DENTAL MAGAZINE デンタルマガジン

Dental Talk
予防歯科特別座談会 高齢者の予防歯科とリスク把握の重要性
船越歯科医院 院長 船越 栄次/宮城県富谷中央病院 歯科衛生士長 中澤 正絵/医療法人真健会 若林歯科医院 院長 若林 健史/株式会社モリタ セールスプロモーション部 道廣 香奈

■目 次

  • 高齢者の予防歯科とリスク把握の重要性 船越歯科医院 院長 船越 栄次 / 宮城県富谷中央病院 歯科衛生士長 中澤 正絵 / 医療法人真健会 若林歯科医院 院長 若林 健史 / 株式会社モリタ セールスプロモーション部 道廣 香奈

本座談会はリモート形式で開催いたしました。

 超高齢化の波は歯科医療にも押し寄せ、高齢者の来院者数は増加の一途をたどり、その対応が急務になっています。高齢者は治療前のリスク把握が重要であることはもちろん、残存歯数の増加に伴う根面う蝕(歯肉退縮)の増大など、解決すべき課題は山積されています。そこで今回の予防特集の巻頭を飾るDental Talkでは「高齢者の予防歯科」に焦点を当て、船越栄次先生、若林健史先生、歯科衛生士の中澤正絵先生にお話を伺いました。

■増加する高齢患者と口腔内の状況

モリタ 最初に先生方のクリニックにおける高齢患者さんの来院状況や口腔内の状態についてお聞かせください。
船越 当院では開業から41年が経過し、開業当時中高年だった患者さんが現在高齢者として来院されます。ですからメインテナンスで来院いただく患者さんは高齢の方がとても多く、最高齢では96歳という方がいらっしゃいます。
若林 私は開業して32年になりますが、その当時私と同じ30代だった方は60歳を超えていますし、40、50歳だった方は現在70、80歳になっています。私も船越先生と同じく歯周治療を中心に、予防やメインテナンスの大切さも随時お知らせしてきたので、その甲斐もあって身体が元気な方は継続して来院くださっています。ただ、遠方の患者さんからは「もう通えないので近所の歯科医院を紹介して欲しい」と言われ他院をご紹介するケースも増えてきました。まさに「歯科医師と同じように患者さんも歳をとっていく」ことを実感します。また、高齢化とともに特有の疾患やオーラルフレイルの兆候が見える方もいらっしゃるので、若い頃と同じようなメインテナンスではいけないなと感じています。
モリタ 糖尿病や高血圧などの持病をお持ちの方はどのくらいいらっしゃいますか。
若林 8割程度の方は何らかの疾患をお持ちで、「おくすり手帳」を拝見すると、甲状腺疾患の方や、以前脳梗塞になって抗血小板剤を服用されている方もいて、何の症状もなく健康な人のほうが少ないですね。
モリタ 中澤先生は病院に勤務されていますので有病者の方が多いと思いますが、糖尿病の方を含め最近の高齢患者さんにはどんな傾向が見られますか。
中澤 私は現在宮城県糖尿病療養指導士として病院歯科で医科歯科連携治療を行っています。勤務する宮城県富谷中央病院は平成17年に開業し15年目になります。65歳以上の患者さんは平成20年で45%だったのが、平成30年で56.6%、昨年令和2年では60.2%と着実に増えています。こういった方は身体機能の低下(耳が遠い、白内障などの視力低下、認知機能低下、記憶力低下)に加えて基礎疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症メタボリックシンドロームに加えてがんの既往や血管疾患の既往)を持っている方が多いです。認知機能が落ちてくると歯磨きするのを忘れたり、集中してできなくなる、面倒になってしまうということがあり、口腔衛生状況が悪くなりがちです。そういう方をいち早く発見しフォローしていく必要があるので、ちょっとした生活の変化にも気を配りながら診療にあたっています。

