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【CT発売20周年記念 特別寄稿】下顎臼歯部垂直的GBRにおけるCBCTの有効性

静岡県開業 医療法人社団 石川歯科 院長 石川 知弘

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■目 次

■はじめに

下顎臼歯部は、可撤性義歯に比較して、インプラントによる機能回復の効果がより高い部位である。しかし、萎縮した顎堤の場合、下顎管の存在によりインプラントの埋入はチャレンジとなる。近年のシステマティックレビューでは6mm以下のショートインプラントの1~5年の生存率は86.7~100%であり、スタンダードインプラントにくらべ、失敗のリスクレシオは1.29(95% CI:0.67, 2.50, p=0.45)であることが報告されている1)
また、下顎臼歯部における非吸収性膜を使用した症例の3~7年の観察によって6mmまでの増大であれば垂直的なGBRで対応できることが示されている2)。それ以上の増大は複数の増大処置が必要になる可能性がある。ショートインプラントさえ埋入困難な症例では選択の余地はないが、どちらも可能な場合はショートインプラントを応用するか、増大処置によりスタンダードインプラントを入れるか、は成功率、侵襲、期間、コストなど多角的に検討し慎重に判断されなければならない。このような症例の場合、術前の診査、特にCBCTによる三次元的な評価が最も重要となる。そして、垂直的な増大が選択された場合、GBR後、インプラント埋入前、二次手術前など治療ステップごとに必要に応じてCBCTによる評価を行い、続く処置に反映させていくことが求められる。必要最小限の撮影範囲を選択できる精度の高いCBCTが不可欠となる。

■症例

患者は72歳女性。右下臼歯部にインプラント治療を希望され来院(図1)。前医からは困難と診断されていた。CBCTにより6には5mmのインプラントをマイナーなGBRを併用して埋入可能であったが(図2)、前述した二つの選択肢を提示したところ、十分な条件を整えて、スタンダードなインプラントを埋入する計画を選択された。術前のCBCTによる診断によって、母床骨幅は十分であり、6~7mmの垂直的な骨造成によって目的が達成されることがわかった(図34)。下顎臼歯部の垂直的GBRのテクニックはフラップデザインから減張方法、縫合法に関して確立されていると言って良い。本症例では、Ti ハニカムメンブレンと骨移植材を応用した(図56)。GBR後16ヵ月でインプラントを埋入した(図7)。術前のCBCTではメンブレン直下には厚さ2~3mmの軟組織が存在すること、歯槽頂では一部未成熟な状態であることが予測された。患者には予め、追加のGBRが必要となる可能性を説明しておくことが重要である。メンブレンを除去し、軟組織を剥離すると、三次元的に再生された歯槽堤が認められイニセルインプラントφ5.0×9.5mmを十分な初期固定を持って、補綴的に理想的な位置に埋入可能であった(図89)。追加のGBRを、クロスリンクコラーゲン膜を応用して行った。剥離した膜直下の軟組織は、コラーゲンメンブレン上に復位し、十分に減張されたフラップを二層で縫合した。GBRは母床骨から骨伝導が起きることにより骨再生が進行するため、垂直的なGBRの場合、母床骨から遠い歯槽頂が最も不利な部位となる。インプラント埋入と同時にさらにGBRを行うことによって、必要とされる骨再生量を得ることが可能となる。様々なコストがかかるが、得るものは大きい。埋入後のCBCT画像ではおよそ垂直的な増大が行われていることがわかる(図10)。4ヵ月後に遊離歯肉移植を併用し二次手術を行った。プロフェッショナルレストレーションで4ヵ月軟組織の成熟をまち、最終補綴装置が装着された(図11)。デンタルX線像では再生された組織の成熟が伺える(図12)。今後さらに経年的に成熟が予測される。適切なメインテナンスを継続し、再生した組織、機能を維持していきたい。
なお、本症例の減張切開法は他誌に報告した3)

