DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
日常臨床におけるEr: YAGレーザー
神奈川県相模原市開業 あんざい歯科医院 安斉 昌照

キーワード:Er:YAGレーザーを用いたSRP/無痛的処置/歯周炎・インプラントへの臨床応用

■目 次

■1. はじめに

近年、レーザーによって我々の歯科臨床は大きく発展を遂げている。その臨床効果はレーザーの性質によって骨組織の治癒促進、軟組織の切除、知覚過敏の軽減など多岐にわたり、特に軟組織への応用では、術中・術後の出血の軽減など様々である。現在我が国で使用可能である歯科用レーザーはEr:YAG、Nd:YAG、CO2、半導体レーザーと多くの種類が存在していて、それらの効果は様々である。その中でも、Er:YAGレーザーは2,940nmの波長を有し、他のレーザーと性質が違い、水への吸収率が多いため、組織深達性が低く、特に軟組織への使用においては変性層が10~50μmと報告されている1)。よって、生体周囲組織への熱影響は極めて小さく(図1)、表面のみに作用できるため、予期せぬ熱傷を防ぐことが可能である。
臨床応用では軟組織において、歯肉切除・小帯切除、メラニン色素除去、口内炎治療など(図2)への応用が可能であり、Erwin AdvErL EVO®(モリタ)では多くのチップデザインが選択できるため、非常に繊細な場面での応用が可能である(図3-12)。さらには、インプラント周囲炎でのフィクスチャー表面のデブライドメントにおいて、効果が報告されているなど2)、その可能性は多岐に渡る。硬組織においては、組織水分量がわずかであるためレーザー照射時に発熱を生じやすく、注水が必要となるが、蒸散時の“微小爆発”を発生させることより硬組織の除去を可能にしている3、4)。そのため、カリエス治療・歯石除去などの応用も可能となっている5)

  • [図] Er:YAGレーザーとCO2、Nd:YAGレーザーの組織深達度
    図1 Er:YAGレーザーとCO2、Nd:YAGレーザーの組織深達度。Er:YAGレーザーの照射後は組織深達性が低いことより、浅い範囲での切除であることが分かる。
  • [写真] Er:YAGレーザーの凝固作用によって治癒の促進を図る
    図2 口内炎での治療において、Er:YAGレーザーの凝固作用によって治癒の促進を図る。
  • [写真] Erwin AdvErL EVO®
    図3-1 Erwin AdvErL EVO®
  • [写真] 照射チップ
    図3-2 照射チップは症例に応じて選択することが可能であり、そのチップの選択肢は多岐にわたる。

■2. Er:YAGレーザーの歯周炎への応用

2017年にEFP・AAPにより歯周炎の分類が改訂され、歯周炎を一つの疾患と捉え、Stage、Gradeで評価されるようになった。その中でもGrade評価では、主基準としてバイオフィルム量が重要視されている6)。よってバイオフィルムの蓄積を助長する歯石の除去は、歯周炎の治療において極めて重要である。従来歯石は、キュレットによって除去し、縁下歯石除去する際セメント質も同時に除去されてしまう。しかし、Er:YAGレーザーを用いてSRPをすることで従来の歯石除去に比べて、一層の健康セメント質を保存できるとの報告もある7)図4-13)。歯石は、構造組織中に水分・有機成分を含んでいるため、歯牙組織よりも低出力で除去が可能8)であり、根面照射においてエンドトキシンの分解・除去効果が認められるなどの殺菌効果が期待されている9)。しかしながら、歯質の除去を特徴としているため、エナメル質上の使用は禁忌とされているので注意が必要である10)。また、注水下での照射では、CO2レーザーで確認される炭化を伴う毒性の産生は認められないと報告されているため、Er:YAGレーザーの優位性が示唆される11)。歯周病罹患根面において、Er:YAGレーザーによるデブライドメントの方が、従来法よりも優位性が高い12)。さらに、従来のキュレットでのSRPに比べてEr:YAGレーザーでのSRPの方が高い細胞付着を示すとの報告もされているため13)、歯周炎への治療応用に期待が高いことが示唆される。これらの背景から、近年、Aokiら、Taniguchiらによって、Er:YAGレーザーを用いた歯周炎・インプラント周囲炎の治療法Er:YAG Laser-assisted Comprehensive periodontal Pocket Therapy(Er-LCPT)、Er:YAG Laser-assisted Bone Regenerative Therapy(Er-LBRT)が報告され14、15)、歯周炎・インプラントへの臨床応用が今後期待されている(図5-14)。しかしながら、歯肉縁下での盲目的使用は逆に根面の損傷につながる恐れもあるため、的確なチップの選択・マイクロスコープ、ルーペなどの拡大視野下での使用が推奨されると考える。

  • [写真] 歯肉縁下歯石
    図4-1 マイクロスコープによる拡大視野下による歯肉縁下歯石の確認。
  • [写真] Er:YAGレーザーによる歯肉縁下歯石の除去
    図4-2 Er:YAGレーザーによる歯肉縁下歯石の除去。マイクロスコープとの併用で作業効率も向上し、ピンポイントで的確に歯石を除去することが可能である。
  • [写真] Er:YAGレーザーによる歯肉縁下歯石除去後
    図4-3 Er:YAGレーザーによる歯肉縁下歯石除去後。的確に除去できていることが確認できる。
  • [写真] 6術前X線写真
    図5-1 6術前X線写真。近心部の縁下歯石、骨吸収が確認できる。
  • [写真] Er:YAGレーザーにて縁下歯石・肉芽組織の除去
    図5-2 フラップの展開後、Er:YAGレーザーにて縁下歯石・肉芽組織の除去を行った。
  • [写真] Er:YAGレーザーを用いて表層の血液凝固を行った後に閉創した
    図5-3  近心根面へ24%EDTAを2分間塗布し、根面処理を行った後にエムドゲイン®を塗布。さらにDBBMを填入し、Er:YAGレーザーを用いて表層の血液凝固を行った後に閉創した(Er:LBRT)。
  • [写真] 術後6ヵ月経過時のX線写真
    図5-4 術後6ヵ月経過時のX線写真。近心部の骨吸収は改善され、安定し経過が確認される。

