キーワード:オッセオインテグレーション/共振周波数解析(RFA)/インプラント安定性の可視化
近年、欠損補綴においてインプラント治療は審美的にも機能的にも優れた治療法として広く認知され、多くの施設で行われている。
これまでの多くの基礎および臨床研究から、インプラント治療を成功に導くためには、インプラントと周囲骨との結合状態を示すインプラント安定性(implant stability) が重要なファクターであることは言うまでもない。インプラント安定性には、機械的安定性と生物学的安定性の2つがあり、前者は周囲骨とインプラントが機械的に嵌合して獲得される安定性(初期固定)、後者はインプラント周囲に新生骨を形成することで獲得される安定性(オッセオインテグレーション)のことである。インプラント安定性は図1に示すように、初期の機械的安定性はオッセオインテグレーションの獲得によって補充あるいは置換され、2つの和で示されるインプラントの総安定性は経時的に向上する。つまり、インプラント治療の成功には、オッセオインテグレーションの獲得が重要なカギとなっている。
インプラント安定性の評価方法としては、X線画像所見、除去トルク値、打診テスト、共振周波数解析(resonance frequency analysis:RFA) が挙げられる。その中でも、RFAは簡便かつ再現性を有する非侵襲な評価方法であり、数値化して可視化できること、インプラント埋入時だけでなく荷重の前後にも評価できること、アバットメントに影響されないこと、異なるインプラント間でもオッセオインテグレーションの状態を同じ指標で評価できることは魅力的である。
実際のインプラント治療では、埋入時に初期固定が得られたかどうかで、外科的術式の選択(1回法or2回法)、荷重時期の決定、治癒期間の予測を行っており、術者の経験的な判断に頼っていることが多い。
そこで、インプラント安定性を簡便に評価できるRFAを用いた「オステルビーコン」(図2)について、その有用性を実際の臨床例とともに報告する。
これまでのオステルISQアナライザ、オステルIDxから改良された最大のポイントは、①軽量コンパクト化、②コードレス化の2点である。
操作は非常に簡便であり、各種インプラントメーカーや種類に合わせたスマートペグをインプラントに装着(4~6Ncm)し、磁気パルスによって振動させて、スマートペグの共鳴振動周波数を測定する(図3)。得られた周波数は特殊な計算式を用いて、インプラント安定指数(implant stability quotient:ISQ値)に換算し、1~100までの数値で示される。得られた解析結果は、オンラインサービス「Osstell Connect」(図4)を用いて、データ管理と共有が可能である。
これまでISQ値に関する報告は1200報(現在も増加中)を超えており、それらから得られたデータに基づき図5に示すインプラントの安定性の状態と補綴、埋入、修復の各プロトコルが示唆される。当医院でも、このプロトコルを目安とし臨床に応用している。
ISQ値60未満を低い安定性、60~69を中等度の安定性、70以上を高い安定性とし、補綴処置、埋入処置、修復処置の各プロトコルにおいて、それぞれ対応を調整している。
実際には、初期ISQ値が非常に高い場合でも、時間とともにISQ値は少し減少して通常レベルになってくると報告されているが、近年インプラント表面や形状の改良などに伴い、多くの症例で高いISQ値を維持していることを経験する。しかしながら、ISQ値の大きな減少や継続的な減少は、インプラントが発する警告サインと考えるべきである。
通常、インプラント安定性はすべての方向(例えば、頰舌方向、近遠心方向)で理論的には同じであると考えられるが、実際にはインプラント周囲のいろいろな骨形態(支持骨の厚さなど)により、測定方向でISQ値が異なることがあるため、4方向(近心、遠心、頰側、舌側)からの測定が推奨されている。
ISQ値の測定は埋入時、荷重/最終補綴物装着時に行うことが重要である。埋入時の測定では、初期固定の評価、各インプラントにおけるISQ値の基準化、外科プロトコルの選択、荷重方法および時期などの補綴プロトコルの選択に重要であり、荷重/最終補綴物装着時の測定ではオッセオインテグレーションの程度判定、埋入時ISQ値との比較、荷重時期の決定、補綴形態の修正の補助、治療期間延長の判断に重要である。
可能であればメインテナンス中も定期的にISQ値を測定し、また患者がインプラント周囲の不具合を訴えた場合にもISQ値を測定して評価することで、偶発症の発生を未然に防いだり、最小限にくい止めることが可能かもしれない。