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179号 WINTER 目次を見る

Clinical Report

歯周病患者におけるEr:YAGレーザーの日常臨床への導入 SPTを通じた歯科衛生士との連携

福岡市南区 西耕作歯科医院 副院長 今井 ゆき

キーワード:SPT期のEr:YAGレーザー活用/歯周組織再生療法/持続的来院に有効

■目 次

■はじめに

平成22年4月の診療報酬改定において、手術時歯根面レーザー応用加算60点が収載が加えられたことは、保険診療を行う我々にとっては大変喜ばしいことであり、平成28年4月SPT2(Supportive Periodontal Therapy)が収載され当院での歯周病患者におけるメンテナンスの仕方にも変化が現れた。
今までは『◯ヵ月メンテ』のように、若年者と高齢者で何となく分けていたメンテナンスの間隔が、SPT2の収載により、1ヵ月・2ヵ月の間隔で来院される患者が圧倒的に増えた。また、当院はEr:YAGレーザーを取り入れたことによって、歯周病という病気への取り組み方が変わってきた。例えばリコールで来院された患者に深い歯周ポケットがあったとしても、今までは咬合調整や消毒、必要であればスプリントでの対応で終わっていたが、Er:YAGレーザー(以下:Er)導入により内縁上皮の除去や骨欠損側のデブライドメントを行うなど、歯周外科手術を施術しない患者の深い歯周ポケットにも積極的に向き合うようになり、歯を喪失する原因1位の「歯周病」というカテゴリーの中で、我々のできることに幅が増えた。
今までのリコールとSPTの違いは、健康管理か治療かであって、SPTは必ずしも歯周病が治癒している状態ではなく、病状安定ではあるが急発することもありうる、いかに予防できるかがキーポイントになる。
とりわけ歯科衛生士の協力は大きく、歯周病に対してかなりの『気づき』が現れたように感じる。歯科衛生士は患者にとって単に《お口の中のクリーニングをしてくれる人》から、《お口の中の変化にいち早く気づいてくれる専門家》になったのではないかと思う。
今回は当院がErを歯周治療に応用するメリットについて、歯周外科症例を交えながら報告する。

■当院の歯周病治療におけるEr:YAGレーザーの位置づけ

歯周病は生活習慣病として位置づけられており、歯科医療従事者による生活指導(ブラッシング指導・食生活・喫煙・飲酒・糖尿病・高血圧症などの全身性疾患)の重要性が再認識されている。
「平成23年歯科疾患実態調査」をもとに推定すると、歯肉に何らかの症状がみられる患者数を推定すると約9,400万人いる、そのうち歯科診療所で治療を受けている患者は約260万人であると、日本歯周病学会が示している。つまり治療を必要としている歯周病の患者は多いが、メンテナンスに来院する患者のモチベーションを維持することは難しく、歯科衛生士実地指導にも、同じようなコメントやクリーニング、定期的に来院しているが思ったような改善が見られないなど、患者にとっても歯科衛生士にとってもメンテナンスにはこういった悩みはつきものだった。そこで、当院はErを積極的に使用している。歯周外科治療時にはほぼ100%使用し、SPT時にも多用しており患者との信頼関係の確立にも一翼を担っている。図1のように、Erの使用は多岐にわたっている。
また今までは浸潤麻酔をして切開していたような症例でも、Erでは麻酔を使用せずに対応できることが増え診療時間も短縮できるため患者の反応も良いように思える。このように当院ではErはなくてはならない存在になっており、患者との良好な関係を築くアイテムになっている。

  • ① 歯周炎の急性発作
  • ② 急性炎症はないが4mm以上の歯周ポケットが残っている場合
  • ③ 急性炎症が強く歯周基本治療に専念したい場合
  • ④ 歯周外科を行ったが深い歯周ポケットが残っている場合
  • ⑤ 排膿している場合
  • ⑥ 抜歯相当であるが観血的処置ができない有病者
  • ⑦ 有病者で抜歯や投薬に制約のある場合
  • ⑧ 安定状態を維持させたい場合
  • ⑨ 智歯周囲炎や歯内療法、カリエス処置、小帯切除や膿胞摘出、etc

