DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Clinical Report
幼若永久歯への既製冠の応用
東京歯科大学 小児歯科学講座 主任教授 新谷 誠康

キーワード:幼若永久歯/既製冠/う蝕/エナメル質形成不全

■目 次

■はじめに

歯を生涯守るための第一歩は、小児期の幼若永久歯を保護することである。う蝕が減った現在でも、幼若永久歯が抱える問題は多い。
最近ではMolar Incisor Hypomineralization(MIH)に代表される第一大臼歯のエナメル質形成不全が多く認められる1~4)。予想に反して、幼若永久歯に全部被覆が必要となる症例は減っていないのである。しかし、幼若永久歯を全部被覆すべき症例に永続的な使用を目的とした最終補綴は行えない。
2018年12月に保険収載された既製冠(図1)は、幼若永久歯に問題が発生してから小児の成長が完了した後の最終補綴に至るまでの有益な「つなぎ(暫間)」治療アイテムである4~8)

  • [写真] 大臼歯用既製冠(パーマクラウン® モリタ
    図1 大臼歯用既製冠(パーマクラウン® モリタ)

■幼若永久歯の既製冠に関する考え方

全部被覆が必要となる幼若永久歯には以下のような場合が考えられる4~7)
1. う蝕で著しく歯冠崩壊した歯
2. 多歯面う蝕の歯
3. 歯内療法を行った歯
4. エナメル質形成不全の歯
このような場合、対応すべき歯が幼若永久歯であるがゆえに成人に行うような歯冠補綴処置は行えない。最終的な歯冠補綴は歯と歯列咬合が完成してから行うべきであり、それまでの期間は「成長を阻害しない」ことを前提に、暫間治療を行う必要がある。
以下にその根拠となる幼若永久歯の特徴を列挙する。

1)歯髄腔が大きく、髄角が突出している

幼若永久歯の象牙質は成熟永久歯と比較するとかなり薄く、象牙細管の孔径が大きい。また、髄角は突出している。切削に際しては常に歯髄炎や露髄が危惧され、幼若永久歯の全部被覆には歯質切削量の少ない既製冠が望ましい。

2)成長に従って歯の対咬関係が変化する

幼若永久歯は萌出から上下の歯が咬合するまでに時間を要し、成長に従って対咬関係が変化する。したがって、対合歯や隣在歯との関係を決定することはできない。それゆえ、幼若永久歯の全部被覆には変形や咬耗で咬合変化に対応し、容易に再生可能な既製冠が望ましい。

3)臨床的歯頸線が変化する

歯肉縁は成長に従って少しずつ退縮するので、補綴物辺縁の位置を決めることができない。それゆえ、幼若永久歯の全部被覆には歯肉縁の変化に伴って、容易に再生可能な既製冠が望ましい。

4)咬耗がほとんどない

咬耗のない萌出直後の歯冠形態に合わせると補綴物の形態が決められないので、幼若永久歯の全部被覆には既製冠が望ましい。
幼若永久歯に装着した既製冠の予後は概して良好である6、7)。冠の穿孔、辺縁の不適合などは成長に伴う変化の一貫であるとも考えられ、再修復は即日修復可能な既製冠において大きな問題とはならない。

■既製冠修復の術式

1. 表面麻酔、局所麻酔
2. ラバーダム防湿
3. 支台歯形成

支台歯形成における歯頸部辺縁の位置は歯肉縁~縁下0.5mmに設定し、辺縁形態はナイフエッジである。
1)咬合面の形成(図2
咬合面の形態が逆屋根状になるように、テーパードショルダー型FGバーを用いて、1~ 1.5mm削去する。
2)隣接面の形成(図3
ニードル型FGバーを用いて近遠心隣接面の形成面がほぼ平行に近い状態となるように形成する。
3)頰舌側面の形成(図4
(1)ニードル型FGバーを用いて歯軸とほぼ平行に形成する。バーのテーパー分だけ支台歯にも自然に軽度のテーパーがつくことになる。
(2)さらに、頰側面は歯頸部側と咬合面側で2面をなすように形成する。
(3)切削しすぎると既製冠の保持力を弱めることになるので、必要以上に多量の切削を行わないように形成する。
4)隅角部の形成(図5
(1)ニードル型FGバーを用いて頰舌面と隣接面で形成される隅角を移行的に丸めて滑らかにし、冠との適合がよくなるようにする。
(2)支台歯の歯頸部辺縁全体がアンダーカットやステップがなく、ナイフエッジとなるように形成する(図6)。ステップ(特に遠心面にできやすい)があると冠の浮き上がりの原因となる。
5)各歯面で構成される線角を丸く修正(図7
頰舌面、隣接面および咬合面の形成面が移行する部分の線角を丸くする。すなわち線角部の面取りを行う。