■生活環境の変化に注視し積極的なアプローチが必要

モリタ 近年、高齢者の根面う蝕が増加傾向にあると言われていますが、臨床で実感されることはありますか。
船越 高齢になってくると、セメントのウォッシュアウトなどの影響もあって、20年ぐらい何もなかったマージン部分などに少しずつう蝕が起こることがありますね。その治療や予防の観点から、当院では歯周治療後の最初のリコールの際には必ずう蝕処置を行うようにしています。
若林 突然根面う蝕や二次う蝕が増えてきた患者さんがいらっしゃったのでお話を聞くと「定年退職しずっと家にいると口が寂しくなって、常に何かを食べてしまうんです」とのことでした。何かの転機によって生活スタイルが変わり急に甘いものを欲しがったりすることもあるので、メインテナンス時にはそういう変化にも気を配ってフッ素塗布を行ったり、セルフケアとして高濃度フッ化物配合歯磨剤をお薦めするなど、若い方より積極的なアプローチが必要になると感じています。
モリタ 中澤先生の病院では甘いものへの対策は何かされていますか。
中澤 皆さん本当に甘いものがお好きで、食後必ずおやつがないと食事は終わらない、となかば習慣で食べる方が多いんです。「なるべく砂糖を減らしてね」といった食事指導を行うのですが、改善はなかなか難しいと思います。ですので、私たちも根面う蝕予防を期待して高濃度フッ化物配合歯磨剤をお薦めしています。
船越 当院では根面う蝕のリスクの高い方には、リコールでの来院時のフッ素トレーと、セルフケアとして根面う蝕予防歯磨剤『Check-Up rootcare』を使ってもらっています。これを徹底することでかなり根面う蝕は減ってきていると思います。

