179号 WINTER 目次を見る
Clinical Report
経歯槽頂上顎洞挙上手術における超親水性INICELL®の有用性について-Hatch ReamerとTM Sinus Lift Kitを使用して-
キーワード:超親水性インプラント/QOLと健康寿命に貢献
目 次
- ≫ 緒言
- ≫ INICELL®の臨床および基礎研究
- ≫ 症例供覧
- ≫ まとめ
緒言
インプラント治療における最大の目標は早期の骨結合に基づく咬合機能の回復である。つまり早期に骨結合が認められればそれだけ顎機能の回復が早くなるため、患者さんに福音をもたらす。
今回、モリタから発売された超親水性インプラントのINICELL®は早期のローディングが可能となり埋入後21日目のISQ値が70以上とされる。これは基礎的・臨床的データから明らかである1)。さらに、インプラント表面をアルカリ処理することでカーボン除去が可能となり(APLIQUIQ®)、インプラント表面へのタンパク質の早期吸着とフィブリンネットワークを構築するインプラントシステムである。
日本顎顔面インプラント学会発行の資料でインプラント手術関連の重篤な医療トラブル(第三回の調査報告:Vol.19 No.20. 2020)によると、上顎洞に関連したトラブルは第一回、第二回の報告から34.8%と、さらに上昇した2)。
従来から当院では経歯槽頂上顎洞挙上手術に対する安全な標準化手術を検討し学会報告を行ってきた3、4)。
今回、超親水性インプラントで早期の骨結合を可能にしたINICELL®をRBH:3.05mmの低位上顎洞に対して経歯槽頂上顎洞挙上手術を用い従来の術式と比較して、その有用性を報告する。
INICELL®の臨床および基礎研究
1. アルカリ処理によるコンディショニング効果
疎水性の原因であるカーボンを除去するために行うアルカリ処理(APLIQUIQ®)コンディショニング剤は、インプラント体表面のエネルギーを増加させ超親水性表面に変化させる。したがって濡れ性が向上することで血液によるインプラントの自発的かつ安全な湿潤性を促進する。親水性の測定は平面に対する水接触角度によって測定され、コンディショニングされた超親水性インプラントのINICELL®は約5度以下である。親水性とは5から90度未満であり疎水性とは90度以上とされている(図1)。
2. タンパク質の吸着とフィブリンネットワーク
生物学的に濡れ性の改善はインプラント表面にタンパク質の均一な吸着をもたらす。インプラント表面に堆積したタンパク質膜の量、疎性、均質性、機能性はその後の早期の骨接合プロセスに直接影響する(図2)。また、血液凝固は、インプラントの周囲に形成される最初の暫定的組織とみなすことができる。フィブリンマトリックスと活性化された血小板は、骨形成細胞の侵入のための足場を提供することにより、凝塊内の重要な主役と見なすことができ、形成中の血栓の組成、構造、組織はINICELL®(左)未処理の基質(右)で大きく異なる。つまりINICELL®がオッセオインテグレーションを改善する段階とは、表面→コンディショニング→超親水性→血液接触→タンパク質の吸着→早期の骨結合→治療時間の短縮と繋がっていく5)(図3)。
3. 動物を使用した基礎データ
In-vitroにおいて新しい超親水性表面とその安定した最適化のメカニズムをよりよく理解するために、いくつかの研究が実施された。In-vitroにおいて以下の3つの異なる動物モデルで、コンディショニング無し、およびコンディショニング後の条件でインプラントを比較した。それは、羊の骨盤、ミニブタの下顎骨を実験に供した。特に図4ではビーグル犬の下顎骨で行った結果、INICELL®は埋入後2週間で従来のチタン表面と比較して頰側で約40%以上のBICを示した6)。
臨床例では、埋入後21日目のISQ値は被験者全員が70を示した。このように、埋入後21日で行う早期のローディングに関するデータは、豊富に報告されている7)。
4. 骨質に関する臨床データ
臨床データの裏付けはフォローアップの6ヵ月から3年間の調査では骨質のType ⅢおよびⅣの患者に対して行った1)。結果は、軟組織の早期治癒が著明であり良好な組織動態を維持し、インプラントの早期安定性が保証された。したがって、INICELL®は疎な骨質に対しても早期の骨結合が得られることが示唆された(図5)。また、2017年の報告では、萎縮した上顎臼歯部で経側方上顎洞挙上手術を行い良好な成績を示している8)。
図1 Dr. Dr. Stadlinger, Uni Dresden, Germanyの好意により提供されたミニブタの実験写真。左:従来の表面(SPI:SLA)、右:アルカリ処理後のINICELL®は瞬時に超親水性へ改善した。-
図2 タンパク質溶液との一次接触5分後のモデル基質上のタンパク質フィルムの蛍光顕微鏡写真。濡れ性の改善は骨結合プロセスに直接影響する。左:未処理、右:コンディショニング処理済の表面。 -
図3 血液との一次接触10分後のモデル基質上の血液凝固の走査型電子顕微鏡写真。左:血小板と白血球のフィブリンネットワーク、右:血小板と僅かなフィブリン繊維の未処理の表面。 -
図4 組織学的および組織形態計。2週間の治癒期間の後、INICELL®表面は、従来の基準表面と比較して、頰側で+40%高いBIC(骨とインプラントの接触)を示した。 -
図5 埋入後3週間におけるISQとDIBの結果。機能負荷に耐えられる充分な値を示して、順次増加している。これは、安全で予測可能な数値である。
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