■3. 当院でのEr:YAGレーザー導入の背景

Er:YAGレーザーは前述の通り、SRP・カリエス治療などへの応用が可能であることから、現在、保険収載されており、益々歯科治療へのレーザー治療の期待値が大きいことが伺い知れる。また、様々な照射チップが臨床の場面によって選択でき、小範囲でのレーザー使用が可能であるため、歯髄保存療法や根管洗浄の可能性などの応用も多く報告されている16、17)。当院ではそれらの背景から、2019年よりEr:YAGレーザーを導入し臨床応用しており、日々の歯科臨床に役立てている。当院での臨床応用例として、小児う蝕の治療において局所麻酔等による術後の咬傷を防止するため、局所麻酔をせずEr:YAGレーザーを用いて無痛的に処置をすることにより、患児の精神・肉体的ストレスを軽減することができ、保護者からも安心されている(図6)。特に、以前は、日々の歯周疾患治療において、手用スケーラーにおけるSRPを主軸に歯周基本治療を行っていたが、狭いポケットでの操作は困難であり、無理な操作によっては周囲組織への侵襲が懸念されていた。しかし、Er:YAGレーザーを用いることにより、非常に的確なSRPを行うことができるとともに、手用スケーラーを用いたときよりも治癒が良好であることから、とても重宝している。そこで、本稿では、歯周疾患患者へEr:YAGレーザーの応用を、症例を通じて解説していきたい。

  • [写真] Er:YAGレーザーを用いての無麻酔によるカリエス治療
    図6 Er:YAGレーザーを用いて、無麻酔によるカリエス治療を行うことにより、回転切削器具を用いる場合に出る音を無くし、不快事象を軽減することが可能である。

■4. 症例1

72歳女性、1の垂直性骨欠損に対しての対応

1の動揺(Ⅱ)、4壁性骨吸収が確認された。該当歯はエナメルボンドシステムによって固定し、歯周基本治療後にEr:YAGレーザーによって歯肉縁下のSRPを行い、ポケット開口部に非接触で血液を凝固させEr:LCPTを行った。その結果、6ヵ月後のX線では骨の再生が確認された(図7-113)。

  • [写真] 1術前歯周ポケット検査
    図7-1~6 1術前歯周ポケット検査。口蓋側にはALが確認され、広範囲での骨吸収ならびに歯周組織破壊が確認される。
  • [写真] 術前X線写真
    図7-7 術前X線写真。歯肉縁下歯石が確認され、同時に広範囲での骨吸収が確認される。
  • [写真] マイクロスコープ視野下におけるEr-LCPTを行い、歯周組織の安定を図った
    図7-8 マイクロスコープ視野下におけるEr-LCPTを行い、歯周組織の安定を図った。
  • [写真] 術後約6ヵ月経過時のX線写真
    図7-9 術後約6ヵ月経過時のX線写真。根尖部の骨再生が確認され、経過は良好である。
  • [写真]術前・術後の口腔内写真
    図7-10~13 術前・術後の口腔内写真。

■5. 症例2

58歳女性、7遠心部垂直性骨欠損に対しての対応

7の遠心部は3壁性の骨欠損に対して、歯周基本治療後にGTRを計画した。歯肉縁下歯石はEr:YAGレーザーにて除去し、骨欠損部に骨補填材を塡入し、血餅を凝固させEr-LBRTを行った。約1年後のX線写真では安定した骨再生が確認された(図8-14)。

『症例2』についての動画はこちらから

  • [写真] 7術前X線写真
    図8-1 7術前X線写真。遠心部の垂直的骨吸収が確認できる。
  • [写真] 歯肉縁下歯石
    図8-2 フラップ展開後、遠心部に歯肉縁下歯石が確認できる。
  • [写真] Er:YAGレーザーにてデブライドメント後、DBBMを骨欠損部に填入し、Er-LBRTを行った
    図8-3 Er:YAGレーザーにてデブライドメント後、DBBMを骨欠損部に填入し、Er-LBRTを行った。
  • [写真] 術後約1年経過時のX線写真
    図8-4 術後約1年経過時のX線写真。遠心部の骨再生が確認できる。

■6. まとめ

Er:YAGレーザーの臨床応用は、組織深達性が低いことから軟・硬組織において限局した範囲でのレーザー効果が現れ、現代の歯科治療のコンセプトであるMinimal-Intervention(MI)の考えと近似しており、歯科治療への発展に大いに貢献するものであると示唆される。
しかしながら、昨今のCOVID-19感染に関して、レーザー照射する際発生するエアロゾルは、飛沫・院内感染に関して十分注意されるべきことだと考えられる。
今後は、本レーザーの益々の基礎・臨床研究に期待したい。

参考文献
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デンタルマガジン 176号 SPRING