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Clinical Report
深在性う蝕におけるレジン添加型MTA覆髄材を用いた歯髄保存療法~スーパーMTAペーストの特徴と臨床~
キーワード:歯髄保存療法/深在性う蝕/レジン添加型MTA覆髄材/Vital Pulp Therapy
目 次
- ≫ はじめに
- ≫ レジン添加型MTA覆髄材の登場
- ≫ 症例1
- ≫ 症例2
- ≫ まとめ
はじめに
う蝕に関連する研究は新規材料開発とともに世界中で展開されており、エビデンスの蓄積がなされている。う蝕予防についてはフッ化物の応用・普及が進み、その効果が世界的に認知されており、浅在性う蝕に対してはコンポジットレジン修復に代表される直接修復に加え、間接修復技術が確立している。一方、歯髄に近接するような深在性う蝕治療については浅在性う蝕に対する治療法のみならず、歯髄を対象としたバイオアクティブな作用を持つ材料の適応が検討されている。
深在性う蝕では術前の歯髄検査の結果、不可逆性歯髄炎と診断された場合には歯髄を外科的に除去する抜髄が行われてきたが、近年、診断機器・治療材料の発展により、深在性う蝕の治療は大きな変革期を迎えようとしている。
国際的な潮流として欧州歯内療法学会から2019年に、米国歯内療法学会から2021年に、それぞれ深在性う蝕治療に関するポジションステイトメントが示され1、2)、深在性う蝕治療における術前の歯髄検査・診断の重要性が述べられている。さらに、術前の歯髄検査において不可逆性歯髄炎と診断された歯根の完成された成人の歯においても、治療中に実施する歯科用顕微鏡を用いた術中診断により炎症性歯髄を除去し、露出した保存可能と考えられる歯髄に対して覆髄材を貼付する、Vital Pulp Therapy の選択肢の1つである“断髄”を行うことで、歯髄保存が可能であることが明記されている。
このように深在性う蝕治療は最先端の診断機器により感染源を同定して確実に除去し、さらに適切な材料を適用することで従来なら抜髄対象であった歯髄も保存できるようになってきている。
レジン添加型MTA覆髄材の登場
わが国では2007年にケイ酸カルシウム系セメント(以下、MTA)が覆髄材として発売され、臨床応用されている。MTAは米国で逆根管充填材料として登場して以来、高い生体親和性と封鎖性、歯髄に対するバイオアクティブな作用を有するなど、深在性う蝕における治療材料の選択肢の1つとして国際的にも一定の地位を確立している3)。一方、操作性・硬化時間・歯の変色・歯質に対する接着性などは、改良点と認識されており、各社から改良すべき点を解決した様々な特徴をもつMTAが販売されている。
スーパーMTAペーストはサンメディカル社より2019年8月に発売された(図1)。同製品は試薬ベースの重金属をほぼ含まない国産ポルトランドセメントと40年の歴史を持つ同社のスーパーボンドのテクノロジーを融合させた“レジン添加型MTA覆髄材”である。すなわち、ポルトランドセメントとメタクリル酸モノマーのレジン、X線造影剤として酸化ジルコニアから構成されるペーストと、スーパーボンド キャタリストVの主成分であるトリ-n-ブチルボラン (以下、TBB)を練和することで覆髄材として貼薬可能なセメントとなる。ペーストとキャタリストVを練和することで得られるセメントは、長期にわたるカルシウムイオン徐放性を示すことから、覆髄材としてMTAなどと同様のバイオアクティブな効果が期待される(図2)。練和後はインスツルメントで移送することも可能であるが、先端部を自在にベンディングすることのできる専用ノズルを用いて一括移送することで、歯科用顕微鏡の拡大視野下でも視界を遮ることなく目的部位に容易に到達可能である(図3)。
スーパーMTAペーストはカルシウムイオンを長期にわたって徐放することで、封鎖性に寄与すると考えられるリン酸カルシウム結晶の析出が観察される(図4)。またTBBの持つ微量の水分や酸素の存在下でも確実に重合が進む特性により、高い生体親和性および象牙質封鎖性が得られると考えられている(図5)。われわれが実施した動物実験直接覆髄モデルにおいても、MTAと同等の良好な硬組織誘導能を有していることを第151回日本歯科保存学会2019年度春季学術大会にて報告している4)。
本稿では、スーパーMTAペーストを深在性う蝕に使用して良好な経過が得られている2症例を供覧したい。
