血操作が求められた。右上は、切除された病変を示す。
  • [写真] 切除後の欠損は、約3cmに及んだため、局所弁(Pedicled triangular flap)を用いて再建を試みた
    症例2-3 切除後の欠損は、約3cmに及んだため、局所弁(Pedicled triangular flap)を用いて再建を試みた。
  • [写真] 2-3のデザインのように、欠損部両側から有茎三角弁(V型)を作り、欠損部を再建、いわゆるV-Y plastyで再建を終了
    症例2-4 2-3のデザインのように、欠損部両側から有茎三角弁(V型)を作り、欠損部を再建、いわゆるV-Y plastyで再建を終了した。
  • [写真] 術後1週
    症例2-5 術後1週、抜糸時の所見。再建に用いた三角弁は色調良好で、有茎弁の生着は良好である。
  • [写真] 術後6週間目の所見
    症例2-6 術後6週間目の所見。下口唇の形態は左右対称に再建されている。最終病理診断は、動静脈奇形(多量出血を起こす場合もあり)であった。

関根先生が日常臨床で行っている「口腔粘膜疾患の見つけ方」と「細胞採取の方法」

  • [サムネイル] 舌がんをはじめとした口腔粘膜疾患の見つけ方
    『舌がんをはじめとした口腔粘膜疾患の見つけ方』
    に関する動画はこちらから
  • [サムネイル] 細胞診のための細胞採取の方法
    『細胞診のための細胞採取の方法』
    に関する動画はこちらから
  • [サムネイル] 口腔外の視診と触診
    『口腔外の視診と触診』
    に関する動画はこちらから

富樫宏明 理事長からのメッセージ

私たち歯科医師が「口腔がん」を身近な疾患と捉えることが大事

富樫宏明 理事長口腔がんは深刻な状況になってから対処するケースが多いように思われます。その結果、切除域が大きく、切除後のQOL維持もシビアです。希少がんとされている口腔がんなのになぜ冒されるQOLがこれほどまでに大きいのでしょうか。
私はその理由として、歯科医師にとって「がん」という存在がとても“縁遠い疾患”であるからではないかと感じています。言葉としては理解できるし大学でも教わっているはずですが、社会に出るとそうした疾患に遭遇する機会は数えるほどしかありません。
開業医の先生方で口腔がんをこの目で見た、あるいは関わった先生がこれまでどれだけいらっしゃるのでしょう。
しかし「診る目」を備えることでその頻度は格段に上がります。そう、おそらく多くは見落とされているのです。
これは、実際に昨春関根先生が当院に着任後多くの口腔粘膜疾患が発見・治療されていることからも明らかです。長年、口腔がんの診断~治療に真摯に臨んでこられた関根先生のノウハウが少しでも読者の先生方の参考になれば望外の幸せです。

デンタルマガジン 176号 SPRING