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歯科と医科の一体化で見えた歯科領域における感染対策向上のポイント

東京医科歯科大学 統合診療機構 機構長補佐 東京医科歯科大学病院 医療安全管理部GRM兼任 認定看護管理者 感染管理認定看護師 小野 和代/東京医科歯科大学病院 感染制御部 副看護師長 感染制御実践看護師 鶴岡 広美

目 次

東京医科歯科大学病院

  • [写真] 小野 和代
    小野 和代1)
  • [写真] 鶴岡 広美
    鶴岡 広美2)

1)東京医科歯科大学 統合診療機構 機構長補佐
東京医科歯科大学病院 医療安全管理部GRM兼任 認定看護管理者 感染管理認定看護師

2)東京医科歯科大学病院 感染制御部 副看護師長
感染制御実践看護師

 東京医科歯科大学の歯学部附属病院と医学部附属病院は2021年10月に一体化され、新たに東京医科歯科大学病院としてスタートしました。コロナ禍で行われた一体化では、感染制御の整備が課題の1つになったそうです。統合診療機構の小野和代機構長補佐と感染制御部の鶴岡広美副看護師長に歯科領域における現場の課題と現在の標準的な感染対策についてうかがいました。

【小野 和代 機構長補佐】

認識のズレとコミュニケーション

 医学部附属病院はもともと特定機能病院の承認を受けており、歯学部附属病院と一体化する際、その機能を維持するために、歯学部附属病院の感染対策レベルを引き上げる必要がありました。2020年4月から、私は大学側に異動となり一体化の調整業務を担っており、歯学部附属病院で感染制御を担当していた鶴岡広美副看護師長と共に取り組みました。
整備に際して心がけたことは歯科特有の状況を理解し、業務に支障をきたさない範囲で、特定機能病院としての感染対策を整備する点でした。感染管理認定看護師として理想はあるものの、現場では難しいことも多々あります。
整備を始めた当初は感染症や感染対策に対する歯科の皆さんとの認識のズレに困惑する場面もありましたが、根拠と実践方法を丁寧にお伝えすることで、認識のズレは解消されていったように思います。コロナ禍にあって、大学あげてコロナ診療に向き合う姿勢から医科と歯科の連携はより強化され、一体化に向けての後押しにもなりました。あらためて医科歯科連携にはコミュニケーションが大切であることを痛感しました。

「感染対策の基本」の理解と実践

歯科は血液や唾液、粘膜に接触する機会が多いため、普段から感染リスクに晒されていること、また外来機能が中心であることなど、医科と比べて感染リスクに違いがあります。よって、基本的知識を行動レベルで理解し、感染対策を習慣化する必要があります。ポイントとなる点は手指衛生、器材の取り扱い、血液などの曝露防止対策など(表1)、医科と違いはありません。
手指衛生の基本となる「手袋は手指衛生の代用ではない」「手袋の上からの消毒は、十分な消毒効果が得られない」などを確実におさえ、適切に行動する必要があります(図1)。

  • [表] 歯科医療における感染管理のためのCDCガイドライン2003年版にてカテゴリーIA(強く推奨)の項目のうち「手指衛生」「患者診療物品の滅菌及び消毒」「血液や感染性物に対する曝露予防」を抜粋
    表1 歯科医療における感染管理のためのCDCガイドライン2003年版にてカテゴリーIA(強く推奨)の項目のうち「手指衛生」「患者診療物品の滅菌及び消毒」「血液や感染性物に対する曝露予防」を抜粋。
  • [グラフ] 手袋着用時のアルコール消毒に関するアンケート
    図1 手袋着用時のアルコール消毒に関するアンケート。ガイドラインで推奨されている使用法で手指消毒を行っている人は49%に留まった。調査は「日本デンタルショー2021」に来場した歯科医師、歯科衛生士92名に実施。ゴージョージャパン株式会社調べ。

院内一丸となって取り組む必要性

私は感染管理認定看護師として、外部向けの感染対策研修などを担当してきました。その際によく耳にしたのが、スタッフが感染対策の理解を深め提案しても院長の同意が得られず実践できない、逆に院長だけがやる気になってもスタッフが必要性を感じていないために実践できない、という声です。
当然ですが、患者さんはマスクを外して診療を受けるという特徴があり、また血液・唾液との接触度合いなど、そのリスクを鑑みても確実な感染対策の実践が重要です。職種横断的に院内が一丸となり、感染対策の重要性を認識し具体策を推進していく必要があると感じます。

選ばれる医療を提供する条件として

今回、新型コロナウイルス感染症パンデミックを経験して再認識したことは、平時から確実な感染対策の実施体制を整備し、それを維持継続することの重要性です。
「新型コロナウイルス収束後、歯科医院を選ぶにあたり重要視する点」を訊ねたアンケートがあります。そのなかでもっとも多かった回答は「感染対策をきっちりしている」でした(図2)。
医科においても、例えば20年ほど前は手袋をせずに採血していることが多くありましたが、今は手袋着用は当たり前です。患者さんから選ばれる歯科医療を提供する条件として、感染対策の基本をしっかり実践することは、不可欠になるものと思います。
診療報酬の問題などさまざまな課題もありますが、コロナ禍をきっかけに、歯科領域における感染対策の整備がより一層進むことを願っています。

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  • [図] 新型コロナウイルス収束後、歯科医院を選ぶにあたり重要視する点(3つまで選択可能)
    図2 新型コロナウイルス収束後、歯科医院を選ぶにあたり重要視する点(3つまで選択可能)。「感染対策をきっちりしている」がもっとも多かった。調査はSNSを通じたインターネットアンケートで行われ、回答を得た1,500名を抽出して使用(高屋 翔、小山史穂子、竹内研時 著「新型コロナウイルス感染拡大下における一般住民の歯科医院受診に関する意識調査」the Quintessence. Vol.39 No.7/2020̶1591図6から改変)。

【鶴岡 広美 副看護師長】

価値提案型に必要なのは「総力戦」

感染制御実践看護師として歯科と関わる中で感染対策について気がついた点をいくつか紹介したいと思います。
皆さんは使用後の器材をどのように扱っているでしょうか。使用した器材は「スポルディングの分類」に則して処理することが求められます(表2)。例えば、消毒のみでいい器材を滅菌したり、滅菌後の器材を素手で触ったりといった行為は避けなければなりません。器材には熱に弱い材質のものもあり、すべてを滅菌すればいいというわけではなく、また処理後も適切に管理しなければ感染対策は不十分になります。
歯科は使用する器材の種類が多く、診療科によっては独特の製品もあり、当病院でも処理や管理の難しさを感じています。しかし、院内感染を防ぐには、これらの見直しは大事な課題だと考えています。

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  • [表] スポルディングの分類
    表2 スポルディングの分類。ガラスビーズ滅菌は、滅菌不良の可能性が高いため、FDA(米国食品医薬品局)は医療としての使用は禁止している。
    (参照=新たな感染症を踏まえた歯科診療ガイドライン/日本歯科医師会 令和2年8月)

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