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Clinical Hint
口腔機能管理のための“理学療法活用”マニュアル -3-“舌”や“口腔周囲筋”の機能管理に必要な筋生理知識そして賦活マッサージの実際
スポーツデンタルハイジニスト・健康運動指導士 姫野 かつよ

キーワード:舌位は顎位に影響を与える/触診は知識ではなく技法/理学療法は効くのか

■目 次

■はじめに

第1回目は、理学療法、なかでも中核をなす術技である“運動指導と手技療法”の基礎となる知識や概念について説明し、次いでそれらの理解に役立つ身体運動に関する実践的知識を紹介いたしました。さらに動画では姿勢是正と触診解剖についてお届けしました。
第2回目では、口腔の運動器のトラブルと顎運動のメカニズムについて述べ、次いでその治療術技について解説いたしました。そして動画では口腔外からの触診と筋弛緩療法の実践についてお届けしました。
最終回となる今回は、高齢者のサルコペニアに絡めて“舌”や“口腔周囲筋”の機能管理に必要な筋生理知識と機能訓練について述べ、動画では賦活マッサージと押圧療法の基本手技をお見せしたいと思います。
また、最後に本シリーズのその1、その2を読まれた読者の方から質問が多かった、触診圧やゴム手袋の使用についての説明も追加しておきました。

■1. 歯科における運動療法と手技療法の使い分け

歯科では、理学療法の普及が遅れているため運動療法と手技療法の定義に関しても少し混乱が見られますが、一般的には運動療法は患者さん自身が行う管理目的の技法(セルフケア)、手技療法は徒手療法ともいわれ術者が行う治療目的の技法(プロフェッショナルケア)です。ただし、手技療法でもほとんどの技法は習熟すれば患者さん自身で行えるようになるため、その境界はあいまいです(表1)。
ここで、歯科における診療補助者である歯科衛生士は医科における理学療法士や整体師、鍼灸師などのように療術者(セラピスト)としての教育を受けていないため、手技療法の施術には限界があります。マッサージやストレッチング、開口訓練のようなセルフケア指導は、保健指導そのものなので歯科衛生士が行っても問題はないのですが、診療補助として手技療法を行う場合には歯科医師の指示に従って行うようにしてください。また、顎関節可動化療法や押圧療法など痛みの伴うものは、基本的に歯科医師が行い、歯科衛生士は患者さんがセルフケアとして行うための手技をデモするという観点に立ってできるだけ軽い力で行われるのが良いでしょう。
最後に、外科でいうところの徒手的顎関節授動術は、解剖学的知識が必須のリスクが高い術技(絶対的医行為)であるため歯科医師でないと行えません。

  • [表] 各種理学療法と施術者の関わり方のいろいろ
    表1 各種理学療法と施術者の関わり方のいろいろ

■2.“舌”や“口腔周囲筋”の筋機能学的知識

舌や口腔周囲筋は筋肉の起始・停止が骨についていないため見落とされがちですが随意運動を行うため立派な運動器です。
以下に必要な筋生理の知識についてお話していきます。

1)舌について

舌は筋肉の塊ですが、構成要素としての骨を持たないため、内臓器的な性格を有した特異な運動器と言えます。そして“口腔内の手”と言われ、顎とともに咀嚼や発音機能を作り出す二大主役です。収縮する機能しかない筋肉が、舌に見られるような自由自在の動きができるのは、筋肉繊維が縦横斜めと3次元的に走行していることによります。これにより、舌の形状を自在に変化させることができます。
ただし、前述のように舌は骨を有しないため、骨を利用して他動的に動かすことが難しいことから、自動運動であるセルフケアをメインとして機能管理をしていかなければなりません。ここで重要なことは、舌位は顎位に影響を与えるという点です。これは、舌が直接下顎骨につくだけではなく舌骨にも付着し、舌骨には下顎骨につく筋が付着しているため(図1)、舌と下顎そして舌骨がお互いの位置取りに影響を及ぼしあうことによる運動連鎖なのです。しかし、意外に軽視されている事柄です。前回、舌骨の触診で位置確認のために、舌を動かしていたのを思い出していただければ、理解できることと思います。言い忘れていましたが、呼息同調開口訓練でも舌を後方に位置させておくと、滑走運動は起こりにくくなり回転運動が優先されます。

2)口腔周囲筋について

口腔周囲筋も舌と同じように起始停止が骨に付着していないことから、運動器としては見落とされやすく、また筋肉が薄くて小さいために存在感もあまりありません。そのため、図2のような解剖モデルや解剖図では各筋が明確に示されていますが、触診で判別するのは困難です。
口腔周囲筋は、字のごとく口腔周囲を構成するのに重要であり、発音や咀嚼時の口唇閉鎖や食物保持などいろいろな機能に補助的に働きますが、特徴的な機能として表情を作るというものがあります。そのため、口腔周囲筋の硬縮は口腔機能を低下させるだけではなく顔貌にも悪影響を与えます。

3)舌と口腔周囲筋のトラブル

舌と口腔周囲筋のトラブルについて一番問題になるのは若年期における口腔習癖ですが、この是正方法については筋機能療法(MFT)が詳しいので専門成書をお読みください。
ここでは成人期における筋硬縮改善の押圧療法と高齢期における組織萎縮回復の賦活マッサージについてお話していきます。

  • [図] 舌は直接下顎骨につくだけではなく舌骨にも付着し(赤文字)、舌骨には下顎骨につく筋肉が付着している(青文字)、これにより舌と下顎骨、舌骨はお互いの位置取りに影響を及ぼすこととなる
    図1 舌は直接下顎骨につくだけではなく舌骨にも付着し(赤文字)、舌骨には下顎骨につく筋肉が付着している(青文字)、これにより舌と下顎骨、舌骨はお互いの位置取りに影響を及ぼすこととなる
  • [写真] 口腔周囲の筋肉の解剖モデル(医学モデル工業)
    図2 口腔周囲の筋肉の解剖モデル(医学モデル工業)

■3. 高齢期の筋肉の萎縮

これまでは、主に成人期に多い顎の過用や誤用から生じる筋の硬縮や顎関節の拘縮ついてお話してきましたが、高齢になると萎縮が問題になってきます。高齢者の筋肉などの萎縮は加齢によるものと廃用によるものがあり、前者は阻止、後者は回復が目標となります。
ここで廃用による萎縮について少し述べておきます。廃用萎縮は、骨折した腕や足の治癒時に健常側と比較して患側が細くなっていたり、力がなくなっていたりするもので、筋肉は筋繊維が細く硬くなり筋力が低下し、関節は周囲組織が拘縮し動きが悪くなります。この時、筋力は1週間に20%の割合で低下しますが、この20%を回復させるためには1ヵ月かかるといわれています。このように一度使わなくなった機能を元に戻すには多大なエネルギーを要するという点に留意しておいてください。
義歯の不使用でも口腔周囲筋や舌の廃用性萎縮が問題となります(図3)。これは、義歯を入れないことにより口腔容積の減少がおこり、口腔周囲筋がストレッチされず、また舌では動くスペースがないことにより萎縮が引きおこされます。特に、舌は筋の起始、停止が舌から舌であるため、前述のように他動運動が行い難く硬縮がおこりやすいので注意が必要です。これら口腔諸筋の廃用萎縮は言わば「お口の寝たきり」状態ですね。

  • [写真]
    図3 左:長期間義歯不使用による口腔周囲筋の萎縮
    右:義歯使用1年後の口腔周囲筋の回復

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デンタルマガジン 178号 AUTUMN