■血液分析装置「バナリスト」を歯科に導入するメリット

モリタ 高齢患者さんのリスク把握の観点から、血液検査によりヘモグロビンA1c(以下:HbA1c)と高感度CRPが測定できる血液分析装置『バナリスト』を船越先生と若林先生にご使用いただきました。若林先生は高齢患者さんのリスク把握はこれまでどのようにされていたのでしょう。
若林 高齢患者さんに外科治療を行う際には、「おくすり手帳」などを確認して、外科処置の際にリスクがある抗凝固剤などの服用がないかチェックしますし、血液検査結果をお持ちであれば見せていただきます。かかりつけのクリニックで血液検査をお願いするのは患者さんにとってかなり面倒ですし負担になると思います。どうしても気になる時は「ワーファリンを服用されていますが、観血処置を行っても大丈夫でしょうか」とかかりつけの先生に問い合わせることもあります。脳梗塞の場合、服用を中止すると血管が詰まることもあるので、多くの場合「中止させないでください」という返答があります。このように今まではかかりつけの先生に連絡したり、患者さんに確認をお願いする程度で、それ以外は既存資料を確認しながら進めるのが基本スタイルでした。
モリタ お二人の先生にはこのたび初めてバナリストをお使いいただいたわけですが、製品に関心をお持ちになった理由をお聞かせください。
若林 バナリストがあれば、歯科医院内で痛みも少なくスピーディに血液検査ができて、血糖コントロール状態に異常がないかが分かるわけです。さらに高感度CRPも調べられますから、その結果を見て「危険だな」と思えば「かかりつけの医院で診てもらってください」と数値をもとにお伝えできるのも魅力です。
船越 当院ではある意味持病がある患者さんばかり診ているわけですが、なかには自覚症状がなく、問診では「問題ありません」と言う方もいらっしゃるので、バナリストでチェックすることでHbA1cも高感度CRPの数値も問題ないことを確認し安心してオペに入れます。通常は「おくすり手帳」や過去の血液検査記録を見せていただくのですが、それがなくても自院で検査できるのでとても安心感があります。今後、高齢者がさらに増えることを考えればさらにこうした機器の重要性はより高まってくるのではないでしょうか。
モリタ やはりオペの際に高感度CRPの測定値があると患者さんに対して説得力がありますか。
船越 あると思います。詳しくは右ページに提示した症例をご覧ください(症例)。これまではオペ後翌日と一週間後に経過を確認して「問題ないようです」と口頭でお伝えするだけでした。それがバナリストで測定した客観的な裏付けをもとに「数値を見て炎症がないことが確認できましたので大丈夫ですよ」と言えることはとても説得力がありますし、患者さんもより安心できるのではないでしょうか。
モリタ 採血方法は難しくなかったでしょうか。
若林 痛みと出血度合いを確認するためにスタッフ全員で試してみましたが、意外に簡単にできました。
ところで先日、30代からずっと定期健診に来てくれている60歳の女性が来院された時に歯肉がとても赤くなっていました。担当の歯科衛生士が「今までこれほど赤くなったことはない」と言うのでバナリストで調べてみるとHbA1cの数値は6.6でした。そこで「糖尿病検査の数値が少し高いので一度調べてみてはいかがですか」とお伝えして検査に行ってもらったところ、やはり糖尿病に罹患しておられました。思い当たる原因をお聞きすると「仕事がリモートになって自宅にいるのでお菓子をずっと食べている」とのこと。「先生のおかげで発見できました」と喜んでくださり、糖尿病治療に専念されることになりました。これまでは「歯肉が赤いので血糖値が高いかもしれません。検査に行ってみてはいかがですか」と言っていたのが「必ず検査に行ってください」と自信を持って言えるようになりました(症例2-1)。
モリタ もう一つ新たな事例があると伺いましたが、どんなケースでしょう。
若林 中等度の歯周病をもつ46歳男性の患者さんを検査してみたところHbA1cが 7.5と高い値だったんです。すぐに病院に行ってもらうと、インスリン投与寸前で食事制限の必要があったそうです(症例2-2)。自覚症状がまったくなかったので、ご本人からとても感謝されました。現在、歯周基本治療中ですので、治療後に数値がどの程度下がっているか期待しているところです。
モリタ 『糖尿病診療ガイドライン』によれば、歯周治療を行うことでHbA1cの数値が0.29~0.66%低下するというデータが出ています。中澤先生は臨床でそれを実感されることはありますか。
中澤 歯周治療と血糖値の相関性についてはこれまで20年近く調査してきましたが、糖尿病の患者さんに歯周治療を行うとHbA1cの数値は確実に下がります。HbA1cの値が下がることでインスリン治療から離脱し、薬の処方だけになっていく例もありました。「歯磨きや歯周治療を行ったことで糖尿病の症状がよくなった」「歯磨きすることでおやつの回数を減らして体重管理もできるようになった」など、“良いことづくめ”で患者さんにはとても喜んでもらっています。それが私たち歯科衛生士の歯周基本治療やメインテナンスのやりがいになっていますので、引き続き取り組んでいきたいです。内科の先生も評価してくださり、カルテにも“医科歯科連携の成果”と書いていただけることもあるので私たちも嬉しいです。病院ではHbA1cの数値が8%以上で入院対象になるのですが、対象者には歯周チェックと咀嚼機能確認をルーティンで行っています。そういう方は歯が悪い方が多く噛めないので“飲み食い”をしてしまうんです。飲み食いすると食後血糖値が異常に上がります。それが歯科で歯周基本治療、補綴治療、インプラント治療を行うことで噛めるようになるとHbA1cの数値が改善を見ることもあります。そうした連携治療の素晴らしさを日々感じています。
モリタ “隠れ糖尿病”の方も多いと聞きますが、健診で見つかる方が多いのでしょうか。
中澤 糖尿病内科に来られる方は、ほとんどが健診で見つかった方々です。あとはご自身で頻尿になったとか、短期間で服がはためくほど痩せてきたとか、だるさを感じるなど症状があって、検査の結果血糖値も高いしHbA1cの数値も高いということで、そういう方はすぐに生活習慣の指導に入ります。
モリタ 日本歯周病学会発行『糖尿病患者に対する歯周病治療ガイドライン』には、「HbA1cの数値は6.9%前後を参考値として考えるのが良い」という記載がありますが、この指針についてご意見はございますか。
船越 まだバナリストがない頃、糖尿病の持病がある患者さんには内科の主治医の先生と連携をとって「歯肉の切開を伴う歯周外科治療を行いたいのですが、問題ありませんか」と確認して、先生のお返事次第でオペに入るかを決めていました。「もう少しコントロールできるまで待ってほしい」というお返事の場合はメインテナンスを行いながらHbA1cの数値が下がってくるまで待つなど、主治医の先生からOKが出るまで延期することは過去に何度か経験しています。
若林 一般外科の先生にお話を聞くと、まずオペをする前には血糖値を測定し、血糖値が規定値を超えた場合はオペは絶対行わないそうです。血糖値が高いとそれだけ予後が悪いということで、当然感染しやすく免疫力が下がって白血球の働きも低下していますから、感染リスクが高まると同時に傷口の治りも悪くなるので、当院でも外科的な処置は行わないようにしています。
中澤 当病院でも血糖値は必ず確認して、「外科処置はHbA1cの数値が6.9%以下になるまで行いません」と患者さんにはお伝えしますし、患者さんも「HbA1cの数値を下げないとこの治療は受けられない」ということで懸命に努力されますし、それを私たちは全力で支援します。歯科であれば歯磨きや間食の管理を常にアピールしますし、そのつど体重を確認することもあります。体重と血糖値はとても関連が深く、一般的に体重が減るとHbA1cの数値も下がる傾向があります。その理由は肥満の原因が炎症から来ていることに加えて、食事のコントロールができていない人が多いからです。そうして目標値になるまで患者さんの支援を続け、抜歯や歯周外科治療、インプラント治療などの観血処置を伴う治療は待つようにしています。

この記事はモリタ友の会会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り 6979 文字

モリタ友の会無料会員に登録する
ログインする

デンタルマガジン 177号 SUMMER