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Dental Talk
「歯科がスポーツから学べること」特別座談会②「 義歯は噛むだけのもの⁉~義歯臨床での筋機能知識の有用性を考える~」
竹内 正敏/相宮 秀俊/竹内 一貴/大成 洋平

■目 次

  • 竹内歯科医院 院長 竹内 一貴 / 吹上みなみ歯科 院長 相宮 秀俊 / タケウチ歯科クリニック 院長 竹内 正敏 / アールワン 代表 大成 洋平

今回はスポーツと歯科との関連性についての特別座談会の2回目「義歯」がテーマです。座長には前回に引き続き竹内正敏先生にお願いし、特に義歯臨床に関心をお持ちの先生と歯科技工士さんにご参集いただき、闊達なディスカッションが繰り広げられました。 座談会に先立ち開催された「事前講義」の内容については後に続くSeminar Reviewをご覧ください。

①「 スポーツ歯科から見た顎関節症」
②「 義歯は噛むためだけのもの?」
③「 音楽は顎のスポーツだ!」はコロナ禍の影響で掲載中止となりました。

■自院やラボで行う義歯治療

竹内(正) まず最初に、ご自分のクリニックやラボで行う多数歯欠損義歯の治療や作製について簡単に説明していただけますか。
相宮 私の場合、多数歯欠損では上下の顎間関係が難しいケースもあるので、トリートメントデンチャーを用いて、患者さんの反応を見ながら調整して安定させていく方法をよく用います。その際には、保険・自費で分けるというより、患者さんの事情に合わせて最も良いものを提供することを第一に考えています。
竹内(一) 私は少数歯欠損の場合、周囲の歯を切削しないようインプラントもしくは自家歯牙移植を中心に、なるべくブリッジや義歯を使わない方法を選択しますが、多数歯欠損では再介入を想定して義歯を用いることが多いです。また、多数歯欠損で顎位や咬合が安定しないケースでは、相宮先生と同じように治療用義歯を使って頂き調整したものをベースに最終的な義歯を作製していきます。そして少しでも義歯を安定させるために、患者さんには可能な限りロケーターやマグネットを使ったオーバーデンチャーをお薦めしています。
大成 私のラボは岡山県にありますがほぼ宅配対応で行っていますので、岡山県内はもちろん東は関東から大阪・神戸など関西方面の医院様とのやりとりが中心です。それぞれ地域ごとに特色があって関東は自費が多く、岡山では保険中心が多いですね。自費の場合はマグネットやロケーターなど、インプラント関連の依頼が多いでしょうか。最近は訪問診療をされている先生が多く、そうした医院様の義歯を任されることもあります。

■義歯と身体パフォーマンス

竹内(正) 最初のテーマは「義歯と身体パフォーマンス」についてです。私はスポーツ歯科を中心に行っているので、常々人の体の動きを観察する癖があって、(患者さんに)義歯を入れた後の変化をチェックするのですが、今まではそうした考え方や方法は否定されることが多かったように思います。最近の学会などでもこれまで同様否定される傾向が強いのでしょうか。
相宮 全般的に認められてきていると思います。動的な評価と静的な評価、一つはTMJの動きですよね。顎関節の動きをレコーディングしていくということもだんだんスタンダードになってきています。最近はゴシックアーチもかなり浸透してきていますので、動きに左右差があるとか、再現性がある動き、スピードを良くしているとか、そういうところも大きなテーマになってきていますし、少なくとも今の潮流の中では否定されているということはないように思います。
竹内(一) 今回の座談会に際して、過去のケースを振り返ってみたところ、治療前は欠損や歯の動揺などが原因できちんと噛めていなかった方が、機能する義歯を装着して1、2年経過すると、以前の状態に比べて起き上がりなどの動作がスムーズになったと思うことがあります。また、義歯を入れてから「今まで外に出なかったのに老人会で顔を見るようになった」と他の患者さんから聞いたりすることもあり「そういう変化というのもあるのだな」と感じるのですが、現状ではそういうことを考える機会がまだまだ少ないのではないかと思います。
大成 私も、自分の仕事の結果が気になるので、苦労したケースなどの場合、発注された先生に経過確認をとることがあります。その場合、「せんべいが食べられたとか」「たくあんが噛み切れるようになった」といった咀嚼に関するものが大半ですが、一度だけ「ゴルフのスコアが戻った」というような話を聞いたことがありますね。
竹内(正) それは興味深いエピソードですね。今のお話も含めこれまで伺った話を図1に示しておきます。そういう効用まで見ていただければ義歯の応用範囲も広くなるような気がします。

  • [図] 身体パフォーマンスにおける義歯の効用
    図1 身体パフォーマンスにおける義歯の効用。

■義歯は道具なのか、人工臓器なのか

竹内 正敏
竹内 正敏

竹内(正) 次に「義歯は道具なのか、人工臓器なのか」というテーマに移りましょう。大学では「義歯=人工臓器」という考え方で学んでこられたと思いますが、「義歯=道具」とみる発想についてはいかがでしょう。
相宮 とても面白い発想だと思います。「人工臓器」という発想は、おそらく欠損なり、歯槽骨の喪失なり、顎関節の問題点なりということを総合的に見て“失ったものを回復する”という補綴治療の概念から来ていると思います。一方で、それが回復した際の目的という視点で考えると「道具」という発想が出てくると思うのです。ですから「義歯は道具でもあり人工臓器でもある」。この現状を両面から捉えていくことが大事ではないかと思います。
竹内(一) 私の場合は、義歯は義手や義足と同じようなイメージがあり、相宮先生と同じようにやはり「人工臓器」と「道具」としての二面性があると感じます。以前、義肢職人の方が出ているテレビを見たときに非常に細かく微調整を行っておられるのを見て、義歯との類似性を強く感じましたが、ここで重要なのは職人さんが患者さんに合わせようとしているところですね。
竹内(正) その通りです。義歯の場合は作り手の考えに患者さんを合わせたいという気持ちが垣間見えると感じることがあります。大成先生のお考えはいかがでしょう。
大成 昔は人工臓器と考えて作っていたのですが、ある先生のところで見た私の義歯は、調整によって原型をほとんどとどめていないほど削られていました。その経験以来、義歯は道具と思うようになりました(笑)。

■道具であるため使う人によって好みの形状が異なる

相宮 秀俊
相宮 秀俊

竹内(正) 私が「義歯=道具」という考え方で強調したかったことは、これまで義歯は歯科医師の裁量が大きかったというか、使う人の特性を軽視して作られてきたように思うからです。これこそが現在多くの義歯の作製方法が林立している原因ではないかとも感じます。図2は、「舌の動きを妨げず、かつ落ちにくい義歯が欲しい」という患者さんの要望に合わせて口蓋部を極端に薄くした義歯を新製し、1ヵ月後に削合調整した症例を再現したものです。口蓋部には大きな穴が開き、意図せずして無口蓋義歯になってしまいました。しかし、この状態でもしっかり吸着し、まったく問題なく使用されていました。要は義歯を道具としてみると、患者さんの使い勝手に合わせていろんな形態のものが出現してくるのではないかということです。

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デンタルマガジン 177号 SUMMER