4. ラバーダムの除去
5. 咬合面の再形成および支台歯形成の仕上げ

1)ラバーダムを除去し、対合歯との間隔が1.5mm程度確保できているか確認する。もし、間隔が不十分であれば再形成を行う。
2)次に、ラバーダム装着により切削できなかった歯肉縁付近の形成を行う。

6. 既製金属冠の調整9)

1)既製金属冠のサイズの選択
支台歯に適合する適切なサイズの既製冠を選択する。
2)冠縁の切除
(1)対合歯との咬合関係、隣接歯の辺縁隆線の高さ、反対側の歯冠高径などを参考にしながら、既製冠を支台歯に試適する。
(2)冠縁の余剰部の切除を金冠バサミ(曲)(図8)を用いて行い、カーボランダムポイントで冠縁の細部の形態調整を行う。冠縁は支台歯形成を行った歯頸部辺縁より若干長め(約0.5mm)にする。歯肉縁下に深く入りすぎると白い貧血帯が生じるので、臨床ではこれを目安に調整する。試適を何度か行い、冠縁を過度に切除しないようにする。
(3)冠縁を調節した既製冠を支台歯に試適し、対合歯との咬合関係、隣接歯の辺縁隆線の高さ、反対側の歯冠高径などに適合していることを確認する。
3)豊隆部の形態調整
豊隆形成鉗子(コンタリングプライヤー)を用いて冠の豊隆を調整する(図9)。
4)冠縁の調整
冠縁の調整では、ゴードン(Gordon)プライヤーを用いて冠縁全周を内方へ屈曲し、冠縁を締め付けて支台歯に適合させる(図10)。
5)咬合調整(咬合面調整鉗子)
既製冠を試適し、咬合関係を調べる。過高部がある場合は咬合面調整鉗子の凸部を冠外側、凹部を冠内側にして挟み、過高部を凹ませるように使用する(図11)。冠の厚径が薄いので、鋳造冠のように過高部を削ってはならない。
6)冠縁の研磨
シリコンポイントを用いて印記番号を消し、冠辺縁部の研磨を行う。

7. セメント合着

カルボキシレートセメントあるいはグラスアイオノマーセメントで支台歯に既製冠を合着する。鋳造金属冠と異なり、既製冠では冠と支台歯の間隙が大きいため、合着用セメントがその間隙を埋めることになる10)図12)。したがって、合着時にセメントは冠一杯に入れて合着する。

8. 余剰セメントの除去

セメントが一次硬化したら、余剰セメントを除去する。

  • [図]
    図2 咬合面の形成
    咬合面を逆屋根状に1~1.5mm削去(黒塗り部)する。
  • [図]
    図3 隣接面の形成
    近遠心隣接面の形成面がほぼ平行に近い状態となるように形成する。
  • [図]
    図4 頰舌側面の形成
    頰舌側面は歯軸とほぼ平行に形成し、頰側面は歯頸部側と咬合面側で2面をなすように形成する。
  • [図]
    図5 隅角部の形成
    頰舌面と隣接面で形成される隅角を移行的に丸めて滑らかにする(点線:歯の元の外形、黒塗り部:削去すべき隅角部)。
  • [図]
    図6 歯肉辺縁部の形成
    歯肉部辺縁はステップがつかないように、ナイフエッジに形成する。
  • [図]
    図7 線角の修正
    形成面が移行する部分の線角を丸くする(点線:歯の元の外形、黒塗り部:削去すべき線角部)。
  • [図]
    図8 冠縁の切除(金冠バサミ)
    冠縁の余剰部の切除を金冠バサミ(曲)を用いて行い、カーボランダムポイントで冠縁の細部の形態調整を行う。
    (文献9、p60、図7-11より抜粋、改変)
  • [図]
    図9 豊隆形成鉗子(コンタリングプライヤー)による豊隆部の形態調整(文献9、p61、図7-13より抜粋)
  • [図]
    図10 ゴードンプライヤーによる冠縁の調整(冠縁の締め付け)
    (文献9、p69、図7-12より抜粋)
  • [図]
    図11 咬合調整(咬合面調整鉗子)凸部を冠外側、凹部を冠内側に過高部をへこませるように使用する。
    A:使用時の状態(文献9、p61、図7-14を転載)
    B:咬合面調整鉗子の先端の構造
  • [図]
    図12 冠縁の位置とセメント合着冠縁の位置は形成マージン下0.5mmのアンダーカット部とし、冠と支台歯の間隙を合着用セメントが埋めることによって保持を果たす。
    (文献10、p198、図12-49を改変)

