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Interview
病巣疾患から見た医科歯科連携 全身疾患の根本治療と歯科の関わり
宮城県仙台市 医療法人モクシン 堀田 修クリニック 院長 堀田 修

目 次

  • [写真] 宮城県仙台市 医療法人モクシン 堀田 修クリニック 院長 堀田 修

    宮城県仙台市
    医療法人モクシン 堀田 修クリニック
    院長 堀田 修

歯科医師も多く所属する日本病巣疾患研究会の理事長 堀田修先生(堀田修クリニック)は、IgA腎症の根治療法の開発者として世界的に知られた内科医です。同研究会が提唱する『みんなで鼻うがいプロジェクト』の活動とともに、病巣感染の観点から歯科と全身疾患の関係について伺いました。

「木を見て森も見る医療」の普及

病巣疾患とは「身体のどこかに限局した慢性炎症があり、それ自体はほとんど無症状か、わずかな症状を呈するに過ぎないが、遠隔の諸臓器に反応性の器質的および機能的な二次疾患を起こす病像」と定義されます。2013年に発足した日本病巣疾患研究会の名前の由来になっています。
時として「木を見て森を見ず」と揶揄される従来の「対症治療」ではなく、患者さんごとに疾病の根本原因を探り、それに対処する「根本治療」を臨床に取り入れた「木を見て森も見る医療」の普及を本研究会では目指しています。現在、会員数は700名弱で、医師だけではなく、薬剤師や鍼灸師など多彩な職種から構成され、特に多いのが歯科医師です。
どうして歯科の先生が多く所属しているのでしょうか。その大元を辿ると30年以上前にまで遡ります。

IgA腎症の根本原因を扁桃に発見

当時、腎臓内科の患者の半数以上がIgA腎症でした。治療法は投薬で炎症を抑えるのみで、不治の腎臓病とされていました。日々、IgA腎症患者の診療を続ける中で、風邪を引いた後に血尿が悪化することに着目した私は、この病気は喉と関連があるのではないかと考えるようになりました。
そこで回診のたびに注視していると、口蓋扁桃に白い小さなものが付着していることに気づいたのです。耳鼻科の先生に相談したところ、「これは膿栓だから扁桃を摘出しましょう」という回答でした。
血管の炎症を抑える目的でステロイドパルス療法と併用しながら扁摘を行うと(=扁摘パルス療法)、血尿もタンパク尿も消えてしまうことが少なくないことが分かりました。IgA腎症の根本原因は扁桃にあったのです。
一見、無関係に思える扁桃と腎臓ですが、慢性的な炎症によって扁桃のリンパ球などの免疫細胞が活性化され、これらの細胞が生み出したサイトカインなどの炎症物質が血流に乗った結果、遠く離れた腎臓で炎症を引き起こしていたのです(図1)。

  • [図] 口腔、扁桃、上咽頭を病巣炎症とした病巣疾患
    図1 口腔、扁桃、上咽頭を病巣炎症とした病巣疾患(堀田修「病巣疾患」日本臨床、79巻 7号、2021- 7より改変)。

口腔内細菌とIgA腎症の関連性

扁摘パルス療法は当初、ほとんど注目されませんでした。IgA腎症を耳鼻咽喉科の領域である扁摘で治療するということは、当時の常識から外れていたためです。また、医科は細分化しているので、自身の専門領域以外に関心を持たない先生が多いことも遠因だったかもしれません。
この他科に対する理解・関心については、歯科の先生に関して言えば、事情が少々異なります。口腔内の感染が心臓病などの全身疾患を引き起こす可能性があると示唆されたのは100年以上前のことです。1990年代には歯周病が動脈硬化、脳卒中、糖尿病、低体重児出産などと関連することが明らかにされました。最近では歯周病とアルツハイマー病との関連が脚光を浴びていて、近い将来、口腔内の細菌感染治療が脳疾患治療となる時代を迎える可能性もあります。そうした背景から歯科の先生は自身の領域外である全身疾患にも関心を持つ方が多いように感じます。
一方、私の立場から言えば、IgA腎症へのう蝕の原因菌や歯周病菌の関連が報告されるなど、扁桃や腎臓は口腔内環境と関わりがあり、以前から歯科に関心を持っていました。そうしたことから多くの歯科の先生との交流が始まり、本研究会の設立へとつながりました。歯科の先生が多く所属している理由にはこうした背景があります。

上咽頭炎の治療に思わぬ効果が

扁摘パルス療法により寛解、治癒を目指せるようになったIgA腎症ですが、それでも治らない人が2割ほどいました。そこで見つけたのが、鼻腔の後方、口蓋垂の裏側に位置する上咽頭です(図2)。
ここに炎症が生じると同じような症状が現れることが分かり、現在は上咽頭擦過療法(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)を加えた治療を行うようになりました(図34)。EATは塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒を用いて、鼻と喉から直接上咽頭に薬液を擦りつける治療法です。その際、しっかりと擦過することがポイントになります。
このEATを続けるなかで面白い発見がありました。IgA腎症と同時に掌蹠膿疱症、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患、さまざまな機能性頭痛、自律神経失調症、目眩などの症状も良くなる経験をしたのです。

  • [図] 上咽頭の位置
    図2 上咽頭の位置。
  • [図] 上咽頭擦過療法(EAT)の手順
    図3 上咽頭擦過療法(EAT)の手順。
    0.5~1%の塩化亜鉛溶液を染み込ませた綿棒を用いて、鼻と喉から直接、上咽頭に薬液を擦りつける。
  • [写真] EAT後、綿棒に付着した血液
    図4 EAT後、綿棒に付着した血液。上咽頭の炎症が強いほど、強い痛みとともに出血が見られる。週に1回のペースで十数回を目安に続けると寛解に向かい、痛みも出血もなくなる。

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デンタルマガジン 180号 SPRING