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う蝕予防セルフケアに寄与するフッ化物高滞留・徐放技術について

ライオン株式会社 研究開発本部 先進解析科学研究所 橋本 遼太

キーワード:フッ化物配合歯磨剤/Check-Upシリーズの進化

■目 次

1. はじめに

 1993年の12歳児DMF歯数が3.6本であったのに対して、2016年は0.2本まで減少している1)
以前に比べてう蝕が減少している要因として、厚生労働省(当時、厚生省)と日本歯科医師会によって開始された8020運動や、フッ化物配合歯磨剤の普及が挙げられる。
また、近年は口腔衛生と全身疾患の関係についても指摘されており2)、口腔内を清潔に保つことの重要性が一般生活者に広まりつつあることも一つの要因と考えられる。
しかし、う蝕を有する人の割合を年代別で見てみると、20代以上において、約30%を占めており(図11)、う蝕予防は十分な状況とはいえない。
そこで、さらなるう蝕予防推進に向け、当社はセルフケア向けのフッ化物配合歯磨剤の開発に取り組んでいる。

  • [グラフ] う蝕を有する者の割合
    図1 う蝕を有する者の割合

2. 従来技術:カチオン化セルロース配合によるフッ化物の口腔内長時間滞留

 フッ化物配合歯磨剤の使用により口腔内に滞留したフッ化物イオンは、①再石灰化の促進、②歯質強化(耐酸性の獲得)、③細菌の酸産生抑制の3つの効果を有することが知られている。これらの効果をより高くするには、フッ化物を長時間口腔内に滞留させることが重要である。そこで、当社のう蝕予防歯磨剤『Check-Up standard』はこれらの課題に対して、カチオン化セルロース(以下、CC)を配合することでフッ化物高滞留化を実現し、う蝕予防効果の向上を目指してきた。

3. 新技術:CC+F-Ca-Pによるフッ化物の滞留性および徐放性の向上

 歯磨剤に配合されるフッ化ナトリウム(以下、NaF)の性質に着目すると、口腔内に滞留したフッ化物イオンは、唾液の分泌や飲食により、長時間留めることは難しい。また、口腔内のフッ化物イオンの一部は、唾液中のカルシウムイオンと反応し、フッ化カルシウム(以下、CaF2)を形成する。CaF2は、水への溶解性が低く結晶構造的に安定なため、フッ化物イオンが徐放されずその機能を発揮しないという問題が生じる。
今回、さらなるフッ化物の滞留性および徐放性の向上を目指し、フッ素(F)-カルシウム(Ca)- リン(P)とCCを組み合せた新技術(以下、CC+F-Ca-P)を開発した。CC+F-Ca-Pは、歯磨剤中にNaF、グリセロリン酸カルシウム、ピロリン酸四カリウムおよびCCの4つの成分を配合する技術である。本稿では、CC+F-Ca-Pの特長について、表1に示す4つの実験による評価結果を用いて紹介する。
CC+F-Ca-Pの特長を評価するため、比較試料としてCCとNaFの混合溶液(以下、CC+NaF)、NaFとグリセロリン酸カルシウム、ピロリン酸四Kの混合溶液(以下、F-Ca-P)およびCaF2粉末をそれぞれ用いた。

  • [表] CC+F-Ca-Pの特長評価のための4つの実験
    表1 CC+F-Ca-Pの特長評価のための4つの実験
実験(1)
CC+F-Ca-Pの結晶構造の評価

CC+F-Ca-Pが機能を発揮するには、“結晶構造的に安定な”CaF2と異なり、結晶性の低いアモルファス(非晶質)であることが必要である。そこで、CC+F-Ca-Pの結晶構造をX線回折法(以下、XRD)により測定した。XRDは、ピークの位置と半値幅によって、結晶構造と結晶性の評価が可能である(図23)。本実験では、溶液中のCC+F-Ca-Pを遠心分離により採取し、比較対象のCaF2と合わせ、各々のXRD測定を行った(図3)。
結果を図4に示す。CaF2から得られたピークは鋭く結晶性が高いことが分かる。一方、CC+F-Ca-Pの場合、ピークの位置はCaF2と類似しているが、ピークの半値幅は非常に大きく、CaF2と異なり結晶性の低いアモルファスを有することが示された。

  • [図] XRDの測定原理
    図2 XRDの測定原理
  • [図] 実験(1)の方法概説図
    図3 実験(1)の方法概説図
  • [グラフ] XRDによるCC+F-Ca-PおよびCaF2の結晶構造の評価結果
    図4 XRDによるCC+F-Ca-PおよびCaF2の結晶構造の評価結果

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