当院は開業して34年になる。15年前からCT、デンタル、パノラマは全てデジタル化していたが、「データの活用」に取り組んだのは9年前のTrinity Core Proの導入からである。
このレポートでは、この9年間スタッフとともに取り組んだ「データ活用法」の中で特に有用だったものを紹介する。
オードリー・タンはネットワーク社会が多くの人々に受け入れられた要因を「FAST FAIR FUN」と表現した。まさに当院の取り組みもこのkeywordに集約されている(図1)。
つまり、情報を扱う作業時間が短縮され、スタッフ間の情報量の差がなくなり、そして仕事が楽しくなることを目標とした。
この戦略の中で「ビジュアル」をどう扱うかがポイントとなる。このビジュアル化は図2に示す4つの矢印のコミュニケーションを円滑にする効果がある。では実際の症例(図3)でどのようなビジュアル化が効果的かを述べていく。
一つのビジュアルでコミュニケーションを取るよりも(図4)、複数のビジュアルを活用した方がうまくいく場合が多い(図5)。
さらに整理整頓された思考を直感的に示すことができるよう様々なビジュアルを組み合わせることが重要である(図6)。
15年前に3DX FPDを購入した当時、CTサーバーはスタンドアロンで、患者説明にはCTサーバーのモニターまで患者を連れて行ってCT画像を動かしながら説明していた。
そのころはまだCTが普及しておらず、時間のかかる説明でも喜んで聞いてくれた。現在でもCTデータを動かしながら大画面で説明されている先生方も多いと思うが、果たして説明にかかる時間効率、患者満足度、スタッフ理解度はどのように評価されているだろうか。
CTの画像をどう扱うかの原則は新井嘉則先生の著書から教わった。「CTは3つの平面から得られる2次元画像を自分の頭の中で3次元構築する必要がある」という言葉だ。
しかしDr.にはその能力が求められるが、患者、スタッフにはその能力は求められない。そこで必要となるのは患者、スタッフが直感的に理解できる2次元画像をCT画像から切り取るスキルだ。
図7~9で実例を示す。デンタルX線画像の特徴は皮質骨に骨吸収が及ばないと病巣が大きくても透過像が不鮮明に見える傾向がある。
そこに歯列平行断、歯列横断の画像を同時に提示するとどのような病態か誰でも直感的に理解できる。
さらに治療後の経過を加えるとデンタルX像画像の比較よりも治癒傾向にあることが明確に理解できる(図7)。
そして、よりCT画像の必要性を強く感じるのは上顎大臼歯の根尖病巣の把握だ。解剖学的知識のない患者に説明してもなかなか理解が困難な部位である。
図7の症例では、患者はもちろんスタッフにもどのような部位を治療するかを理解してもらうためにCT画像を抽出した。
また図8の症例では、デンタルX線画像では把握しにくい上顎洞内の病巣の状態を3年後の経過CT像と比較して提示した。さらにこのような良好な治癒過程を患者にわかりやすく示せることはDr.、スタッフ、患者の3者にとって大きな喜びである。そしてそのような経験を重ねていくと、全てのスタッフが歯科治療について理解度が増すことが分かった。
Trinity Core Pro / 3はモリタデジタルシステムの院内クラウド・ポータルサイトに相当する。その画面には患者の様々なデータが時系列に表示される。
そこで重要なポイントが2つある。前項のCT画像処理で示したように、Trinity Core Pro / 3に保存される画像は、比較表示されることを前提に作成されること。もう一つは種々の画像データの保存がほぼ自動的に行われるシステムを構築することである。
『データ管理』には思いのほかスタッフにストレスを与えている。当院ではその時間を『データ活用』のアイデアを生み出すことに使用している。よく使っている活用法をいくつか紹介する(図10~12)。
最初に述べた「FAST FAIR FUN」の概念がご理解いただけたら幸いである。CTの普及は目覚ましいが、どのように活用すればいいのか悩んでおられる先生方も多いと思う。ぜひともモリタ担当者に有用な活用方法をご相談されることをお勧めする。
なお、今回のレポートを作成するにあたり協力いただいた当院スタッフ、永田菜穂子、増田麻美、野角美穂、木下千聡に感謝の意を表す。