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182号 AUTUMN 目次を見る

Case Report

Tiハニカムメンブレンを用いた骨増生

医療法人永山会 永山歯科医院 理事長 永山 哲史

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キーワード:GBR成功のポイント/非吸収性メンブレン

重度な歯周疾患やインプラント周囲炎に罹患し撤去に至った場合、その病巣が大きいほど水平・垂直的に骨欠損は大きくなることは予想しやすい。撤去後、軟組織の治癒を待ってから水平・垂直的な骨増生を行うよりも、可能であれば撤去時に可及的に既存骨を温存し、リモデリングが行われる環境を利用し、欠損部に対して増生を行う方がより簡便に増生できると考え、この度Tiハニカムメンブレンを用いてインプラント撤去と同時にGBRを行った。
患者は79歳女性で義歯の使用が許容できずインプラントによる欠損補綴治療を行っていたが、456のインプラントが重度周囲炎に罹患し咬合を支持する補綴装置として機能していないため撤去することとなった(図1)。
またCT写真より、広範囲に及ぶ骨欠損が確認できた。撤去後自然治癒を待ってからのインプラント埋入になると下歯槽神経までの既存骨が部位によってはおよそ2mmしかなく、適切なインプラント埋入が不可能なため大規模な水平・垂直的なGBRが必要になることを説明し、患者の同意を得たので撤去(図4)と同時にGBRを行うこととした。GBR成功のポイントは、PASSの原理とよばれる4つの指標、①primary wound closure: 創面の初期閉鎖、②angiogenesis:血管形成、③space creation:スペースメイキング、④ wound stability:血餅の安定、とされている。ただし、創傷が治癒した状態で行うGBRと違い、今回のようなインプラント撤去と同時に行うGBRの場合は血流が豊富であり、リモデリングが行われる部位であることなどの骨再生に有利な場所であるので本来は開放創で行うリッジプリザベーションがベストであったかもしれないが、①天然歯に比べて撤去時に喪失している歯肉が少なく閉創しやすいので減張量が少なくて済むこと、②既に角化歯肉が少ないこと、③開放創での使用はTiハニカムメンブレンの適応外使用であること、④高齢者のため極力手術の回数を少なくしたいとのこと。以上の理由によりGBRとして手術を行った。
感染部の徹底的な掻爬を可及的に行った後(図2)に自家骨を填入し、自家骨が安定するようにメンブレンをプライヤーを用いて温存したい歯槽堤に合うように屈曲し、メンブレンが安定することを確認した。メンブレンのトリミングが必要な場合においても本品の包装紙を型紙としてあらかじめ利用し、外形を決定したのちにトリミングすることで正確な適合を容易に得ることができる。また、フレーム有の場合は強度低下を防ぐためにカットしてはいけない部分があるので確認して行っていただきたい。
本症例においては残存している骨形態によりメンブレンの十分な安定が確認できたため、ピンを用いたさらなる固定は行っていないが、十分な安定が得られない場合はチタンピン等を槌打にて固定するとよい。部位によって槌打しにくく何度行ってもピンの安定が得られない場合もあるので、その際は電動トルクドライバーを用いて固定すると容易にできる。また一般的な固定のピンは3mmと非常に小さく槌打時に口腔内に落下することがあるので口腔内にガーゼを設置し、万が一落下した際にもトラブルにならないように事前に設置されることを強く勧める。
今回の症例は、トレフィンバーを用いて自家骨採取を行い(図3)、適切な大きさに成形するためボーンミルを用いて粉砕骨片とした。次に減張切開に移るが、舌側のフラップを鈍的に頰側フラップは通法に応じて15Cのメスを用いて減張を行い、フラップがテンションフリーで縫合できることを確認してホールディングスーチャーを行った後、単純縫合をテンションフリーにて縫合した。6ヵ月の免荷期間を経てCT写真を撮影したところ、当初心配されていた下歯槽管までの垂直的骨量、水平的な骨量も問題なく十分な増生が確認できたため、既存骨と変わらぬ手順にてインプラント埋入を行った(図5)。メンブレンの撤去は他の非吸収性膜と比較して硬・軟組織が絡むことも全くなく極めて容易に除去できた。また、メンブレン下には一層の軟組織があり、その下には十分な硬さを持った骨様組織ができていた(図67)。
余談であるがピン固定をしている場合はチタンピンの周りに若干硬・軟組織が絡んでいることがある。その際は専用のドライバーもしくはヘーベルのような物で「てこの原理」を使用することで容易に除去できる。埋入されたインプラントネック周囲には2mm以上の骨様組織が確認できた(図89)。2ヵ月の免荷期間後OSSTELL Beacon(モリタ社)を用いてインテグレーションを確認し、オープントレーにて印象採得を行いプロビジョナルレストレーションを作成し口腔内に設置した(図10)。
他の非吸収性膜と比較して、Tiハニカムメンブレンは膜の厚みは20μmと非常に薄くまた強化フレームが設置されているので術者が望む形態に賦形しやすく、かつチタン製のため外圧に対しても変形しにくい安定性を持っている。ゆえにインプラントの安定に必要なネック部の骨吸収が吸収性メンブレンと比較し優位に増生できる。さらに、ハニカムと言われるハチの巣のような構造を持つことにより膜の強度を保っていることと、孔径20μmの孔を通じて栄養透過性を確保しつつ周囲からの軟組織の侵入を防ぐという特性を持っている。また、賦形しやすく厚みが薄いにもかかわらず、外圧に対して安定性のあるメンブレンであるが、何より好んで使用する理由としては、除去ストレスが全くなく非常に簡便であるところである。使用感としてはまるでアルミホイルのような質感である。
本症例からもTiハニカムメンブレンは従来の非吸収性メンブレンにとって代わる材料になりうることが期待できる。

  • [写真] 初診時パノラマ写真
    図1 初診時パノラマ写真。インプラント周囲炎によりインプラント先端を超える骨吸収像が確認できる。
  • [写真] インプラント撤去および肉芽の掻爬と最遠心部からの自家骨採取
    図2 インプラント撤去および肉芽の掻爬と最遠心部からの自家骨採取。
  • [写真] 採取された自家骨
    図3 採取された自家骨。
  • [写真] 撤去されたインプラント
    図4 撤去されたインプラント。
  • [写真] インプラント埋入手術前パノラマ写真(GBR後6ヵ月)
    図5 インプラント埋入手術前パノラマ写真(GBR後6ヵ月)。十分な骨造成が確認できる。
  • [写真] 撤去前のTiハニカムメンブレン
    図6 撤去前のTiハニカムメンブレン。
  • [写真] Tiハニカムメンブレン撤去時口腔内写真
    図7 Tiハニカムメンブレン撤去時口腔内写真。増生された骨上に一層の軟組織が確認できる。
  • [写真] 埋入された3本のインプラント
    図8 埋入された3本のインプラント。
  • [写真] 34、35、36部に埋入されたインプラント手術後CT写真
    図9 34、35、36部に埋入されたインプラント手術後CT写真。インプラント周囲に2mm以上の骨があることが確認できる。(使用CT:朝日レントゲン工業株式会社製)
  • [写真] プロビジョナルの印象を行い装着した
    図10 OSSTELL Beaconにてインテグレーションを確認した後、プロビジョナルの印象を行い装着した。

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