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菌の増殖を2週間持続的に抑制する 新しい粘膜調整材 「ティッシュコンディショナーCPC」

広島大学大学院医系科学研究科 先端歯科補綴学研究室 准教授 阿部 泰彦/北海道大学大学院歯学研究院 口腔機能補綴学教室 教授 横山 敦郎、口腔分子微生物学教室 教授 長谷部 晃

キーワード:国内初のコンビネーションプロダクト/抗菌成分CPCの性能

目 次

はじめに

世界を席巻する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の猛威に対し、医療従事者、研究者、行政、製薬会社の戦いが続いている。本原稿を執筆中に、首都圏の1都3県を対象に緊急事態宣言が再発出され、緊張はさらに高まった。昨年8月のWHOの歯科医療に対する見解は、「感染拡大地域では、歯の定期健診などは先送りを推奨する」であった。
歯科医療における主な感染リスク因子は「エアロゾル」であり、エアロゾル対策を基軸とした感染予防策に歯科医療従事者は、日々奮闘している。
昨年末、British Dental Journalに掲載されたColgate支援研究プログラムの報告「亜鉛やスズを配合したハミガキペーストや塩化セチルピリジニウム(CPC)を0.075%配合(日本では最大0.05%配合)したマウスウォッシュによりCOVID-19の増殖を抑制し感染を予防する」がBBCニュースで報道された。このことは、日々の口腔ケアが感染予防においていかに重要であるかを再認識させる。
さて、このようなコロナ禍で未曾有の緊急事態に、抗菌成分CPCを配合した新しい粘膜調整材「ティッシュコンディショナーCPC(図1)」を紹介できることに感謝したい。
本製品は、日本で初めて口腔に薬剤が徐放する医薬品と医療機器を組み合わせたコンビネーションプロダクトの第1号である。

  • [写真] ティッシュコンディショナーCPC
    図1 ティッシュコンディショナーCPC

ティッシュコンディショナーCPCの誕生1~3)

我々は、医療品・化粧品などの分野で広く応用され、その安全性が既に確認されているCPCの抗菌活性を利用した新しい有機無機複合型抗菌剤「CPC担持モンモリロナイト(特許第6570026号;2019年8月16日)」を国立研究開発法人産業技術総合研究所との共同研究で開発した(図2)。
そして、この抗菌剤をティッシュコンディショナーに応用し、抗菌性を有したティッシュコンディショナーを新たに開発する産学連携コンソーシアム(広島大学、北海道大学、産業技術総合研究所、メディカルクラフトン株式会社、株式会社モリタ)を編成した。
平成27(2015)年に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)における平成27年度医工連携事業化推進事業に「在宅歯科医療における口腔感染症や誤嚥性肺炎の予防機能を有した抗菌性粘膜調整材の開発・事業化」が採択された。このAMED事業の成果として、メディカルクラフトンは、抗菌剤の製造に特化し、株式会社ニッシンの協力により抗菌性粘膜調整材を完成させた。
メディカルクラフトンは、平成30(2018)年4月18日に、「ティッシュコンディショナーCPC」を独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請(管理医療機器クラスⅡ・改良医療機器)し、10月9日付けで製造販売を厚生労働大臣に承認され、本製品が誕生するに至った。本製品は、12月28日に保険収載された後、まず、広島大学と北海道大学に限定販売し、臨床評価を行った結果、操作性に変更を加えることにした。そして、本製品の一部変更が、令和2(2020)年9月10日に再承認され、保険収載も11月5日に完了したため、先生方へお届けすることになった。なお、添付文書(使用説明書)の【使用目的又は効果】の項における「本材は、義歯床粘膜面に裏装し、粘膜調整又は機能印象を目的に短期的(暫間的)に使用する材料である。また、本材に含有する塩化セチルピリジニウムを徐放することにより、本材表面で菌の増殖を持続的に抑制する。」において、下線部の文の追記が初めて承認された。

  • [図] CPC担持モンモリロナイトの構造
    図2 CPC担持モンモリロナイトの構造(産業技術総合研究所 槇田洋二先生提供)
    モンモリロナイトは、厚み約1 nmのアルミノシリケート層の単位結晶が層板状に数枚積み重なった鉱物粒子である。CPC担持モンモリロナイトは、その層間(約3 nm)に抗菌成分CPCが存在した構造を呈し、CPCが徐放されることで抗菌性を発揮する。

製品の特長

1.抗菌成分CPCの徐放量と安全性

抗菌成分CPCは、ピリジン環を有する第四級アンモニウム化合物(カチオン界面活性剤)であり、ブドウ球菌を始めとしたグラム陽性細菌に対する強い殺菌作用があり、また、真菌に対しても殺菌作用を有するとされる。
一般的に、第四級アンモニウム塩類の作用メカニズムには、①プラスに帯電した抗菌成分が、マイナスに帯電している細胞膜に結合し、細胞膜を脆弱化させ、細胞内圧により細胞膜を破壊、②酵素タンパク質の変性、③呼吸阻害などが知られている。
では、本製品から徐放されるCPCの安全性について説明する。
1点目は、本製品からのCPC徐放挙動(図3)が、1日目で最も高い値を示し、2日目以降漸減する傾向を示すことから、CPCの1日あたりの徐放量と14日間および28日間の累積徐放量について、医薬品「CPC含有トローチ」4)の1日服用限界量8.00 mgをCPC安全境界値として評価した。すなわち、上下顎総義歯に本製品を裏装した場合(最大床面積約60 cm2)5)を想定しCPC徐放量を換算すると、いずれにおいても8.00 mg以下となることから、量的安全性に問題ないことを確認した。
ここで、徐放されるCPCの作用(図4)には、以下の3つが考えられる。
作用1は、「顎堤粘膜がCPCを吸収?」、作用2は、「製品の表面または内部でCPCが細菌の増殖を抑制?」、作用3は、「CPCが口腔内へ拡散(口腔内常在菌への影響、消化管からの吸収)?」である。
作用1について、重層扁平上皮である口腔粘膜はCP+(陽イオン)を吸収し難いことから無視できる。
作用2は、正に本製品の特長であるため、次の項で述べる。
作用3について、CPC徐放量は極めて微量のため無視できる。しかしながら、徐放されるCPCにより口腔の常在菌叢が変化するのではないか、すなわち、菌交代現象(抗生物質などを使用することで、それに対する耐性菌が生き残り、増殖し、病原性を発揮すること)が起きるのではないか、について考察してみる。CPCは、前述の通り、物理的な殺菌作用であり、抗生物質に比べ非特異的で耐性菌も生じ難いとされる。健康な成人5名が医薬品「CPC含有トローチ」4)を1錠(CPCを2 mg含有)服用した場合、口腔内総細菌数は30分で服用前の約20%まで減少し、約4時間で服用前の菌数に戻った報告からも非特異的作用であることが理解できる。さらに、本トローチの口腔・咽頭感染症に対する臨床試験(2施設、148症例)では、胃腸障害や薬疹などの副作用や菌交代現象は認められなかったとされる。よって、本製品による菌交代現象はないと考える。
2点目は、厚生労働省が求める安全性に関する非臨床試験Good Laboratory Practice(GLP)安全性試験6項目(ISO 10993-1「医療機器の生物学的評価」準拠)を行った。すなわち、①細胞毒性試験、②感作性試験、③口腔粘膜刺激性試験、④亜急性毒性試験(反復投与毒性試験)、⑤変異原性試験(Ames試験)および⑥染色体異常試験により安全性は証明された。

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