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Clinical Report

イニセルインプラントを用いた正中矢状面を基準とした咬合再構成症例

東京都 日比谷歯科医院 船木 弘

キーワード:早期オッセオインテグレーション獲得/SHILLA SYSTEM/stability dip

目 次

はじめに

超親水性表面を備えた「イニセルインプラント」が発売されて2年が経過したが、そのオッセオインテグレーションの早さには定評があり免荷時期の短縮にも有利に働き、早期オッセオインテグレーション獲得の特徴の恩恵には治療期間の短縮や感染リスクの軽減による確実なオッセオインテグレーションの獲得などがあり術者患者双方にとって大きなメリットになっている(図1)。
今回はイニセルインプラントの特徴を最大限に活かし30代前半という若年女性患者の咬合再構成をおこなった症例を紹介する。

  • [写真] イニセルインプラント
    図1 イニセルインプラント。

症例概要

患者は31歳女性。主訴は①上顎両側小臼歯の脱離 ②奥歯がなく噛めないのでインプラントを希望 ③全体的に治したい であった。
口腔内所見は下顎両側大臼歯が欠損しており当院受診の約5年前に抜歯し可撤性義歯を装着したが違和感が強く装着できなかったということである。
口腔内を検査すると欠損状態を長期間放置されたことから歯牙の挺出により咬合平面も乱れており、さらに不適合補綴装置および2次カリエス、感染根管も多数あるうえ、上下顎の補綴的なクリアランスも不足していることが判断できた(図24)。
今回は患者の希望としてインプラントを含めて全顎的に治療したいということであったが、歯科的な要望以外にもできるだけ早期に妊娠を望んでいるため治療期間も可能な限り短くしたいという患者の要望もあった。その要望を叶えるためには早期のオッセオインテグレーションが得られ、感染リスクの少ない確実なオッセオインテグレーションを得ることができるイニセルインプラントの使用が現在の患者のライフステージに適していると判断した。
今回は口腔内の検査をおこなった結果、残存歯の状態や咬合を含めさまざまな問題が存在しており、インプラントを用いた欠損補綴だけでは問題解決をすることができず長期的な維持安定は難しいどころか、歯科治療の最終目的である機能回復も達成できないと判断し咬合再構成をおこなうこととした。
そこで咬合に関しては阿部が提唱したSHILLA SYSTEMの手法1)による患者の顔貌所見から導き出された前方の正中矢状要素と後方の口蓋小窩中点で決定される正中矢状面を基準に左右対称な審美的かつ機能的な歯列を構築することを目標とした(図5)。
このSHILLA SYSTEMは患者の正中矢状面を基準としたエステティックフェイスボウを用いて上顎模型を咬合関係に付着し、正中矢状面を基準として左右同高な咬合平面、左右対称な歯列と顎運動、左右均等な咬合接触で審美的かつ機能的な咀嚼器を備えることを咬合再構成のゴールとしている(図6)。
咬合様式は側方運動時には吉野2)の有限要素解析を用いた研究から犬歯誘導を基本とした側方運動時に臼歯離開が得られるミューチュアリープロテクテッドオクリュージョンを咬合再構成のゴールとしている(図7)。

  • [写真] 受診時パノラマX線
    図2 受診時パノラマX線。両側大臼歯欠損以外にも数多くの問題が存在する。既存の補綴装置も多く残存歯の大部分が失活歯で不安要素が多い。
  • [写真] 受診時口腔内写真
    図3 受診時口腔内写真。上顎両側小臼歯の補綴装置が脱離し補綴的なクリアランスがないことがわかる。
  • [写真] 受診時デンタルX線
    図4 受診時デンタルX線。失活歯も多く感染根管を認めるがペリオの状態は軽度である。
  • [写真] SHILLA SYSTEMの手技
    図5 SHILLA SYSTEMの手技。正中矢状面を基準としたフェイスボウトランスファーを用いた咬合再構成。
  • [写真] SHILLA SYSTEMの咬合再構成の目標
    図6 SHILLA SYSTEMの咬合再構成の目標
    ①左右同高な咬合平面 ②均等な咬合接触 ③左右対称な歯列 ④左右対称な顎運動 ⑤審美的な咀嚼器®ミューチュアリープロテクテッドオクリュージョン。
  • [写真] 犬歯誘導の有無による有限要素解析
    図7 犬歯誘導の有無による有限要素解析。犬歯誘導を失うと顎関節や大臼歯分岐部の応力が集中することがわかる(吉野 晃先生の研究データを引用)。

治療経過

まずは歯周基本治療をおこないながら受診時の顎機能を診断するためにGoAを採得してみたところMIOPと呼ばれるアペックスに対してタッピングが前方位に位置している状態であり、さらにそのタッピングは一点に収束せず前後にばらつきを認めた(図8)。
この結果から患者が長期間にわたり咬合の不調和の結果によりEngram(記憶痕跡)が存在する可能性が高いことがうかがえる3)。さらに残存歯の状態や既存の補綴装置の状態から判断し機能的にも咬合再構成の必要性があると判断した。
そこでまずは不適合補綴装置と2次カリエス、感染根管が多数認められたため歯牙保存の可否を目的に既存の補綴装置を除去し感染根管治療およびテンポラリークラウンを装着した。誌面の都合上詳細は割愛するが上顎前歯部~小臼歯に関しては縁下カリエスのためフェルール確保を目的に歯冠長延長術をおこない上顎前歯に関しては歯根破折のリスクも高い状況であったが、患者の年齢を考慮し最大限歯の保存に努めた(図9)。
その後は前述したSHILLA SYSTEMの手法に則りエステティックフェイスボウを用いて患者の正中矢状面を基準に上顎を咬合器へマウントし、ゴシックアーチから判断した中心位と思われる位置に下顎位を設定した(図1011)。
SHILLAⅡと呼ばれる角度調整機構を備えた咬合平面板を使用し、咬合器上にて正中矢状面に対して左右対称な歯列で製作した暫間補綴装置をトリートメントレストレーションとして製作した(図12)。暫間補綴装置を使用し側方運動時のガイドする歯および方向、そして顎機能に問題ないことが確認できたのちにインプラントの埋入ポジションを決定した(図13)。

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