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歯の土台をケアする歯磨剤の技術
ライオン株式会社 口腔健康科学研究所 山本 悠

キーワード:残存歯を残す重要性/歯の土台をケアする歯磨剤

目 次

1. はじめに

超高齢社会の日本において、平均寿命と健康寿命との乖離は最大の課題です。健康寿命の延伸に向け策定された「健康日本21」においては、その重要施策の1つとして、残存歯維持による口腔健康の保持・増進が掲げられています。
残存歯数の減少は、咀嚼機能の低下により、噛みにくい食品の摂取を避けるといった食品選択行動の変化につながることから、生活習慣病の発症や低栄養へのリスクが懸念されています1)。すなわち、歯の喪失は口腔の機能低下にとどまらず、全身健康状態の悪化にもつながる可能性をはらんでいます。
残存歯の維持に向けて、歯科界ではこれまでに啓発などを軸とする8020運動を推進してきました。2016年の歯科疾患実態調査によると、8020達成率は51.2%と1989年の開始時(7%)と比べて大きく改善してはいますが2)、未だに約半数が達成には至っておらず、継続した残存歯維持への取り組みが必要です。
公益財団法人8020推進財団が実施した2018年の調査によると、日本人の抜歯原因1位は歯周病であり3)、全抜歯経験者のうち約37%もの人が歯周病により抜歯しています(図1)。
歯周病は口腔細菌により生じる炎症性疾患であり、炎症症状が歯肉に限局した歯肉炎と、歯肉に加えて歯槽骨や歯根膜といった「歯の土台」全体にまで症状が波及し、組織全体が破壊される歯周炎に大別されます。
「歯の土台」の中でも、歯槽骨は咬合や咀嚼による力を受け止めるうえで重要な組織であり、その破壊は、歯周病の最終的な結果である歯の脱落に直結してしまいます。また、歯槽骨量の低下は咬合力などの口腔の機能にも影響することが報告されており4)、歯槽骨の量を適切に保つことは残存歯数・口腔機能の双方を維持していくうえで重要と考えられます。
歯周病の発症予防・進行抑制に向けては、歯科医師・歯科衛生士による歯みがき指導や歯石除去など(プロフェッショナルケア)とブラッシングを中心とした自分で行う口腔清掃(セルフケア)の両面を実践することが重要ですが、その中で当社では生活者のセルフケアの実践に向け、歯周病の発症・進行を予防する新たな製品および技術の開発に取り組んでまいりました。
今回、その取り組みの一つとして、歯肉や歯槽骨といった、歯を支える歯の土台のケアに焦点を当て、検討を行いました。歯の土台の中でも、歯周病の進行に伴い起こり、口腔機能低下の一因にもなっている歯槽骨量低下に対する予防技術について紹介します。

  • [図] 抜歯の主原因
    図1 抜歯の主原因
    (公益財団法人 8020推進財団、平成30年)

2. 歯周病予防歯磨剤に含まれる各種有効成分の破骨細胞分化への影響解析

歯を支える歯槽骨は、骨を壊す破骨細胞と骨を造る骨芽細胞によって、新陳代謝を繰り返し、日々健全な骨量を保っています。
しかし、歯周病により歯の土台にまで炎症が波及すると、破骨細胞への分化が促進されて破骨細胞の数が増える結果、骨破壊と骨形成のバランスが崩れることで、次第に骨量が減少してしまいます(図2)。
このような歯槽骨量の減少メカニズムから、歯の土台維持に向けた歯槽骨量低下の予防技術としては、破骨細胞の分化・機能抑制がアプローチとして有用であると考えられます。
歯磨剤に配合可能な歯周病予防の有効成分には、大別して細菌に作用する「殺菌成分」と、歯周組織に直接作用する「抗炎症成分」が存在します。
本研究では、歯の土台である歯周組織をケアするという目的から、歯周病予防の有効成分のうち、細菌ではなく歯周組織に直接効果を発揮する抗炎症成分に破骨細胞への作用も期待できるのではないかと考えました。
そこで、抗炎症能を有する代表的な12の有効成分について比較解析を実施しました。
[評価成分12種(図中略称):オウバクエキス(オウバク)、アズレンスルホン酸ナトリウム水和物(アズレン)、ε-アミノカプロン酸(ε-ACA)、アラントイン、ジヒドロコレステロール(DHCh)、塩化ナトリウム(NaCl)、グリチルリチン酸モノアンモニウム(GM)、グリチルレチン酸(β-GR)、トコフェロール酢酸エステル(酢トコ)、ニコチン酸DL-α-トコフェロール(ニコトコ)、ヒノキチオール(ヒノキ)、ピリドキシン塩酸塩(ピリドキシン)]
図3にお示しします実験フローの通りに、検討は歯周病予防有効成分による破骨細胞分化への影響解析、および有効性を示した成分の骨破壊能への影響評価、作用メカニズムの解明に向けた遺伝子発現解析の3点について実施しました。

<破骨細胞分化アッセイ>

(方法)
市販の破骨前駆細胞を各種有効成分の存在下で分化因子RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB ligand)を添加した条件にて培養しました。
その後、破骨細胞を識別する細胞染色方法であるTRAP染色を実施し、形成した破骨細胞( TRAP陽性3核以上の多核細胞)の数をカウントしました。
有効成分を添加しない群(ctrl)において形成した破骨細胞数に対する、各有効成分添加群での破骨細胞数の比率を算出しました。
(結果)
12種の歯周病予防有効成分について、破骨細胞分化に及ぼす影響を評価した結果、オウバクエキスのみが、有意に破骨細胞への分化を抑制することを見出しました(図4)。

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  • [図] 健常時と歯周病進行時における歯槽骨の代謝
    図2 健常時と歯周病進行時における歯槽骨の代謝
    (LION Lideaより)
  • [図] 本検討で実施した、破骨細胞分化に関する実験フロー
    図3 本検討で実施した、破骨細胞分化に関する実験フロー
  • [図] 各種歯周病予防有効成分の破骨細胞分化への効果
    図4 各種歯周病予防有効成分の破骨細胞分化への効果
    (値は有効成分なし(ctrl)に対する破骨細胞数)

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デンタルマガジン 181号 SUMMER