  • [写真] 術前側方面観
    図1 術前側方面観。72歳女性。垂直的に吸収している顎堤。
  • [写真] 6 クロスセクショナル像
    図2  6クロスセクショナル像では直径5mm、長さ5mmのインプラントをなんとか埋入できるが水平的な増大が必要になることがわかる。またかなり歯冠長が長くなり、クラウンインプラントレシオも相当大きくなる。<画像はSimplant®( Dentsply Sirona)>
  • [写真] SPIイニセルインプラント 5.0×9.5mmを埋入する計画を立てる
    図3 SPIイニセルインプラント 5.0×9.5mmを埋入する計画を立てる。<画像はSimplant®( Dentsply Sirona)>
  • [写真] パノラミック画像
    図4 パノラミック画像では近遠心の骨レベルを目標にすれば、目的が達成されることが示された。<画像はSimplant®(Dentsply Sirona)>
  • [写真] Tiハニカムメンブレンを三次元的に形態調整して設置
    図5 Tiハニカムメンブレンを三次元的に形態調整して設置した。
  • [写真] 術後のCBCT画像
    図6 術後のCBCT画像。移植材は良好に膜内を満たしている。ネイティブボーンとの境界は明らかである。治癒期間中に舌側に膜の断端が露出しないか慎重な経過観察が必要と考えられた。ただし、チタンメッシュよりもはるかにしなやかでこのような場合でも断端穿孔のリスクは低い。
  • [写真] 16ヵ月後のCBCT像
    図7 16ヵ月後のCBCT像。膜直下には厚い軟組織が存在することが予測される。また移植部とネイティブボ-ンは良くブレンドし、再生した歯槽堤の外側には皮質骨、内側には海綿骨様の構造が観察される6の遠心歯槽頂部は未成熟となっている可能性も認められる。
  • [写真] 十分な初期固定を持ってインプラントが埋入された状態
    図8 十分な初期固定を持ってインプラントが埋入された状態。
  • [写真] GBR後16ヵ月 埋入後のデンタルX線像
    図9 GBR後16ヵ月。埋入後のデンタルX線像。ネイティブボーンと再生骨との境界は明瞭である。
  • [写真] 治療終了後のCBCT像
    図10 治療終了後のCBCT像。インプラント埋入、追加GBRから10ヵ月後、インプラント周囲には十分な幅の骨が再生している。
  • [写真] 治療終了後
    図11 治療終了後。良好な形態の補綴装置と十分な角化組織が獲得されている。
  • [写真] 術後のデンタルX線像
    図12 術後のデンタルX線像。インプラント埋入後8ヵ月、機能開始後4ヵ月経過。再生した組織とネイティブな組織の境界は不明瞭となっている。今後経年的にさらに成熟が進むと考えている。

■おわりに

萎縮した下顎臼歯部におけるインプラント治療についてどのようにCBCTが役立つか報告した。術前の診断のみではなく、インプラント埋入術中に撮影することにより、下顎管、歯根、骨内を走行する血管までの距離を正確に把握することができる。さらに各治療段階で再評価することにより、追加のGBRの必要性や、治癒期間の調整の参考になる。限られた骨量の中でインプラント治療を成功させるためにはCBCTは非常に有効で、不可欠である。

参考文献
  • 1) Survival rates of short dental implants (≤6mm) compared with implants longer than 6mm in posterior jaw areas: A meta-analysis. Papaspyridakos P, De Souza A, Vazouras K, Gholami H, Pagni S, Weber HP. Clin Oral Implants Res. 2018 Oct;29 Suppl 16:8-20. doi: 10.1111/clr.13289. PMID: 30328206.
  • 2) Pistilli R, Simion M, Barausse C, Gasparro R, Pistilli V, Bellini P, Felice P. Guided bone regeneration with nonresorbable membranes in the rehabilitation of the atrophic jaws: A retrospective study on 122 implants with a 3- to 7-year follow up. Int J Periodontics Restorative Dent 2020;40:685.692.
  • 3) 石川 知弘, 下顎の垂直的GBRにおけるフラップの減張テクニック:クインテッセンス・デンタルインプラントロジー vol28 No5. 2021:40-47

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