図1 2019年8月発売のスーパーMTAペースト(サンメディカル社)。
スーパーMTAペーストの操作動画はこちら。-
図2 スーパーMTAペーストの硬化体を水中浸漬し、Caイオンの徐放を評価したところ、継続したCaイオンの徐放が確認された。 -
図3 スーパーMTAペーストの専用ノズルは事前にベンディングし、そのまま適用部へ移送が可能。 -
図4 スーパーMTAペーストの硬化体を疑似体液であるSBFに4日間浸漬した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、リン酸カルシウムの析出が観察された。(サンメディカル社提供) -
図5 スーパーMTAペーストを象牙質窩洞に填入後、SEMにて観察したところ、両者の境界にレジンタグが観察された。(サンメディカル社提供)
症例1
患者は50歳女性。下顎左側大臼歯部に10日ほど前より自覚されている自発痛と強い冷水痛を主訴に来院された。
鎮痛剤を服用すると自発痛は2、3日間は消退するようで、これまでに3回ほど服用されていたが、その後も改善が認められないことから当科を受診された。視診にて7の咬合面にはコンポジットレジン修復がされていたが、近心にう蝕の存在が疑われ、冷刺激に対して一過性の強い反応を認めた。温刺激および歯髄電気診は隣在歯と同程度の反応であった。打診痛は認めなかったが、近心の辺縁隆線に亀裂が見られた(図6)。デンタルX線画像において7近心に歯髄に近接したう蝕様透過像が観察されたが、根尖歯周組織に異常所見は認めなかった(図7)。患者が自覚されている冷水痛は、7に冷刺激を与えることで再現性が確認されたため臨床症状の主原因は₇と考えられたが、6遠心のインレー下に二次う蝕を認めたため、同歯のう蝕治療も必要であることを説明し治療方針に対する同意を得た。また、7は現病歴から考えると抜髄に至る可能性があることを説明のうえ、治療を行った。
浸潤麻酔後にラバーダム防湿を行った後、歯科用顕微鏡下で感染歯質を除去した(図8)。すなわち、ダイヤモンドポイントにより遊離エナメル質を除去後、歯髄に近接した感染歯質を手用エキスカベーターを用いて、う蝕検知液による染色性と象牙質の硬さを目安に慎重に除去した。
感染歯質を除去後、拡大視野下において窩底部は歯髄に近接しているものの露髄は観察されなかった。しかし、窩洞に3wayシリンジによるエアーを送ると再現性の高い疼痛を訴えられたため、不顕性露髄および可逆性歯髄炎と診断した(図9)。
窩洞を2.5%次亜塩素酸ナトリウム水溶液および3%EDTA溶液にて化学的な清掃を行った後、スーパーMTAペーストを不顕性露髄が疑われる部位に専用ノズルを用いて適用した(図10)。不顕性露髄を疑う髄角部と考えられる部位は、窩洞側壁部であったため、覆髄材の維持・安定のためスーパーMTAペースト周囲をスーパーボンドEX(EXラジオペーク)にて補強し(図11)、その後仮封を行った。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により治療間隔が空いたが、約2ヵ月後に受診された際は術前に自覚されていた冷水痛と自発痛は消失し、打診痛などの歯周組織に異常は観察されなかった(図12)。デンタルX線画像からも異常所見は観察されなかったため、経過良好と判断した。最終修復として仮封材を除去後、窩洞形成を行い、コンポジットレジン充填を行った。現在のところ冷水痛などの臨床症状が出現することなく、良好に経過している(図13)。
図6 7にう蝕を認め(黒矢頭)、近心辺縁隆線には亀裂が観察された(黒矢印)。-
図7 術前X線画像。7近心部に髄角に近接するう蝕様透過像を認めた。 -
図8 亀裂を除去していくと容易にう窩に到達した。う蝕検知液による染色性も参考に感染歯質を除去した。 -
図9 感染歯質を除去したところ、髄角と考えられる部位が観察された(黒矢印部分)。また窩洞はエアーにより再現性の高い自発痛を認め不顕性露髄が疑われた。 -
図10 スーパーMTAペーストを専用ノズルで移送した。 -
図11 スーパーMTAペーストの上からスーパーボンドEX(EXラジオペーク)にて補強・裏層した。 -
図12 術後2ヵ月のデンタルX線像。スーパーMTAペーストは造影性も高く、容易に判別が可能であった。 -
図13 術後6ヵ月後のデンタルX線像。根尖部透過像なども生じることなく経過している。
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