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Interview

低侵襲で患者さんに優しい治療を目指して 歯科用レーザー「Erwin(アーウィン)」発売25周年 開発者インタビュー

株式会社モリタ製作所 第一研究開発部 濵田 和典

■目 次

2022年に誕生から25年を迎えた歯科用Er:YAG(エルビウム ヤグ)レーザー「アーウィン」。その開発経緯とこれまで克服してきた課題や製品へのこだわりなどについて、開発担当である株式会社モリタ製作所 第一研究開発部の濵田 和典氏と日吉 勝海氏にお話を伺いました。

レーザー機器開発の経緯について教えてください

[写真] 濵田 和典
株式会社モリタ製作所 第一研究開発部
濵田 和典

日吉 Er:YAGレーザーが発売されるまで、歯科用レーザーはレーザーメスなどの用途で活用されることが多く、歯牙などの硬組織に対する実用化は遅れていました。モリタ製作所では“タービンに変わって歯を切削できるツール”としてのレーザーの可能性を模索し、1970年代からCO2レーザーやNd:YAGレーザーを使用した様々な研究を行ってきましたが、歯質に対して熱によるクラックが発生するなど硬組織の切削には不向きなことが判明し断念しています。しかし社内では「レーザー光を活用して歯の切削を行いたい」という想いが根強く、その後水への強い吸収特性を持つEr:YAGレーザーの波長に着目し、研究開発を続けてきました。
濵田 歯を切削する際の「キーン」というタービン音を不快に感じる方も多いですし、強い痛みを伴うこともあります。レーザーで切削できれば、音もタービンに比べて静かですし、切削時の痛みや振動もほとんど伴わない。当時としては夢のある画期的な開発だったと思います。
日吉 それまでEr:YAGレーザーを採用した医療機器は国内にありませんでしたから、承認を得るための臨床試験の際にも苦労したそうです。試験では動物やヒトで有効性と安全性を確認するのですが、実際にEr:YAGレーザーによって得られた効果かどうかを証明できるところまで資料を揃える必要があり、多くの大学の先生方にもご協力いただきながら、ようやく1995年に、う蝕除去、小帯や歯肉切開などの軟組織処置、歯石除去についての認可を受け、1996年に国内初となる歯科用Er:YAGレーザー装置「アーウィン」を上市することができました。
濵田 残念ながら初代アーウィン開発の際、私たちは入社前でしたので、その苦労や感動を体験することはできませんでした。その後、1997年には「Er:YAGレーザー臨床研究会」が発足され、臨床家の先生方によってEr:YAGレーザーの臨床応用や新たな可能性について熱心な議論・研究が重ねられられています。

実用化に向けて困難な課題などはありましたか

[写真] 日吉 勝海
株式会社モリタ製作所 第一研究開発部
日吉 勝海

濵田 Er:YAGレーザーは一般工業界でほとんど応用されていなかったので構成部品の調達が難しいうえコストも割高でした。さらに、レーザーの中でも発振効率が悪く、例えばCO2レーザーに比べて発振の際に非常に多くの電力を必要といった課題がありました。
日吉 特に発振装置からハンドピースにレーザー光を伝送する伝送管については、通常の伝送ファイバーでは、レーザー光がファイバーに吸収され伝送効率が低下してしまいます。このためCO2レーザーで多く採用されている関節型マニピュレーターを使用することも検討しましたが、関節型の場合、術者の自由な動きを阻害する可能性もあり、この部分では非常に苦労したと聞いています。
濵田 その後、「中空導波路」を使用した伝送ファイバーを東北大学と共同で研究開発し、実用化することで、常に安定したレーザー光をハンドピースに送り出すことが可能になりました。中空導波路は図のように、ガラス製の中空ファイバーの内側に銀膜をつけて、さらにその内側を樹脂でコーティングしています。このため、伝送効率を低下させることなく、自由度の高い操作性や耐久性を実現することができたのです。
日吉 初代アーウィンでは従来の光ファイバーを採用したため途中でファイバーが劣化するトラブルも見られましたが、2代目となる「アーウィン アドベール」からは中空導波路を採用し、その後のアーウィンの独創性を示す特長の一つになっています。

アーウィンの特長やこだわりについて教えてください

[写真] 中空導波路の構造
中空導波路の構造

日吉 まずEr:YAGレーザーそのものの特性として水に対して高い吸収性があるということです。そのためアパタイトそのものを熱で蒸散させるのではなく、アパタイトを結びつけている水分に瞬間的に吸収され、その水分を飛散させることで硬組織を蒸散します。また、その蒸散はレーザー光を照射した表層部分のみに行われるために組織深部への熱影響が少なく周囲組織へのダメージが少ないという利点があります。
濵田 製品については特に“使い勝手”の部分にこだわっています。特に歯周治療のオペの際などで細かい処置を要求されるケースに対してストレスなく使える操作性。自由度の高い伝送ファイバーだけなく、ハンドピースを持った際にできるだけ重さが伝わらないような重量配分を工夫したり、レーザー光のチップからの出方についても先生の使い勝手のよさや効果の出やすさを考慮して多彩なチップバリエーションをもたせています。
日吉 臨床研究会などではユーザーの先生方の要望を積極的に収集し、その結果スタンバイ時間の大幅な短縮や直感的でわかりやすいディスプレイ、さらに治療内容に応じた照射条件のメモリー設定など、使い勝手や操作性を向上した「アーウィン アドベール EVO」を2011年に発売し現在に至っています。
濵田 多くのバリエーションをもつ先端チップなど、さまざまな改良が加えられてきましたが、もっとも工夫を凝らしたのは先端部分の形状です。例えば、先端をとんがり帽のような円錐形にしてレーザー光を横方向に拡散させたり、先端に少しテーパーを付けた表面を粗らすことでレーザー光が横に漏れながら真っ直ぐ出るようにするなど、形状を少しずつ変化させてレーザー光の出方を変えていろいろな症例に対応できるように進化させてきました。
日吉 チップにバリエーションを加えることにより、う蝕治療や歯石除去

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