図1 日常臨床でのEr:YAGレーザーの使用

■Er:YAGレーザーを使用するメリット

Erのメリットは様々あるが、一番のメリットは治療中の疼痛ストレスが少ないことである。浸潤麻酔をすることも少ないのでチェアタイムの短縮にも繋がっている。
急発しており消炎させなければならない時でも、基本的には浸潤麻酔なしで歯周ポケット内にチップを挿入することができる(ただし、疼痛閾値の低い患者に関しては無理せずに浸潤麻酔をする)。チップの形態も様々あり太さや長さ、レーザーの出方や材質の違うものなど、用途によって選択することができ、急発しているときなどは歯肉が腫脹しているため太めの径のPS600Tでも挿入できる。P急発の場合は、C400FもしくはPS600Tを使用することが多い。歯周ポケットが根尖近くまで深い場合にはP400FLを使用することもある。先端の細いものは薄い歯肉の場合や腫脹のない歯肉に使いやすい。Erは超音波スケーラーと異なり振動が少ないのでチップの先端に伝わる歯石の手指感覚は手用スケーラーと同じ感覚でわかりやすく、騒音もなく患者の不快感を軽減できるので患者が受け入れやすく術者も選択しやすい。患者からは「終わった後はすっきりとした感じで気持ちがいい、痛みが少ない・またはない、ジュクジュクした感じがなくなる」など、好意的な意見が多く聞かれる。
疼痛や炎症が顕著で抜歯などの積極的処置ができない時にはまずは消炎をさせ、外科手術の予定はあるがその前に急発してきた場合などは、一旦オペから離れしばらくはEr照射にて経過観察を行う。
また、SPT管理中で急発はないが歯周ポケットが深い患者であれば、2週間に一度来院していただきEr照射を行い、次の来院時にはSPTと一緒に再度Er照射を行う。これを1クールとして治療することで急発・悪化を防ぎ、患者の歯周病に対する日常のセルフケアのモチベーション維持にもなっていると感じる。最近では、Er照射を目的に来院を希望される患者も増えている。一方、このように治療してもフラップレスで対応できない時には無理せずに、明視下での掻爬をお勧めした方が良いので、患者の体調や口腔内の状態をみて総合的に判断するようにしている。

■SPT時における歯科衛生士との役割分担

 SPT時には、口腔衛生指導はもとより患者の社会的背景や全身管理(当院は高齢者が多いため認知症や口腔機能の低下への気づきなど)、食生活へのアドバイスも行っている。歯科衛生士は歯科医師の気づいていない細かな口腔内の変化、体調の変化に気づいていることが多い。例えば、先月よりも歯牙の動揺が大きくなっている気がする、今までは排膿していなかった、介護や仕事で忙しく疲れていて自分の時間が取れずブラッシングが今までのようにできていない、来院時期がいつもより遅かった、認知症が進行しているなど。
当院では高齢者や有病者、若年者でも歯周病の患者がとても多く、本来は短い期間でのリコールが必要な患者にも健康保険内では縛りがあり、4ヵ月間隔くらいでしか来院していただけなかった。しかしSPT2の導入により、1、2ヵ月などより短いリコールができるようになったため、当院のリコールの5割はSPT2となっている。リコールの間隔を短くしたことで、早い段階で歯周病を食い止めることができるのでSPTの効果を実感している。その際には外科的な処置までは行わずにErでの対応を行っている。歯周基本治療、歯周外科治療、口腔機能回復治療が終了し歯周組織を長期安定させるためにSPTに移行するが、歯周病患者のモチベーションは時間の経過とともに低下しがちであるので、プラークコントロールを中心とした生活指導が歯科衛生士の役割となる。日常のSPTでは従来通りの手用スケーラーや超音波スケーラーを用いるのがメインにはなるが、歯科衛生士の手技・熟練度に左右される。そこに4mm以上の歯周ポケットや根分岐部病変が存在すればスケーラー等による再デブライドメントに合わせてEr照射を行いながら歯周組織の管理に配慮している。これにより口腔機能を保持することができ病状の安定を図れると考える。リコールは画一化になりやすく口腔内の変化を見落としがちになるので、「大きな変化はないだろう」ではなく患者の状態をよく観察し口腔内の状態に応じて臨機応変に変更できるように歯科衛生士に十分に指導しなければならない。ひいてはそれによって歯周組織を長期にわたって維持させることができると考える。

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