■臨床症例

10歳7ヵ月の女児。すべての第一大臼歯、切歯および上顎左側犬歯にエナメル質形成不全を認め、MIHと診断された。広範囲のエナメル質形成不全、実質欠損および冷水痛を認める上顎左側第一大臼歯に既製冠修復を行った。なお、対合歯の下顎右側第一大臼歯はすでに既製冠修復を行っている(図13)。
浸潤麻酔、ラバーダム防湿後、咬合面を逆屋根状に、近遠心隣接面、頰舌面と隅角を辺縁形態がナイフエッジになるように形成した。頰側面は二面形成を行った。各形成面が成す線角を丸めた後に、ラバーダムを除去してクリアランスの確認を行った(図14)。
支台歯周径と隣在歯とのスペースから適切なサイズの既製冠を選択し、金冠バサミとカーボランダムポイントで辺縁の長さを、ゴードンプライヤーで辺縁形態を調節した(図15)。
冠一杯にグラスアイオノマーセメントを填入し、合着を行った(図16)。

  • [写真] 上顎左側第一大臼歯の咬合面、頰側面、遠心面に大きな実質欠損を伴うエナメル質形成不全を認める
    図13 上顎左側第一大臼歯の咬合面、頰側面、遠心面に大きな実質欠損を伴うエナメル質形成不全を認める。
  • [写真] 上顎左側第一大臼歯の形成
    図14 上顎左側第一大臼歯の形成
    A:咬合面
    B:近遠心隣接面
    C:頰舌面と隅角
    D:クリアランスの確認
  • [写真] 既製冠の調整
    図15 既製冠の調整
    A:金冠バサミによる冠縁の切除
    B:カーボランダムポイントによる冠縁の削除
    C:ゴードンプライヤーによる冠縁の調整
    D:シリコンポイントによる研磨
  • [写真] 既製冠の合着
    図16 既製冠の合着
    A:既製冠へは冠一杯に合着セメントを填入する。
    B:合着した既製冠(咬合面観)
    C:合着した既製冠と咬合状態(頰側面観)

■おわりに

 小児期の歯科治療においては、現在の状況を成長発育変化過程の経過点であると考え、管理と加療を行う必要がある。
近視眼的に現在の状況を改善することのみに捉われると患児の将来の口腔に大きな禍根を残すことになりかねない。
成人に対する正しい治療が小児に対しても正しいとは限らない。
この考えに立脚すると、う蝕やエナメル質形成不全など、幼若永久歯臼歯に全部被覆修復を余儀なくされる場合は、小児の成長が完了するまでの暫間修復物として既製冠が有効である。
さらに、印象採得や技工操作を必要とせず、即日に全部被覆修復が可能な既製冠はスペシャルニーズを有する障害者(児)や在宅診療にも有用であると考える8、11)

参考文献
  • 1) 桜井 敦朗,新谷 誠康:エナメル質形成不全(MIH)―わが国におけるMIH発症に関する大規模調査から,ヘルスケア歯科誌,14:6-12,2014.
  • 2) Saitoh M et al.: Prevalence of molar incisor hypomineralization and regional differences throughout Japan. Environ Health Prev Med. 23:55, 2018.
  • 3) 新谷誠康 編集代表:小児歯科学ベーシックテキスト第2版,87-90,永末書店,京都,2019.
  • 4) 新谷誠康:エナメル質形成不全の現状とその対応,日本歯科評論,79:93-100,2019.
  • 5) 細矢由美子 他:本学小児歯科診療室における各種歯冠修復処置に関する実態調査(2)永久歯歯冠修復処置,小児歯誌,3:601-610,1988.
  • 6) Discepolo K, Sultan M: Investigation of adult stainless steel crown longevity as an interim restoration in pediatric patients, Int J Paediatr Dent, 27: 247-254, 2017.
  • 7) 釜崎陽子 他:幼若永久歯に対する暫間修復としての永久歯既製金属冠についての後方視的研究,小児歯誌,57:404-409,2019.
  • 8) 新谷誠康 編集代表:小児歯科学ベーシックテキスト第2版,235-240,永末書店,京都,2019.
  • 9) 前田隆秀 他編:小児歯科学基礎・臨床実習第2版,60−61,医歯薬出版,東京,2014.
  • 10) 高木裕三 他編:小児歯科学 第4版,198-201,医歯薬出版,東京,2014.
  • 11)日本障害者歯科学会:スペシャルニーズデンティストリー第2版,235,医歯薬出版株式会社,東京,2017.

デンタルマガジン 176号 SPRING